PickUp(2017年9月号より)
バックナンバー
友だち追加数

© 2017 WizBiz inc.

 

特集記事

Home
 
人材派遣の2018年問題|月刊BOSSxWizBiz

水田正道 パーソルホールディングス社長
みずた・まさみち 1959年生まれ。84年、青山学院大学経営学部卒業後、リクルートに入社。88年テンプスタッフ創業者の篠原欣子氏に請われ、テンプスタッフに入社。95年取締役、2008年テンプHD常務、10年副社長を経て、13年社長に就任。16年事業会社テンプスタッフの社長を離れ、HDの社長に専念。17年7月1日にパーソルホールディングスに商号変更。

雇用も多様性が必要に

―― 2018年には派遣業界に影響する法改正の効果が現れ、企業の人材活用の在り方が変わっていきます。この一連の働き方の変化についてどう考えていますか。
総人口の減少と人口構造の変化により働き手が会社や仕事を選ぶ時代が本格的に到来します。まさにパラダイムシフトが起きている。かつては周辺の地方から都市部に労働力が入ってきましたが、これからどこにも労働力がないという状態が続いていきます。当然、イノベーションを通じて生産性を上げていかなくてはいけない大前提はありますが、人がいないわけですから、企業が選ばれる時代です。働きやすい環境をつくっていかないと、来てもらえません。

それは派遣社員や正社員という枠組みではありません。無期雇用なのか有期雇用なのか、職種、勤務地、時間のいずれかの限定なのか無限定なのか、この枠組みを自由に、自分のライフスタイルに応じて動けるようにしていくのが、多様性のある働き方を実現する一番の道だと思います。少なくとも正規、非正規という分け方はナンセンスです。多様な働き方を実現しなければ成り立たない労働市場において、この呼称はやめたほうがいいと思います。雇用を安定させるのは社会的にも大事なことだと思いますし、国の重要な施策ですが、正社員を守れば雇用が安定するというのは錯覚です。成熟産業から成長産業への人材の移動や、個人のライフステージに応じた多様な雇用形態が実現しなければ、企業は膠着し、競争力を失ってしまいます。

―― いったん正社員の道から外れると、人材市場に戻れなくなってしまう?
そうですね。企業や仕事が未来永劫続いて、成長するという大前提があれば流動化しなくても雇用は安定しますが、これからはそんな時代ではありません。

―― 流動化すれば雇用が安定するということについて、もう少し掘り下げて話してもらえますか。
例えばテクノロジーがどれだけ働き方に影響を与えるのか、いろんな予想が出ていますが、企業経営において予測するのは難しいです。ただ、相当な影響がでるのはわかっています。わかりやすい事例を挙げると、スマートフォンに日本語を話すとスマホが英語にして喋ってくれて、英語を聞くと日本語にしてしゃべってくれる。こんな通訳いらずの技術の実用化がすぐ目の前に迫っています。人が翻訳してきたものを、テクノロジーが代替して仕事をする。このような職種は、たくさんあります。

仮にテクノロジーで置き換わる仕事に従事してきた人は、その仕事に限定していたら、仕事そのものがなくなってしまうわけです。一方で、仕事によっては人が必要な業界もあります。そうなれば、再教育が絶対に必要になってきます。新たな時代に応じたスキルや知識、能力を身に着けていかなければいけません。1つの会社のなかで配置転換できればいいですが、一企業では限界があります。個人が時代のニーズに合わせてスキルを変え、適応できるようにしていく。人材の流動化が働く人にとってハンデにならないよう、世の中の仕組みを変えていかなければいけません。

―― 実際、フィンテックの普及で大手銀行が店舗や雇用をどうするのか注目を集めていますね。
いずれは、そのままというわけにはいかないでしょうね。ただ、雇用の流動化については様々なご意見があります。人材業の私が言うと、自分たちの利益のために言っているんだろうと思われがちです(笑)。しかしながら、生産性で見れば日本はOECDのなかでも最下位です。これは雇用の流動化がないからです。

ライフスタイルに応じた柔軟な働き方

―― 社員を雇う側である企業についてはどうですか。
企業側は、雇用政策を変えていかざるを得ないでしょうね。いまは長時間労働の問題など、やらなければならない課題はわかっているんですが、働きやすい職場環境をどうつくっていくのか、ご苦労されているようです。これからは在宅勤務や副業とか、柔軟な働き方の場を提供していかなければ来てほしい人は来ない。新卒採用では名の通った企業でも本当に苦労しています。

