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特集 真の働き方改革|月刊BOSSxWizBiz

真の働き方改革実現には問題の本質を捉え、社会の在り方を考える|月刊BOSSxWizBiz

「社会の問題点を解決する」という創業以来変わらぬ企業理念のもと、“ダイバーシティを推進し、誰もが自由に好きな仕事を選択でき、それぞれのライフスタイルに合わせた働き方のできる社会”の実現を目指して事業活動を展開してきたパソナグループ。まさに「働き方改革」の最前線で働く人のサポートをしてきたパソナグループ代表の南部靖之氏に、「働き方改革」の現状と課題について聞いた。

創業時の御旗の現実化

私は創業時から、定年というものをなくして、働きたい人は、男女関係なくずっと現役でいられる環境をつくりたいと御旗のひとつに掲げてきました。そして、もうひとつが、子育てを終えて再就職を希望する女性たちを応援することです。女性が自分の才能や経験を好きな時に好きな時間帯で、しかも給料格差や待遇格差がなく、安心して働ける環境をつくりたいと想っていました。これらの法案成立はとても嬉しいことです。

それといま話題になっている「同一労働同一賃金」。1日4時間だけ働いても、毎日働いても、雇用形態に違いがあっても、役割と仕事が同じなら同じ賃金を払う。これも私の御旗のひとつとして、ずっと考えてきたことです。

ですから今は、私が起業した当時、自分がやろうとしていたことが、まさに現実化してきたと感じています。

企業内保育所もそのひとつです。27年前に日本で初めて企業内保育所をつくりました。そのときは、みんなからおかしいとも言われましたが、今では、待機児童の問題が表面化して、企業内に保育所をつくることはまったく珍しいことではありません。また、自治体でも横浜市のように待機児童ゼロに取り組む自治体があるということも嬉しいことです。

そのほかにも、正社員でなくても加入できて、転職をしても持ち運びができる確定拠出年金日本版401kもできるようになりました。これも素晴らしいことだと思います。

そう考えると、いまの環境は、43年前に比べると良くなってきていると思います。ただ、問題もあります。

規制への見極めが必要

それは、規制緩和をすべきものと、逆に規制を強化すべきものがあるということです。

例えば、女性の子育て。子育てといっても子どもの年齢によって手の掛かり方は違います。ですから、子どもの成長に合わせて、法律や条例をつくって、仕事に戻れる体制と、安心して子育てができる仕組み、そして生活をサポートする福利厚生のようなものを企業に求めていく。企業ができなければ、それを国がつくっていくべきだと思います。働きたくても、子育てなどそれぞれの家庭の事情で働けない人を支援するための規制の強化が必要なのです。

私はそのためにも雇用創出大臣、または雇用創生大臣でもいいが、働く人の雇用環境を専門にみる大臣や組織があっても良いと思っています。

今は厚生労働省なので、厚生と労働を一緒にみています。厚生に明るい人は労働や雇用のことは専門ではありません。ですから、雇用や労働に強い立場の大臣を置いて、他の大臣にも匹敵する強力な権限で、緩和すべきものと規制すべきものをきちんと見極めていく。働く人の環境は常に変化しているし、価値観だって変わっていきます。時代に応じた制度や仕組みを常につくっていくことが必要だと思います。

それともうひとつは、働き方改革自体は歓迎です。ただ、基本的な間違いがあります。

改革の基本的な間違い

それは、いまだに全員をひとつの働き方に押し込めようとしているということです。一昔前のように、国民はみんな同じように働けばいい。終身雇用でひとつの会社でずっと働いてくれればいいと。しかしながら、いまの時代は違います。独立をして起業を目指す人や、オリンピックを目指しているアスリート、芸術家やミュージシャン、政治家、弁護士など、仕事と働き方はたくさんあります。

さらに自分には夢や目標があるから、それを叶えるために朝から晩まで、できるだけ休みをなくして働きたいという人がいても、今ではそんな人を企業は採用もできません。

私は、人はそれぞれ違う才能を持って生まれているのだから、それぞれが得意な才能や能力をフルに使って成長して、その成長した能力で周りの人を助けるべきだと思っています。それがなぜかいまは、才能や能力を活かすことよりも、得意ではない人に合わせようとしている。例えば、足が速い人が遅い人を待って、いっしょにゴールしましょうという感じになっています。これは優しさという意味では一見正しいように見えますが、そうではないと思います。足が速いのであれば、その才能を磨くべきだし、遅い人を待つのではなく、手を貸して背負っていっしょにゴールしましょうと、その才能を活かすべきです。「働き方改革」という名のもとに、そんな個人の才能を活かして働くことができにくくなっています。

「女性活躍推進法」や「ニッポン一億総活躍プラン」で、誰もが活躍できる社会となりましたが、現実的には、個々人の価値観や才能を活かした多様な働き方が、まだまだしにくい環境にあると感じます。

