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特集 空き家ビジネス最前線|月刊BOSSxWizBiz
楽天LIFULL STAY株式会社 代表取締役 太田 宗克|月刊BOSSxWizBiz

米台中最大手と業務提携

これまではっきりとしたルールがなかった民泊。しかし、「住宅宿泊事業法(新民泊法)」によって、これまでと違った動きが見え始めている。現在、稼働している民泊の物件数は、民泊データ分析を手がけるメトロデータによると、2016年11月で4万件を突破し、右肩上がりでその数は増え続けてきた。

しかし、民泊新法によって規制がかかる懸念が出たことからいくぶん伸びが鈍化してはいるようだ。とはいえ、物件数は確実に増加しており、なかでも、民泊新法施行を控え、京王電鉄、みずほ銀行、JTBなどあげればキリがないほど大手の動きも活発になってきている。

そんななかで積極的な動きを見せているのが楽天だ。

「オーナーのサポートをしたい」と太田社長

具体的には、2017年6月22日に民泊事業参入のため不動産事業や不動産・住宅情報サイトなどを運営するLIFULLとの共同事業会社「楽天 LIFULL STAY(以下=楽天ライフル)」を設立した。

「ライフルさんの持つ物件のオーナーのなかで、民泊新法のフレームのなかで民泊事業や物件の運用をしてみたい方に弊社のプラットホームを使っていただくというのが基本的なビジネスです」と話すのは、太田宗克楽天ライフル社長。

この設立発表直後の7月3日にオンライン旅行予約大手の米エクスペディアグループの民泊仲介サイトを運営する「ホームアウェイ」、同月20日には台湾最大の民泊サイトを運営する「アジアヨー」、8月2日には中国最大級の民泊プラットホームを運営する「途家(トゥージア)」と矢継ぎ早に業務提携している。

「民泊事業での物件の管理運営はオーナーご自身で行う、私たちにご依頼いただくなどやり方はさまざまですが、私の思いとしては単純に物件をお預かりして民泊物件のプラットホームになるということだけでなく、民泊物件の創出から運営まで一貫して行うことが必要だと思っています。民泊は日本では新しく始まったばかりのビジネスですから、一貫したサービスを行うことでオーナーのみなさんが民泊ビジネスに入りやすい環境を作ることも、われわれの仕事だと思っています」

単に民泊のポータルサイトを作って、そこに物件登録をしてもらってというのではなく、約800万件の不動産物件と2万2000あまりの不動産加盟店も持つライフルと手を組んで、まずは物件の“仕入れ”を押さえ、楽天が持つ9000万人の会員をベースにサービスを提供。そのうえで、豊富な民泊物件数をバックにして、海外大手と提携し、一気呵成に攻勢中だ。

もちろん、ライフルに登録している物件オーナーのすべてが民泊に参入したいというわけではない。そこで全国各地でセミナーなどを開催、民泊ビジネスをやってみたいというオーナーや企業の掘り起こしも並行して進めている。

代替えでない民泊

一方、空き家の民泊への活用について太田さんはどう考えているのか。「民泊新法の180日規制というのは地方の空き家の民泊利活用に向いている」としたうえで、こう話す。「とくに空き家にフォーカスしているわけではありませんが、空き家活用でしっかりとしたサービスができれば利用者はもちろんオーナー、各地域とみんながハッピーになれると思います。私たちもそこは目指していきたいし、空き家の利活用は重要なテーマです。

ただ、これを円滑に進めるには1件1件の物件で民泊物件として売るのではなく、エリアで考えなくてはならないと思っています。しかし、こうしたことは1人のオーナーでやるのは難しい。そこで私たちが入って、行政とも連携をとりながら広い視点での物件の掘り起こしが必要だと思っています。そのために物件の掘り起こしから集客、管理運営まで一括で行うということまでやっていきたい。都心部だけでない地方についても、包括的に受けられるような運営体制を考えていきたいと思っています」

