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特集 経営者に直撃!! トップインタビュー|月刊BOSSxWizBiz

仮想通貨で反撃開始 「第2の創業」の青写真|月刊BOSSxWizBiz

松本 大 マネックスグループ社長
まつもと・おおき 1963年生まれ。東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズやゴールドマン・サックスに勤務。99年にマネックス証券を設立、社長に就任。2004年に持ち株会社であるマネックスグループを立ち上げ、社長に就任。15年に証券の社長はいったん離れたが、17年に復帰、マネックスグループの会長兼社長と兼務している。

2018年4月6日、仮想通貨交換業者のコインチェックが、マネックスグループ傘下に入ることが発表された。コインチェックが金融庁から経営管理体制の抜本的な見直しを迫られたことで、その後ろ盾としてマネックスGが名乗りをあげた形だ。マネックスG社長の松本大氏に、仮想通貨と将来展望について話を聞いた。

コインチェックが傘下に

―― 4月にコインチェックの買収が発表されました。昨年10月に「第2の創業」として、ブロックチェーン技術の活用を掲げていましたが、この買収で展開が変わってきたのではないですか。
まず、今回は「買収」という言葉は使わないようにしています。直近の決算説明会資料でも、すべて「グループ入り」と書いていて、子会社化とも書いていません。

半年以上前に「第2の創業」として、ブロックチェーンを自分たちのものにしていく、そのなかで仮想通貨交換業がブロックチェーン技術の集積地になっているので、それを自分たちでも作っていくと表明しました。その意味では、コインチェックはブロックチェーンや仮想通貨で我々のはるか先を行っている会社だったわけです。たまたま不幸な事故が起きて、特殊な事情が発生し、コインチェックは業務を運営していくうえでパートナーが必要になった。お互いに昔から知っていた仲ですし、私も3年以上前からコインチェックの口座を個人で持ってビットコインを買ったりしていましたので、縁があり、一緒にやっていこうとなったのが、私の理解ですし、彼らの理解でもあります。

その結果として、コインチェックには優秀なブロックチェーンエンジニアもいるし、コインチェックのUI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)、操作感、世界観はすばらしい。そのようなアプリケーションを実現してきたエンジニアもいるし、経営者、マネジメントチームもいる。そういう人たちと同じファミリーになりましたので、当社としてはワープして、仮想通貨に限らず、ブロックチェーン、デザイナー、エンジニア、若い感性を持ったマネジメントチームと一緒になれたのは、すごく大きなプラスだと思っています。

―― 「第2の創業」を打ち出した時とは状況が変わって、一気に進捗しました。
まだこれからですけれども、5歩くらい進んだという感じはします。まずは業登録を実現しなければいけないですね。また、コインチェックのなかに優秀なエンジニアがいるだけでなく、グループ内にコインチェックがあるマネックスグループという会社がおもしろいことができるんじゃないかと、ブロックチェーンのエンジニアやビジネスデベロップメント系の人材が話を聞きたいと来るわけです。エンジニアを含めた多様な人材をリクルートする力が上がったようにも見えますので、こちらも攻めていきたいと思います。

―― 証券会社の商品と仮想通貨はやはり異なるように思いますが、マネックスとしては仮想通貨を金融商品として考えていくわけですか。
最終的には、ですね。問題はいま、仮想通貨の売買にかかる税金は、総合所得課税です。その人の給与水準によっては税率が50%を超えてしまう。一方で、金融商品であれば損益通算もでき、かつ税率は20%。仮想通貨は他のものと損益通算もできないし、金融商品として考えるには、現時点では無理があると思います。

そう考えると、仮想通貨の取引をするのは、トレーダーとかスペキュレーター。儲かった時にどれだけ税金を払うか考えていない。次の日の二日酔いを考えながらお酒は飲まないですよね(笑)。とりあえず儲けようとしているわけです。

ところが、ポートフォリオを作るとなると、こっちの得やあっちの損があって、全部まとめて損益通算で税を払わなければ意味がない。ポートフォリオを組む投資家や裁定取引をするアービトラージャーは税がすごく気になるわけですから、仮想通貨には入ってきていません。

世界的に言えば、スイスやフランスやドイツなど、仮想通貨の売買を取り込もうと戦略的に税率をすごく低くしている国があるなかで、日本は総合課税のままです。日本も変わってくるかもしれませんが、当面はトレーダー向けで、金融商品とは別のものです。そのようなコインチェックのお客様に対し、同じようにボラティリティの高いものでレバレッジETFやFXがありますと。

あるいはアメリカの子会社のトレードステーションを経由すれば、シカゴで上場されているビットコインの先物も売買できます。これらはすべて金融商品で、損益通算もでき、税率は20%なわけです。コインチェックのお客様のなかには仮想通貨ですごい富を作った人もいるわけで、そのお金は分散ポートフォリオを作れば、価値を防衛できますと、案内もいずれしていけると思います。あるいはマネックス証券のお客様にもマネックスグループだから安心だと仮想通貨を売買する人が出てくるでしょう。

