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特集 人事が変わる! HRテック|月刊BOSSxWizBiz

時代は人材活用へ人事を変えるHRテック 経営戦略こそ人事が重要|月刊BOSSxWizBiz

経営戦略こそ人事が重要

「HRテック」と言うと、ひどく斬新なものが誕生したように見えるかもしれない。しかし、人事分野、ヒューマン・リソースにテクノロジーを活用することは、すでに1980年代から始まっており、欧米を中心に人事の情報を一元管理するERPの活用が広まっている。これが現在で言うところのタレントマネジメントシステムに発展していることから、決して新しい発想ではないことがわかるだろう。ちなみに米国で「HRテック」という言葉が商標登録されたのは98年、20年も前の話だ。

キャプラン社長の森本宏一氏。

なぜいまHRテックなのか、その背景をパソナグループの総合人材会社キャプラン社長の森本宏一氏は次のように語る。

「働き方改革という風潮はありますが、いま日本において一番大切なのは人的資源、人的資産をもっと有効活用しないといけないことです。裏返すと、まだまだ眠っているタレントがいて、人材が埋没していますので、シニアや女性も含め、経営資源のなかで最も大切なものを活かしていこうというのが日本全体の背景としてあると思います。

ところが、従来のやり方だと実現できない。働き方改革と言うと残業を減らすとか効率を高めるとか、断片的に捉えられがちですが、本来の目的は人材を活用する仕組みを作っていくことです。そのために改革をし、テクノロジーも使いこなしていかなければいけません」

加えて、経営環境も大きく変化している。大企業だけでなく、中小企業もグローバル戦略で競争相手が海外企業に変化し、国内であってもモノづくり企業が金融やITサービスに参入するなど、他業種がライバルになることはめずらしくなくなった。かつてのような年功序列終身雇用では企業の成長は頭打ちになり、内外から人材を集めて戦わなければ勝負できなくなった。経営戦略、競争戦略こそ人事戦略を抜きには語れない。

「以前は人事の主流の仕事は労務管理、給与管理といったものでした。でもこれからの人事は戦略的に人材を採用し、タレントをいかに育成していくか。オペレーティブな仕事からプロアクティブ(攻め)な業務にシフトしています。オペレーティブなものにすごく時間とコストをかけてきたわけですが、ここをテクノロジーで解決できるなら、人事を変革のエージェントという本来求められる業務にシフトしていくことができます。ここまでは経営者目線。

一方で、現場では短期的に残業を減らしていかなくてはいけません。やはりテクノロジーが助けてくれることがわかってきましたので、現場目線から効率化を図ろうとHRテックを導入し始めています。日本全体の課題から、二軸で流れがきているように思います」

またテクノロジーの進化もHRテック導入の後押しをしている。ERPと言えば大企業が数億~数十億円かけて自社サーバーでシステムを構築するような高額なものだった。近年話題になっている勤怠管理や労務管理のクラウドサービスは、1アカウント月額数百円といったコストから始められる。加えて人手不足が叫ばれるいま、無理に採用コストをかけるよりもテクノロジーに代替してもらうほうが安く済むこともわかってきた。

「ベンチャー企業は人がいないので、最初の人事から最高のパフォーマンスを出すための有効な手段になっています。クラウドサービスは最小のコストから始められ、自社でやらずとも最高のセキュリティで守ってくれる。お試し期間を経て、成果に応じて機能を増やしていくこともできます。また、止めようと思えばすぐに止められることもメリットです。自社なら資産の除却とか、捨てるにも金がかかってしまいます。低コストですぐ始められ、使った量に応じて払う。テクノロジーの進化で、所有から利用への変化も普及している要因ではないでしょうか」

もちろんコストや効率化のメリットもあるが、最大のメリットは人事の限られた時間を他の業務に回せることだ。

「これまで人事は、いろんな数字や書類の処理、手続きに使う時間が仕事の6~7割を占めていたかもしれません。これからは社員のエンゲージメント(会社への愛着)や人材のモチベーションについて、いかに上司や人事が対面して作ってあげられるかという時代になりつつあります。ES(従業員満足度)は福利厚生や給料などが要素になりますが、エンゲージメントは会社が目指す方向や自分の仕事のやりがい、目標に対して精神的にもコミットメントしている状態になります。そこを上司や人事が演出していく。数字で評価するというよりも、数字を作るために気持ちの部分とスキルを含めて作っていくという本質的なところに時間を使っていくことができるようになります。人事の仕事は大きく変わっていくでしょう」