何よりこの国は、就業参加率を高めていくことが最優先だと思います。その意味では、多様性のある働き方はセットのようなものです。しかし、ある経営者の方は、楽をして働くために、多様性という言葉が使われることに懸念を示していました。多様性のある時代であればあるほど、1人1人が自覚をして、責任を持って仕事をしていかないと、成り立たなくなります。多様性のある働き方を導入しなければいけないのはわかっているけれども、社員を甘やかすわけにはいかないというジレンマに悩まされる経営者も増えていますね。

―― 今回の派遣法改正では、国は派遣社員ではなく、正社員を増やしたいという意向があるようですが、実際に働いている人たちは正社員になることを求めていないというズレがあるように思います。
パーソルグループ内にITアウトソーシング、エンジニアリングを担っている会社がありますが、ここには併せてエンジニアが5000人以上在籍しています。我々はすべて無期雇用していますが、国の定義である正規か非正規かで言えば、非正規社員ということになります。無期雇用をしていても正社員の扱いではない。つまり、正規か非正規かではなく、繰り返しになりますが、無期か有期か、限定か無限定かという枠組みのなかで働き方、個人の要望、ライフスタイルに応じて、それらの間を自由に移動できるようにしなければならない。

いまは移動に対して社会的なハードルが高いわけです。自由な移動、つまり流動化した労働マーケットこそが雇用を安定させます。

2015年の派遣法改正では、有期雇用契約の派遣社員が同じ派遣先部署で3年働く見込みがある場合、(1)派遣先の直接雇用の社員として働く(2)他の派遣先で働く(3)派遣会社の無期雇用社員として働く(4)その他、安定した雇用のための教育訓練や紹介予定派遣で働くといった中から選択することになります。これは派遣社員本人がどの働き方を希望するか、また派遣先企業の人材配置の考え方によってケースバイケースになります。

実は派遣で働いている方の約80%が、どこかの会社の正社員として働いた経験をお持ちです。派遣先企業が直接雇用にしたいと思っても、本人がそれを望まないケースは少なくありません。

―― 意識のズレがあるなかで、一連の法改正の狙いをどう受け止めていますか。
雇用の安定と賃金でしょう。正社員と較べると、賃金が安い。同一労働同一賃金の問題もありますが、今回の働き方改革は、賃金を底上げしたいという意図が非常に強いものになっています。

これまでの派遣法と比較すれば、3年を目処に希望する働き方に向き合い選択できる点、派遣社員の雇用の安定という意味では、一歩進んだ法改正だと認識しています。正規社員か非正規社員かという問題ではなく、派遣社員の働き方の希望を実現しやすい制度にしていくことが重要だと考えています。そのためのキャリア形成や実務を通じた就業経験やスキルアップ、教育訓練などは充実させていく必要があると思います。

パーソルブランドに商号変更

―― 7月1日からテンプグループからパーソルグループに衣替えし、商号と組織も変わりました。働き方改革や法改正と、変化のタイミングが合った形ですね。
もともとこの体制変更は2013年から始めている議論です。我々のグループは5社の上場会社を中心にした集合体で、バラバラに運営されていました。この会社を生んで育ててくれた篠原欣子ら創業メンバーは経営の第一線からは退いています。創業者は理屈ではない求心力を持っています。しかしこれからの会社には創業者は現れません。その時に我々の求心力をどこに求めるのか。ビジョンであり、行動指針であり、スローガンという形になってくると思います。属人的な求心力から組織的な求心力を高める時期にきていました。

我々のやりたいことは何かというと、目下2つしかない。1つは多様性のある働き方をしっかり実現していきたい、もう1つはミスマッチを極小化していくということです。これが我々が社会に存続させていただける価値だと思います。これを実現していくために何が必要なのか。バラバラなブランドで社内も縦割りで、マーケットからみればバラバラな企業体です。これでは多様性のある働き方は実現できないでしょう。

ただ、この問題は頭でわかっていても、お互いに牽制したり主導権争いをしたりが起きる。認め合わない尊重し合わないなかでビジョンを決めてもお題目にしかならない。社名を変えるといっても合理性がなくなってしまいます。グループ社員に、どれだけ理解してもらえるのか、これは時間がかかると思っていました。20年までにできればいいと思っていたのですが、現場の相互理解が進んだのが肌感覚でわかりましたので、今年、踏み切ることにしました。