マネックス証券は引き続き、仮想通貨交換業の申請プロセスは止めないで動かしています。いずれは金融商品として扱えるようにしていかないと、裾野が限定的になってしまいます。できればマネックス証券で扱い、仮想通貨の値動きに連動するETFやCDFなら損益通算20%で売買することができる。いずれ同じになる日を臨んで、国に対しても問題提起していきたいと思いますし、いまの枠組みの中でも金融商品として扱えるような「仮想通貨風」の商品を企画して認められるようにしていきたいと思っています。

―― 現状では証券と仮想通貨売買の顧客層は被っていないと。
最大の違いは年齢だと思います。マネックス証券は170万人で35歳から上の世代が中心。コインチェックはミレニアルと呼ばれるティーンエイジャーから30歳過ぎまでが中心。コインチェックも170万人のお客様がいますので、足すと340万人がドラム缶のような年齢構成になります。別の会社ですので結合はできないのですが、グループとしての顧客基盤はとても強くなったと思っています。

グローバル化の加速

―― 海外も含めた、マネックスグループとしての展望はどう広がりましたか。
トレードステーションという大きな会社がアメリカにあり、中国、香港、オーストラリアでも展開しています。7年前にトレードステーションを買収したあと、金利もボラティリティも下がって赤字に転落したわけですが、構造改革を経て、収益基盤の多様化やリブランドで7年前と同じだけの利益水準に戻ってきました。こうしてしっかり黒字になって軌道に乗ってくると、コラボレーションもしやすくなります。

そこにコインチェックが加わり、仮想通貨はグローバルですので、アメリカの社員やお客様もすごく興味を持っています。コインチェックが日本に業登録をしたあとは、海外進出ももちろん考えたい。アメリカやアジアにも子会社、コインチェックから見れば兄弟会社があり、橋頭堡はあるので、世界展開はしやすい。マネックスグループとしてのグローバルビジョンを掲げてきましたが、コインチェックが入ったことで、さらに進みやすくなったと思います。

―― グループとして「第2の創業」をして、結果、どのような形になるのが理想ですか。
例えば新しい形の総合金融機関“的”なグループを作りたいと思っています。メガバンクは、個人向けに関しては、法定通貨銀行があり、国内証券会社があり、クレジットカード会社があり、その3つを重ねて総合金融機関を作っているわけです。それを我々は、コインチェックというクリプトアセットバンク(暗号資産の銀行)があり、マネックス証券やトレードステーション証券のようなグローバルなオンライン証券会社がある。それに加え、ブロックチェーンや仮想通貨を使って、決済、ペイメントのサービスを作っていきたいと考えていて、オンライン証券とクリプトアセットバンクを繋げることにより、新しい形の、グローバルな、オンラインの総合金融的グループを作る。

今後、中央銀行の仮想通貨、ナショナルデジタルキャッシュも発行されてきます。仮想通貨交換業の先にデジタルキャッシュ銀行みたいなのができてくるかもしれない。従来の総合金融機関よりもはるかに使いやすく、社員数も少なく、不動産も持たず、グローバルにオンラインで、実現していける可能性がある。それがマネックスグループの未来の1つだと思います。

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“営業もテクノロジーの時代 非効率を是正する仕組み作り|月刊BOSSxWizBiz

見込み顧客獲得から育成、顧客獲得後のフォローアップまで、B2B営業に関する非効率をセールステックで変革するビジネスを展開しているのがイノベーションだ。営業の仕事を「本来すべきである創造性の高いもの」に変えることをコンセプトにしており、中堅・中小企業を中心に注目が高まっている。イノベーション社長の富田直人氏にセールステックについて話を聞いた。

仕組みでモノを売る

── セールステック(Sales Tech)はまだ聞きなれない言葉ですが、現在とひと昔前の営業の違いについて、どう捉えていますか。
時代によって、大きく3つくらいに分けて変化をお話ししたほうがわかりやすいと思います。

「将来、顧客が求めている情報の価値や内容は変わる」と富田社長。
とみだ・なおと 1965年生まれ。静岡県出身。87年横浜国立大学工学部電子工学科卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)入社。2000年退社後、イノベーションを設立。社長に就任。16年12月マザーズ市場へ上場。

1つは、営業マンが全部1人でやる時代。マーケティング部門もなく、行き先も自分で決めて、説明して、見込み客を管理して、見込みのありそうなところにクロージングし、受注し、納品する。商品にもよりますが、既存顧客もフォローしていく。最初から最後までを1人でやる。しかし、新規営業と既存顧客営業は求められる資質が違います。例えば狩りが得意な人もいれば、寄り添うとか守りが得意な人もいます。最初から最後まで1人の人間がやるのは、人材のミスマッチも含めて、非効率ですごくたくさんの課題があります。