自社に合ったサービスを

もちろん、HRテックを導入したからと言って、必ず成功するというわけでもない。いくら経営者が導入を決めても、その意図が従業員に伝わらなければ、絵に描いた餅で終わってしまう場合もある。

「うまくいかない理由は、データが入らない、または蓄積されないことです。社員にとってHRテックが、働きやすさやクリエイティブな仕事にどう結びつくのか、ストーリーをしっかり共有することが大切です。上から『HRテックを入れました、データを入れなさい』ではやらされるだけになりますから、導入することで会社も社員もハッピーな働き方をどう実現できて、どんな働く環境を作っていけるのか、一緒に作り上げていくことが求められます」

さて、そのHRテックだが、そのサービスは採用、労務、勤怠、人材管理、コミュニケーション、教育、福利厚生等々、多岐にわたる。今回の特集では、中小・ベンチャー企業を中心に導入が増え、一部大手企業も採用しているクラウド型のHRテックを一部紹介してみたい。例えば同じ「勤怠管理」のサービスでも、機能は提供企業によって異なる。自分の会社にどのような機能があるとより便利なのか、検証したうえで導入しなくてはいけない。労務や勤怠など、別々の企業のサービスを導入して連携させることも可能になってきているので、自社に都合のいい組み合わせを選ぶこともできる。

「クラウドサービスの場合、各セグメントにプレイヤーがたくさんいる状況になっています。しかし、最近はAPI連携といって、ユーザーがIDやパスワードを何度も入れずに1度ログインすれば、各サービスが繋がっている状態で仕事ができるようになってきています。どのサービスが会社にとってベストなのかは、会社の規模やどこを強化したいかによってチョイスが変わります」

まずはお試しで1つHRテックを始めてみたいという企業もいるだろう。どんな世界観なのか覗いてみよう。

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“営業もテクノロジーの時代 非効率を是正する仕組み作り|月刊BOSSxWizBiz

見込み顧客獲得から育成、顧客獲得後のフォローアップまで、B2B営業に関する非効率をセールステックで変革するビジネスを展開しているのがイノベーションだ。営業の仕事を「本来すべきである創造性の高いもの」に変えることをコンセプトにしており、中堅・中小企業を中心に注目が高まっている。イノベーション社長の富田直人氏にセールステックについて話を聞いた。

仕組みでモノを売る

── セールステック(Sales Tech)はまだ聞きなれない言葉ですが、現在とひと昔前の営業の違いについて、どう捉えていますか。
時代によって、大きく3つくらいに分けて変化をお話ししたほうがわかりやすいと思います。

「将来、顧客が求めている情報の価値や内容は変わる」と富田社長。
とみだ・なおと 1965年生まれ。静岡県出身。87年横浜国立大学工学部電子工学科卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)入社。2000年退社後、イノベーションを設立。社長に就任。16年12月マザーズ市場へ上場。

1つは、営業マンが全部1人でやる時代。マーケティング部門もなく、行き先も自分で決めて、説明して、見込み客を管理して、見込みのありそうなところにクロージングし、受注し、納品する。商品にもよりますが、既存顧客もフォローしていく。最初から最後までを1人でやる。しかし、新規営業と既存顧客営業は求められる資質が違います。例えば狩りが得意な人もいれば、寄り添うとか守りが得意な人もいます。最初から最後まで1人の人間がやるのは、人材のミスマッチも含めて、非効率ですごくたくさんの課題があります。

2つ目は、見込み客を獲得するとか営業の行き先をマーケティング部あるいは販売促進部が担当して、その先は営業マンが担当し、既存顧客は別の人が担当するなど分業が進んだのが2つ目の時代です。そのなかでインターネットが登場しています。しかし、資質の違いはクリアできても、これでは見込み客を獲得するにも人件費や担当間の引き継ぎの手間といったコストがかかり、ニーズのないところに営業に行くこともあって、まだ非効率です。

そして3つ目がこれからどんどん普及していくもので、いわゆるインターネットを活用、ツールを活用して効率的に営業していくスタイルです。例えば当社が運営しているような見込み客獲得サイトや、リードジェネレーション(不特定多数ではなく、自社の製品・サービスに関心を示す個人や企業の個人情報を獲得すること)のためのWEB広告やツールも出てきています。また、営業マンがいなくても動画を活用して説明を行ったり、商談もスカイプのような訪問しなくてもよいツールを使ったり、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を活用して行動履歴を残し、効果的に営業をします。WEBでもボットを使ったコミュニケーションシステムを使うなど、効率化が進む時代になってきています。