―― 6期連続で最高益と、追い風のタイミングでしたね。
時期はたまたまです。私もこの業界に30年いますけど、これだけ右肩上がりで需要が拡大しているというのは過去に経験がないです。いままでは4?5年いいと数年落ちてというのが繰り返しでした。今回は多少、景況感が悪化しても、需要の大きさは変わらないと思いますね。

「どこにも労働力がないという状態がつづく」と水田社長。人材サービスの需要は「さらに高まる」と予測する。

―― 今後の派遣業界はどのようになると予想していますか。
先を占うポイントとして需要がどうなるかですが、これが減ることは考えられません。人が足りない、長時間労働の是正をしなくてはいけないという問題がありますから。これからイノベーションを通じた生産性の向上は図られていくと思いますが、簡単にできれば苦労はありません。需要は高まると思います。

その需要側である派遣先は、お客さんとの関係をどう向き合っていくのかという議論が起こるでしょう。例えば流通が定休日を設けようといった具合です。日本はサービス時間を延ばすという方向が顕著でした。それをどこまで見直していくのか、という動きが本格化してきます。

従来は、同業者がやったからとか、日本人特有の横並び意識が強かった。それが結果的に過剰サービスを招き、長時間労働に繋がり、生産性を落としてきたのだと思います。こういう時代になって、どこまで顧客と付き合って自分たちの競争優位性を担保していくか。前例がない状況になってきました。顧客に向き過ぎても社員がいなければサービスを提供できませんし、社内の労働環境を無視できません。難しい瀬戸際だと思います。横並びみたいな国民性は変わっていかざるを得ません。

そのようななかで、派遣マーケットで働きたいという方がどれだけいるか。いくら需要は伸びても、派遣で働くのは魅力的でないという評価になってしまっては、業界は衰退していきます。働く方々から見た時に、安心、安全で、自分のライフスタイルを充実できるという、そういうマーケットにしていかなくてはいけません。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

© 2017 WizBiz inc.

 

特集記事

Home
 
名経営者30人の名言・格言|月刊BOSSxWizBiz

椎名武雄 日本アイ・ビー・エム社長

「親(会社)を説得したこと。これは相当気をつかいますよ。親のいうことばかり聞いていたんでは会社はつぶれてしまう。だから椎名が言うならしょうがないやというところまでもっていくのが大変だった。これは逆に考えればよくわかる。日本の企業の海外子会社が、日本の言うことばかり聞いていたら、うまくいくわけがない。それと同じで日本アイ・ビー・エムの玄関に星条旗を掲げちゃだめなんだよ」
(1992年11月号・社名、肩書は掲載当時のもの)

75年に日本IBMの社長に就いた椎名氏は、約18年間社長を務め、93年1月に北城恪太郎氏に社長を引き継ぐことを発表、これはその直後のインタビューで発せられた言葉だ。長い社長生活のなかでの思い出として本誌に語られたものだが、「日本法人の独立性」に腐心したことがうかがえる。

椎名氏は、外資系企業でありながら経済同友会の副代表幹事を務めるなど、日本の財界にも影響力を持ち、終身雇用や顧客第一主義等、日本企業以上に日本的経営にこだわるスタイルでIBMの社会的認知度を高めた、その立役者だと言える。

親会社である本国が関与してきても、「いざとなったら、こっちも啖呵を切るからね。お前ら何を言っているんだ、これは俺のテリトリーだろう、こっちにもプライドがある」と意見を押し通したという。

99年に椎名氏は会長を退任。以降、日本IBMは2001年から12年連続で減収決算となり、リストラ・減俸に追われることになった。寂しくも12年から外国人が日本IBMの社長に就いている。

© 2017 WizBiz inc.