社会の在り方を考える

私は、働き方改革ももちろん大切ですが、それよりもまず「社会の在り方改革」をすべきだと思います。これからの時代に日本国民が豊かな生活を送るためにはどうあるべきなのか。それを企業や働く人の意識だけでなく、社会全体の制度や仕組みまで見直していく必要があるのです。

日本人はもともと勤勉で、みんなよく働いて、そして、みんなで助け合うという互助・共助の精神がありました。「向こう三軒両隣」といって、隣近所が力を合わせて助けあう。しかしいまは、例えば子育てにしても、女性が育てることが前提となっていて、産休を取りやすくしましょうと制度にばかり目がいってしまう。女性が社会に進出しやすくするための仕組みは必要ですが、それ以外にも少し発想を変えて、子どもは地域全体で助け合って育てていく仕組みをつくってもいいと思います。地域や市、県や国が、子供の世話を家庭の親だけに任せるのではなく助けあって育てる。そんな制度や仕組み、条例ができれば、女性はもっと働きやすくなります。そうでなければ、せっかくの女性活躍推進法も、本来の目的を失ってしまいます。

福澤諭吉の「學問のすすめ」の中に「一身独立して、一国独立す」という言葉があります。すなわち、国民一人ひとりが頑張って、それぞれが才能を伸ばして、幸せになってはじめて国が栄えるということです。それがいまは逆になっていると感じます。国家が先にあって、国がこうしたいから、国民に無理強いをしているような感があります。これは間違いです。

いま社会の環境はものすごいスピードで変化しています。AIやIoTの技術で働き方も仕事そのものさえも変わってきています。新しい雇用機会を創るのは、私たち民間の役割です。

問題や課題はまだまだありますが、性別にかかわらず働きやすい社会の環境整備はいい方向に進んでいます。あとは、それぞれの価値観、多様性が尊重されて、働く人、一人ひとりがイキイキと活躍できる社会になるよう、私たちはサポートしていきたいと考えています。

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“営業もテクノロジーの時代 非効率を是正する仕組み作り|月刊BOSSxWizBiz

見込み顧客獲得から育成、顧客獲得後のフォローアップまで、B2B営業に関する非効率をセールステックで変革するビジネスを展開しているのがイノベーションだ。営業の仕事を「本来すべきである創造性の高いもの」に変えることをコンセプトにしており、中堅・中小企業を中心に注目が高まっている。イノベーション社長の富田直人氏にセールステックについて話を聞いた。

仕組みでモノを売る

── セールステック(Sales Tech)はまだ聞きなれない言葉ですが、現在とひと昔前の営業の違いについて、どう捉えていますか。
時代によって、大きく3つくらいに分けて変化をお話ししたほうがわかりやすいと思います。

「将来、顧客が求めている情報の価値や内容は変わる」と富田社長。
とみだ・なおと 1965年生まれ。静岡県出身。87年横浜国立大学工学部電子工学科卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)入社。2000年退社後、イノベーションを設立。社長に就任。16年12月マザーズ市場へ上場。

1つは、営業マンが全部1人でやる時代。マーケティング部門もなく、行き先も自分で決めて、説明して、見込み客を管理して、見込みのありそうなところにクロージングし、受注し、納品する。商品にもよりますが、既存顧客もフォローしていく。最初から最後までを1人でやる。しかし、新規営業と既存顧客営業は求められる資質が違います。例えば狩りが得意な人もいれば、寄り添うとか守りが得意な人もいます。最初から最後まで1人の人間がやるのは、人材のミスマッチも含めて、非効率ですごくたくさんの課題があります。

2つ目は、見込み客を獲得するとか営業の行き先をマーケティング部あるいは販売促進部が担当して、その先は営業マンが担当し、既存顧客は別の人が担当するなど分業が進んだのが2つ目の時代です。そのなかでインターネットが登場しています。しかし、資質の違いはクリアできても、これでは見込み客を獲得するにも人件費や担当間の引き継ぎの手間といったコストがかかり、ニーズのないところに営業に行くこともあって、まだ非効率です。

そして3つ目がこれからどんどん普及していくもので、いわゆるインターネットを活用、ツールを活用して効率的に営業していくスタイルです。例えば当社が運営しているような見込み客獲得サイトや、リードジェネレーション(不特定多数ではなく、自社の製品・サービスに関心を示す個人や企業の個人情報を獲得すること)のためのWEB広告やツールも出てきています。また、営業マンがいなくても動画を活用して説明を行ったり、商談もスカイプのような訪問しなくてもよいツールを使ったり、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を活用して行動履歴を残し、効果的に営業をします。WEBでもボットを使ったコミュニケーションシステムを使うなど、効率化が進む時代になってきています。

── かつて営業マンと言えば、企業が人海戦術を使って物量で顧客を獲得していくイメージがありました。
ガッツがあって、たくさん行動すればするほど成果が上がるわけですから、それは売れると思います。しかしながら、そういう売り方を長い間、続けられる営業マンが何割いるか。残業が無限にできて、募集すればすぐに採用ができる時代であれば、それでもよかったかもしれません。人手不足で、働き方改革で残業抑制とか、量で仕事をすることができなくなったなかで、仕組みでモノを売るということが求められているのだと思います。