── かつて営業マンと言えば、企業が人海戦術を使って物量で顧客を獲得していくイメージがありました。
ガッツがあって、たくさん行動すればするほど成果が上がるわけですから、それは売れると思います。しかしながら、そういう売り方を長い間、続けられる営業マンが何割いるか。残業が無限にできて、募集すればすぐに採用ができる時代であれば、それでもよかったかもしれません。人手不足で、働き方改革で残業抑制とか、量で仕事をすることができなくなったなかで、仕組みでモノを売るということが求められているのだと思います。

── 確かに離職率が90%超という営業会社もめずらしくありませんでした。
そういう会社もまだあると思います。逆にその会社は営業が強い場合が多いです。なぜなら、そのような組織はなかなか作るのが難しいからです。でも、大きな時代の流れはテクノロジーを活用した営業へと変わってきていますので、もともと営業が強かった会社が、強みを活かしつつ効率的な仕組みを作り上げれば、さらに強い会社になっていくと思います。

── 採用が難しくなってきたなか、離職率をいかに下げるかが企業の課題になっているのも事実です。
採用は営業職だけでなく、全領域で難しくなっています。エンジニアなどは特に難しいと言われていますし、デジタル系のマーケティングはそもそもやっている人数が少ないので、引っ張りだこの状態です。従業員が働きやすい、働き甲斐のある会社を作っていくことが大事になっています。

課題は使う側のリテラシー

── セールステックという言葉自体を打ち出している会社はまだ少なく、まだ浸透しているとは言い難い気がしますが。
まだ少ないと思います。検索したとしても、日本では限られた数社しか出てこないでしょう。我々はSales Tech Lab.(セールテック・ラボ)という研究開発機関を作りまして、将来に向け、どうやって営業をテクノロジーで変えていけるのかという研究を進めています。欧米ではこの領域にスタートアップが多く参入していて、資金調達を行っているベンチャーも少なくありません。日本でも同様で、一気通貫でシステムを提供するベンダーは少ないですが、部分的な個別のサービスを提供する企業は出てきています。

── 日本では、営業と言うとまだ個人単位での仕事だという印象が強く、どうすれば効率化が進むのか、わからないという経営者も多いのではないですか。
そんなに難しく考える必要はありません。いまのセールスのプロセスをふり返っていただいて、見込み客を獲得するというフェーズ、見込み客を育成するフェーズ、クロージングとサポートのフェーズと、流れの中での非効率を、どうテクノロジーで変えていくかというだけです。

テクノロジーとは言えませんが、エクセルを使って顧客情報を管理し、電話をするというのもセールステックの領域でしょう。当社のような資料比較サイトを活用して効果的に見込み客を獲るというのも、マーケティングや広告のような位置づけですが、セールステックの領域だと思います。

獲得した見込み客をしっかり管理するという意味では、SFAやCRMもその領域ですし、マーケティングオートメーション(マーケティングにおいて、個別な見込み顧客とのコミュニケーションを自動化するために開発されたツール)もその分野の1つです。カスタマーサポートの分野でも、よくある質問であれば、ボットを使って自動的にチャットで返すツールを導入している企業も増えています。

ただ、現状では、それぞれが1つずつのサービスで、なかなか統合できないのが課題となっています。また、使う側のリテラシーにも課題があります。

── せっかくセールステックを活用しようにも、それを使いこなせない企業が多いということですか。
中堅や中小企業では、そもそものITリテラシーが高くなかったり、マーケティング部門の数や質もまだまだこれからという企業が多く、ツールは導入したけれども使いこなせない場合も多いです。本当の意味で投資対効果を上げていくためには、ツールを提供する側も使う側も、サポートを含めて課題は多いです。

── 使いこなすための人材も必要だと。
PCが使えるというレベルではなく、デジタルマーケティングリテラシーとでも言うのか、ツールを使いこなせる能力もあるでしょうね。

とは言っても、営業マンはお客様と対峙しますから、基本的にお客様の立場に立って考えられる力は、時代が変わっても必要だと思います。そしてお客様に対して、環境がこう変わればこうなると、仮説をお客様にぶつける力は求められます。これは機械にはできないことですし、どんなにAIが進んだとしても、その3つの力を持つ人は、さらに上に行けるのではないかと思います。

