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名経営者30人の名言・格言|月刊BOSSxWizBiz

オリックス社長兼グループCEO 井上 亮
いのうえ・まこと 1952年10月2日生まれ。東京都出身。75年中央大学法学部卒。同年オリックス入社。2003年投資銀行本部副本部長、05年執行役でプロジェクト開発本部長、06年常務執行役兼業務改革室管掌、08年海外事業統括本部長、09年グローバル事業本部長、10年取締役執行役副社長で投資銀行本部統括。11年1月社長兼グループCOO、14年1月グループCo‐CEO、同年6月からグループCEO。

海外収益で約1000億円

── 欧米、アジアを問わず、世界情勢が例年にも増していろいろと動きが激しいですが、世界の激動ぶりは直接間接、ビジネスに関わってくることもあると思います。そこにはリスク要因とビジネスチャンスとが混在しているわけですが、国際派の井上社長はどう見ていますか。
英国のEU離脱問題に関しては、当社は英国のエクスポージャー(出資金や貸付金がリスクに晒される度合い)はゼロですし、むしろこれから投資するチャンスも出てくると思っています。また、我々は製造業ではありませんので、米国のトランプ政権の政策にも大きな影響は受けません。強いて言えば、トランプ政権発足後、株価がどういう動きをしていくのかなというのは注視していました。

僕はたまたま、トランプ氏が大統領選挙で勝利宣言した時、出張でニューヨークにいたんですが、いまはもう、何がどう転んでもおかしくない時代。そういう意味では、これからはこちらの方向だよねと思って、決め打ち的な投資をしたら絶対にダメです。

── 一方で、国内の景気見通しですが、東京五輪まであと3年強、五輪後の不況などはどの程度、想定していますか。
五輪といっても、前回(1964年の東京五輪)と違って、いまはインフラはほとんど整備できているので、五輪による我々の仕事の影響度はないですね。ただ、これから不動産やホテルといった業種の事業はピークアウトしていきますので、そのあたりはよく見ておかないといけないとは思っています。

五輪後にリセッションも出てくるでしょうけど、機関投資家のほとんどは外資系です。その外資系の投資家たちが一番、心配しているのはやっぱり為替ですからね。為替が円高に振れれば、彼らはそれだけで10%や20%のキャピタルゲインが取れますから、為替の行方がどうなるかが、一番大きな関心事なのです。

最高益を更新し、純利益3000億円も射程に入れた井上亮・オリックス社長。

── さて、社業では今年1月以降、井上社長自らグループIoT事業や新規事業を管掌されましたが、その狙いはどこにありますか。
この手の事業は、予算云々などと言う前に、とにかく1年か2年やらせてみようと。所属部門からいろいろ説明は受けていますけど未知数というか、たとえば新聞等のメディアに載っているようなIoTビジネスの話は、我々の事業に結びつくような話はあまりないと思っています。IoT以外も含めて、まだまだ話題先行ですよね。

IoT関連企業に投資するベンチャーキャピタルなども含めて、話題先行の会社ってだいたいその後、みんな消えてしまうので、本当に実需になってくるかどうかの見極めはこれからです。フィンテック関連も、クラウドファンディングとか、当社も一生懸命勉強はしていますし、具体的な事業として立ち上げようという話もしています。ただ問題は、立ち上げた後、どこまで収益に貢献できるか。2600億円の純利益(数字は2016年3月期)を出している当社が、ここでフィンテックの事業をやって10億円とか20億円稼げたとしても、はっきり申し上げてあまり意味がありません。問題は、それが100億円、200億円の収益を生むビジネスに育つかどうかです。その見極めの過程で、もし育たないと判断したら、ほかの有望事業に人材も資金もつぎ込みますから。

── いま、オリックスの収益構造や利益頭は何でしょうか。
ざっくり言えば、海外が1000億円ぐらいの利益で、そのうち半分が米国です。あとは、リテール(生命保険、銀行、カードローン事業など)が300億円から400億円、国内の営業部門でやはり300億円から400億円、メンテナンスリース(自動車リース、レンタカー、カーシェアリング等のビジネス)もほぼ同額でしょう。