 
         

経営者インタビュー

生損一体とオリジナルで新たなニーズを掘り起こす 中里克己 東京海上日動あんしん生命社長

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

中里克己 東京海上日動あんしん生命社長
なかざと・かつみ 1963年、埼玉県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、85年東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)入社。95年専業営業開発部代理店企画グループ副参事。2000年営業企画部企画グループ担当課長。06年大阪中央支店次長兼なんば支社長。12年東東京支店長。15年東京海上日動あんしん生命執行役員兼営業企画部長、16年常務取締役を経て、17年4月より現職。生命保険業界のなかで損保系生保は第3分野の保険に強みを持つ。なかでも東京海上日動あんしん生命は、常に「業界初」のユニークな商品を発売する一方、損保系のなかでも生保・損保の一体化を進めている。今年4月社長に就任した中里克己氏に、これからの舵取りについて聞く。

変えること、変えないこと

── 社長就任のお話はいつごろあったのですか。
正式には2月の頭になってからですが、内々に昨年末に前社長の広瀬(伸一)から、「そういうこともあるから覚悟を持って仕事をやるように」と言われました。最初はひるみましたが、広瀬の社長任期の2年間、私は営業企画と人事担当役員として広瀬のもとで仕事をしてきて、この仕事に社会的使命を強く感じ、あんしん生命という会社、パートナーである代理店さんのために、少しでもお役に立てるようできる限りの貢献をしていきたいと思って取り組んでいます。

── 社長就任にあたっての抱負をお聞かせください。
最初に広瀬からも言われたことですが、社長交代にはタイミングに意味があると思います。昨年は社内的には20周年を迎え、社外的にはマイナス金利によって、低金利という生保業界にとって厳しい1年になりました。こうした社内外の環境変化のなかで、会社も進化させていかなくてはならないと思っています。そうした点で私なりにこの交代のタイミングの意味をかみしめています。

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

「生損一体が強み」と話す中里社長。

それを踏まえたうえで、20周年を迎え安定的な成長の基盤というのは整っていると思っていますが、次の一歩をどうするか。内部的には2017年度は中期経営計画の最終年度に当たり、次の中期計画を考えて打ち出していくというタイミングにあたります。

外部的には、会社を取り巻く情勢を見ると、経済動向の不確実性が高まり、業界の競争は激しくなっています。また、AIやIoTによる医療技術、テクノロジーの進化に合わせて、われわれも変化していかなくてはなりません。今回、社長も変わりましたが、実は役員も大きく変わっていて、そうした新しい経営環境に合わせた成長戦略を整え、進めていきたいと思っています。

── まずは何から取り組もうと考えていますか。
ベースにあるのはビジョンの共有です。つまり、何のためにわれわれは仕事をしているのか、仕事の目的は何かということを共有化することだと思っています。

社長就任にあたって社員に出したメッセージでのキーポイントは、変化に強い体質、変革し続ける覚悟が重要であるということ。そして、「これから変えていくことと、変えていかないことがある」と伝えました。

なかでも変えないということが大事だと思っています。

具体的には創業の精神のお客さま本位に革新的で効率的な生保事業を目指すことが1つ。もう1つは造語ですが、使命感、職業意識を高く仕事に取り組んでいくという意味で社内で使っている言葉に「保険人」というのがあって、これは普遍的なもので絶対に変えないもので、この2つを守りながらお客さまニーズ、社会と経済の大きな変化をとらえた革新的な商品やサービスを開発、業務プロセスの改革を進めていきたいと思っています。

新しいことへのチャレンジ

── 少子高齢化で保険業界は厳しいといわれますが、どのように受け止めていますか。
少子高齢化によって人口動態が変わり、契約対象者数が減るのは生保業界にとってマイナスになります。その一方でお客さまニーズが変化していくという点では、われわれは第3分野の保険にいち早くかじを切って取り組んできたという自負もあり、われわれのような新しい生命保険会社にとってはチャンスがあるということで、前向きにとらえています。

実際、前の中期計画では13年1月に発売した「メディカルKitR」という商品は、使わなかった保険料が戻ってくるという業界で初めての商品でした。

今の中期計画では、15年に発売した「メディカルKitNEO」という医療保険は、生活習慣病での保障はもちろん、5大疾病で働けなくなったときの保障を付けた商品です。さらに昨年は病気やケガによって働けない日々を守る「家計保障定期保険NEO」という商品を発売しています。この家計保障定期保険NEOは、前年度の2~3倍伸びており、今もそのペースは落ちておらず、お客さまからの高い評価をいただいていると思っています。