── コンサルタントに近い業務に変わっていく感じですね。
いまはユーザーが自由に検索して調べることができますし、営業マンに聞くまでもなく調べられることが多くなっています。ネットで検索できる内容は営業に求めないという時代も近づいているかもしれません。いまの40代、50代と、10代、20代では、情報を得るためのリテラシーがまったく違います。20年後、30年後を見据えた時に、顧客が求めている情報の価値や内容は変わってくるでしょう。営業はコンサルティングとか、お客様に寄り添う形での課題解決に取り組むようなスキルが求められると思います。お客様の課題を聞いて適切なコミュニケーションをして提案する。営業のあり方で、すごく差がつく時代になっていくでしょう。

人がいなくても売れる

── イノベーションの事業としては、どのような取り組みをしているのですか。
我々はB2B、法人営業に特化した事業を行っています。いまは「ITトレンド」、「BIZトレンド」という、ある領域に特化した資料請求、見込み客獲得サイトを運営しています。またリードナーチャリング(見込み客育成)のところでは「リストファインダー」というマーケティングオートメーションのツールを提供しています。これがいまB2B企業で最も数が出ているツールと言われていますが、それでも累計実績で1000アカウントしかありません。日本のB2Bの営業をしている会社数からみれば、導入率はまだまだこれからです。これらは今後も進めていくつもりです。

一方で、様々なテクノロジーを駆使したサービス開発も進めています。一例を挙げると、現在は見込み客を獲得して営業が行くという流れが前提になっていますが、そうではない営業の仕方も存在します。例えばWEBサイトでのお客様の行動履歴を見ながら、この行動はこういう商品を検討しているのだろうとレコメンドしていくことによって、購入に結び付けることができます。簡単な質問ならチャットで答え、説明なら動画を見せる。WEBコミュニケーションの自動化はさらに進んでいきますので、人がいなくても売れる仕組みはできると思います。作業的な仕事はどんどん機械に置き換え、営業マンは人にしかできないクリエイティビティの高い仕事にフォーカスしていく。こんな時代が来るでしょう。

── B2Bでもサイトの行動履歴からわかるものがありますか。
おもしろい事例があります。既存顧客がすぐに他社に取られたり、取り返したりを繰り返すコンペティティブな業界があるのですが、例えば料金表や特許のページを何度も同じ会社の人が見ている場合があります。それはだいたい乗り換えの検討をしているんですね。営業マンが行ってみると「やっぱり」ということがあったんです。これはセールステックというよりも我々のサービスを使ってわかったことなのですが、こうした部分をもっと誰でも使えるように突き詰めれば、より効率化が進んで効果が出やすいと思います。

営業マンの採用が難しくなっているなかで、セールステックは社会的にも求められている領域ですので、スピード感を持ってサービスを提供することをしていかなければいけない、早いタイミングでサービスを作っていかなければいけないという危機感を持って事業を進めています。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

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経営者インタビュー

リーダー育成にもテクノロジー 人材開発の可能性を探る 人材育成サービス セルム社長 加島 禎二

人材育成サービス セルム社長 加島 禎二

人材育成サービス セルム社長 加島 禎二
かしま・ていじ 1967年神奈川県生まれ。上智大学文学部心理学科卒業後、90年、リクルート映像に入社。営業、コンサルティング、研修講師を経験。98年に創業3年目のセルムに参画し、2002年取締役企画本部長に就任、約1000人におよぶコンサルタントネットワークの礎を作る。08年常務関西支社長を経て、10年社長に就任。

人材育成の分野でも注目を集めているHRテック。人材開発の面から企業を支援しているセルムもその動向に注目している。次の経営リーダーを育てるには、どのようなテクノロジーが求められるのか、セルム社長の加島禎二氏に話を聞いた。

