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「バケーションレンタル」という民泊スタイルで地方を活性化|月刊BOSSxWizBiz

木村奈津子 ホームアウェイ日本支社長
きむら・なつこ 慶応義塾大学、ワシントン州立大学交換留学奨学生。2005年アマゾン・ジャパン音楽&DVDプロダクト・マネージャー、07年エクスペディア・ジャパン シニア・マーケティング・マネージャーエクスペディア北アジア/ジャパン マーケティング・ディレクター。16年10月ホームアウェイ日本支社長就任

民泊というと大都市圏のマンションやアパートの1室を貸し出すというイメージが強い。そんななかで一戸建てをまるごと借りる「バケーションレンタル」という新しい民泊のスタイルで日本に上陸してきたホームアウェイ。その日本支社長・木村奈津子氏に、日本での戦略、これからの日本市場の可能性について聞いた。

エアビーとの違いとは

── 「ホームアウェイ」とはどのような会社でしょうか。
日本に支社ができたのが2016年なので、まだまだ認知されていませんが、グローバルでは大きな会社です。取扱高は約1兆6000億円。23言語・50サイトを運営し、月間のユニークユーザーが4000万人になります。日本ではこれからですが、世界各地の登録件数を合わせるとおよそ200万件で、欧米を中心としているのが特徴です。

── 日本では「民泊」という言葉が使われていますが、ホームアウェイの「バケーションレンタル」との違いはどういったことでしょうか。
大きな特徴は貸し切り型の家主不在に注力しているということです。物件には一般的な住宅の一軒家もありますし、ロッヂやビラといった別荘、また古民家もあります。

「民泊」というとエアービーアンドビー(以下=エアビー)を思い浮かべる方が多いですが、米国ではバケーションレンタルの歴史は古く、1950年ぐらいからあります。欧米の休暇は1~2カ月と長期なので、自分の別荘だけでは飽きてしまう。そこで自分の別荘を貸し出し、他の方の別荘を借りるという別荘を相互で貸し出す文化が生まれました。

こうした歴史的な背景もあって、米国ではバケーションレンタルの利用者も多く、旅行者のおよそ3割がバケーションレンタルを使っていると答えていて、宿泊市場20%ほどがこの市場だといわれています。

── エアビーとの違いはどういったところでしょうか。
エアビーは「暮らすように旅をしよう」ということをコンセプトに10~20代の若者の1~2人旅。都市部の物件が多い。

一方、当社は「休日にピッタリな家を探そう!」をコンセプトに、年齢層も30~50代の家族やグループでの利用が多くなっています。都市部よりは地方のリゾートが中心というのも大きな違いです。

さらに細かく見ると弊社は35歳以上の方が7割以上、エアビーは35歳以下の方が6割以上とユーザー層がはっきりと分かれています。宿泊人数も、当社は家族やグループがターゲットなので75%が3人以上、7人以上も20%以上になります。これに対して、エアビーは1人、2人の旅が中心です。宿泊日数と単価では、当社は6日間・平均1032ドル、エアビーは4日間・584ドルになっています。

リピーターの多い日本市場

── 日本政府は将来の目標として2020年に4000万人、30年に6000万人という目標を打ち出していますが、日本市場をどう見ていますか。
私たちは訪日外国人観光客の目標数だけでなく、リピーター数にも注目しています。20年の訪日外国人のリピーター数の目標は2400万人、地方部での延べ宿泊数7000万人泊とされています。実際、16年実績で見るとおよそ60%がリピーターなんですね。特にアジア圏の方に多く、訪日経験のある香港の方のおよそ10%が10回以上も来ているという統計があるほどです。

初めて訪日される方はやはり東京・箱根・富士山・名古屋・京都・大阪のゴールデンルートを回りホテルでの宿泊が中心になると思います。しかし、リピートされる方は弊社のバケーションレンタルによる、プライベートな空間を家族や友人で過ごしたいという需要も増え、こうした部分にフォーカスしています。

── 民泊、とくにインバウンドについては空き家対策としても期待されています。
日本全国には800万戸の空き家があるといわれ、そういう意味では、物件の供給はあると思います。しかし、バケーションレンタルとして使うには、リノベーションが必要な物件もあります。その費用を融資に頼るのであれば投資回収ができるか、しっかりとしたシミュレーションが必要です。これから地方に期待ができると言っても、需要を喚起するところから、いっしょにやっていかなくてはならないので時間がかかるかなと思っています。

── そんななかで瀬戸内をブランド化しようと力を入れていますね。
瀬戸内については、瀬戸内を囲む7県と市町村の自治体、民間企業が官民をあげて「せとうちDMO」を創設して海外に向けてブランディングをしていきたいと活動されています。その第1弾として愛媛県内子町で、古民家の再生をしながら街の魅力やアクティビティの紹介や多言語対応などのプラットフォームづくりが進められています。もちろん、こうした取り組みは今後広げられていくわけですが、当社の役割としては、瀬戸内という地域を知ってもらう需要喚起と送客というマーケティング活動を行っています。