一方、大都市圏においてはこの180日制限が民泊のネックになるのではないかと懸念され、その対策も準備中だ。

「対策としては簡易宿泊所のライセンスを取る、または民泊+マンスリーマンションの併用などを考えています。マンスリーマンションのポータルも作ろうと進めていますが、これと民泊とをシームレスでつながるようにしようと考えています。たとえば、最初はマンスリーマンションで掲載しておいて、マンスリーの予約と予約の狭間に2週間空いてしまったというようなところを、民泊として使うというものです。価格設定をどうするかなどの課題はありますが、こうすることで利回りが求められる投資型マンションも、民泊物件として使えるようになると思います」

民泊新法後の民泊、空き家ビジネスの可能性について、太田さんは次のように話す。

共同事業会社設立の会見(左から山田楽天副社長、太田氏、井上ライフル社長)

「民泊仲介プラットホームだけのビジネスとしてだけ考えれば、物件を自動的に登録して、販売だけしていけば、人をかけないビジネスモデルで、利益率も高くなると思います。しかし、民泊ビジネス全体としてとらえた場合、民泊という新しい動きを単にホテルの代替えではなく、もっと意味のあるものにしていきたいと思っているんです。その中には人口減少による訪日外国人の取り込みや空き家の利活用など国が抱えている問題を解決していきたいという思い。

また、集客においても東京、大阪、京都といういわゆるゴールデンルートを回って帰っていく外国人をもっと地方に分散してもらえるようにして、地方経済効果をもたらし、地方創生につながるようにしていきたいという思いもあります。そのためには民泊仲介のプラットホームだけでなく、物件の創出を担っていくことが大事だと考えています。もちろん、ビジネス的な利益は重要ですが、それだけにとどまらない広がりが持てれば、民泊や空き家ビジネスをやろうという人が増えてきて、大きな流れになっていくと思います」

空き家ビジネスとしての民泊、インバウンドの本格的な動きは、いま動き出そうとしている。

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名経営者30人の名言・格言|月刊BOSSxWizBiz

椎名武雄 日本アイ・ビー・エム社長

「親(会社)を説得したこと。これは相当気をつかいますよ。親のいうことばかり聞いていたんでは会社はつぶれてしまう。だから椎名が言うならしょうがないやというところまでもっていくのが大変だった。これは逆に考えればよくわかる。日本の企業の海外子会社が、日本の言うことばかり聞いていたら、うまくいくわけがない。それと同じで日本アイ・ビー・エムの玄関に星条旗を掲げちゃだめなんだよ」
(1992年11月号・社名、肩書は掲載当時のもの)

75年に日本IBMの社長に就いた椎名氏は、約18年間社長を務め、93年1月に北城恪太郎氏に社長を引き継ぐことを発表、これはその直後のインタビューで発せられた言葉だ。長い社長生活のなかでの思い出として本誌に語られたものだが、「日本法人の独立性」に腐心したことがうかがえる。

椎名氏は、外資系企業でありながら経済同友会の副代表幹事を務めるなど、日本の財界にも影響力を持ち、終身雇用や顧客第一主義等、日本企業以上に日本的経営にこだわるスタイルでIBMの社会的認知度を高めた、その立役者だと言える。

親会社である本国が関与してきても、「いざとなったら、こっちも啖呵を切るからね。お前ら何を言っているんだ、これは俺のテリトリーだろう、こっちにもプライドがある」と意見を押し通したという。

99年に椎名氏は会長を退任。以降、日本IBMは2001年から12年連続で減収決算となり、リストラ・減俸に追われることになった。寂しくも12年から外国人が日本IBMの社長に就いている。

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経営者インタビュー

生損一体とオリジナルで新たなニーズを掘り起こす 中里克己 東京海上日動あんしん生命社長

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

中里克己 東京海上日動あんしん生命社長
なかざと・かつみ 1963年、埼玉県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、85年東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)入社。95年専業営業開発部代理店企画グループ副参事。2000年営業企画部企画グループ担当課長。06年大阪中央支店次長兼なんば支社長。12年東東京支店長。15年東京海上日動あんしん生命執行役員兼営業企画部長、16年常務取締役を経て、17年4月より現職。生命保険業界のなかで損保系生保は第3分野の保険に強みを持つ。なかでも東京海上日動あんしん生命は、常に「業界初」のユニークな商品を発売する一方、損保系のなかでも生保・損保の一体化を進めている。今年4月社長に就任した中里克己氏に、これからの舵取りについて聞く。