HRDテックで目指すもの

── 最近は人材育成にもHRテックを使おうという取り組みも増えてきました。セルムではこの動きをどのように捉えていますか。
かつてインフォメーション・テクノロジー(IT)という言葉が流行りましたが、HRITすら日本企業は導入してこなかったなかで、いきなりHRテックと言われて、どこから手を付けていいのかわからないという企業が多いのが現状だと思います。欧米企業では、ITを使って人事をマネジメントするのは大きく3つあって、リクルート、パフォーマンス、タレントをそれぞれマネジメントする時に、特にグローバルで展開している企業ではITのシステムを入れようという当たり前の発想でした。でも日本の場合は、現地はM&Aをした会社だったり、横串でITを入れようという発想がなかったのです。人事機能も人事制度もまったく違うのにITだけ入るわけがありません。人事情報のデータベースがあるくらいで、マネジメントしようとは思ってなかった。そこにビッグデータやAIと言われても、「何から手を付ければ?」という感じだと思います。

私はテクノロジーの専門家ではないので、どうHRテックというトレンドに向き合っていこうかと、2年ほど前から考え始め、気がついたのが、結局テクノロジーはそれを管理する人にとっての省力化でしかないということです。人を育てたり意思決定に使えるものではない。だからそれを人材開発の面からやろうと考えました。HRテックではなく、HRD(ヒューマン・リソース・ディベロップメント)テクノロジーです。ちなみに弊社のなかではHRDアクトロジーという言葉を使っています。アクトロジーとは、アクティベーションとテクノロジーの造語です。

―― HRDテックで目指すものは何ですか?
ポテンシャル人材の早期発見、組織成長スピードの加速化、個人別キャリアの最適化という、人材や組織を開発していくための領域を、テクノロジーを使って実現していく。従来、我々がやってきた分野を、テクノロジーを使ってできないか構想しているプロジェクトチームがありまして、営業にくっついてお客様と一緒に仕事をしています。

いくつかおもしろい話も出てきています。社名は出せませんが、A社さんでは、入社した時の情報と、どんな研修を受けて、どんな仕事をし、どんな上司に付いて、どんな勤務評価だったのかというスループットの情報、そして現在のパフォーマンスをそれぞれ分析して、どうしてこの結果になっているのか因子を探ってほしいという分析。またB社さんでは、入社時のSPIの結果と現在のパフォーマンスの相関があるのかどうかデータ分析をしてほしいという依頼などがあります。

また弊社では将来の経営者候補のための経営塾を年間115本開いていますが、その最後はプレゼンテーションやスピーチで終わります。この音声をすべて録って、機械学習をさせています。リーダーのスピーチをアセスメントできるアルゴリズムを開発しようという狙いです。役員や経営陣が聞いて面白くないと感じたスピーチでも、なぜ悪いのかわからなければ、直せません。リーダーはグローバルなパフォーマンスを発揮しようと思うと、ワクワクさせるスピーチで人を動かしていくのが必須のコンピテンシーになりますし、リーダーとリーダーの信頼関係で仕事を進めるのが欧米の習わしですので、一流のリーダーと当たり負けしないくらいのプレゼンスを発揮できないといけない。単なるプランニングの発表会で研修が閉まるのはよくありません。パワーポイントを使わずに3分間のスピーチをする教育プログラムで、しかもAIを使ってアセスメントできるようなツールができればいいと考えています。

―― それは具体化してきているのですか。スピーチからリーダー育成のヒントが掴めれば面白いですね。
いまはまだ読ませているだけで、どんな因子が出てくるのか、わかりませんが、興味深い。私が着目したのは、研修のなかでこそ取れるデータがトレジャーだと思っています。なぜかと言うと、日常のデータはセンサーを付けられるわけでもないし、評価力がない上司が点数を付けたり、その時々の運不運もあります。そのデータに対しては、私は懐疑的です。360度評価ですら、やはり忖度して付けている。日常のデータは一切、その人の開発には役に立たないのではないかと思っています。

研修のなかで、自分の部門の成長戦略を話せとか、経営課題は何だとか、10年後に社長になった時の就任演説をしろとか、いくらでも課題は与えられます。ある程度要件が整ったなかで取るデータのほうが比較できますし、いいデータです。職場では、その人が社長になった時にどんな思いを持つかなんて、上司は見ていません。現場のデータは人材開発には関係がないと私は信じていますが、これをわかってもらうのは大変ですけどね。

日本企業らしい人材育成

―― 日本企業の場合、派閥人事や同族経営などで、本来のリーダーたるべき人材を登用しないことが多いですね。日本には不向きなシステムと言えるかもしれません。
外資系の場合はポジションの要件が定義されていますから、その要件に対してパフォーマンスを測ることができます。これはこれで科学的にロジックが通っています。日本の場合、そのポジションがどんな責任を持っているのかも不明確です。人事が透明になることの本能的な怖さはどこかに持っていて、HRテックも周辺的なコスト削減と同じ感覚でやりはじめている。まだまだ人事の本丸である経営人材の開発に行く感じではないですね。