── 確かに離職率が90%超という営業会社もめずらしくありませんでした。
そういう会社もまだあると思います。逆にその会社は営業が強い場合が多いです。なぜなら、そのような組織はなかなか作るのが難しいからです。でも、大きな時代の流れはテクノロジーを活用した営業へと変わってきていますので、もともと営業が強かった会社が、強みを活かしつつ効率的な仕組みを作り上げれば、さらに強い会社になっていくと思います。

── 採用が難しくなってきたなか、離職率をいかに下げるかが企業の課題になっているのも事実です。
採用は営業職だけでなく、全領域で難しくなっています。エンジニアなどは特に難しいと言われていますし、デジタル系のマーケティングはそもそもやっている人数が少ないので、引っ張りだこの状態です。従業員が働きやすい、働き甲斐のある会社を作っていくことが大事になっています。

課題は使う側のリテラシー

── セールステックという言葉自体を打ち出している会社はまだ少なく、まだ浸透しているとは言い難い気がしますが。
まだ少ないと思います。検索したとしても、日本では限られた数社しか出てこないでしょう。我々はSales Tech Lab.(セールテック・ラボ)という研究開発機関を作りまして、将来に向け、どうやって営業をテクノロジーで変えていけるのかという研究を進めています。欧米ではこの領域にスタートアップが多く参入していて、資金調達を行っているベンチャーも少なくありません。日本でも同様で、一気通貫でシステムを提供するベンダーは少ないですが、部分的な個別のサービスを提供する企業は出てきています。

── 日本では、営業と言うとまだ個人単位での仕事だという印象が強く、どうすれば効率化が進むのか、わからないという経営者も多いのではないですか。
そんなに難しく考える必要はありません。いまのセールスのプロセスをふり返っていただいて、見込み客を獲得するというフェーズ、見込み客を育成するフェーズ、クロージングとサポートのフェーズと、流れの中での非効率を、どうテクノロジーで変えていくかというだけです。

テクノロジーとは言えませんが、エクセルを使って顧客情報を管理し、電話をするというのもセールステックの領域でしょう。当社のような資料比較サイトを活用して効果的に見込み客を獲るというのも、マーケティングや広告のような位置づけですが、セールステックの領域だと思います。

獲得した見込み客をしっかり管理するという意味では、SFAやCRMもその領域ですし、マーケティングオートメーション(マーケティングにおいて、個別な見込み顧客とのコミュニケーションを自動化するために開発されたツール)もその分野の1つです。カスタマーサポートの分野でも、よくある質問であれば、ボットを使って自動的にチャットで返すツールを導入している企業も増えています。

ただ、現状では、それぞれが1つずつのサービスで、なかなか統合できないのが課題となっています。また、使う側のリテラシーにも課題があります。

── せっかくセールステックを活用しようにも、それを使いこなせない企業が多いということですか。
中堅や中小企業では、そもそものITリテラシーが高くなかったり、マーケティング部門の数や質もまだまだこれからという企業が多く、ツールは導入したけれども使いこなせない場合も多いです。本当の意味で投資対効果を上げていくためには、ツールを提供する側も使う側も、サポートを含めて課題は多いです。

── 使いこなすための人材も必要だと。
PCが使えるというレベルではなく、デジタルマーケティングリテラシーとでも言うのか、ツールを使いこなせる能力もあるでしょうね。

とは言っても、営業マンはお客様と対峙しますから、基本的にお客様の立場に立って考えられる力は、時代が変わっても必要だと思います。そしてお客様に対して、環境がこう変わればこうなると、仮説をお客様にぶつける力は求められます。これは機械にはできないことですし、どんなにAIが進んだとしても、その3つの力を持つ人は、さらに上に行けるのではないかと思います。

── コンサルタントに近い業務に変わっていく感じですね。
いまはユーザーが自由に検索して調べることができますし、営業マンに聞くまでもなく調べられることが多くなっています。ネットで検索できる内容は営業に求めないという時代も近づいているかもしれません。いまの40代、50代と、10代、20代では、情報を得るためのリテラシーがまったく違います。20年後、30年後を見据えた時に、顧客が求めている情報の価値や内容は変わってくるでしょう。営業はコンサルティングとか、お客様に寄り添う形での課題解決に取り組むようなスキルが求められると思います。お客様の課題を聞いて適切なコミュニケーションをして提案する。営業のあり方で、すごく差がつく時代になっていくでしょう。

人がいなくても売れる

── イノベーションの事業としては、どのような取り組みをしているのですか。
我々はB2B、法人営業に特化した事業を行っています。いまは「ITトレンド」、「BIZトレンド」という、ある領域に特化した資料請求、見込み客獲得サイトを運営しています。またリードナーチャリング(見込み客育成)のところでは「リストファインダー」というマーケティングオートメーションのツールを提供しています。これがいまB2B企業で最も数が出ているツールと言われていますが、それでも累計実績で1000アカウントしかありません。日本のB2Bの営業をしている会社数からみれば、導入率はまだまだこれからです。これらは今後も進めていくつもりです。