変えること、変えないこと

── 社長就任のお話はいつごろあったのですか。
正式には2月の頭になってからですが、内々に昨年末に前社長の広瀬(伸一)から、「そういうこともあるから覚悟を持って仕事をやるように」と言われました。最初はひるみましたが、広瀬の社長任期の2年間、私は営業企画と人事担当役員として広瀬のもとで仕事をしてきて、この仕事に社会的使命を強く感じ、あんしん生命という会社、パートナーである代理店さんのために、少しでもお役に立てるようできる限りの貢献をしていきたいと思って取り組んでいます。

── 社長就任にあたっての抱負をお聞かせください。
最初に広瀬からも言われたことですが、社長交代にはタイミングに意味があると思います。昨年は社内的には20周年を迎え、社外的にはマイナス金利によって、低金利という生保業界にとって厳しい1年になりました。こうした社内外の環境変化のなかで、会社も進化させていかなくてはならないと思っています。そうした点で私なりにこの交代のタイミングの意味をかみしめています。

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

「生損一体が強み」と話す中里社長。

それを踏まえたうえで、20周年を迎え安定的な成長の基盤というのは整っていると思っていますが、次の一歩をどうするか。内部的には2017年度は中期経営計画の最終年度に当たり、次の中期計画を考えて打ち出していくというタイミングにあたります。

外部的には、会社を取り巻く情勢を見ると、経済動向の不確実性が高まり、業界の競争は激しくなっています。また、AIやIoTによる医療技術、テクノロジーの進化に合わせて、われわれも変化していかなくてはなりません。今回、社長も変わりましたが、実は役員も大きく変わっていて、そうした新しい経営環境に合わせた成長戦略を整え、進めていきたいと思っています。

── まずは何から取り組もうと考えていますか。
ベースにあるのはビジョンの共有です。つまり、何のためにわれわれは仕事をしているのか、仕事の目的は何かということを共有化することだと思っています。

社長就任にあたって社員に出したメッセージでのキーポイントは、変化に強い体質、変革し続ける覚悟が重要であるということ。そして、「これから変えていくことと、変えていかないことがある」と伝えました。

なかでも変えないということが大事だと思っています。

具体的には創業の精神のお客さま本位に革新的で効率的な生保事業を目指すことが1つ。もう1つは造語ですが、使命感、職業意識を高く仕事に取り組んでいくという意味で社内で使っている言葉に「保険人」というのがあって、これは普遍的なもので絶対に変えないもので、この2つを守りながらお客さまニーズ、社会と経済の大きな変化をとらえた革新的な商品やサービスを開発、業務プロセスの改革を進めていきたいと思っています。

新しいことへのチャレンジ

── 少子高齢化で保険業界は厳しいといわれますが、どのように受け止めていますか。
少子高齢化によって人口動態が変わり、契約対象者数が減るのは生保業界にとってマイナスになります。その一方でお客さまニーズが変化していくという点では、われわれは第3分野の保険にいち早くかじを切って取り組んできたという自負もあり、われわれのような新しい生命保険会社にとってはチャンスがあるということで、前向きにとらえています。

実際、前の中期計画では13年1月に発売した「メディカルKitR」という商品は、使わなかった保険料が戻ってくるという業界で初めての商品でした。

今の中期計画では、15年に発売した「メディカルKitNEO」という医療保険は、生活習慣病での保障はもちろん、5大疾病で働けなくなったときの保障を付けた商品です。さらに昨年は病気やケガによって働けない日々を守る「家計保障定期保険NEO」という商品を発売しています。この家計保障定期保険NEOは、前年度の2~3倍伸びており、今もそのペースは落ちておらず、お客さまからの高い評価をいただいていると思っています。

── 就業不能に対する保険は各社が出しており、競争の激しい分野ですね。
われわれは12年から「生存保障革命」という、従来の医療保険や死亡保険ではカバーしきれなかった保障の空白領域にしっかりとした保障を提供する取り組みを進めています。家計保障定期保険NEOもその一環として開発した商品になります。われわれとしては就業不能保険の分野は、先駆けていろいろ取り組んで来た分野です。そうした意味でも新しい商品にチャレンジし、マーケットを創造していくという気概を持ってこのリーダーシップをどこまで発揮し続けられるかというのが課題だと思っています。