日本でタレントマネジメントが普及しないのもそれが原因で、組織を設計する、ポジションを設計する、リーダーのコンピテンシーを測るということをやってきていません。ですから、研修の場でデータを取り、可能性を最大化することで、日本企業らしい人材育成のHRテックのやり方ができるのではないかと思います。タレントを型にはめるのではなく、その人そのものの良さをもっと活かして、成長を支援することが、タレントの開発になると思います。

―― 次の課長、部長など中間管理職を選ぶためのHRテックはどうですか。
課長を部長にする時の企業の悩みは、その部署で仕事ができると課長になってしまうことです。でも異動した先で課長ができるかというと、そうとは言えない。課長というのは、与えられた経営資源のポテンシャルを最大化して、業績を上げるプロフェッショナルな職能と捉えられるのですが、マネジメントができなくては、その事業が使い物にならなくなってしまう可能性があります。日本企業は現場が強く、人事部が昇格の権限を持っていないので、現場から課長、あるいは部長にしたいと言われると、よほどなことがないかぎりは通ってしまいます。人事ができるのは、客観的な専門家に判定をしてもらうアセスメント研修をやりましょうという関与くらいです。

アセスメント研修は、3日間くらいかけて、アセッサーなる専門家が様々なケース課題を与えて、どれくらい解けるかを測る。拷問です。その拷問のような研修を、もっとデータやAIを使って簡単にできないかと言っているのが、我々が提唱しているHRDテックです。この分野のテクノロジーが、もっと発展していけばいいと考えています。

働き方改革で生産性を上げようとすると、集合研修をやっている時間がないとか、eラーニングとか、どんどん軽薄短小に人材育成の施策を捉えがちです。それでは逆行してしまう。AIなどの機械が入ることで、人間の価値が試される時代に、価値を付けるところに対して軽薄短小な施策を打つことはよくありません。人間の価値を高め、成長させることが、もっと大事になりますから、研修を行い、データを取っていくことで、育つ可能性が大きくなることを知ってほしいですね。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

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経営戦記



加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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産業用ドローンで進む自動化・無人化 時間とコストを大幅に短縮するソリューション ブイキューブロボティクス社長  出村 太晋

「人手不足」と言われ、労働人口の急激な減少が危惧される日本。業務の効率化が求められるなか、ドローンを使った新たなソリューションが注目を集めている。AI、IoT、クラウドを活用した産業用ドローンについて話を聞いた。

ドローン市場の変化

ドローンが本格的に市場として認知されるようになったのは、まだ2~3年前のこと。2015年4月に首相官邸の屋上でドローン(この事件での機体は厳密にはラジコンヘリの一種)が見つかったことで、注目を集めることになった。それまで自由に飛ばせたドローンは、飛ばす場所を制限されることになり、規制も強くなっていった。

「SOLAR CHECK」でも使われるドローンを手にする出村氏(右)と吉井氏。

その一方で、規制が強まることで追い風となったのが、産業用ドローンの分野だ。様々な制限が加えられるなか、ドローンを扱う基準を満たしたプレイヤーだけが事業を行うことができるため、ビジネスとして成り立つ土壌が生まれることになった。とはいえ、産業用ドローンはどういった分野で活用できるのか、手探りの状況からスタートしている。

「ほとんどすべての産業がドローンを使ったことがないなかで、ドローンを使うことでどのような効用があるのかわからなかったのです。16年は、まず現場でドローンを飛ばしてみたい、飛ばすことで上からどういうものが見えるのか知りたいというニーズが多い時代。17年前半になると、業務現場でいろいろなものを撮ってみたいというニーズ。17年後半くらいからは、もっと具体的に業務要件を満たせるのか、ドローンで撮影したものがどのように使えるのかと、撮ったあとに解析するところに課題や目的がシフトしていきました」

こう語るのはブイキューブロボティクス社長の出村太晋氏。現在を「産業用ドローン市場が黎明期から普及期へ移行する過渡期」として位置付ける。

「これから伸びていく領域というのは、ドローンの機体ではなく、サービスです。なかでも測量系や検査系の領域が伸びていくと見ています。従来、ラジコンヘリで行われていた空撮や農薬散布などの領域は、ドローンに置き換わってもプロセスは変わらないので大きなイノベーションが起きているわけではありませんが、私どもが注力するのは巡視点検、設備点検、警備監視、災害対策など人が現地に行って何らかの業務をしなければならない領域です。ドローンを活用したソリューションで自動化・無人化をするところにトライしていきたいと思っています」(出村氏)