当社はだいたい、1つのセグメントで200億円から300億円稼げるような部隊にならないと独立したセグメントになっていきませんから。もう1点、日本の企業って1つの新しい方向に誰かが行くと、みんなそっちに行くじゃないですか。そうするとレッドオーシャンで飽和状態になる。当社みたいな会社は、みんなと同じ方向に行っても生き残れませんから、違う方向にいくことを志向しています。

商社との考え方の違い

── これだけ事業の守備範囲が広いと、資源ビジネスを手がけていない総合商社のようなイメージを持たれることもありますが。
オリックスの特徴は金融の視点、観点から事業に入っていきますので、アプローチの仕方が商社とは違うんです。金融の目線から入っていったほうが、事業案件も非常に冷静に見られると思います。金融でなく、事業から入るとのめり込むじゃないですか。平たく言えばその事業を愛しちゃうわけでしょう。そうすると、時には目が曇っちゃうんですね。ですから「どの部門、事業に関わっている社員も、みんな金融知識は持ちなさい」と言っていて、金融知識があるからこそ、事業投資ができると私は思っています。

── 商社と手を組んでやるような案件はあまりないですか。
過去、いろいろな話はありましたけど、結局、商社と組んだ案件って、ゼロとは言いませんが、片手あるかないかでしょう。商社からアセットを買ったというケースはありましたけどね。当社では投資に対してのリターンを気にしますけど、商社の方って、投資よりも、たとえば投資先の周辺の物流でも稼ごうといった考え方があるじゃないですか。大きく資金投下して商圏も拡大してと。資源ビジネスがその典型でしょう。当社ではそういう考え方はしませんし、投資した時点から即、収益貢献できるビジネスに限定してやっています。

── 最近は、メガソーラー事業や空港運営権などのコンセッションビジネスの話題が多いせいか、インフラ事業を手がけるイメージも強くなっています。
メガソーラーについては、あと1年ぐらいで手がけたものが全て稼働する予定で、屋根置きのソーラー発電も入れると、国内では最大級のメガソーラー事業者になります。海外でもメガソーラービジネスの商談はたくさんありますから、国内外合わせれば、そこそこのポートフォリオになっていくでしょう。あとは、収益が安定してきたら何らかの事業の流動化を考えるか、あるいは継続保有してキャッシュフローを積み増していくか、このあたりが次のテーマですね。

コンセッションの事業はまだまだ小さいです。関西空港、伊丹空港、それに手を挙げた神戸空港という関西エリア以外でもお話があれば勉強しますけど、このビジネスはセレクティブにやりたい。次に出てくる商機は、福岡空港や北海道の新千歳空港でしょうね。

── 関西は3空港すべてやるとして、事業のリスクや将来性はどう考えますか。
関空や伊丹の発着枠は飽和状態ですから、神戸空港の発着枠をどうやって増やすかですが、ここは関空や伊丹の補完的意味合いが強く、そこはある程度柔軟性が確保できるので、やるべき事業だと思っています。

よく、関空と伊丹で総額2兆2000億円の運営権対価と言いますが、契約期間は向こう44年あり、総額でなく年間ベースで換算すれば大した金額ではありません。要は毎年1年分のコンセッションフィーを払えば済むわけで、その間、それ以上の収益を上げればいいわけですから。

── 空港コンセッションは、どの程度の収益を見込まれるのでしょうか。
残念ながら、それほど収益性は高くないです。ただ、関西は京都を筆頭に観光資源はたくさんあり、関西圏のビジネス客こそ少ないですけど、インバウンドを含めてトータルではまだまだ観光客は増えていきますから、航空需要も堅調でしょう。もちろん、為替が大きく円高に振れたり、予期せぬテロやパンデミックなどが起これば空港の収益は下がりますけど、それは一過性で、トレンドとしては基本、右肩上がりに変わりありません。

入札のM&Aはしない

── 目下、投資候補に挙がっている案件はどんな分野が多いですか。
インフラ系、それに通常のプライベート・エクイティなどの金融系がやはり多いですね。さすがにIT系はない(笑)。このジャンルは当社で直接やれるような分野じゃないですから。トランプ大統領は、再生可能エネルギーに対してはあまり積極的でないようですが、とはいえ、それも一過性だと思ってますし、ここから当社がシェールガスなど、レガシー系のエネルギー分野に入っていくことは興味ありません。当社で風力発電事業を始めたインドなどを含めて、海外でもいずれ再生可能エネルギーのビジネスの話はいろいろ出てくるはずです。