一方で、様々なテクノロジーを駆使したサービス開発も進めています。一例を挙げると、現在は見込み客を獲得して営業が行くという流れが前提になっていますが、そうではない営業の仕方も存在します。例えばWEBサイトでのお客様の行動履歴を見ながら、この行動はこういう商品を検討しているのだろうとレコメンドしていくことによって、購入に結び付けることができます。簡単な質問ならチャットで答え、説明なら動画を見せる。WEBコミュニケーションの自動化はさらに進んでいきますので、人がいなくても売れる仕組みはできると思います。作業的な仕事はどんどん機械に置き換え、営業マンは人にしかできないクリエイティビティの高い仕事にフォーカスしていく。こんな時代が来るでしょう。

── B2Bでもサイトの行動履歴からわかるものがありますか。
おもしろい事例があります。既存顧客がすぐに他社に取られたり、取り返したりを繰り返すコンペティティブな業界があるのですが、例えば料金表や特許のページを何度も同じ会社の人が見ている場合があります。それはだいたい乗り換えの検討をしているんですね。営業マンが行ってみると「やっぱり」ということがあったんです。これはセールステックというよりも我々のサービスを使ってわかったことなのですが、こうした部分をもっと誰でも使えるように突き詰めれば、より効率化が進んで効果が出やすいと思います。

営業マンの採用が難しくなっているなかで、セールステックは社会的にも求められている領域ですので、スピード感を持ってサービスを提供することをしていかなければいけない、早いタイミングでサービスを作っていかなければいけないという危機感を持って事業を進めています。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

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経営者インタビュー

各事業でシェアトップを!「売上高10兆円」への成長戦略

金井 政明 良品計画会長

芳井 敬一 大和ハウス工業社長
よしい・けいいち 1958年生まれ。大阪府出身。81年中央大学文学部卒業後、ラガーマンとして神戸製鋼でプレー。90年大和ハウス工業入社。姫路支店長、金沢支店長、海外事業部副事業部長を経て、2011年取締役海外事業部長。13年常務、16年専務、17年11月社長に就任。経営幹部育成のための「大和ハウス塾」1期生。

2017年11月に大和ハウス工業社長に就任した芳井敬一氏。創業100周年の2055年に売上高10兆円を掲げる同社にとって、社長職は常に自分の在任期間以上の長期的な成長戦略を描き続けなくてはいけない難しい立場だ。目標を達成するための将来的な戦略と人財育成について、新社長の芳井氏に話を聞いた。

年頭所感で思いを伝える

── 昨年11月に社長に就任されました。就任前と就任後で、想像と違ったことなどはありましたか。
ぜんぜん違いますね。社長職は想像を絶します。たとえば、今日、こうして話をしたことが、場合によっては明日、活字になる。それが自分の思っていたこととニュアンスが違って伝わったりする。それも会社全体のことや海外の話など、いろんな切り口で聞かれますので、自分の思いが伝わればいいのですけどね。

── 今年はじめの年頭所感では、「4つのお願い」という形で社員に思いを伝えています。
私は、伝える方法というのをいつも考えているんです。文章を上手に長く伝えるのは苦手なもので、どこがキーワードなのかわからなくなります。だからいつも伝え方を大切にして、メモをしてもらおうと考えています。どうすればメモしてもらえるのか。全体朝礼でもダラダラ話すとどこをメモすればいいのかわからなくなりますから、最初に4つとか、3つとか、数を言う。1つ目と数を言えば、少なくとも1番目と書いてくれます。簡単なキーワードを言って、それから説明をする。みんなを動かそうと意識に刷り込むことが大事ですので、数を言うことは決めているんですよ。

── まさに芳井社長がやりたいことがこの4つに凝縮されていると思いますが、まず「各事業でのシェアナンバーワンの奪取」です。住宅・建設・不動産業界においてトータルでの売上高は1位ですが、あえて個別事業での1位を狙うと。
なかにはプロ野球のように3位に入ってクライマックスシリーズを目指そうというチームもありますが、やはりどんな場合でも、目指すのは1位です。勝つためには、1位との差は何か、と分析をします。分析をするということは、追い付いて勝とうということですから、1位との差は伸びしろのはずです。例えば住宅業界であれば積水ハウスさんや大東建託さんが高いパフォーマンスを出されていますが、我々は誰も行ったことがない山を登るのではなく、誰かが登った足跡を追いかけるわけです。先人が登っている山があるのであれば、それを追いついて、1歩でも2歩でも自分のパフォーマンスを上げる。その差が成長戦略と考えれば、いまお約束しているいろんな数字が化けてくるかもしれません。

これからの日本に残るのは、各分野の1位か2位か。3位はどうか。全体で1位だから残れるかと言えば、大きな間違いで、個別事業も生き残っていかなくてはいけません。この事業は惨敗だからやめるということになれば、全体の足し算もなくなるわけですから、とにかく1位を取りに行く。1位を目指すことを机上の方針にせず、そのためにどうすればよいのか、目指す方法を決めていきたいですね。