── 楽天ライフルステイ(以下=楽天ライフル)をはじめとした事業提携など積極的です。
楽天ライフルとの具体的な事業は、民泊新法施行後になりますが、提携の狙いは当社だけでは日本全国で物件を集めるのは不可能です。そこでライフルの不動産ネットワーク、楽天の国内のコネクション、そして当社の海外からの集客力といったそれぞれの強みを生かした総合的なサービスの展開ができればと思っています。もちろん、事業提携はほかのところとも行っていて、それぞれの提携先の強みと弊社の強みを合わせていきたいと思っています。

とはいえ、ただ物件数を増やせばよいというわけではなく、家族やグループに適した物件、4人以上が使用できる物件を中心に2020年までに登録物件を10万件ほどにしたいと思っています。

インバウンドと地方

── 欧米の方は休暇をどのように過ごしているのでしょうか。
最近は個人旅行が増えて、日本人の旅行のかたちも変わってきました。しかし、日本人の旅行というと1日の予定をしっかり組んで、動き回るというのも多い。

「町屋別荘こころ」の座敷。

一方、欧米人はスケジュールを組んで何かするというよりは、素敵な海があればその海を見ながら、みんなでぼーっとしていたり団欒して過ごすような、必ずしもアクティビティーが必要というわけではありません。地方に住んでる方たちは、「このへんは何もなくて」とおっしゃるんですが、自然があれば都会から来た人たちにとっては楽しいし、それを散策するだけでも満足できる楽しい旅になるんですね。それこそみんなでスーパーで買い物して何時間もかけて料理して食べたり、近所をぶらぶらと歩いたり、ジョギングをしたり、それだけでもいいのです。

日本にはバケーションレンタル、別荘文化というものがないため、そうした感覚がわからないということはあるかもしれません。こうした点を地元の方に伝えていくことは私たちがお手伝いできる部分で、今後の課題になります。

── インバウンドで期待できる地方・地域の条件はありますか。
交通の便というのは、マストだと思います。具体的には、主要な空港から1時間以内の交通網が整備され、外国人にもわかりやすく言語対応ができているということです。

そのほかは文化的な資産や、自然的な資産があるか。都市部は美術館やショッピングも含めアクティビティーが中心にあるので、それを求めて来ると思います。しかし、地方に行くという人はショッピングや美術館は目的ではないので、その土地に根付いた地元の文化であったり、自然を求めるという方が多くなります。アジア、欧米とそれぞれの国籍によって違いますが、欧米人は求めるものが自然や文化という傾向が非常に強いですね。

また、受け入れ側の方のプラットフォームをきちんと作っておくこともポイントです。たとえば、素晴らしい文化資産があって、バケーションレンタル用の物件がたくさんあって、自治体や民間企業が古民家を再生しますと言っても、重要なのは受け入れる地元の方たちの気持ちです。その地域で生まれ育ち、地域の信頼を得ている人が動かないと、なかなかうまくいかないと思います。

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“家族化経営”で離職率低下 三代目社長の人材育成法 鈴木拓将 矢場とん社長|月刊BOSSxWizBiz

鈴木拓将 矢場とん社長
すずき・たくまさ 1973年生まれ。名古屋市出身。96年中部大学経営情報学部卒業後、ヒルトン名古屋入社。98年矢場とん入社。2014年社長(三代目)に就任。

「働き方改革」が叫ばれるようになって久しいが、その端緒は長時間労働や残業代未払いなどに代表されるブラック企業問題だった。なかでも外食産業はその傾向が顕著と言われ、大卒3年以内の離職率は50%を超える。そんななか、離職率がわずか9%という数字を誇るのが、名古屋名物みそかつで店舗展開する矢場とんだ。国内22店舗、海外2店舗の中堅だが、この離職率の低さはどう実現できたのか、矢場とん三代目社長の鈴木拓将氏に話を聞いた。

悩ましい労働環境

── 外食産業はブラック企業のイメージが定着してしまっています。一般論として、外食の経営をどのように見ていますか。
外食産業は、大きく分けると3つのパターンがあります。1つは、東京などで多いですが、客単価で3万円くらいとるような専門の職人さんが素材にこだわる専門店のような店。もう1つが大手として上場するような大きなチェーン店。そして私どものような中小の店です。

この中小の店は、複数店舗構えているものの、中途半端な規模で、社会保険や厚生年金に入っていなかったりする会社が多すぎる。従業員の残業代をつけていないのに、オーナーはベンツに乗っていたりと、こういう企業が多いのが飲食サービスのよくないところだなと思います。