2つ目は、見込み客を獲得するとか営業の行き先をマーケティング部あるいは販売促進部が担当して、その先は営業マンが担当し、既存顧客は別の人が担当するなど分業が進んだのが2つ目の時代です。そのなかでインターネットが登場しています。しかし、資質の違いはクリアできても、これでは見込み客を獲得するにも人件費や担当間の引き継ぎの手間といったコストがかかり、ニーズのないところに営業に行くこともあって、まだ非効率です。

そして3つ目がこれからどんどん普及していくもので、いわゆるインターネットを活用、ツールを活用して効率的に営業していくスタイルです。例えば当社が運営しているような見込み客獲得サイトや、リードジェネレーション(不特定多数ではなく、自社の製品・サービスに関心を示す個人や企業の個人情報を獲得すること)のためのWEB広告やツールも出てきています。また、営業マンがいなくても動画を活用して説明を行ったり、商談もスカイプのような訪問しなくてもよいツールを使ったり、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を活用して行動履歴を残し、効果的に営業をします。WEBでもボットを使ったコミュニケーションシステムを使うなど、効率化が進む時代になってきています。

── かつて営業マンと言えば、企業が人海戦術を使って物量で顧客を獲得していくイメージがありました。
ガッツがあって、たくさん行動すればするほど成果が上がるわけですから、それは売れると思います。しかしながら、そういう売り方を長い間、続けられる営業マンが何割いるか。残業が無限にできて、募集すればすぐに採用ができる時代であれば、それでもよかったかもしれません。人手不足で、働き方改革で残業抑制とか、量で仕事をすることができなくなったなかで、仕組みでモノを売るということが求められているのだと思います。

── 確かに離職率が90%超という営業会社もめずらしくありませんでした。
そういう会社もまだあると思います。逆にその会社は営業が強い場合が多いです。なぜなら、そのような組織はなかなか作るのが難しいからです。でも、大きな時代の流れはテクノロジーを活用した営業へと変わってきていますので、もともと営業が強かった会社が、強みを活かしつつ効率的な仕組みを作り上げれば、さらに強い会社になっていくと思います。

── 採用が難しくなってきたなか、離職率をいかに下げるかが企業の課題になっているのも事実です。
採用は営業職だけでなく、全領域で難しくなっています。エンジニアなどは特に難しいと言われていますし、デジタル系のマーケティングはそもそもやっている人数が少ないので、引っ張りだこの状態です。従業員が働きやすい、働き甲斐のある会社を作っていくことが大事になっています。

課題は使う側のリテラシー

── セールステックという言葉自体を打ち出している会社はまだ少なく、まだ浸透しているとは言い難い気がしますが。
まだ少ないと思います。検索したとしても、日本では限られた数社しか出てこないでしょう。我々はSales Tech Lab.(セールテック・ラボ)という研究開発機関を作りまして、将来に向け、どうやって営業をテクノロジーで変えていけるのかという研究を進めています。欧米ではこの領域にスタートアップが多く参入していて、資金調達を行っているベンチャーも少なくありません。日本でも同様で、一気通貫でシステムを提供するベンダーは少ないですが、部分的な個別のサービスを提供する企業は出てきています。

── 日本では、営業と言うとまだ個人単位での仕事だという印象が強く、どうすれば効率化が進むのか、わからないという経営者も多いのではないですか。
そんなに難しく考える必要はありません。いまのセールスのプロセスをふり返っていただいて、見込み客を獲得するというフェーズ、見込み客を育成するフェーズ、クロージングとサポートのフェーズと、流れの中での非効率を、どうテクノロジーで変えていくかというだけです。

テクノロジーとは言えませんが、エクセルを使って顧客情報を管理し、電話をするというのもセールステックの領域でしょう。当社のような資料比較サイトを活用して効果的に見込み客を獲るというのも、マーケティングや広告のような位置づけですが、セールステックの領域だと思います。

獲得した見込み客をしっかり管理するという意味では、SFAやCRMもその領域ですし、マーケティングオートメーション(マーケティングにおいて、個別な見込み顧客とのコミュニケーションを自動化するために開発されたツール)もその分野の1つです。カスタマーサポートの分野でも、よくある質問であれば、ボットを使って自動的にチャットで返すツールを導入している企業も増えています。

ただ、現状では、それぞれが1つずつのサービスで、なかなか統合できないのが課題となっています。また、使う側のリテラシーにも課題があります。

── せっかくセールステックを活用しようにも、それを使いこなせない企業が多いということですか。
中堅や中小企業では、そもそものITリテラシーが高くなかったり、マーケティング部門の数や質もまだまだこれからという企業が多く、ツールは導入したけれども使いこなせない場合も多いです。本当の意味で投資対効果を上げていくためには、ツールを提供する側も使う側も、サポートを含めて課題は多いです。