── 既存の事業の進め方を見直すためにも1位を掲げると?
樋口会長(武男氏)が言っていましたが、我々は「総合生活産業」です。あらゆるものをやっています。そしてそれぞれの各分野で1位を獲るためには、新たなチャレンジをしていかなくてはいけません。そのことに気が付いてもらいたい。いまのままで満足するなということなんですよ。樋口会長はうまく例えていましたが、日本の高い山は、1位は富士山だけれども、2位の山はどこかわからないと。2番目、3番目では名前も覚えられないんですね。

── お願いの2つ目は「行動第一」でした。これはある意味、大和ハウス工業らしい指針ですね。
そうですね(笑)。アクティブに行動する。とにかく行動することによって、必ず何らかの跳ね返りがしっかりと私たちに返ってきます。行動したフリだけで行動を起こさなければ、何も返ってきません。本気でやってもらわないと困る。これも樋口会長の言葉ですが、「やりつづけようや、最後までやろうや」と。私もそう思います。目指す方向をしっかり決めて、アクティブに、しかも素早く。それをもう一度、行動に落としてもらいたいと思っています。

── そして「海外事業の拡大」です。近年は海外企業のM&Aが注目されました。
ウチの次の成長戦略として、リフォームを新しく始めました。こうした事業も国内にはあります。その一方で、日本は人口が縮小していきます。人口が増えている海外に出ていく必要があります。以前は進出したけどやめて、という時期もありましたが、また新たに出て行って、現在は20カ国ほどになりました。いま海外に出ていくのは、自分たちが提供できるメニューが増えてきたからこその再挑戦という面もあります。人口が増えている国に出る一方で、アメリカやオーストラリアなど、成熟した市場にも出ています。

その心というのが、樋口会長が創業者の石橋信夫から言われたことですが、その国、その地域の人が何で困っているのか。困っていること、必要としているものを事業に置き換えて、お手伝いをしようと。決して儲けから入るなよというのが創業精神として残っているんです。どうやってお役に立つのか、彼らの求めているメニューがウチのメニューのなかには揃ってきています。だからこそお役に立てる機会が増えるわけです。

ベンチャー投資にも注力

── 海外事業は今期2000億円を見込んでいます。
来季は2500億円。今年の2000億円は、為替が半分にでもならないかぎり間違いありません。

── 将来的に海外売上比率をどこまで引き上げるのか、目標はありますか。
樋口会長は2055年の売上高10兆円を想像した時に、5:5か6:4になると。私もそれくらいだと思います。自動車を売るとかぜんぜん違う会社にならないかぎりは、国内でそれ以上のパフォーマンスを出すのは難しい。となると、海外比率は高まってきます。街づくり、モノづくり、そして私たちがイノベーションを進める商品ですね。

── 20カ国では足りませんね。
最初は100カ国を目指す形でしょうね。ロボット事業で「moogle(モーグル)」という床下点検ロボットも持っていますし、人を助ける商品にも工夫して投資もしています。そういう商品も海外に出ていけばいい。

いまベンチャー企業のセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズに投資させてもらっている全自動折り畳み機。こうしたものもいろんな国で活躍するかもしれない。これは個人だけでなく、3K職種とも言われる高齢者施設で、この自動折り畳み機で各部屋に洗濯物を届けられるようになったら、業務の一部を助けることができます。

── AIやIoTといった、新しい技術を持つベンチャー企業に対しても出資を進めています。
シナジーがもちろん考えられますよね。日本は高齢社会になって、建設業に人が足りなくなってきています。重いものを運ぶためにロボット化してしまおうとか、ベンチャー企業さんのアイデアにもご協力いただきたいですし、世の中で生活するうえで助けになるものも必要です。我々がバックアップして、研究がさらに進むのであれば、出資に対しても非常に前向きにやっていきます。

物事をいろんな角度から見ることが重要です。建設業界の場合は、いわゆる専門職に入っていくと、物の見方が、その方向で見るのが当たり前のように思ってしまいます。外から見る人は、まったく違う視点で見ますので、そういう気づきを他の企業から学ぶことができます。私自身、よくこんな考え方ができるなと驚くことも多く、そういうベンチャーさんの存在は大きいです。我々のR&Dもそうならなければいけないのですが。

── そういう意味でも、最後の「人財育成」には、投資も必要ですし、システムの構築が求められますね。
現在の支店長制度や大和ハウス塾、社外の研修といった育成システムはありますし、これは私も評価しています。いまの役員を見ても、大和ハウス塾の出身者が非常に多いです。また、支店長候補生として研修を受けてきた人が支店長になってきています。数字的な成績や技術的な成績だけでなく、研修を受けることで人としてどうかが見えてくるわけです。このシステムは非常にいいと思っています。

しかし、一番問題なのは、人が足りないことです。事業を拡大しようと思えば、まだ足りない。ずっと昔からある大和ハウスのDNAをいかに継承して人としてやっていけるかが大事ですから、安易に人を採っても、難しい。私も中途採用の1人ですが、ある程度イズムを持ってもらわないといけない。