道路の法面や橋梁の点検は不可欠な作業だが、人が登ったり重機を使ってぶら下がって点検するなど、効率が悪く、コストもかかる作業。安全性の面や若年者労働人口が減るなかで、いかに効率を高めていくのかは将来的に重要な課題となっている。そこにドローンを使うことで、課題解決を目指そうというのがブイキューブロボティクスの取り組みだ。

太陽光パネルを無人で点検

今年2月に発表された太陽光発電施設点検パッケージ「SOLAR CHECK」は、まさに無人化、効率化を進めたサービスになっている。事業開発部サービス企画グループマネージャーの吉井太郎氏は次のように語る。

「太陽光発電所のパネルは何万平米という広大な敷地に建てられていまして、これを人が1つずつチェックしていくのは大変です。そこでドローンを使って撮影していくサービスが取り入れられたのですが、あまり広がりませんでした。というのも、写真を撮ること自体は簡単なのですが、それを1枚1枚、人が見て確認し、それを報告書に直していくところに時間とコストがかかってしまうのです。

AIを活用した画像認識技術で故障個所も特定してくれる。撮影自体は2メガワット規模の発電所でわずか15分ほどだ。

我々のサービスは、まずドローンを使って太陽光パネルを撮影します。太陽光パネルは故障をすると光を電気に変える代わりに熱に変えてしまう。つまり発熱します。それをクラウド上でAIを活用した画像認識・解析機能で自動的に検知・解析し、1枚の発電所の画像のなかに、異常個所をプロットするところまで自動で行います。そのレポートをプリントアウトして報告書まで自動で作成できるサービスになっています」

従来、太陽光パネルは年数回ほどの点検が主流だが、壊れると発電しないために収益性が悪化し、故障のタイミングによっては大きな機会損失を生むことになる。2メガワットの発電所の場合、人手なら通常点検~報告書作成に4日ほどかかるが、このソーラーチェックでは解析は約15分で完了し、報告書の作成までその日のうちにできてしまう。またリアルタイム映像コミュニケーション技術を搭載した全自動運用ドローンシステムを発電所に備え付けておくことで、人が現地に行かずに点検でき、大幅に効率化が進むことになる。

「解析からレポート作成まで全て自動で行うので、点検時間・コストが削減され、その分、点検頻度を増やすことによって機会損失を防ぎ、収益性の向上にも効いてきます。発電所の規模が大きくなればなるほど、自動化のメリットも出てきますので、今後建てられるメガソーラー、超メガソーラーには必要なサービスです」(吉井氏)

ブイキューブロボティクスでは今後、画像認識技術を駆使し、金属構造物や警備監視といった分野にも用途別に進出する。すでに通信技術を活用したドローンの災害対応の実証実験も進めており、「ドローン×最新テクノロジー」で新たなソリューションを生み出していく構えだ。

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【BOSS×WizBiz】すべての女性がいきいきと働くために派遣業ができること 中島 由美子 トレジャーリンク社長

中島 由美子 トレジャーリンク社長

中島 由美子 トレジャーリンク社長
なかじま・ゆみこ 1962年2月22日生まれ。東京都出身。82年、株式会社ゆうせん入社。映像制作会社、システム開発会社と異業種転職し、フリーランスエンジニアに。掛け持ちアルバイト歴20業種以上。15年間のエンジニア生活に終止符を打ち、営業職に転向。2004年に独立創業、現在に至る。事業ドメインは「人、イキイキ活性業」、ミッションは「心豊かな世界を創造する」。

IT系エンジニアから転身

── トレジャーリンクではどのような事業を展開されているのですか。
まず、フリーランスのSEを対象とした人材派遣事業を行っています。自社運営サイトの「ITトレジャー」を通じて案件紹介を行い、変動はありますが50人程度を派遣しています。こちらが当社の売上の9割以上を占めている事業の柱となっております。

そして、飲食店事業。現在は豊島区大塚にライブスペースを備えたレストランを持っています。ライブスペースというと、一般的には防音などの問題もあって地下につくることが多いのですが、当店はガラス張りの路面店で、オープンな空間を提案しています。