── 就業不能に対する保険は各社が出しており、競争の激しい分野ですね。
われわれは12年から「生存保障革命」という、従来の医療保険や死亡保険ではカバーしきれなかった保障の空白領域にしっかりとした保障を提供する取り組みを進めています。家計保障定期保険NEOもその一環として開発した商品になります。われわれとしては就業不能保険の分野は、先駆けていろいろ取り組んで来た分野です。そうした意味でも新しい商品にチャレンジし、マーケットを創造していくという気概を持ってこのリーダーシップをどこまで発揮し続けられるかというのが課題だと思っています。

他社に先駆けたという点では、「職場復帰支援サービス」という付帯サービスを10月からスタートすることにしています。これは就業不能になって、職場復帰する際にはどなたも、どういうタイミングで復職したらよいか、前のように働けるのかというようなところで悩まれます。そうした職場復帰にあたっての不安やキャリアについてのご相談を専門家がサポートするサービスです。

── 生保と損保を一体で保障する「超保険」も大きな特徴です。
生保・損保を一体としてコンサルをしながらお客さまを一生涯にわたってムダのないように保障していくというのが「超保険」です。

お客さまにとっては生命保険も損害保険も同じ保険で、これは販売する代理店さんも同様です。医療保険や家計保障定期保険に火災保険、自動車保険を合わせたご提案をさせていただくシンボリックなものが超保険という風にお考えいただけたらと思います。

2つのニーズに応える商品

── 今後の商品展開としてはどのようなものを考えていますか。
お客さまのニーズに合わせた商品は、2つの分野があると思います。

1つが健康増進の分野です。常に若々しくありたいという思いと同時に、健康に長生きする、いわゆる健康寿命を維持していくことはこれからの大事なポイントです。そして、もう1つが長寿になったことから生じる老後の生活を維持するための資産形成のニーズの高まりです。そこでこの2つのニーズに対応する2つの保険商品を、8月に販売開始する予定です。

その1つめが「あるく保険」です。この保険はご加入いただいたお客さまにウェアラブル端末をお貸しして、スマートフォン専用アプリを使って、2年間の支払対象期間中の1日あたりの平均歩数目標8000歩が達成されたかどうかを判定。支払対象期間満了時に達成状況に応じて、保険料のキャッシュバック(健康増進還付金)をするというものです。まさに保険が未病、予防の分野に一歩踏み込んだものです。今後もバイタルデータの計測技術も進むでしょうから、こうしたビッグデータを活用した新しい分野に進化させられればと思っています。

もう1つの資産形成のニーズへの対応が変額保険の「マーケットリンク」という商品です。この商品は万一のときの保障をしっかり確保しながら、長期にわたってお支払いいただく保険料の一部を積立金として投資信託などで運用し、資産形成を行っていくものです。国内外の株式・債券等を中心に、複数ご用意する投資対象から投資先を自由に選択し、組み合わせていただくことが可能で、途中で投資先を変更したり、これまで運用してきた積立金を他の投資先に変更することもできます。ただ、運用実績によって満期保険金がプラスにも、マイナスにもなることがあります。とはいえ、ドルコスト平均法により、投資リスクを軽減できる保険だと思っています。

そのほかにも商品戦略としてはいろいろなメニューがありますが、安易な価格競争とは一線を画して独自性の高い商品を開発するということで、あんしん生命らしさを出していきたいと考えています。

商品開発面では、東京海上日動とあんしん生命の商品開発部門が同居し、一緒に検討するようになっています。例えば、介護の分野で個人で手当するのか、企業で手当するのか、両者でカバーするのかなど商品開発については一緒に研究開発をしようとしています。

進む生損一体

── 現在の販売チャネルはどのようになっているのでしょうか。
損保系生保ということから全体のウエイトとしては、もともと損保代理店としてスタートした代理店さんのウエイトが高くこのチャネルが半分を占めており、ここがわれわれの強みになっています。次いで生保代理店からスタートしたライフプロという代理店さんで、ここには来店型代理店も含まれます。こうした代理店チャネルのほか、ライフパートナー(LP)という直販チャネル、銀行窓販などがあります。

販売面の特徴としてはチャネルミックスと言っていますが、それぞれの形態の代理店の専門性を生かしています。例えば、損保中心の代理店さんに生保の専門性を持ったLPがコラボして、生保の提案を一緒にやるというのが象徴的ですが、そうした取り組みを全国で行っています。

── 販売面では保険業法が改正になりましたが、何か影響は出ていますか。
影響はなくはありません。しかし、われわれはもともとが代理店チャンネルを主体にしていたので、代理店支援というスタンスは今まで通りです。募集人の育成強化は代理店チャネルの要ですから、そこをいかにサポートしていくかという取り組みはこれからも変わりはありません。