矢場とんは1947年創業で70年になりますが、小規模ながらもともと社会保険等には入っていましたので、先代からきちんとやってきたんだなと思います。

── 社会保険や残業代が付かない企業が多いことは驚きですね。
働き方改革で労働時間や未払い残業が注目されましたが、業界のいろんな人と話をしても、残業代が付かない会社は多い印象がありますね。残業代をしっかり払うのは当然としても、8時間労働を厳守するのは、どこも簡単ではないですね。

── 人手不足もあります。半面、残業が減ることで収入が減るという人も多いのではないですか。
そうなんです。私が考えなくてはいけないのは、8時間労働で給料を30万円与えるにはどうしたらよいのか、ということです。これを成り立たせて、かつ残業代もきちんとつけるのは、なかなか難しい。

── やはり飲食店の給料は一般的に安いですか。
そう思います。飲食の場合は、例えば食事も基本的についてきますので、出費の面で1カ月に使うお金が少ないんです。食事代に1000円とか使うと思いますが、その分だけで月に2万円は変わります。まして手に職が付いて独立がしやすい。こうしたところで、慣例的に飲食の賃金は低かった。これからは飲食のサラリーマンも増えてくると思いますので、変えていかなくてはいけないと思います。

── 収入が減るというのは、働く側にとっても考えものですね。
これは私の失敗例として聞いてください。

最近、私が救えなかった人が1人いるんです。2年目の社員で40代前半、900万円の借金ができた。昔だったら、こういう人を救うことができたんです。週に1日休んで朝から晩まで働けば、手取りで30万円以上は絶対に稼げます。実家で独身の人だったので、家賃もなく、月に15万円ずつ払って5年で900万円くらいなら返せる。会社で貸してあげて、それで終わりという解決方法だったのですが、その人は1年くらい働いて、労基に駆け込んだ。退職したので、救えなかった事実が残ったわけです。ウチの親父やおじいさんは、そうして救ってきたのに、私は救えない。このご時世では、やるべきではないのかもしれない。

飲食店はアルバイトと社員の差がわからない状況になりつつあります。正社員でも時間を数えている。そこにこだわると職人も育たなくなるので、難しい問題です。

日報を読むのが仕事

── とはいえ、矢場とんは離職率が他社に比べて非常に低い。どういった取り組みをしているのですか。
飲食店に来る子は、自分が何をしていいのかわからない、いじめられっ子、自分の意見を持っていない子が多いんです。調理師学校を見てもそういう傾向があるのですが、高校を途中でやめたり、高校に行きたくないから調理師学校に行って通信で高校の課程をとるような、ふつうに進学できなかった人が多い。

表現は難しいのですが、そういう子は友達が少ない。ですから、職場で同じような環境になれば、すぐに辞めてしまいます。光ったことがない子たちなので、光らせてあげることができれば、歯を食いしばってがんばる。キャベツを切るのがうまいとか、毎日朝いちばんに来るとか、そういうことでもいいので、自信を持たせてあげることで、だんだん光ってくる。

── 社員1人ひとりを個人として見ていく家族的な経営は、店舗数が増えるにつれ、難しくなっていきませんか。
自分が社長だから、それをやるのではなく、代々親たちがそうやってきたから自分もやろうと思っているだけです。先ほど失敗例の話をしましたけど、自分自身の力がないからその人を救ってあげることができなかった。これは店舗が多いからとか、大きくなってきたからという言葉で片付けたくない。私自身が成長すれば、後に続いてくれる社員が育ってくる。そうやって下につなげていけば、救える人も増えていきます。

── 全社員に日報をつけさせているそうですね。
日報と言っても、例えば朝から雨で客足が伸びませんでした、なんてことを書く必要はありません。私は売り上げを追っているわけではない。それよりも、自分自身が悩んでいること、後輩に教えているんだけど伝わらないとか、お客様からのクレームについて取り組みに悩んでいるとか、一生懸命取り組んでいることについて書いてほしい。書いてくれればいくらでも手を差し伸べることができます。この日報を読むことが、社長の一番の仕事だと思っています。

日報を読んでいると、がんばっていたやつがガソリン切れみたいに止まっていることもわかります。そんな時は、昔の日報を読ませたりすることで、なぜいま調子が下がっているのか、どうすればよくなるのかわかったりする。

また、毎月研修会をやっているんですが、私はチーフ、サブチーフ、サブチーフ候補とこの3つの肩書の研修をやっています。そこでは「最近どう?」からしか始めない。何もないなら私は「帰る」と。1カ月もあれば、店舗の問題点はいっぱいあるんです。下の子たちが苦しんでいることを持ってこれないなら、どこを見て働いているのか。

── 社長に直訴できるチャンス。
そう! 会社批判になるとか気を遣っているうちは役職を上にあげられない。会社がやっていることはすべて正しいとは限らない。「お前らが会社をよくしていくって、そういうことだろう」と。