他社に先駆けたという点では、「職場復帰支援サービス」という付帯サービスを10月からスタートすることにしています。これは就業不能になって、職場復帰する際にはどなたも、どういうタイミングで復職したらよいか、前のように働けるのかというようなところで悩まれます。そうした職場復帰にあたっての不安やキャリアについてのご相談を専門家がサポートするサービスです。

── 生保と損保を一体で保障する「超保険」も大きな特徴です。
生保・損保を一体としてコンサルをしながらお客さまを一生涯にわたってムダのないように保障していくというのが「超保険」です。

お客さまにとっては生命保険も損害保険も同じ保険で、これは販売する代理店さんも同様です。医療保険や家計保障定期保険に火災保険、自動車保険を合わせたご提案をさせていただくシンボリックなものが超保険という風にお考えいただけたらと思います。

2つのニーズに応える商品

── 今後の商品展開としてはどのようなものを考えていますか。
お客さまのニーズに合わせた商品は、2つの分野があると思います。

1つが健康増進の分野です。常に若々しくありたいという思いと同時に、健康に長生きする、いわゆる健康寿命を維持していくことはこれからの大事なポイントです。そして、もう1つが長寿になったことから生じる老後の生活を維持するための資産形成のニーズの高まりです。そこでこの2つのニーズに対応する2つの保険商品を、8月に販売開始する予定です。

その1つめが「あるく保険」です。この保険はご加入いただいたお客さまにウェアラブル端末をお貸しして、スマートフォン専用アプリを使って、2年間の支払対象期間中の1日あたりの平均歩数目標8000歩が達成されたかどうかを判定。支払対象期間満了時に達成状況に応じて、保険料のキャッシュバック(健康増進還付金)をするというものです。まさに保険が未病、予防の分野に一歩踏み込んだものです。今後もバイタルデータの計測技術も進むでしょうから、こうしたビッグデータを活用した新しい分野に進化させられればと思っています。

もう1つの資産形成のニーズへの対応が変額保険の「マーケットリンク」という商品です。この商品は万一のときの保障をしっかり確保しながら、長期にわたってお支払いいただく保険料の一部を積立金として投資信託などで運用し、資産形成を行っていくものです。国内外の株式・債券等を中心に、複数ご用意する投資対象から投資先を自由に選択し、組み合わせていただくことが可能で、途中で投資先を変更したり、これまで運用してきた積立金を他の投資先に変更することもできます。ただ、運用実績によって満期保険金がプラスにも、マイナスにもなることがあります。とはいえ、ドルコスト平均法により、投資リスクを軽減できる保険だと思っています。

そのほかにも商品戦略としてはいろいろなメニューがありますが、安易な価格競争とは一線を画して独自性の高い商品を開発するということで、あんしん生命らしさを出していきたいと考えています。

商品開発面では、東京海上日動とあんしん生命の商品開発部門が同居し、一緒に検討するようになっています。例えば、介護の分野で個人で手当するのか、企業で手当するのか、両者でカバーするのかなど商品開発については一緒に研究開発をしようとしています。

進む生損一体

── 現在の販売チャネルはどのようになっているのでしょうか。
損保系生保ということから全体のウエイトとしては、もともと損保代理店としてスタートした代理店さんのウエイトが高くこのチャネルが半分を占めており、ここがわれわれの強みになっています。次いで生保代理店からスタートしたライフプロという代理店さんで、ここには来店型代理店も含まれます。こうした代理店チャネルのほか、ライフパートナー(LP)という直販チャネル、銀行窓販などがあります。

販売面の特徴としてはチャネルミックスと言っていますが、それぞれの形態の代理店の専門性を生かしています。例えば、損保中心の代理店さんに生保の専門性を持ったLPがコラボして、生保の提案を一緒にやるというのが象徴的ですが、そうした取り組みを全国で行っています。

── 販売面では保険業法が改正になりましたが、何か影響は出ていますか。
影響はなくはありません。しかし、われわれはもともとが代理店チャンネルを主体にしていたので、代理店支援というスタンスは今まで通りです。募集人の育成強化は代理店チャネルの要ですから、そこをいかにサポートしていくかという取り組みはこれからも変わりはありません。