その1つとして、損保の代理店支援社員に対して生保、あんしん生命のノウハウを研修するというような仕組みもでき上がっているので、損保の社員が損保代理店に対して生保の働きかけをしています。こうした生損一体の支援ができるのも、われわれの強みではないでしょうか。

―― 今後の目標についてお聞かせください。
2つありますが、1つは今年は中期計画の最終年度ということで17年度はしっかり仕上げるということです。昨年はマイナス金利の影響もあって貯蓄性の商品の一部で販売休止したものがあります。そのため中期経営計画の単年度で見ると若干厳しいところもありますが、保障性分野が堅調に伸びているので、しっかりと仕上げたいと思っています。最終的には概ねオンペースで行けると思っています。

2つめは次期中期経営計画をしっかりとまとめるということです。現在、数字についてはシミュレーション中なので、具体的な数値目標はお話しできませんが、研究開発も含めた、新しい領域にチャレンジしたいと思っています。そこでまずは、先ほどお話しした17年度に発売する医療分野である「あるく保険」、資産形成分野の「マーケットリンク」を次期中期計画に向けて販売を開始して、次期中期経営計画期間中に、さらなる次の一手を打ち出していきたいと思っています。引き続き、革新的な商品・サービスの提供を通じて、1人でも多くのお客さまにあんしんをお届けできるようさまざまな取り組みに挑戦してまいります。

(聞き手=編集局長・小川純)

© 2017 WizBiz inc.

 

経営戦記



加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

このページのTOPへ

© 2017 WizBiz inc.

 

この企業の匠

Home
胃から腸、人体から産業用、地球規模へと広がるシームレスカプセルの可能性 森下仁丹 カプセル事業本部副本部長 田川大輔

銀色の粒の仁丹で知られる森下仁丹。しかし、その姿は今や昔。仁丹製造で培った同社の世界最先端のシームレスカプセル技術は、健康食品、医薬品から産業用とさまざまな用途に広がっている。

狙ったところで溶かす

胃で溶けずに腸までとどく――。
最近、医薬品や健康食品のテレビCMなどで耳にするフレーズだが、具体的にはどんな仕組みになっているのかはわからない。しかし、その1つの方法がシームレスカプセルを使って、胃で溶けないようにして、腸で溶かす方法だ。

「最先端の開発をしていることも知ってほしい」と田川さん。

「シームレスカプセルは、基本的には球状で、大きさは0.5~8ミリ、皮膜の厚さも自由自在にできます」

こう話すのは森下仁丹カプセル事業本部副本部長の田川大輔さん。

「製法はノズルから中身と皮膜を落としてカプセル化するという方法で、カプセルの皮膜を多層構造にすることで、カプセル内成分の除放、遮光性などの機能や中のものも液体、粉末、親水性、親油性など、目的に合わせて入れて溶解させることができます。先に溶かしたいものは外側に、後で溶かしたいものは内側にと分けて詰め、ドラッグデリバリーとして目的のところで溶けるように放出制御ができるようになっています」

このシームレスカプセルは、界面張力を利用した「滴下法」という独自の技術で作られている(次図参照)。具体的には同心円の多重ノズルからゼラチンや寒天をはじめとした動物・植物性のゲル化剤の液状の皮膜物質と内容物を同時に吐き出させ、皮が継ぎ目なく内容物を包み込む。その皮膜の層を多層化させ、4層にすれば、いわゆるカプセルinカプセルになるというわけだ。

森下仁丹は1893年に薬種商として大阪で創業し、1905年には今に繋がる「仁丹」開発、販売を始めた。総合保健薬として発売された当時の仁丹は、ユニークな販売方法や広告もあって瞬く間に人気商品となり、発売からわずか2年で売薬の売上高1位になったという。

シームレスカプセルの製造原理

「仁丹は16種類の生薬を飲みやすく携帯性を高めるために純銀でコーティングしています。このコーティングは、今も輪島の箔職人さんに純銀の箔を作ってもらったものを使っています。このコーティングというのがポイントで、仁丹は生薬を固めたものですが、健康食品や医薬品には液体状のものが多い。そこで液体をしっかりと皮膜で包み携帯性を高め、いつでもどこでも服用できる適用範囲を広げようと考えたのがカプセル開発のきっかけでした」