── 国内では、東京五輪を控えていることもあって不動産マーケットはなお、賑わっていますが、先行きは不透明だという指摘もまた多いです。オリックスでは以前、分譲マンション大手の大京を子会社化(持ち株は63.7%)しており、それとは別にオリックス不動産も擁しているわけですが、不動産分野の展望はどうですか。
分譲マンションはもう高値でピークでしょうし、大京もいまは管理や仲介事業に軸足を移しています。不動産市場は、いずれはおかしくなる可能性が高いですが、逆に言えばその下落時に土地を仕入れればいいだけの話で、いまの高値で仕込む必要はないですね。ただ、億ションなどの高級な物件はまだそこそこ売れてますし、オフィスビルもきちんとしたロケーションであればいいのでしょうけど、地方都市での新規展開はちょっと怖いですね。一方で物流系のビジネスは今後も引き続き好調に推移するでしょう。新しいプロジェクトも十数件ありますし、状況を見ながら開発できるものはして、売れるものは売ってと、そういう展開をしています。

オリックスの変身に完成形はない。

── 一方で、モノを買わないミニマル世代やシェアリング・エコノミーが喧伝される中、オリックス自動車が手がけるカーリース、レンタカー、カーシェアリングは、時代に合ったビジネスといえそうです。
ですが、僕からすればシェアリング・エコノミーって何なの?っていう感じ。確かに自動車の新車販売は落ちていますけど、中古車は結構、売買が動いてますから、シェアリングがムーブメントのように言われると違和感があります。カーシェアリングも最大手と張り合うほど徹底的にやるような考えはなく、あくまでオリックス自動車で扱うプロダクトやサービスの1つという位置づけですから。

── 総合的に見て、足元の優先課題は何でしょうか。
M&Aです。いろいろな業種のマーケットを見ていて、高値買いをされている会社も結構見受けられるので、そういうのを見ているとどうしようかなと。当社はM&Aに関しては基本、バイラテラルというか相対でしかやらず、入札になったら手を挙げませんから。

── M&Aした後も、いつでも売れるようにしておくという、資産の入れ替えを前提にしたものだと。
基本は全部、そうです。常にエグジットは頭に入れてやっていますから。売買で言えば、航空機が一番、頻繁ですね、買って売って買って売ってという形で言えば。早いものだと買って1年以内に売却などがありますから。当社ではいま、150機前後の機体を保有、管理していて世界中の航空会社にリースしていますが、航空機以外でも最近、リース用船舶を3億ドルで買いました。もちろん、リーズナブルな価格でです。M&Aをする際は、ROA(総資産利益率)で3%をきちんと維持できるような買収をしていますから。

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名経営者30人の名言・格言|月刊BOSSxWizBiz

椎名武雄 日本アイ・ビー・エム社長

「親(会社)を説得したこと。これは相当気をつかいますよ。親のいうことばかり聞いていたんでは会社はつぶれてしまう。だから椎名が言うならしょうがないやというところまでもっていくのが大変だった。これは逆に考えればよくわかる。日本の企業の海外子会社が、日本の言うことばかり聞いていたら、うまくいくわけがない。それと同じで日本アイ・ビー・エムの玄関に星条旗を掲げちゃだめなんだよ」
(1992年11月号・社名、肩書は掲載当時のもの)

75年に日本IBMの社長に就いた椎名氏は、約18年間社長を務め、93年1月に北城恪太郎氏に社長を引き継ぐことを発表、これはその直後のインタビューで発せられた言葉だ。長い社長生活のなかでの思い出として本誌に語られたものだが、「日本法人の独立性」に腐心したことがうかがえる。

椎名氏は、外資系企業でありながら経済同友会の副代表幹事を務めるなど、日本の財界にも影響力を持ち、終身雇用や顧客第一主義等、日本企業以上に日本的経営にこだわるスタイルでIBMの社会的認知度を高めた、その立役者だと言える。