その1つとして、損保の代理店支援社員に対して生保、あんしん生命のノウハウを研修するというような仕組みもでき上がっているので、損保の社員が損保代理店に対して生保の働きかけをしています。こうした生損一体の支援ができるのも、われわれの強みではないでしょうか。

―― 今後の目標についてお聞かせください。
2つありますが、1つは今年は中期計画の最終年度ということで17年度はしっかり仕上げるということです。昨年はマイナス金利の影響もあって貯蓄性の商品の一部で販売休止したものがあります。そのため中期経営計画の単年度で見ると若干厳しいところもありますが、保障性分野が堅調に伸びているので、しっかりと仕上げたいと思っています。最終的には概ねオンペースで行けると思っています。

2つめは次期中期経営計画をしっかりとまとめるということです。現在、数字についてはシミュレーション中なので、具体的な数値目標はお話しできませんが、研究開発も含めた、新しい領域にチャレンジしたいと思っています。そこでまずは、先ほどお話しした17年度に発売する医療分野である「あるく保険」、資産形成分野の「マーケットリンク」を次期中期計画に向けて販売を開始して、次期中期経営計画期間中に、さらなる次の一手を打ち出していきたいと思っています。引き続き、革新的な商品・サービスの提供を通じて、1人でも多くのお客さまにあんしんをお届けできるようさまざまな取り組みに挑戦してまいります。

(聞き手=編集局長・小川純)

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経営戦記



加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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胃から腸、人体から産業用、地球規模へと広がるシームレスカプセルの可能性 森下仁丹 カプセル事業本部副本部長 田川大輔

企業向けソフトウェアやサービスの開発・販売をするインフォテリア。主力製品のデータ連携ソフト「ASTERIA」に続く2本目の柱として期待されているのが「Handbook」だ。働き方改革の潮流と相俟って、俄然注目が高まってきた。

研究開発担当の北原淑行氏。

近年は「働き方改革」を合言葉に、働き方の多様化が受け入れられるようになってきた。決められたオフィスで勤務するのではなく、ICT(情報通信技術)を駆使して、時間や場所に縛られない「モバイルワーク」や「在宅勤務」といった雇用のスタイルも増えてきている。

こうしたモバイルワークに欠かせないのが、ノートPCやスマートフォン、タブレット端末といったモバイル端末だが、ただネットに繋がっているだけでは仕事がはかどらない。そこで注目を集めているのが、インフォテリアが提供するソフトウェアの「Handbook」だ。

Handbookは2009年に出荷が開始されたソフトウェアで、文書や表計算、プレゼンテーションから画像、音声、動画まであらゆる電子ファイルをクラウドに保存し、指先めくり表示ができるようにするというもの。スマートフォンからスタートしたソフトだが、企業ではタブレット端末での活用が多く、どこでもいつでもドキュメントを開くことができることから、働き方改革の機能強化として採用するケースが増えている。

またこのソフトを会議やプレゼンに活用し、資料を共有することでペーパーレス化を進めている企業も多い。大手金融機関や製造業をはじめ、大学等の教育機関にも導入が進んでおり、モバイルコンテンツ管理市場ではシェアトップを獲得。導入件数は1300件に達している。今夏8月30日には新バージョンの「Handbook 5」の提供を開始する予定で、9月リリース予定のiOS11へも対応するという。

開発責任者で執行役員副社長の北原淑行氏はHandbook 5について次のように語る。

「9月にiOS11に上がりますが、今回はiPadがかなり強化されています。タブレットでもできることを増やそうという傾向です。そのなかにマルチタスクがあります。これまでのiPhoneやiPadは1つのアプリだけで使うことが多かったと思いますが、画面の右側にチャット画面を出し、左側にドキュメントを開きながら話をすることが、iPadでもできるようになります。そのためにはHandbookもマルチタスクにしていかなければならないし、そういうものを引き出すデザインに直していかなくてはいけません。今回はデザイン含めUIを全体的に見直しました」