── 使いこなすための人材も必要だと。
PCが使えるというレベルではなく、デジタルマーケティングリテラシーとでも言うのか、ツールを使いこなせる能力もあるでしょうね。

とは言っても、営業マンはお客様と対峙しますから、基本的にお客様の立場に立って考えられる力は、時代が変わっても必要だと思います。そしてお客様に対して、環境がこう変わればこうなると、仮説をお客様にぶつける力は求められます。これは機械にはできないことですし、どんなにAIが進んだとしても、その3つの力を持つ人は、さらに上に行けるのではないかと思います。

── コンサルタントに近い業務に変わっていく感じですね。
いまはユーザーが自由に検索して調べることができますし、営業マンに聞くまでもなく調べられることが多くなっています。ネットで検索できる内容は営業に求めないという時代も近づいているかもしれません。いまの40代、50代と、10代、20代では、情報を得るためのリテラシーがまったく違います。20年後、30年後を見据えた時に、顧客が求めている情報の価値や内容は変わってくるでしょう。営業はコンサルティングとか、お客様に寄り添う形での課題解決に取り組むようなスキルが求められると思います。お客様の課題を聞いて適切なコミュニケーションをして提案する。営業のあり方で、すごく差がつく時代になっていくでしょう。

人がいなくても売れる

── イノベーションの事業としては、どのような取り組みをしているのですか。
我々はB2B、法人営業に特化した事業を行っています。いまは「ITトレンド」、「BIZトレンド」という、ある領域に特化した資料請求、見込み客獲得サイトを運営しています。またリードナーチャリング(見込み客育成)のところでは「リストファインダー」というマーケティングオートメーションのツールを提供しています。これがいまB2B企業で最も数が出ているツールと言われていますが、それでも累計実績で1000アカウントしかありません。日本のB2Bの営業をしている会社数からみれば、導入率はまだまだこれからです。これらは今後も進めていくつもりです。

一方で、様々なテクノロジーを駆使したサービス開発も進めています。一例を挙げると、現在は見込み客を獲得して営業が行くという流れが前提になっていますが、そうではない営業の仕方も存在します。例えばWEBサイトでのお客様の行動履歴を見ながら、この行動はこういう商品を検討しているのだろうとレコメンドしていくことによって、購入に結び付けることができます。簡単な質問ならチャットで答え、説明なら動画を見せる。WEBコミュニケーションの自動化はさらに進んでいきますので、人がいなくても売れる仕組みはできると思います。作業的な仕事はどんどん機械に置き換え、営業マンは人にしかできないクリエイティビティの高い仕事にフォーカスしていく。こんな時代が来るでしょう。

── B2Bでもサイトの行動履歴からわかるものがありますか。
おもしろい事例があります。既存顧客がすぐに他社に取られたり、取り返したりを繰り返すコンペティティブな業界があるのですが、例えば料金表や特許のページを何度も同じ会社の人が見ている場合があります。それはだいたい乗り換えの検討をしているんですね。営業マンが行ってみると「やっぱり」ということがあったんです。これはセールステックというよりも我々のサービスを使ってわかったことなのですが、こうした部分をもっと誰でも使えるように突き詰めれば、より効率化が進んで効果が出やすいと思います。

営業マンの採用が難しくなっているなかで、セールステックは社会的にも求められている領域ですので、スピード感を持ってサービスを提供することをしていかなければいけない、早いタイミングでサービスを作っていかなければいけないという危機感を持って事業を進めています。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

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経営者インタビュー

“声で書く”“声で動かす”グーグルに勝る音声認識技術 鈴木 清幸 アドバンスト・メディア会長兼社長

鈴木清幸 アドバンスト・メディア会長兼社長

鈴木清幸 アドバンスト・メディア会長兼社長
すずき・きよゆき 1952年生まれ。京都大学大学院工学研究科化学工学専攻博士課程中退。86年インテリジェントテクノロジー入社。97年アドバンスト・メディアを設立し、社長に就任。2005年マザーズに上場。10年会長兼社長に就任。

いま音声認識分野のテクノロジーに対する注目が高まっている。人間とAIが会話するコミュニケーション分野や、働き方改革の効率化のためのテキスト化、機械翻訳やビッグデータまで、幅広い分野で活用されてきている。需要の高まりとともに国内シェアナンバーワンの音声認識技術「AmiVoice」を持つアドバンスト・メディアが上場来初の営業黒字決算を迎えた。アドバンスト・メディア会長兼社長の鈴木清幸氏に話を聞いた。