親会社である本国が関与してきても、「いざとなったら、こっちも啖呵を切るからね。お前ら何を言っているんだ、これは俺のテリトリーだろう、こっちにもプライドがある」と意見を押し通したという。

99年に椎名氏は会長を退任。以降、日本IBMは2001年から12年連続で減収決算となり、リストラ・減俸に追われることになった。寂しくも12年から外国人が日本IBMの社長に就いている。

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経営者インタビュー

飲み口でろ過「浄水器を携帯する」ドイツ生まれのブリタ式発想法 ブリタ・ジャパン社長 マイケル・マギー

汗ばむ季節になり、外出先にもペットボトルのミネラルウォーターや緑茶を携帯することが多くなった。そこに、飲み口でろ過するという新発想で〝携帯する浄水機能付きボトル〟を売り出したのが、ドイツ生まれのブリタ・ジャパンだ。「そういえば」と、ブリタのテレビCMを思い出した方もいるだろう。そこで同社のマイケル・マギー社長に、販売の手ごたえや戦略、ブリタの考え方などを聞いた。

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

キモは小型カートリッジ

── 「ブリタ」といえば、ドイツの家庭用ポット型浄水器ブランドとして日本でも人気ですが、今年2月に、“浄水器を携帯する、という新習慣”〟いうコピーで、浄水機能付きボトル、要は外出先で補充した水道水も飲み口でろ過をするという、「fill&go」(以下フィル&ゴー)を発売しました。〝おいしい水を買わずに飲めるという新提案〟というコンセプトでしたが、ここまでの販売の手ごたえはどうですか。
当初のプランニングの段階では、かなり高い販売目標にしていました。まったく新しい商材でしたので、昨年対比とかそういうものがなく、新しい市場を作り出すという意気込みです。価格的にも、割とアグレッシブな単価を設定(実売価格で2000円前後。交換式のカートリッジが3個セットで同1900円前後)したのですが、いまのところ予定通りに推移しています。今回の商品は、ボトルウォーターの市場をヒントに開発したものですが、実際に使っていただいて、ご満足いただいたという声もたくさん返ってきていますし、販売も順調ですね。

── 日本以外でも販売している商品なのですか。
台湾と欧州の一部、ドイツと英国ではすでに販売しています。特に1年ほど前から先行販売した台湾でも好評で、大成功を収めていると聞いていますし、どの国であっても、水道水の中に含まれる塩素などを除去し、美味しく水を飲みたいという欲求は、万国共通なものとしてあるでしょう。

── 商品の開発過程で苦労された点は何ですか。
さきほど言いましたように、ヒントとしてはボトルウォーターの市場が伸びているので、そういうニーズを取り込むのに我々でしかできない商品を、というのが原点でした。携帯して持ち歩く商品なので、性能は高く、しかも小型で扱いやすいものというのがキーワードです。

開発のポイントは、何と言っても新開発した、高性能かつ小型化を両立させた「マイクロディスクカートリッジ」でしょう。このカートリッジは、直径5.5センチメートルの円形で、厚さ6ミリ、さらに重さが7グラムという軽量さです。そして、カートリッジ1個当たりのろ過能力は水150リットル。これは、500ミリリットルのペットボトルウォーターで300本分にもなり(フィル&ゴーは600ミリリットル)、活性炭の表面積を合計するとサッカー場約1面分の広さに相当するのです。

── 購入した消費者の声も、ダイレクトに入ってくるものなのでしょうか。
ええ、当社では「ブリタクラブ」という20万人からの会員組織の活動を行っていて、そこから直接いろいろな声をいただいています。たとえばフィル&ゴーのキャップはヴィヴィッドなカラーで4色展開していますが、「可愛い」とか、「家族で使い分けができていい」など好評で、色に対するフィードバックが思った以上にたくさん返ってきていますね。プラス、便利で手軽に持ち歩けるということと、ペットボトルを捨てなくていいとか、環境を意識された声も上がってきています。

また、ブリタ会員になっていただいたら、会員様とのつながりを大事にしていきたいので、イベントを企画したりもしています。いまの時代は、オンラインでもオフラインでも直接、お客様から使用感やご意見、ご要望をいただける時代ですので、ありがたいですね。