── 家族同伴の3者面談までやっているとか。
これは家族の理解が必要だということ。自分たちだけじゃなくて、家族の支えがあるからできる。もともと母親がやっていたのですが、ちゃんと奥さんとかとの距離感を縮めていれば、家族の背中を押してくれたり、応援してくれる人たちがいて、ちゃんと働ける。僕自身、スタッフみんなに言うのは、会社のために働いているスタッフなんて1人もいないぞと。会社のために仕事をする必要はないし、家族を幸せにするために働いているはずで、その手法として会社をよくしていこうというのがあるだけです。

── 会社ではなく、社員の人生にやりがいを与えるわけですね。
もともと、ウチに来たら、仕事を通して立派になろう、人として成長しようというのが大事なことです。親としても立派になれるようにとか、いろんなことを学んで経験しなくてはならない。それでカンボジアの学校を作ろうと賄いを食べると100円募金する形にして、毎月学校運営費用に充てています。08年に矢場とんスクールを開校して、2年に1度、カンボジアまで視察に行き、現地の人の生きる強さや幸せについて考えるきっかけを作っています。

たぶん5年以上働いた人の辞める理由は「これ以上、成長は見込めない」です。日々成長できていることを実感できれば、辞めようという気持ちにはならない。まあ、食材はいっぱいあるので、食っていくことはできるんで(笑)。

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経営者インタビュー

ハンバーガーという商品のみならず、サービスや雰囲気など総合力で勝負

紫関 修 ファーストキッチン社長

紫関 修 ファーストキッチン社長(兼ウェンディーズ・ジャパン社長)
しせき・おさむ 千葉県出身。1961年7月29日生まれ。84年青山学院大学法学部私法学科卒。同年東急ホテルチェーンに入社。94年ボストン大学経営学修士(MBA)取得。同年さくら綜合研究所入社(現・日本綜合研究所)、97年日本マクドナルド入社、2005年ゴルフパートナーに入社し、取締役副社長に就任。10年ゼビオ執行役員(兼務)、11年ヴィクトリア取締役就任(同)、12年ユニマットホールディング執行役員、同年フレッシュネス代表取締役副社長、14年同社社長に就任。16年9月ファーストキッチン、ウェンディーズ・ジャパンの代表取締役社長に。

ダブルネームで価値創造

── ファーストキッチンとウェンディーズのコラボ店として、2015年に「ファーストキッチン・ウェンディーズ」第1号店が六本木(東京・港区)に開店し、目下、このコラボ店は26店(17年10月中旬時点)まできていますが、手応えはどうですか。
チェーン店として生き残っていくためには、ある程度の規模がないと戦っていけません。その中で、いかに独自の“色”を残していくかが重要だと思うんです。

ファーストキッチン・ウェンディーズは、私にとっては与えられたフォーマット(紫関氏がファーストキッチン、ウェンディーズ・ジャパンの両社の社長に就いたのは16年9月)ですが、要はダブルネームでいきますと。ファーストキッチンとウェンディーズを融合させようとは思っていないわけですし、だからダブルネームのコラボ店でやっているわけでして。

ただ、未来永劫ダブルネームでいかないといけないとなると、ブランディングは非常に難しい。ウェンディーズとファーストキッチン、それぞれに歴史がありますから、お互いに独立してやれればいいですけど、独立路線では難しいことも、お互いにわかっていますから。

そして、両社ともにいろいろなお客様がいて、ウェンディーズにはグローバルな展開があって、その中に日本もあってという中でコラボしていかなくてはいけない。そこをどういう形にしていくのかは簡単ではないですね。

── ファーストキッチン、ウェンディーズの両社をぶら下げる、持ち株会社を作るのはあまり現実的ではないですか。
それをしたところで一緒です。つまり、会社がどういう形態かということより、我々はB2Cのビジネスをしていますので、肝心なのはお客様からどう見えるかで、そこに尽きるわけですから。

具体的には、ダブルネームのコラボ店舗をお客様にどう評価していただけるかです。そこを我々がしっかりと作り上げていかなければいけません。

── 見えてきた課題は何でしょうか。
ウェンディーズで単価が600円とか700円のハンバーガーを売っているじゃないですか。では、ファーストキッチンでまったく同じスペックの商品を売ったとしましょう。それでウェンディーズと同じように伸び率が期待できるかといえば伸びない。そこは明確なんです。

ウェンディーズもファーストキッチンも、どちらかがエゴを張って、「オレたちのブランドネームを全面に出してやろう」と思った瞬間に、たぶんうまくいかないんです。このコラボ店を、どうやってお客様に親しんでもらうかがものすごく重要で、これから10年経った時、「ああ、ファーストキッチン・ウェンディーズね」と、お客様からすぐに言われるようなブランドにすることが大事だと思います。