上場来初の営業黒字

―― 2018年3月期は05年の上場来初の営業黒字決算になりました。1997年12月の設立以来20年、どのように成長してきたのでしょうか。
企業としては利益を求めることが目的です。私は利益を求めるだけでなく、継続することが本来の使命だと思っています。利益は結局、売り上げとコストの引き算ですが、この2つの不確定な要因をどうコントロールするか。売り上げとコストの差がプラスであり続けるには、まず売り上げのほうで継続的に伸びていくものを作らなくてはいけません。

しかし、アドバンスト・メディアという集団が本来の目的を果たすには、まだまだ人が成長しないといけません。もともとが大企業の出身者などが集まって始まった会社ですから、成長ビジネスを新しく作るという観点でみれば未熟集団でした。成長ビジネスの作り方をいろいろ試してきて、仮説を設けながら20年やってきましたが、最初の10年は特に試行錯誤を続けてきました。当時は世界最高の技術があれば市場ができると思ってやってきました。ところが、世界最高の技術はできても、市場はできなかったのです。

―― 技術はあっても何が足りなかったのでしょうか。
我々は「エンジン」という言葉を使っていますが、音声認識エンジンは世界最高です。しかし、自動車に例えると、クルマの完成品は購入しても、エンジンだけにお金を払うことはありません。最高の技術ならではのサービスやソフトウェアに仕立てないと始まらないわけです。もちろん世界最高の技術がなければ、市場を作ることすらできません。技術は必要条件ですが、それだけでは難しい。経営や市場作りは、難しい目的関数の最適化問題ということになります。

もっとも重要なのは、我々が出す音声認識は、世の中の人は見たことがないものだということです。見せれば多くの人が拍手をしてくれます。でもそこに落とし穴があって、拍手はしてくれても使ってくれない。音声認識に対して見たことがないものだから使う文化がない。特に日本人は、一緒に人がいなければしゃべりません。音声認識を使って書くには、しゃべることが当たり前にならないと、利用するという行為にまで行き着かないわけです。

こうすればユーザーが増えるだろうという仮説と検証を繰り返し、事業部というプレイヤーの集団が結果を出せるように目標を作って、それを後押しするのがリーダーです。そのリーダーたちを指導ができるように指導するのが経営になります。まずはいまのままでは達成できないような目標を作り、1年間という時間を使っていかに達成するかチャレンジしていく。通期で見れば四半期ごとに4つのチャンスがありますから、実績ができれば目標値をうまく変えながら成長させていく。

―― 上場企業の場合は、達成できそうにない通期見通しでは非難されてしまいますね。
そうですね。達成できる目標を開示しなさいという。これこそ日本を成長させない国にしています。私は常に売り上げが上がるように誘導してきましたし、損もどんどん減損してきましたので、このやり方でいい。実は4年前に、黒字になりかかったのですが、もっと成長度を上げなくてはいけないと、従来の4つの事業体に6つの事業体を付け加え、10の事業体にしました。

―― あえて新規事業の投資を増やしたと。
もともとの4つの事業体では増収増益で黒字化していました。加えた6つというものは、海外事業や家電制御など、売り上げのレバレッジを1段階高めるためのものです。現在は第1の成長エンジンとしての5つの事業部(BSR1=CTI事業〔コールセンター向け〕/医療事業/VoXT事業〔書き起こし〕/クラウド事業〔翻訳、音声入力〕/SEC事業〔AI対話〕)とM&Aした子会社を含む第2の成長エンジンである5つの事業(BSR2=ビジネス開発センター/海外事業/AmiVoice THAI/グラモ〔家電制御、センサー〕/速記センターつくば)として取り組んでいます。BSR1は増収増益、BSR2についても計画を上回る増収・営業損失の縮小を実現でき、当初の目標よりも高い姿になっています。

世界最高の技術力

―― 近年、スマホをはじめ急速に音声認識を使ったサービスが広がっているように思います。
我々のサービスは2つ。1つは声で書く。もう1つは声で動かすです。声で機械に対して訴えるやり方は極めて自然で、人間にとって負担がありません。ですから我々はそこを極めることに取り組んできました。たとえばコールセンターでは、声のなかに含まれる情報を機械が感知してガイドしていきます。文字起こしをした情報から意味を掴み、AIがアクションする。お客様とのしゃべりの品質が上がりますし、効率も上がるので、対応する時間も短くなり、お客様も満足します。

―― 音声認識技術と相俟って、AIやIoTといった新しい技術の進化も大きいですね。
私自身、第2次人工知能ブームの時にAIの世界に入りました。その後の2000年にかけて暗黒の時代を経て、ディープニューラルネットワークが発見され、画像認識で非常にいい成果が上がりました。音声認識でも成果が出たことによって、大ブレイクしたのがいまのAIです。