ご家庭では、2リットルのペットボトルのミネラルウォーターを買い置きされるところが多いかと思いますが、ネット通販などでの宅配は別にして、お店から持って帰るだけでも大変でしんどいことですよね。そこで水道水を美味しく、かつ安全に飲めるソリューションとして、フィル&ゴーはとてもメリットが大きいのかなと思います。

── アマゾンなどで購入者のレビューを見ると、若干容器が大きいとか、飲み方を一工夫しないとゴクゴクとは飲めないといった感想や要望も散見されますが。
もちろんそうしたお声も承知しており、今後の商品展開に活かすかどうかの参考にさせていただいています。容器の大きさに関して言えば、通常の500ミリリットルのペットボトルより少し大きい程度ですが、製品の形状や容量もイノベーションの大事な要素だと思っていますので、貴重なご意見として受け止めています。

── 同じ市場ではないですが、「サントリーの天然水」など、既存のミネラルウォーター市場を取っていく考えもありますか。
同じ土俵とは捉えていませんが、一部、ニーズは重なっていますのでそこは需要を取り込めるのではないかと。ただ、その程度の話ですね。ペットボトル市場にも我々の製品にも、それぞれに役割があると思っていますし、それぞれの市場規模が大きく違いますから、おそらくほんの一部のシェアをいただけるかどうかだと思います。

── フィル&ゴーと直接、競合するような商品は、まだ出ていないですか。
数年前に、三菱レイヨンさんから「クリンスイ」という商品は出ましたが、この市場は規模としてはまだ小さいですから。実質的には、新しい市場を作っていくんだという意気込みで我々としては活動しています。

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

オフィスでもなじむボトルデザインだ。

「水」には多くの事業機会

── もう1つ、従来展開してきた浄水ポットのほうですが、こちらも東レが「トレビーノ」という商品を出していますが、そうした競合品との差別化ポイントはどのあたりに置いていますか。
カートリッジのシステムが違ったりということはありますが、それ以外にもデザイン性や使いやすさ、利便性、そのあたりですね。そもそも、この商品カテゴリーを作ったのはドイツのブリタなので、歴史も他社より長いのです。ドイツでブリタが誕生して昨年で50年ですから、歴史もノウハウもあると自負していますし、開発の多くがドイツ本社で行われていますので、ドイツのデザインセンス、あるいはモノづくりへのこだわりも活かされているわけです。

── 商品ジャンルは違いますが、精密機器や自動車などで、ドイツ製の製品に対して、日本人の信頼感はすごく高いですしね。
はい、こだわりの多い文化だと思います。

── もともと、ドイツでブリタが創業した経緯はどんなものだったのでしょうか。
ハインツ・ハンカマーさんという方が創業者ですが、家庭で使えるろ過ピッチャーを彼が発案し、いまの製品とは姿、形も大きく異なりますが、水を、より美味しく飲むための製品を作る情熱がありました。余談ですが、彼は名前のハインツを社名にしたかったらしいのですが、残念ながらケチャップで有名なメーカーで先に、ハインツが社名に使われていたので断念し、ご自分のお嬢さんのブリタからとったそうです。ですからいまでも基本、ブリタは同族経営の企業ですが、ルーツは小さく事業を始めたという経緯ですね。

── マギー社長個人も、かなり前からブリタは使っていたのですか。
個人的にも以前から好きで、ブリタに入社することになったきっかけも、水という生活になくてはならない大事なものでありながら、日々の暮らしの中ではあまり考えずに接しているものが水ですので、いろいろなビジネス・オポチュニティがあるという思いから入社を決断しました。

── ブリタ製品はすでに、本国のドイツ以外での売り上げが全体の8割以上を占めているとか。
今後、さらにドイツでの比率は下がっていくと思います。いま現在、60カ国以上で展開していますが、成長が顕著なのはやはり海外ですね。

── その中で、日本市場の占めるボリュームはどのくらいですか。
そこは非開示ですが、メジャーな市場の1つであることは間違いありません。アジアが大きな成長マーケットだと捉えていますが、中でも味にこだわる日本のマーケットへの期待は大きいです。なので我々も、よりいまの市場を拡大することに努めていきたいですね。