Handbookシリーズの特徴として、次々と登場する新デバイスに対して迅速に対応するスピードがある。今回の新バージョンの新機能には360度画像・動画の再生機能とともに、マイクロソフトのMR(合成仮想現実)デバイス「HoloLens」への対応も積極的に行っている。

「PCというのは机に置いて動かすものという意味があるので、置く場所が必要です。タブレットやスマートフォンになって、手に持って操作する、あるいは片手で操作するようになりました。MRでは目のところにレンズをつけることでオブジェクトを見る形にしますから、両手が空きます。コンピューティング自身が場所を選ばなくなってきました。Handbookでは、MRでマニュアルなどを映しながら、両手を使って作業することが可能になります。その意味ではよりフィールドワーカーの支援に使うことができるわけです。MRというとハードルが高く見えますが、まずはマニュアルを読んだり、チェックリストを確認するとか、基礎的なところから始められるので、Handbookは役に立つと思います」

新技術にも対応

今後はVR(仮想現実)、AR(拡張現実)といった新技術もHandbookに導入する予定だ。

「iOS11でもAR(拡張現実)の機能を入れてきていますので、iPadで使うHandbookでも機能を加えたい。ARの場合は現実に見ているものと比較しながら見たり、画像と重ね合わせられるというのは、作業の正確性や効率性でメリットになると思います。今回のバージョンで360度動画と静止画をサポートしましたが、現実と重ね合わせることがまだできないので、次のバージョンでは、Handbookのなかでどのように表現できるのかを考えていかなくてはいけません」

近年、アプリは機能を特化した専門性の高いソフトウェアになっている。風潮に反して、北原氏はなんでもできるソフトウェアとしてのポジションを確立しようとしている。

HoloLensにも対応。マニュアルを見ながら両手で作業することもできる。 右はHoloLensで観たHandbookの画面。

「できるだけ水平方向に使えるソフトウェアとして、みなさんに使っていただける製品を開発していきたい。そしてそれがワールドワイドに使える製品になる。エクセルを使っている方は多いと思いますが、もともとエクセルは表計算ソフトです。しかし、エクセルでプレゼン資料をつくる人もいれば、マス目のようにして自分なりに使う人もいて、あらゆる使われ方をしています。

確かに単機能のアプリは使いやすいのですが、それぞれの機能についてアプリをたくさん入れなくてはならず、アイコンばかり増えて逆に使われなくなってしまいます。エクセルのように、ある程度中庸なところで、共通していろんなことができるソフトがあればそれを使う。その共通項になる部分をHandbookなり、我々の製品で対応したいですね」

新バージョンのUIは、4月にインフォテリアが買収した英国のデザイン戦略コンサルティング企業と共同開発。Handbook海外版と近い仕様となっており、世界戦略を見据えたつくりになっている。どこでもいつでも働き方に合わせて活用できる便利さは世界共通。まずは導入件数2000件を視野にさらなる飛躍を目指している。

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【BOSS×WizBiz】注文、リピートを増やす顧客の「感情的価値観」を高めるために必要なこと 川﨑 直人 日本シュレッダーサービス社長

川﨑 直人 日本シュレッダーサービス社長

渡邊伸一 エバー社長
わたなべ・しんいち 1959年、愛知県生まれ。大学で演劇を学び劇団青年座に所属。その後、司会業などで活躍。2002年に自らが金の糸美容術を体験。03年株式会社エバー設立、代表取締役社長に就任。

10~15歳の若返り

── クリニックと化粧品の2つの事業がありますね。
会社のかたちとしては株式会社エバーと社団法人ベル美容外科クリニックの2つがあって、エバーが親会社で経営の一環としてベルクリニックがあるという形態です。

──「金の糸美容術」というのは、一般的な美容整形と違うのですか。
クリニック自体は「美容外科」として営業を行っているので、目を二重にしたり、リフトアップといった、いわゆる美容整形をイメージされてしまいます。しかし、「金の糸美容術」は顔や目、鼻といった部位の形を変えるものではありません。

皮膚の下2~3ミリくらいのところに「真皮」という部分があり、ここに太さ0.1ミリの24金の金の糸を埋め込んでいきます。施術の方法は、24金の金の糸を当社が特許を持っているオリジナルの針で裁縫するように皮膚の下に通していきます。施術の時間はおおむね30分ほどです。