大きく2つ、AI音声認識と音声AIがあります。前者が我々の音声認識技術「AmiVoice」で、後者が、我々が新たなビジネスにしている「AmiAgent」の音声対話のAIや、AIスピーカーみたいなものがそれです。我々が20年の革新を経て成長させてきたAI音声認識は、精度面で飛躍的に成長し、その安定性も向上しました。それから自己進化できる面でも向上しました。我々はさらにそこにLSTM、短期記憶メモリーの装備によって、過去の記憶をうまく利用して精度を上げていくことに成功しています。

音声認識は音響処理と言語処理の2つの処理を同時にやりますが、音響処理についてはディープニューラルネットワークが極めて有効です。自己進化をしながら、使えば使うほど、精度が上がっていく。ところが、言語処理については、言葉は文化と言われるように、簡単に精度を上げることができません。しかし我々はB2Bの世界で長年データを蓄積してきて、どのようにすれば精度が上がるのか、ノウハウを掴んでいます。この点がグーグルをはじめGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)にはないものです。彼らはコンシューマーからデータを得ていますが、B2Bで使えるデータは持っていません。我々がグーグルはじめGAFAに負けない世界最高の音声認識技術を持つ理由です。

―― 特に日本語は英語圏の人には難しい表現が多いです。
彼らにできないのは、日本語の機微を認識することです。「関係をたつ」と言った時には、「たつ」には「断」と「絶」の2種類があり、正しく文字が当てはめられません。しかもこの言葉は、その時の気持ちによって使い方が変わるため、絶対にやめる時は「絶」、一時的に関係を断るには「断」を使います。ビジネスで音声認識を使う場合は、この精度がなければいちいち直さなければならず、効率的ではありません。

―― 音声AI分野についてはどうでしょう。
音声処理を前提とした人工知能になりますが、我々の技術は、大手銀行のアプリに採用されているバーチャルアシスタントや、不動産の物件探しの自動対応に利用されています。

07年にスティーブ・ジョブズがiPhoneを発表して、機械とのコミュニケーションがキーボードからタッチに変わりました。この延長線上に声があります。象徴的なものがアマゾンのエコーやグーグルホームのAIスピーカーです。

我々のBSR2にあたるグラモという会社がありますが、ここの事業は家電制御とセンサーです。部屋の中をモニタリングして、快適にするというビジョンで動いています。たとえば「電気消して」とか「テレビつけて」と話すと、電気やテレビのスイッチをON・OFFしてくれる。従来は複数のリモコンで操作していたものを音声認識で操作できるようになっています。電力量が見える化されたり、エアコンの操作を自動的に覚えたりと、話せば環境を設定してくれるわけです。

―― 海外事業についてはどのように進んでいますか。
実はタイのほうが、日本よりも音声認識を使ったサービスが進んでいます。先ほど言葉は文化だという話をしましたが、日本で差別化要素を訓練したことで、異言語でも使える部分が多くあります。米国の音声認識の世界的な企業であるニュアンス社がタイの通信会社TRUEグループと組んでいたのですが、我々がニュアンス社に勝ってTRUEグループと提携し、ジョイントベンチャーを設立しました。

日本市場は我々がGAFAに勝って覇権を持ちます。アジア圏はGAFAでなく中国企業が強いのですが、タイで勝てる実績があるように、アジア圏でも覇権を獲りたいと思っています。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

経営戦記



加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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問い合わせ殺到のQRコード決済 日本でも進むキャッシュレス化 アララ社長 岩井 陽介

中国では当たり前のように見られるようになったQRコード決済。日本ではまだまだ現金での支払いが主流のなか、QRコードを開発したデンソーウェーブとアララが高セキュリティを実現した決済方法を提案した。

中国では急成長

今年3月に行われた「リテールテックJAPAN2018」で、デンソーウェーブのブースに登場し、注目を集めたのがQRコードRを活用したキャッシュレス決済技術だった。これは電子マネーなどのソリューション事業を手掛けるアララの決済技術と、デンソーウェーブが開発したセキュリティ機能を高めたQRコードの技術をもとに共同で開発するもので、本格的に導入されればスマートフォンを使った決済の幅が大きく広がることになるという。アララ社長の岩井陽介氏は次のように話す。

QRコード決済について解説するアララ社長の岩井氏(右)と取締役の竹ヶ鼻氏。

「これまで日本では、磁気カードやSuica、楽天EdyなどのICチップを使った電子マネー決済が主流でした。ところが世界的にスマートフォンが主流になり、QRコードを読み取ることで決済ができるようになっています。Felica(フェリカ)チップを使わず、低コストでキャッシュレスのシステムができることで、中国などで非常に伸びてきています。中国ではAlipay(アリペイ)とWeChat Pay(ウイチャットペイ)の2つに集約され、お店は初期の導入費がかからないため、小さなお店でもQRコード決済が伸びてきています」