支店経営もそうで、この店に誰を支店長に置くのか、順番を入れ替えてでもこの店の問題を解決できるという人を置かなくてはいけません。人を間違えるとやはりダメです。大野前社長(直竹氏)もよく言われていましたが、思い通りにいった人事は非常に嬉しいですね。

創業精神を繋ぐ

── 大和ハウスの場合は育成に創業精神を重要視していますね。
創業精神から外れたらウチは滅びます。我が社のDNAは、調子のいい時には頭を叩いてくれます。図に乗るなよと。調子の悪い時には励ましてくれます。私たちからすると、そういうバイブルです。「俺が俺が」では、会社はうまくいかない。

樋口会長とはたまに大阪でランチをするのですが、その際に出た話で、「どうして樋口さんは講演で自分のことを語らないんですか」と言われるそうです。樋口会長は「俺は事業を引き継いだだけや。起こしたのは相談役(故・石橋信夫氏)や。起こした人、井戸を掘った人が一番偉い。俺は水を汲んでいるだけや」と。多角事業をしていますから、扇の要はその時にプレイしているCEOでいいと思いますが、一致団結は創業精神のもとに集まるわけですから、これから外れたらうまくいかない。

別に神格化されているわけではありません。『わが社の生き方』(石橋氏が著した入社時に社員に渡される小冊子)に書いてあること、それを解説する『先の先を読め』(文春文庫)や『熱湯経営』(文春新書)に繋がるのですが、それを読めば、そうだなあとか、俺はこう受け取っているとか、必ず出てくるので、それが受け継がれているんですね。

── 人口減少で、住宅・賃貸市場が不安視されていますが。
少子化は避けて通れません。人口は減っていく。では、どういう動態で見るかということになります。私が金沢支店長をしていたころ、人口が減って100万人を切るだろうと。ところが不思議にも、世帯数は増えたんですね。2世代、3世代が一緒に住んでいたのが、子供たちが独立してアパートに住むことで世帯数が増えたわけです。最近は新幹線が通って人口が増えてきたのもありますが、金沢支店は非常にアパートが好調です。東京も世帯数が増えていますから、楽観はしていませんが、私たちがお役に立てることはまだまだあると思います。

一方で、賃貸については、昨年賃貸物件の空き室問題などの報道がありました。しかし、私たちは建ててはいけないところには建てません。というのは家賃を保証するからです。大和リビングというグループ会社が管理、保証会社としてありますが、いまでは50万戸扱って、うち45万戸以上家賃を保証しています。この入居率のアベレージは94~96%。つまり間違ったところには出さない。オーナーさんにも、ここでは建てないほうがいいとはっきり言います。積水ハウスさんも私どももネガティブに書かれましたが、積水ハウスさんでも94%とかですから、空いていません。一部、建てるだけ建てて逃げる業者もあったようですが、我々が選ばれない理由がないんですよ。報道が出て、少し影響はありましたが、受注にならないのはローンが厳しくなったせいですので、もう少ししたら戻ると思います。

── 3月1日には建設・住宅業界初の「EP100」「RE100」(エネルギー効率および再生可能エネルギーに関する国際イニシアティブ)に加盟しました。
海外の投資家、機関投資家も含めて、企業を利益だけでは見なくなっています。ガバナンスやCSRに加えて、エネルギーについても注目されるようになってきました。「EP100」「RE100」は、いずれ私たちがいろんな事業をする上で、プラスになります。特に海外だと選ばれる会社に変わってきます。

また、機材、資材、設備なども日進月歩で進化しています。スマートハウスの概念も、エネルギー効率を考えていた時代から、いまや顔認証が常識でドアが自動的に開き、冷蔵庫に何があるか、「お疲れ様」まで声をかけてくれる(笑)。最初のスマートハウスの概念がどんどん遠のいて、答えがわからなくなっています。そのわからない答えを、私たちの業界も追いかけ出しているんですよ。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

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経営戦記



加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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産業用ドローンで進む自動化・無人化 時間とコストを大幅に短縮するソリューション ブイキューブロボティクス社長  出村 太晋

「人手不足」と言われ、労働人口の急激な減少が危惧される日本。業務の効率化が求められるなか、ドローンを使った新たなソリューションが注目を集めている。AI、IoT、クラウドを活用した産業用ドローンについて話を聞いた。

ドローン市場の変化

ドローンが本格的に市場として認知されるようになったのは、まだ2~3年前のこと。2015年4月に首相官邸の屋上でドローン(この事件での機体は厳密にはラジコンヘリの一種)が見つかったことで、注目を集めることになった。それまで自由に飛ばせたドローンは、飛ばす場所を制限されることになり、規制も強くなっていった。