ウェンディーズもファーストキッチンも40年からの歴史がある一方で、ファーストキッチン・ウェンディーズは誕生してから、まだ日が浅いわけですから、コラボ店は我々が作り込んでいかないと。40年の歴史があったからと、そこに引きずられたりすると見誤ると思います。新しいブランドを、お客様の嗜好に合わせて作っていくことが我々に望まれていることですから。

他社ができないことをやる

── 総じて言えば、ファーストキッチンはメニューが豊富でカフェタイムに強く、女性客が7割。ウェンディーズは、男性客が6割でランチ、ディナータイムに強く、バーガーファンが多くて平均客単価も高い、という傾向があるようですが。
表面上はそうですね。これからは、ファーストキッチン・ウェンディーズを使っていただける機会をどう創出していくかです。いまは、どちらかといえばファーストキッチンをご愛顧いただいていたお客様がそのままファーストキッチンを使って、ウェンディーズのお客様もウェンディーズとして使ってという感じです。つまり、ワンストップで両方使えていいねみたいな。そこからさらに発展、進化させていくのはこれからです。

── 日本マクドナルドやモスフードサービスといった、ハンバーガー業界の上位企業とは、明らかな差異化を打ち出していくと。
他社ではできないことをやっていくというのが差別化。これはほかの同業他社もそうだと思いますが、お客様が「とりあえず、マクドナルドに行けばいいよね」となっちゃうと勝てないし、もっと言えば、(マクドナルドのように)3000店舗を擁しているところができることを我々がやっても勝てない。

逆に言えば、我々は3000店舗のチェーンが諦めることをやらないといけないわけです。それと、お客様が食べてみたいとかこの店を使ってみたいというニーズの両方が合致するようなものを、もっと突き詰めていかないといけない。ですから、たかだかちょっと美味しいハンバーガーを作っただけではダメなので、そこが一番難しいですね。

── 付加価値商品で勝負するとなると、シェイクシャックなどのグルメバーガーを展開しているところのように、商品単価が1000円か、それ以上のハンバーガーも多くなってきますが、そのあたりの戦い方はどう考えますか。
我々が提供しているものは食ですから、プロダクトと言いがちですけど、厳密にはプロダクトではないんです。単純にモノとお金を引き換えるだけであれば、自動販売機のほうがよっぽど効率的で楽ですから。

「ファーストキッチン・ウェンディーズ」のブランディング強化に挑む紫関修氏。

1つの例を挙げると、私がゴルフパートナーに在籍していた時に言っていたことですが、たとえばお客様がゴルフクラブを買いに行くじゃないですか。でも、目的はゴルフクラブを買いにいくことではないんです。だって、買ってそのクラブを使うのが目的なわけですから。

つまり、ゴルフクラブで満足感を得るのは、買った時ではなくて使った時。でも、販売側の目的はといえば、買っていただけるかどうかなので、そこに全力を注ぎこむわけです。ですから買ってくれたことで満足する。そこにギャップがあって、お客様の満足度を得るためには、またお越しいただけた時にそのお客様の顔を覚えていて、「この前のクラブ、いかがでしたか?」と一言言えば、割引をしなくてもゴルフクラブは売れるんです。

一方、我々のいまのビジネスは、買っていただけた後、満足してもらえたかどうかはすぐにわかります。「いらっしゃいませ」から「ありがとうございました」まで、店内空間を含めた満足感をお客様に与えることに我々の存在意義があるので、商品であるプロダクトは、その一部に過ぎません。

そうなると、商品以外に接客サービスだったり、店内の居心地だったり空調だったり、あるいはBGMの音楽だったり、総合的にお客様の満足度を高めていくことが我々の価値創造になるのです。

期待値の基準を変える

── そのあたりは、最初に就職された東急ホテルチェーンでの、いわば“おもてなし”のサービス精神が活きてくるわけですね。
そうです。ホテルでは、コーヒーが1杯1000円でも売れるというのはそこじゃないですか。もちろん、いいコーヒー豆は使っているでしょうけど、最高峰、最高級のコーヒー豆ではなかったとしても、ホテルのゆったりとした優雅な雰囲気、あるいは素敵な音楽が流れ、丁寧で気持ちのいいサービスがあって、そのうえでの1000円のコーヒーですよね。それと同じだと思うんです。

写真上/産学共同で「エイジングシート」を使用した熟成肉の新商品を発表(左端が紫関氏)。 写真下/「発酵熟成肉 黒毛和牛バーガー」は3種類を発売。

ファストフードであっても商品はもちろん、総合的ないいサービスは諦めてはいけなくて、店舗の作りとか椅子、空間の居心地なども含めて、提供価値をどこまで高めていけるかが勝負です。そこがファーストキッチン・ウェンディーズの目指すところでもあります。