金は金歯、金粉入りのお酒や化粧品があるように人と一番相性がいい金属です。そこでこの金の細い糸を額、頬、首筋に長さは人によって違いがありますが、5~6メートル入れていくのが金の糸美容術です。

── どんな効果があるのでしょうか。
一言でいってしまうと若返り、アンチエイジングです。ご存じのように肌には肌年齢というのがあって、40歳のときには40歳の、50歳では50歳の肌年齢になります。金の糸美容術では、この肌年齢を10~15年若返りをさせます。あくまでも比較対象はご自身で、たとえば今45歳の方であれば、35歳のときの肌年齢になるということです。施術後は老化の進行が遅くなり、3年で1歳ぐらいの感覚になるようです。また、髪の薄い方の頭皮に金の糸をいれると、髪が生えてくるという効果がありました。

── どうして、こうした効果が得られるのでしょうか。
人の肌は常に新しいものと入れ替わっていて、これをターンオーバーといいます。20歳までの肌は28日周期で新しい肌になるとされています。しかし、年齢を重ねるとこの周期が長くなり、一説では28日プラス年齢ともいわれます。一方、人は体に異物が入ってくると、それを排除しようという動きが起こります。金といってもやはり異物ですから、これを排除しようと細胞の動きが活発化するんですね。この排除しようとするメカニズムとターンオーバーのメカニズムは似ており、そこで肌の生まれ変わりを促進させ、肌を若返らせるというわけです。一方、髪については毛細血管が伸びて、毛根に栄養を与えるんですね。

きっかけはテレビ番組

── このビジネスをはじめるきっかけは何だったのですか。
クレオパトラもやっていたという美容術として金の糸美容術が紹介されたテレビ番組を観たのがきっかけです。その手術はモスクワでしかやっていないということだったんです。当時、私は結婚式の司会やイベントなどでのMCといった人前に立って話す仕事をしていました。渡航費も含め200万円ほどかかりましたが、見た目も重要な仕事ですから、仕事を長く続けるためにもいいかもしれないと思って手術を受けました。

実際に自分でやってみると、これが本当によかったんです。この金の糸を広めることを仕事にしようと株式会社エバーを立ち上げたのです。

── それはいつ頃ですか。
2003年ですね。最初はモスクワでしかできない技術だと思い込んでいたので、私が添乗員のようになってお客さまを毎月10~15人連れていきました。口コミでお客さまを集めましたが、知り合いだったエステサロンの社長さんに相談して、ご紹介いただいたりして2年間で240人ほどのお客さまをロシアに連れて行きました。その後、この施術は日本でもできることがわかって、05年から日本ではじめました。

── 金の糸を使った美容法はほかにもありますが、御社の特徴は何でしょうか。
うちでは金の糸を金塊から自分のところで溶かして作っているんです。そのためその人に合わせて必要な分だけ金の糸を使っています。ロシアの病院も含め、他の病院では“金の糸のキット”を使っていて、これが1セット3メートルなのです。

しかし、うちでは1人ひとりのお顔に合わせて、どう金の糸を入れたらよいか“デザイン”して、一番ベストな状態になるよう糸の量を使っています。もちろん、施術料は同じで、顔と首で一律100万円です。

── 顧客の中心年齢層はいくつですか。
最初は50歳以上の方が多かったのですが、今は20代、30代の方もかなりいます。早いほどシミやシワで悩むことが少なくなりますから。予防的に行ったほうが、金銭的にも負担が少なくなります。これまで1万7000件以上の施術を行ってきましたが、クレームなどは一切ありません。

── 最近の傾向として何か特筆するところはありますか。
インバウンドの影響で中国人の方が増えています。というのも、中国では金の糸の美容術が禁止になっています。この施術は24金でないとダメなんですが、中国では24金と偽って18金でやったり、不純物の入った金を使ったりする。また、医者ではない人が設備もないところで施術をして感染症を起こしたり、目を刺したりするなどトラブルが多発しました。それで政府が禁止したんです。中国人は非常に美容には興味を持っていますから、爆買いは収まっても医療、美容はこれからも続くのではないかと思っています。

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