「SOLAR CHECK」でも使われるドローンを手にする出村氏(右)と吉井氏。

その一方で、規制が強まることで追い風となったのが、産業用ドローンの分野だ。様々な制限が加えられるなか、ドローンを扱う基準を満たしたプレイヤーだけが事業を行うことができるため、ビジネスとして成り立つ土壌が生まれることになった。とはいえ、産業用ドローンはどういった分野で活用できるのか、手探りの状況からスタートしている。

「ほとんどすべての産業がドローンを使ったことがないなかで、ドローンを使うことでどのような効用があるのかわからなかったのです。16年は、まず現場でドローンを飛ばしてみたい、飛ばすことで上からどういうものが見えるのか知りたいというニーズが多い時代。17年前半になると、業務現場でいろいろなものを撮ってみたいというニーズ。17年後半くらいからは、もっと具体的に業務要件を満たせるのか、ドローンで撮影したものがどのように使えるのかと、撮ったあとに解析するところに課題や目的がシフトしていきました」

こう語るのはブイキューブロボティクス社長の出村太晋氏。現在を「産業用ドローン市場が黎明期から普及期へ移行する過渡期」として位置付ける。

「これから伸びていく領域というのは、ドローンの機体ではなく、サービスです。なかでも測量系や検査系の領域が伸びていくと見ています。従来、ラジコンヘリで行われていた空撮や農薬散布などの領域は、ドローンに置き換わってもプロセスは変わらないので大きなイノベーションが起きているわけではありませんが、私どもが注力するのは巡視点検、設備点検、警備監視、災害対策など人が現地に行って何らかの業務をしなければならない領域です。ドローンを活用したソリューションで自動化・無人化をするところにトライしていきたいと思っています」(出村氏)

道路の法面や橋梁の点検は不可欠な作業だが、人が登ったり重機を使ってぶら下がって点検するなど、効率が悪く、コストもかかる作業。安全性の面や若年者労働人口が減るなかで、いかに効率を高めていくのかは将来的に重要な課題となっている。そこにドローンを使うことで、課題解決を目指そうというのがブイキューブロボティクスの取り組みだ。

太陽光パネルを無人で点検

今年2月に発表された太陽光発電施設点検パッケージ「SOLAR CHECK」は、まさに無人化、効率化を進めたサービスになっている。事業開発部サービス企画グループマネージャーの吉井太郎氏は次のように語る。

「太陽光発電所のパネルは何万平米という広大な敷地に建てられていまして、これを人が1つずつチェックしていくのは大変です。そこでドローンを使って撮影していくサービスが取り入れられたのですが、あまり広がりませんでした。というのも、写真を撮ること自体は簡単なのですが、それを1枚1枚、人が見て確認し、それを報告書に直していくところに時間とコストがかかってしまうのです。

AIを活用した画像認識技術で故障個所も特定してくれる。撮影自体は2メガワット規模の発電所でわずか15分ほどだ。

我々のサービスは、まずドローンを使って太陽光パネルを撮影します。太陽光パネルは故障をすると光を電気に変える代わりに熱に変えてしまう。つまり発熱します。それをクラウド上でAIを活用した画像認識・解析機能で自動的に検知・解析し、1枚の発電所の画像のなかに、異常個所をプロットするところまで自動で行います。そのレポートをプリントアウトして報告書まで自動で作成できるサービスになっています」

従来、太陽光パネルは年数回ほどの点検が主流だが、壊れると発電しないために収益性が悪化し、故障のタイミングによっては大きな機会損失を生むことになる。2メガワットの発電所の場合、人手なら通常点検~報告書作成に4日ほどかかるが、このソーラーチェックでは解析は約15分で完了し、報告書の作成までその日のうちにできてしまう。またリアルタイム映像コミュニケーション技術を搭載した全自動運用ドローンシステムを発電所に備え付けておくことで、人が現地に行かずに点検でき、大幅に効率化が進むことになる。

「解析からレポート作成まで全て自動で行うので、点検時間・コストが削減され、その分、点検頻度を増やすことによって機会損失を防ぎ、収益性の向上にも効いてきます。発電所の規模が大きくなればなるほど、自動化のメリットも出てきますので、今後建てられるメガソーラー、超メガソーラーには必要なサービスです」(吉井氏)

ブイキューブロボティクスでは今後、画像認識技術を駆使し、金属構造物や警備監視といった分野にも用途別に進出する。すでに通信技術を活用したドローンの災害対応の実証実験も進めており、「ドローン×最新テクノロジー」で新たなソリューションを生み出していく構えだ。

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【BOSS×WizBiz】異業種交流会とWEBでビジネスマンのマッチングをサポート

諏訪 功 アクセルメディア社長

諏訪 功 アクセルメディア社長
すわ・いさお 1973年7月24日生まれ。東京都出身。1997年UCC上島珈琲株式会社入社。2001年前身となる有限会社フレンドリンク(現株式会社アクセルメディア)創業。異業種交流会を全国規模・日本最大級と呼ばれるまでに展開。2003年よりWEB制作、コンサルティング業務を開始。400件以上の多岐にわたるサイト構築に携わる。ミッションは「ネットとリアルで社会のアクセルを創る」
〇フレンドリンク異業種交流会 https://friendlink.jp/