もちろん、商品も差別化要因ではありますけど、他社のお店でも経験できるものではしょうがない。ほかでは味わえない、満足感のある商品、たとえば「発酵熟成肉 黒毛和牛バーガー」(17年10月26日から数量限定で発売)もそうでしたが、「熟成肉って、レストランに行かないとなかなか食べられないけど話題になっているから、どんなものか一度、食べてみたいよね」という方のために出したものです。

その1000円のハンバーガーが高いか安いかですが、コストコントロールをしなければ、1500円ぐらいの値付けでないと採算には合わないという商品を1000円で出しますと、「グルメバーガーと並ぶぐらいの美味しさだけど、これは安いよね」と言われたら、我々の勝ち。そうではなく、お客様にマクドナルドさんと比較されているうちは我々の負けなんです。

お客様の満足度って、要は期待値じゃないですか。お客様がマクドナルドさんと同じ期待値を持たれて我々のお店に来られると、「ああ、高いね」という話になってしまう。でも、違う期待値をもって来られたら、違う満足度になると思うんです。ある意味、お客様の期待値の基準を変えていくことが我々の仕事だと考えていますから。

その、基準を変えるという仕事が、プロダクトだけではなくて、さきほど言いましたように店舗のイメージだったり雰囲気だったり接客サービスであったりするわけです。総合的にそこを作り込んでこそ、本当のブランドだといえるでしょう。そういう勝負でどれだけ成功できるかという1例が1000円バーガーなわけで、「お、こんなの作って美味そうだから食べてみようかな」と思っていただけるようにする。

── 将来的な店舗展開や、ダブルネームのファーストキッチン・ウェンディーズはどのくらいまで増やしていく構想がありますか。
会長(=ファーストキッチン、ウェンディーズ・ジャパン両社の会長を務めるアーネスト・M・比嘉氏)は500店舗が目標と言っていますけど、あながち笑い話ではなくて、500店舗にするくらいの意気込みがなくて外食ビジネスをやっていてはダメだと思うんです。

特にチェーン店はそうです。中途半端が一番ダメですから。フランチャイズ店と直営店のバランスは、私は別にこだわりはなくていいと思うんですが、いま130店舗ぐらいですから、これを早く200店舗にするというのが、まず当面の目標になるでしょう。

あとは平均月商で言うと、最近、1店舗あたりの売り上げをデータベースで見ていたら、ダブルネームのファーストキッチン・ウェンディーズは、いいロケーションに展開している(六本木や赤坂見附、新宿南口、日比谷シャンテ前など)からでしょうけど結構、数字がいいんですよ。そういう店を1つでも多く作っていくことが大事ですね。

小さなお店をたくさん作っていっても、少子高齢社会の日本では、これからはたぶん、難しくなっていくと思います。もう1点、我々のお店の厨房はものすごくコンパクトな作りになっていますが、いままではこれがある意味、弱みでした。

でもいまは強みに変わってきている。人手不足などでマンパワーが総じて充足していない外食業界の中で、当社のような効率的な厨房は、これからもっとプラスに働いていくと思います。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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経営戦記



加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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世界ではアップルと伍すファーウェイ
初のAIチップ搭載端末も日本で発売へ ファーウェイ・ジャパン デバイス・プレジデント 呉 波

日本ではiPhone偏重だが、世界市場で見ると中国の華為技術(ファーウェイ)は米国アップル社と伍す存在。また、右肩上がりのSIMフリースマホ市場に限定すれば、日本で首位に立つのがファーウェイである。

商品投入量は他社を圧倒

いまではすっかり市民権を得た、格安スマホやSIMフリースマホ、あるいはMVNO(仮想移動体通信事業者。通信キャリアから回線を借り受ける形でサービスを提供)。通信キャリアとの契約に比べ、月々のランニングコストが圧倒的に抑えられるため、いまもこれらの市場は右肩上がりだ。同時に、スピードの速い世界だけに優勝劣敗やライバル間の攻防も激しい。

この市場が盛り上がったのは、まだ4年前の2013年秋のこと。当時、iPhoneにSIMフリー端末が登場したのを皮切りに、グーグル陣営もNexusという端末で応戦。さらに、翌14年春、従来のIIJやNTTコミュニケーションズといったMVNOにイオン、さらにその後、楽天をはじめとした数多くの企業が参入したことで、一気に市場が拡大した。

一方、端末を供給するメーカーは当初、格安スマホやSIMフリースマホのジャンルで日本市場に先鞭をつけ、しばらくシェアトップを走ったのは、台湾のエイスースが出したZenfoneだった。それから3年余り、SIMフリースマホの17年1月から8月までのシェアを見ると、中国の華為技術日本(以下ファーウェイ・ジャパン)がトップで35.6%、次いでエイスースが27.95%(BCN調べ)と、ファーウェイが差を広げて首位を守っている。