とはいえ、開発着手直後はなかなかうまくいかず、試行錯誤を繰り返しながら、技術革新を進め90年代に入るとカプセルの多層構造化の技術を確立。現在では自社のヒット商品になっている機能性表示食品の「ビフィーナ」をはじめとしたサプリメント、他社製品の受託生産などを行い、その技術の高さから海外から引き合いも多い。そんなシームレスカプセルだが、開発中にはどんな用途があるのか戸惑いもあった。

「最初は何に使ったらいいんだろうというところがあったようです。しかし、乳酸菌の一種のビフィズス菌に整腸作用があるということで、それを腸まで届けられないかというところから、カプセルで包んで届けるということがブレークスルーになりました。今では当社の代表的な商品としては、健康食品などでの活用。ほかにも腸内フローラが注目されているなかで、プロバイオティクスを生きたまま腸まで届けるドラッグデリバリーのニーズが高くなり、そうした受託を行っています。売上ベースですと、当社の全体の売り上げおよそ100億円に対してヘルスケア事業が70%、このカプセル事業は30%ほどの比率になっています」

広がる用途

この“包んで運ぶ”というシームレスカプセルの用途や可能性は、これだけにとどまらない。田川さんが次のように話す。

「これまでは胃で溶けずに腸で溶けるというのが中心でしたが、今はさらに進み小腸でなく大腸で溶かすことも可能になっています。医療用としては、注射によるワクチン接種は衛生状態がよくない開発途上国で難しいところもある。そこでカプセルを使った経口ワクチンであればその心配もなくなります。また、人体だけでなく産業用としても合成樹脂や機械の中でも使えるようにして、建材や自動車部品などで使われるようになっています」

色とりどりのシームレスカプセル

さらにシームレスカプセルの用途として注目されているのが、環境浄化やレアメタルの採集といった微生物を使った地球規模での応用だ。

「微生物は自分の好きなものしか食べないものもあります。そこでその性質を利用して、環境浄化やレアメタルを集めるためにカプセルの中に微生物を入れれば、雑菌など入らず、微生物を直接その物質のあるところに送り込むことができ、良好な状態で微生物を働かせることができる。あとは、それを回収すれば目的の物質を集めることが容易になります」

また、現状では経口用が中心だが、今後は注射などを使って体内のピンポイントに薬剤投与などに応用することも可能で、その広がりは医療用、産業用ともに無限大だ。

「当社の包む技術、放出する技術、、制御する技術は年々ニーズが高くなっているので、こうした技術を必要としている企業とともに研究開発できればと思っています」

とはいえ、最先端の研究開発企業でありながら、一般的にあまり知られていないのが残念と田川さん。

「いまだに梅仁丹などのイメージが強く、最先端技術やってるんですが、どうしてもいい意味でも古い会社と思われているんですね。120年以上歴史のある会社がこうした最先端の研究をやっているのは面白いと思うので、そうしたことを知ってもらえればと思っています」

森下仁丹の挑戦は続いている。

© 2017 WizBiz inc.

 

月刊BOSS×WizBizトップインタビュー

Home
【BOSS×WizBiz】注文、リピートを増やす顧客の「感情的価値観」を高めるために必要なこと 川﨑 直人 日本シュレッダーサービス社長

川﨑 直人 日本シュレッダーサービス社長

水田正道 パーソルホールディングス社長
みずた・まさみち 1959年生まれ。84年、青山学院大学経営学部卒業後、リクルートに入社。88年テンプスタッフ創業者の篠原欣子氏に請われ、テンプスタッフに入社。95年取締役、2008年テンプHD常務、10年副社長を経て、13年社長に就任。16年事業会社テンプスタッフの社長を離れ、HDの社長に専念。17年7月1日にパーソルホールディングスに商号変更。

創業80年の歴史

── 創業80年と歴史のある会社ですね。
そもそもは製紙原料商で、一般的には古紙屋さんといわれるものです。私の母方の祖父が1933年創業し、東京都心で古紙を集め足立区の工場でごみを取り除き、リサイクルの原料として問屋さんに納めていました。

社名は「浦辺商店」だったのですが、何の事業かわからなかったので私が入社したときにサービスブランドの「機密文書110番 抹消仕事人」を付けて営業していました。そして、2007年に私が社長になったのを機に社名も今の「日本シュレッダーサービス」に変えました。