さらに、本社オフィス内に30席の小規模なレンタルスペースを設けています。中央区京橋という立地の利便性から、セミナーや企業の部内会議などでご利用いただいております。

── 起業の経緯についてお聞かせ下さい。
私は確固とした覚悟を持って実業の世界に入ったわけではなくて、人とのご縁や巡り合わせのなかで、今も経営を続けているというところなんです。

もともと、私は学生時代から音楽業界を志望し、現在のUSENに入社したのですが、なかなか希望の職種に配属されずに3年ほどで退社、その後は20種以上のアルバイトを転々としました。そのなかで、ある飲食店のお客様だった電算機系の企業の方に「性格的に向いている」と、システム開発会社を紹介していただいたことがきっかけでキーパンチャーとして現在の業界に入ったのです。プログラミングはまったく未経験だったのですが、働きはじめてみると意外にも構造やシステムに自分が好奇心を刺激されるのがわかりました。当時はインターネットがまだ普及しておらず、帳票登録システムや管理システムのような業務アプリを開発していました。バブル期ということもあり受注が絶えず、長時間労働の連続。入社3年ほど経ち、プロジェクトリーダーに昇進した頃、過労から体調を崩し半年ほど入院しました。

退院後、フリーのSEとして現場復帰し10年ほど働きました。その間、私に仕事を斡旋していただいていた担当営業の方が独立することになり、そのタイミングで、SEに案件を紹介する派遣会社の立ち上げに加わりました。2000年頃だったと思います。今度はエンジニアからエージェントに転身したわけですが、はじめてIT業界に入り、フリーになる前から合計して15年あまりのSEとしての時間が、営業に非常に役立ったと実感しています。少人数の会社でしたが時代の流れも幸いして約3年で売上げも10億円程度にまで成長させることができました。その実績と経験を生かして、04年に独立起業したのがトレジャーリンクです。

その後の展開に関しては、08年に自社運営サイトの「ITトレジャー」を開始し、同年にレストラン「All jn Fun」を開店しました。大塚の商店街によく立ち寄っていたバーがあり、そこの経営者の方とも懇意にしていたので、そのコミュニティに自分も混ぜていただいたという形です。思わぬご縁で、学生時代に志望していた音楽に携わる仕事ができています。

現在のオフィスへは、10年に「基金訓練」(リーマンショック後の経済危機に対処した、政府による緊急人材育成支援事業。09~11年まで実施)の施設としての利用を前提に移転してきました。PC操作を職業訓練として実施し、施策終了後は現在までその教室をレンタルしています。

女性のためのコミュニティ創出

── 「女性活躍社会」と言われていますが、御社でも女性の方の比率が多いようですね。
社員全体の9割が女性です。そうした環境だと、社内で女性の生き方や自己表現について話し合いますし、その中から事業のインスピレーションを得ることもあります。結婚や出産など、女性の働き方に変化をもたらす転機に共感できることはエージェントとしても強みになっています。

── 今後の事業展望については。
さきほどの話と関連しますが、コミュニティを創り育てる事業を展開したいと考えています。なかでも注力していきたいのは、女性に開かれた交流の場をつくることです。ビジネスも含めさまざまな年代や立場の女性と交流していると、結婚や出産だけでなく離婚や夫との死別などの生き方のなかで、女性同士で経験を分かち合いたい、それも女性だけで「芸者遊び」をしてみたいとか、パワフルで多様な需要があります。私自身もそうした個別化したニーズを愉しみながらビジネスを展開していきたい。

ひとつは、都心部での飲食店事業の拡大です。女性が立ち寄ることができるような小規模なレストランやバーをつくり、それは地域に根差していて、ラフで、交流ができる。私自身も時にはカウンターで接客をするとか、そういった場所を山手線の駅にひとつずつ開店できたらというようなイメージを持っています。

もうひとつは地方での事業展開で、女性を中心としたコミューンなんです。コレクティブハウスのような試みとも似ていますが、たとえば単身の高齢者が共同生活を行える広い施設を、都会化されていない場所につくりたい。介護にはまだ多くの問題がありますが、これからはただ介助されるというかたちではなく、高齢者が相互に力づけあって生きるような共同体が必要になると考えていますし、クラウドファンディングやシェアサービスなど、知恵と資産を分け合える仕組みが進んでいる時代だからこそ、それが可能だと思っています。

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