今回、展示されたものは、POSで金額を打ち込むと、レジのサブ画面にQRコードが表示され、それをユーザが自分のスマホで読み取り、タップすることで決済が終了するというものだ。ただし、中国などで使われているQRコードとはセキュリティ面などで大きく異なる仕様となっている。

「今回、提供させていただいたのは、デンソーウェーブ社が独自開発した『フレームQRR』やセキュリティ機能を持つ『SQRCR』を活用したもので、有効期限付きのワンタイムQRコードにすることでより安全性を高めています」(岩井氏)

従来のQRコードは、デンソーウェーブが1994年に発表し、仕様を公開、誰でも作成でき、誰でも使える環境になっている。そのため中国では、偽のQRコードを利用したなりすましや詐欺事件など、悪用されるケースも発生した。アララ取締役の竹ヶ鼻重喜氏は決済のセキュリティについて次のように話す。

「中国ではお店に貼られたQRコードをユーザが読み込み、金額を打ち込んで決済ボタンをタップし、決済完了の画面を店員に見せることで支払いを済ませるスタイルを取り入れている店舗があります。ところが、お店に貼っているQRコードの上に偽物のQRコードを貼られ、ユーザがスキャンをしたら別の個人の口座に送金されるという事件が実際に起きました。

フレームQRは、デンソーウェーブの専用デコードエンジンでなければ読むことができません。さらに通常のQRコードはアプリ内のエンジンが解析するのですが、フレームQRではいったん通信をしてサーバーでデコードをし、それをスマホに戻しています。つまりサーバーにログが残るのでいつ誰がどこでデコードをしたのか、きちんと発行したQRコードなのか、サーバー上でチェックできる仕組みになっています。また『SQRC』もサーバー通信しますが、これはふつうのQRコードリーダーで読めば『A』という表示しかされませんが、専用のリーダーで読めば裏側の『B』という情報も読めるものです。偽造をしようにも表面の『A』しか読めないため、改竄ができない仕組みになっています」

デンソーウェーブとアララが共同開発したQRコードリーダー「Q」のダウンロードはこちらから。

サーバーと通信することで、お店側とユーザ側がともに確定することができ、電子レシートが発行され、履歴も残るという。ユーザがタップして送金した情報が、その場でレジにも届き確認できるのが理想だ。

日本ではカードにしろスマホアプリにしろ、Suicaや楽天Edyをはじめ、Felicaチップを採用した電子マネーが一般的だ。しかしQRコード決済を前提にした決済方法も増えてきている。NTTドコモの「d払い」はスマホに表示されたバーコード(QRコード)を見せて店側に読み取らせる形、Origami Payはレジ側のQRコードをユーザが読み取って決済する形を採用した。楽天ペイ、LINEペイなども実店舗での決済はバーコードあるいはQRコードを使っており(d払いと同じ方式)、仮想通貨のビットコインでもビックカメラなどで買い物をする際はQRコードを使った決済(Origami Payと同じ方式)が採用されている。

「内閣府の『未来投資戦略2017』では27年6月までにキャッシュレス決済比率を4割程度に増やす発表がされるなど、日本自体がキャッシュレスを進める動きになっています。キャッシュレス化が進めば店舗のオペレーションも簡略化され、便利な世の中になるはずです」(竹ヶ鼻氏)

「我々の提供するハウス電子マネーサービスに繋げることもできますし、クレジットカード、デビットカード、口座引き落としなど、複数の手段に対応することを想定しています。外国人観光客も増え、お店も様々なペイメントに対応しなければならないなか、QRコードを使うことで煩雑さを減らせるソリューションを提供していきたいですね」(岩井氏)

QRコード決済で、日本にもキャッシュレス化の波が一気に押し寄せることになるかもしれない。

        レジ横の画面に表示された「フレームQRR(R)」を読み込む。                 ユーザが支払い確定のタップをすることで決済完了。

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【BOSS×WizBiz】「介護」の先に「共生」を目指す
地域密着型デイサービス 香丸 俊幸 クローバー社長

香丸 俊幸 クローバー社長

香丸 俊幸 クローバー社長
こうまる・としゆき 1972年5月1日生まれ。東京都出身。株式会社セブン-イレブン・ジャパン、株式会社ベンチャー・リンクを経て経営コンサルタントとして独立。IT企業や外食企業の役員などを歴任して2010年に株式会社CLOVERを創業。「人が幸せになるコミュニティつくり」をコンセプトに地域密着型デイサービスや放課後等デイサービス、飲食店、経営コンサルティング等の経営をしている。

──クローバーの事業内容を教えてください。
主に福祉事業を手がけています。地域密着型の「お泊まりデイサービス」(通所介護を利用し、そのまま施設に宿泊も可能な介護サービス)を都内に7件、発達障害児童向けの放課後デイサービスを1件。そのほか、飲食店やコンサルタント業などです。