── 学校卒業後、すぐにこの会社に入ってということですか。
大学卒業後就職したのは、第一勧業銀行、現・みずほ銀行です。浦辺商店は祖父が創業し、2代目社長は養子に入った伯父が就き、父は専務でした。しかし、事業がだんだんと厳しくなり、立て直しができないかとなり、銀行マンだった私に白羽の矢が立ったわけです。私自身も銀行の法人担当として、老舗店や企業の立て直しに力を入れてやってきたので、伯父も父も全部任せるというので、使命感というか、会社への恩返しという気持ちもあって引き受けました。それに銀行マンとして会社の経営再建などの経験もあったので、少なからず自分でも経営をやってみたいという気持ちもありました。

── 当時の会社の状態は、どんな感じだったのでしょうか。
私が入社したときには業務の中心が古紙回収から機密文書の処分へとなっていました。機密文書処分は100%が銀行の下請けでした。しかし、金融ビッグバンなど銀行の再編が進む一方、個人情報保護法の施行もあり、売り上げの90%を占める銀行がこうした文書の処分をグループ会社に集約するという見直しが行われていました。そこで新たな事業展開が必要となり、情報セキュリティのサービスを銀行以外のお客さまに使っていただこうと作り替えたのが「抹消仕事人」です。まさにゼロからのスタートでした。

スタッフは全員が正社員

── 具体的なサービスは、どのようにしていったのですか。
この事業を始めるにあたっては、個人情報保護法の施行でニーズはあると予想していました。そこで同業他社のサービスを見渡してみると、お客さまのニーズに十分に応えられるサービスはありませんでした。例えば、料金体系にしても定価表示もなく、見積りだけ。料金は箱の数や作業負担によって決められていました。つまり、業者側の都合が優先という状態だったのです。加えて、サービス内容の個別相談や回収を依頼しても対応が遅かったり、小口だと別途集配料金がかかるなど、明確でわかりやすいサービス内容、料金体系の表示ということが行われていませんでした。そこで当社では05年に料金体系を明確にして、ホームページで公開したのです。

── 現在の売り上げはどのようになっていますか。
年間売上は、およそ1億8000万円です。内訳は情報抹消の手数料が90%で、古紙の販売が10%になっています。私が引き継いだ当時の売上額は6000万円ほどでしたから3倍になり、ここ6年は利益も出ています。

── 営業はどのようにされていますか。
新規顧客は基本的にはホームページと電話によるものです。当初から訪問営業は難しいと思い、ダイレクトマーケティングしかないと考えていました。そこで通信販売のノウハウから勉強し、ホームページの閲覧数、問い合わせから何件、注文につなげられるかを出して、そこからどうしたら問い合わせに繋ぎやすいホームページにできるか。問い合わせから注文に結びつける電話対応とアフタフォローと、徹底してお客さまに喜んでいただけるよう考えました。

── サービスの中で他社と違うところはどういったところですか。
回収から工場内のスタッフは、すべて正社員です。繁忙期でもパートやアルバイトは使っていません。やはり、機密文書を扱うので、そういう意味でのクオリティを高くしています。もちろん、ISO/IEC27001を取得しています。

通常のサービスでは、ファイル、バインダー、クリップなどでとめたまま丸投げで対応しています。これは楽と好評なのですが、このサービスでは分別作業で段ボールをあけなくてはなりません。そのため一切外部の目に触れさせず、段ボールごと処理できないかというお客さまの要望から「未開封処理」も行っています。ただ、このサービスでは分別だけはお客さまにお願いしています。

──今後はどのように事業を展開しようとお考えですか。
お客さまに喜んでいただける、もう一度使いたいと思っていただけるのが一番の強みであると思っています。機能面でのセキュリティの高さ、価格面で自信は持っています。しかし、日本一、世界一になれるかといえばこれは現実的ではありません。そうであるならお客さまの声を大切に、喜んでいただける「感情的価値」をもっと高めていきたい。そのためにはマンパワーが重要になるので、人をどう育てていくかということが課題です。スタッフのモラルとお客さまへの思いで、サービスの質が変わるので、この点に力を入れています。その方法として、自分たちの職場環境をよくして、社員が楽しく快適に仕事ができるような会社にしていきたいと思っています。

© 2017 WizBiz inc.