WEBが浸透してきたタイミングに起業

── アクセルメディアではどのような事業をされているのでしょうか。
大きく2つありまして、1つはいわゆるWEBサイトの制作と開発、そしてもう1つが「フレンドリンク異業種交流会」を2001年から全国で展開しています。昨年1年間で1023回の交流会を開催しまして、ビジネスマン同士のマッチングのプラットフォームをやっている感じですね。もちろん異業種交流会ではリアルの出会いの場ですが、同時に「オープンリンク」というWEB上のマッチングの場という、コミュニケーションのプラットフォームを提供しています。

── 事業的には、WEB制作・開発がベースにある形でしょうか。
いえ、起業の経緯としては、後者の異業種交流会を先に始めています。当社は最初、有限会社フレンドリンクという名前でスタートしていまして、そちらの事業を志して立ち上げました。しかしながら、異業種交流会は、ビジネスとして高い収益の上がるモデルではないので、もう1本の柱が必要だと、WEBの仕事を始めました。社名もアクセルメディアに変えまして、対外的にはWEB開発の会社として事業を行っています。

── そもそもなぜ異業種交流会を始めようと思ったのでしょうか。プロフィールを見るとUCC上島珈琲に入社後に独立ということで、起業家としてはめずらしい経歴ですね。
独立されている方はいるのですが、喫茶店を始めたり、豆の販売をしたりと、前職にちなんだ仕事をしている方が多いですね。畑違いで、まったく違う仕事で起業する方は少ないですね。私自身は、就職する以前に、いつか起業しようという思いがあってUCCに入りました。本当は30歳になったら独立するつもりでしたが、前倒しで27歳で起業しました。自分で何かをやるということは決めていたんです。

起業以前から異業種交流会は始めていまして、最初は会があって、登録している人が集まるスタイルでした。でも入会するとなると、気軽ではないし、会のなかで会うメンバーも決まってきます。ちょうど2000年から01年はWEBも浸透してきたタイミングでしたので、インターネットを使って広く告知をし、縛りのない関係性で出会うことが、新しい出会いを作る場だと考えていました。そういうものが必要だと思って起業した形です。

ビジネスマンのための交流会

── 異業種交流会は、経営者の交流会でなく、一般のビジネスマンのための会だというところが面白いですね。
経営者の会は世の中にたくさんあります。でも、経営者になりたてだったり、これから独立したい人だったり、会社に勤めているんだけど将来のために視野を広げたい人のための会が、当時はまったくなかったんです。もうスタートして18年になりますが、基本的には集まった方が名刺交換をするのが目的です。セミナー形式だったり、趣味のゴルフ交流会だったり、女性限定でスイーツ交流会など、切り口を変えた会もありますが、基本は変わっていませんね。

── 会員登録をしないわけですから、都度、参加者を募るわけですか。
そうですね。WEBマーケティングがすべてのような感じです。常に新しい人にマーケティングして参加してもらう。リピーターの方もいますが、そこは流動的です。いまは参加者の6~7割が会社勤めの方で、3割が経営者やフリーランスです。最近では異業種交流会が認知されてきたのか、研修の一環で会社から送り込まれたり、営業活動として参加される方も多くなりました。参加者の統計を見ると、人口のボリュームゾーンに沿っている形で、団塊ジュニア世代がずっと一番多いですね。

交流会自体は、1年間で1000回以上開催しているところは、知る限りではないと思います。わかりやすく言えばフランチャイズ制のようになっています。フレンドリンクの名のもとに、運営担当者が40名くらいいまして、その方々がそれぞれ企画をして、様々な会を企画しています。もちろん開催承認はすべてこちらでやっていますが、1日に3カ所くらい同時並行で開かれることも多く、1回の参加者は平均で10~15名ほどです。小ぢんまりした会をあちこちでやっているイメージですね。延べ参加人数で言えば、18年間で約7万人になっています。

── 1回の参加者は多くないんですね。
結局、100名集まっても、1時間半ほどの会では、10人くらいと話をするのが限界なんですよね。これくらいの規模感が、一番話しやすくて、落ち着いていて、密度もほどよい感じです。いつの間にか、これくらいの規模に分散してきました。

それに10人と会ったからといって、その10人と繋がることはほぼあり得ないです。よくて1人です。確率論で言えばその程度ですが、本当に必要な人同士であれば、磁石のように繋がっていくものです。でも参加しなければ、その1人とも出会えませんから、どんどん参加して、出会いを見つけてほしいですね。

── 今後はどのように事業を展開していきますか。
フレンドリンクについては、まだこれからの人たちを応援したい、人の役に立つ仕組みをつくりたいと思っています。アクセルメディアについても、ウチが自社のポータルサイトで異業種交流会を広げてきたように、WEBメディアの知識や技術を提供して、これからの人たちを応援したいと思っています。自社メディアのニーズはまだまだありますから、自分たちのノウハウを放出しつつ、社会に役立つ形で広げていきたいですね。

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