── 日本では、さらにどんな展開を。
付加価値や新しい市場を作っていくことですね。既存市場の中でシェアを取り合うというよりは、まったく新しい価値を作りだしていく。フィル&ゴーは、まさにその第1弾だと思っていますけど、そういう根本的なイノベーションを目指していきます。

販路としてはかなり幅広く展開させてもらっていまして、オンラインでの販売ももちろんありますが、さらにブリタというブランドを知っていただきたい。ポット型浄水器もそうですし、フィル&ゴーも認知度がまだまだだと思っています。ブランドを知っていただき、製品も理解していただき、その良さをわかっていただくことが重要です。広告投資も大事ですが、店頭で実際に手に取ってご実感していただきたいので、量販店をはじめとした店頭販売には特に力を入れています。

「ヴィヴィッドなキャップカラーも人気の要因」とマイケル・マギー社長。

店頭での販売が特に重要

── マギー社長は過去、異業種の日本法人にいらっしゃったんですね。
かつてはフィリップス、前職ではスリーエムという会社にいまして、いまのブリタも含めてみんな、イノベーションという共通項があると思っています。前職も、基本はマーケティング系の仕事で、いかにして市場価値を作って買っていただくかの仕事を、スペシャリティにやってきています。スリーエムでの担当は文具市場でしたが、いずれにせよ、消費者が満たされていないところに、いかに新しい価値を提供していくのかが大事で、現在とは扱っている商材は違えど、ビジネスの考え方は同じだと思っています。

── その2社以外にもキャリアはあるのでしょうか。
私のワーキング・キャリアはずっと日本で、実は親が宣教師をしていた関係で北海道で生まれ育ち、日本はいまではホーム・カントリーぐらいの気持ちでいます。途中まで日本の小学校にも通っていましたがインターナショナル・スクールに転校し、大学は米国(ミシガン大学のビジネススクールでMBAを取得)。さきほどの2社の前は、ジョンソン・エンド・ジョンソンにしばらく勤めていました。

── ドイツの本社には、各国のブリタの現地法人社長が定期的に集まるかと思いますが、最近は、どんな話題が多いのでしょうか。
多様化が1つのキーワードで、製品も日本で販売しているもの以外にもたくさんあるのですが、では、どういう製品をどこで売っていけばいいのか、どういうスピードで製品ポートフォリオを多様化していったらいいのか、そのへんの戦略が大きなテーマになってきていますね。

── 長期的にみて、ブリタの成長は日本でどう考えていきますか。
ポット型と、今回のマイクロディスク型製品と2本の柱で、まだまだ成長できると思っていますので、しばらくはこれらの商品の家庭内浸透率であったり、あるいは認知度をさらに上げて、いまの数倍規模までは伸ばせると思っています。その後は、日本ではまだ発売していない製品群もたくさんありますので、その中から適宜、日本市場にもマッチするものをチョイスして、さらなる成長に向けた多様化を図っていきたいですね。

── コンシューマー向け以外に、法人向けビジネスも何か手がけていくのでしょうか。
いま現在はないですが、海外にはプロフェッショナル・ビジネスというものは存在します。具体的には業務用製品のフィルターなどですが、そういうものも1つのビジネスアイテムとして検討はしていきたいですね。ただし、急ぐこともないと思っています。

ともあれ、先ほど言いましたように店頭での販売がとても重要なので、ここで正しくお客様にブリタ製品をご理解いただき、商品の良さも実感していただくということが、プライオリティの第1になります。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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経営者インタビュー

SNS炎上からテロリストまでテクノロジーで社会問題を解決 菅原 貴弘 エルテス社長

菅原 貴弘 エルテス社長
すがわら・たかひろ 1979年生まれ。東京大学経済学部経営学科在学中の2004年にエルテスを創業。社長に就任。ソーシャルリスクマネジメントの領域に着目し、リスク解決を手掛ける。昨年11月東証マザーズに上場。デジタルリスクマネジメント専業の企業として初めて上場(東証マザーズ)を果たしたエルテス。創業以来、サイバー攻撃や風評被害など、テクノロジーの発展とともに顕在化したデジタルリスクの問題解決を図ってきた。昨今では官民連携して社会問題にあたるなど、注目企業に成長している。そのエルテス社長の菅原貴弘氏に話を聞いた。