日本と韓国市場を統括する呉波さん。

では、この逆転劇はなぜ、起きたのか。3、4年前の勃興期と違い、SIMフリースマホの端末価格帯は、下はいまでも1万円台や2万円台の商品もあるが、上を見ると8万円台から9万円台のものもあり、一言で格安スマホとは括れない。その中でファーウェイ陣営は、ミッドレンジの、販売数量が稼げる3万円台のラインナップを豊富に揃える一方、フラッグシップ的な位置づけの、高価格帯の品揃えも増やしている。ミッドレンジの商品で販売数を積み上げ、ハイエンド機でブランド力も上げていくという両面作戦の商品投入量は他社を圧倒している。

14年末に登場したMate 7は6インチの大画面に大容量バッテリー、当時はまだ珍しかった指紋認証機能を搭載、それでいて価格は比較的抑えられ、同機もファーウェイの存在感を知らしめた端末だ。ファーウェイ・ジャパンでデバイス・プレジデントを務める呉波さんはこう語る。

「我々は、14年6月にG6という端末でSIMフリー市場に参入し、中価格帯から高価格帯で品揃えしてきました。ですので、ローエンドのロースペック、ロープライスのSIMフリースマホとは一線を画していますし、VOCというのですが、ヴォイス・オブ・カスターを通したレポートで、どんな評価や問題があるかを常に見るようにし、その声を商品に反映させています」

ハイエンドのMate 10

いまでは、ファーウェイのラインナップは比較的若年層向けとなるhonorやnova、さらに中核を担うPシリーズ、ビジネス用途を主眼とした大画面でハイエンドのMateシリーズなど多彩なラインナップを擁し、日本市場でのプレゼンスは年々上がっている。

また、価格.comのスマホ人気ランキングを見ると、20位までにファーウェイの端末が7機ランクインし、日本では今年6月に投入したP10 liteが1位を堅持していた(17年10月下旬時点)。最近も、honorシリーズの最新モデル、honor 9が10月12日に発売され、価格は税抜きで5万4800円、税込みなら6万円弱という価格だが、ダブルレンズカメラを搭載しており、ファーウェイの自信作の1つになっている。

さらに、17年10月16日にドイツで発表された前述のハイエンド端末の最新機種、Mate 10シリーズは、世界で初めてAIチップセットを搭載した商品として話題となり、iPhoneの最上位端末であるiPhone Xと真っ向勝負のスマホとも喧伝されている。再び呉波さんが語る。

「AIは、何かすごく難しいイメージを持たれがちですが、日常生活の利便性が大幅に改善できる、親しみやすい身近なものなんです。その一例が、物体認識機能。被写体がテキストか、あるいは人か犬か、はたまた料理か花かなどを端末が瞬時に判別し、それぞれに合った撮影モードを設定してくれるのです。こうしたことができるのは、AIのチップセットが1億枚にも及ぶ画像をすべて読み込み、学習しているから。結果、機能が高まっていろいろなものを判別できるようになっています」

ドイツでは、Mate 10 ProとMate 10の2機種が発表され、うち上位モデルの前者は、一次販売国に日本も入った。16年12月、前作となるMate 9が日本で発売された際、海外での販売価格よりも割安なプライス設定だったこともあり、Mate 9は商業的にも成功を収めた。Mate 10 Proは日本でも、17年11月28日の発表会でお披露目されるが、その際はサプライズ価格を期待したい。

「日本市場での目標は、持続的に生き残っていくことですし、消費者の皆さんに優しい価格になるよう、Mate 10 Proも最大限の努力をしていきます。もう1点、当社のフラッグシップモデルで使用しているスマホの部品は、日本製のスマホ以上に日本の部品メーカーのパーツを採用していますし、こうした協業はさらに拡大していくつもりです」(同)

日本でSIMフリー市場を牽引するファーウェイ・ジャパンは、これからも目が離せない存在だ。

(本誌編集委員・河野圭祐)

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月刊BOSS×WizBizトップインタビュー

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【BOSS×WizBiz】携帯ショップの業績改善を成功させたノウハウを活かし、ビジネス展開 棚村 健司 ブレーブアンドカンパニー 代表/プロデューサー

棚村 健司 ブレーブアンドカンパニー 代表/プロデューサー

棚村健司 ブレーブアンドカンパニー 代表/プロデューサー
たなむら・けんじ 1967年生まれ。愛知県出身。愛知学院大学卒業後、廣告社、名鉄エージェンシーを経て2002年にイベントプロモーション系の広告企画会社、ブレーブアンドカンパニーを設立。携帯ショップの再生事業から、出版、セミナー、研修講師などに活動を広げる。この11月に『机上論のおもてなし不要論』を出版。