──介護業は現在約10兆円市場で、なお拡大中。特別養護老人ホームは全国で約52万人の入所待ちとも言われていますが、デイサービスの状況はいかがですか。
デイサービスは土日休みで9時~17時までの利用時間、自宅まで送迎して入浴や昼食、レクリエーションを行い、帰宅する、というサービスが一般的です。事業所は全国で4万カ所以上。意外かもしれませんが、これはコンビニとほぼ同じ規模です。事業所数としては飽和状態を迎え、今後は淘汰されていくでしょう。

そうしたなかで、クローバーは年中無休で、20時頃まで延長可能、必要に応じて宿泊もできるというサービス内容。共働きで17時に帰宅できない家庭でも利用しやすく、介護者が旅行に行くため2泊3日でお預かりするなども可能。前日からの緊急宿泊対応ができる場合もあります。1日10~18名ほどの利用をいただき、うち宿泊される方が5名ほどです。

──事業所は、千駄ヶ谷、神楽坂、代々木上原、広尾、四谷、参宮橋、本八幡。都心の高級住宅地ばかりですね。
立地選びには戦略があります。介護事業者に支払われる介護報酬は、事業所の立地にかかわらずほぼ一律。つまり、家賃や人件費が安い場所で営業したほうが利益が出やすい構造です。逆に言うと、都心部は介護施設が開業しにくく、競争率は下がるということです。利益率も下がりますが、利用者が増えればバランスがとれる。価値の高いサービスを提供し続ければ勝てると考えています。

スタッフが発見し、提案

──サービスの強みと特徴は。
強みはケアの手厚さ。利用者のプロフィールを出来る限り細かくヒアリングし、そのうえで、通常のレクリエーションやケアに加え、一人ひとりに合わせた個別のケアを行っています。たとえば、利用者が住んでいた街や結婚式を挙げた場所に外出する。ほかにもオリジナルの歌を作ったり、ダンスをしてミュージックビデオを作ってみたりと、ユニークなレクリエーションをその都度行っています。こうしたサービスはマニュアル化しているわけではなく、スタッフがケアを通して自ら発見し、提案してくれる場合がほとんどです。

スタッフからのアイデアに出来る限りノーを言わないという姿勢も特徴かもしれません。ダブルワークを歓迎したり、スタッフが子供を連れて出勤することもできます。待機児童問題が解決されないなか、働きながら自分の子供もみたいというスタッフの要望によるものでしたが、子供がそばにいることで、利用者のお年寄りをすごく元気づけることがわかりました。ほとんど無表情だった認知症の利用者が、子供を見て笑いはじめたり、1キロの重さも持てないはずの利用者が、赤ちゃんを抱き上げることができたりと、不思議なことも起こりました。子供は最強のスタッフかもしれません。

いかに利用者に親身になり、気遣ってくれるスタッフを採用して育てるかは非常に重要です。現在社員は約40名、パートも含めると70名というところ。スタッフは特別養護老人ホームから転職してきた方、音楽や演劇や書道などのアーティストなどもいて実にさまざまな経歴です。出来る限り私自身が面接して選んでいます。

「世話」ではなく「役割」を

──今後の展望をお聞かせください。
現在は年商5億円ほど、5年で倍増が目標です。今の事業を引き継ぎつつ、新しい介護のかたちを模索しています。「注文をまちがえる料理店」(認知症の方がウエイターのレストラン)や「認知症カフェ」(認知症の方や家族が交流できるスペース)はすばらしいアイデアです。単に世話するのではなく、利用者に役割を持ってもらう発想ですね。

介護とシナジーがある新事業も考えています。たとえばケアサービスの事業所の近隣に保育園をつくり、地域のなかで介護と保育を連携させる。将来的には、介護施設・障害児ケア・保育園・学童保育などを融合した「シェア金沢」のような共生型福祉施設を、都内のビルで運営したい。そこでは年齢や性別を問わず、健常者と障害者、子供や認知症の方がまざって生活し、それぞれが施設内で特性に応じた役割を持ち、差別がありません。

──最後に、クローバーを起業した経緯を教えてください。
創業は2010年。コンサルティング会社で働きながら独立を目指すなかで、300ほどの業態をリサーチし「お泊まりデイサービス」が今後伸びていくと考えました。そして、業界研究の過程で、当時の介護業界のハードな労働環境や離職率の高さを思い知りました。自分なら、もっとサービスレベルを上げ、スタッフがモチベーションを持てる職場をつくれると考え、起業したという経緯です。

ですが、もっとさかのぼると、母親が経営していた小さな飲食店を若い頃から手伝っていたことを思い出します。母はお客さんのプロフィールをすべて把握していて、店舗が地域の交流所として機能していました。いま、地域密着型の事業に打ち込んでいるのも、私自身がそうした環境で育ったからかもしれません。

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