名古屋から関東進出

── 会社設立の経緯と具体的な事業展開についてお聞かせください。
会社を設立して、2017年で16年目になります。私は生まれも育ちも名古屋で、今の会社を始める前は大学卒業して3年、その後の9年を別々の広告代理店にいました。9年間いた代理店ではセールスプロモーション局という部署で、企画開発やマーケティングを担当しました。そこでの業務は、イベントやプロモーションの企画・運営で、とくに携帯ショップのプロモーションを手がけることが多く、売れる携帯ショップのノウハウを蓄積していきました。そのため独立後も担当していたキャリアやショップから引き続きやってほしいと言われ、今も携帯ショップのイベントや人の派遣など、全体のコーディネートを行っています。

── そのほかにもいろいろなイベントのプロモーションをやっていますね。
携帯電話の時流に乗ってずっと続けてきたこともあって、ペイント会社の展示会や、企業の展示会ブースのプロモーション、また、パシフィコの1つのウィングを借り切ったイベントもやってきました。

── 東京でビジネスを展開するきっかけはどういうことだったのですか。
あらゆる携帯キャリアの仕事をしていくなかで、関東の知り合いから「携帯ショップの運営ができないか」という話がきたんですね。名古屋ではなく関東で、やってみるのも面白いと引き受けたんです。

引き受けたときのショップはかなり厳しい数字だったのですが、引き継いだ翌月に関東のトップ5に入りました。この成績をその後も維持したものですから、キャリアの担当者も驚いて会いたいと。そこで会ってみたら知っている部長や役員だったもので、それだったらほかのショップも支援してほしいといわれ、東京や埼玉、九州などの成績の悪いショップの立て直しのお手伝いをすることになりました。そうしたショップの立て直しをやっていくなかで、僕の考えやポリシーをレクチャーすると数字が上がっていったんですね。この方法は携帯ショップだけでなく、どんなビジネスにも通じるものだということで、講演を依頼されるようになりました。

── そうしたショップを蘇らせた方法というのはどういうものですか。
簡単にいうと、働く人の意識改革なんですね。つまり、仕事オンリーではなく、自分がどうあるべきかを考えさせることです。ただ「売れ、売れ」と言っていたのでは、何のために売るのかわからなかったり、売ることによって何がどうなるかわからない人が多い。こうした人たちのやる気を引き出すには、売ることの目標が見えていたほうがいいわけです。

── 携帯ショップでの具体的な方法は、どういったことでしょうか。
お店を見たときに、その店がどうもごちゃごちゃした印象だったとします。そこでなぜそう見えるのかをスタッフに理解させます。たとえば、商品の展示を見て、それは誰がやったかを聞く。そして、なぜそうしたのかスタッフに意図を聞きます。

仮に一番売りたい商品ということであれば、店舗に入ったときに一番売りたい物を目立つところに置かないと意味がない。そこで入り口からの見え方を考えさせ、店舗全体として見る必要があることを指導していきます。ただやらせるのではなく、自分で考えたことから結果を出すことで自信につながります。出発点とゴールをつないであげるという指導をしていきます。もちろん、これはなかなかうまくいきません。つらい部分でもありますが、楽しい仕事です。

── その方法は携帯ショップだけではなく、いろいろな職種や業務にも応用できるのですか。
いろいろなイベントでもそうですし、すべてに通じますね。携帯ショップで得られた経験などさまざまなものを集約しましたが、これは総務でも営業でもマルチに通用する方法です。いわば、時間と質をどこまで追求するかというようなものです。

── こうしたノウハウをまとめた本を出すそうですね。
『机上論のおもてなし不要論』というタイトルで11月上旬に発売します。

基本的な内容は、自分でショップの立て直しをやるようになってからよく使う言葉をまとめた資料やマニュアルがあるのですが、これを当社のスタッフと一緒にキーワードを抽出。それを整理したところ250ほどのキーワードが出てきたんです。本にするあたって「77のコトバ」としてまとめました。

本の内容は7章に分かれていて、1、2章では自分創り、自分売りとおもてなしの基礎になる自分や人のあり方。3、4章ではその自分を仕事でどう活かしていくかの思考基準や行動基準。5、6章では1~4章の内容に取り組むにあたってのプラスとマイナスの要素、そして意識すべきことを解説。最後の7章ではすべての総括になる「自戒」のコトバをまとめています。どんなビジネスでも役立つ本だと思っています。

── 今後、ビジネスにおいてはどのような展開を考えていますか。
来年の2月の予定ですが、学習塾を始めようと準備を進めています。携帯ショップと塾というつながりはわかりづらいと思いますが、塾に来る子どもたちは成績アップが目的で、教える先生はその子どもたちの成績を上げなくてはいけない。塾とは、子ども、先生、いわば人を磨く場だと思うんですね。そこではこれまで私たちがやってきたノウハウを活かすことができるのではないかと思ってるんです。

きれいごとばかりは言えませんが、夢のある仕事ですかね。こうした要素で塾業界も変革できるかとも思っています。

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