デジタルリスクで初の上場

── インターネットでの炎上や風評被害がよく報道されるようになりましたから、企業として認知されやすくなったのではないですか。
そうですね。しかし、SNSの炎上やフェイクニュースは、昔からあった問題です。何をいまさらと感じる人も多いでしょう。ネット上には間違った情報が氾濫しているという認識は、多くの人が持っていたと思います。それがようやく社会的、政治的な問題になってきました。

── 先日もDeNAがキュレーションメディアに関する謝罪会見を開きましたが、不正確な記事や著作権法、薬機法に違反する記事があったことで問題が広がりました。
今回のメイントピックの1つである著作権は、管轄が文化庁になります。文化庁は行政のなかでも民間に介入してこない、民間と民間で決着してくださいというスタンスのところです。なぜなら、特許庁のように申し込みや登録がされる場合は権利が侵害されているかどうかの判断ができますが、著作権は書いた瞬間に生じるものなので、引用された側が言わなければわからないからです。

引用された側もネット上のすべての書き込みのなかから見つけるのは不可能ですし、効率も悪いです。見つけて訴えるとしても、自分の著作権料よりも裁判コストのほうが高くなる。取り締まりが非常に難しく、健全化も難しいと言えます。その意味で、業界全体できちんと自主規制をして、権利を侵害しないようにするしかできないでしょう。

── こういった問題でも、エルテスの出番はあるわけですか。
たとえば、発信する側の企業から、著作権がきちんと管理されるようなフローを作ってほしいといった依頼ですかね。健全化するためのフロー、または健全化したのちの文言をコンサルティングしてほしいという話はあります。特にBtoCのネットビジネスでは、行政対応の作業が非常に多いです。たとえばネット上のコミュニティの場合、児童買春や児童ポルノといったトラブルが起こらないようにすることも健全化にあたります。こうした行政の要望にも応えられるサイトにする手伝いをコンサルティングする場合もあります。

特に弊社の場合、行政対応までコンサルティングしますので、上場したことで企業の側から問い合わせをいただくことが増えている。ビジネスとしては追い風になっていると感じますね。

── SNSなどで、企業の発信の仕方に関するリスクもありますね。
現在、どういった面での批判が集中しているのか、論点を掴んでおかなければいけないですね。たとえば女性蔑視といったパターンで炎上しやすい時は、似たようなことをしていると炎上してしまいます。ある自治体での話ですが、うなぎを女の子に見立ててスクール水着を着せて泳いでいるPR動画があったところ、うなぎ養殖を、女の子を監禁しているように思わせると大炎上になってしまいました。似たようなことをしていると、炎上が飛び火して連鎖していくことになります。

── 単発で事故やトラブルが起こることは仕方ないとしても、飛び火するのは怖いですね。
食品の異物混入も大きな騒ぎになりましたが、マスコミの方も炎上させる側になってきています。食品メーカーの場合、1件の異物混入については、お客さんの間違いの可能性もあるので、公表しないんです。食品メーカーと接しているぶんには、メーカーの言い分のほうが正しいと思います。購入した方の勘違いの可能性もあるなかで、1件だけで公表して自主回収するのはやりすぎです。それを隠蔽だと責めてくる人が増えている。マスコミの方もスクープを取りに来て変質しているように思います。

日本の炎上は「妬み」から

── 仮に何か不祥事があったとして、企業としては炎上を大きくしないために、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
人のせいにしないのが重要ですね。現場が暴走しましたというような発信は二次炎上するケースが多いです。現場の暴走と言っておきながら、実はマニュアル通りだったことが情報として出てくると、大変なことになります。基本的には、情報収集をしっかりやって、経験ある業者の力を借りて、きちんと対応すること。企業の広報の方で炎上を何度も経験している人は、そうはいません。初めての場合は動揺して、火に油を注ぐことになる可能性もありますから。

── 企業からエルテスに依頼がある場合、広報担当の部署が多いわけですか。
そうですね。ツイッターを始めるのに、経営陣が炎上を気にするからルール作りをしてほしいとか。実は、炎上してから相談されても、できることは限定されているんです。なかったことにはできません。欧州では、言ってみれば「忘れられる権利」のような権利が認められていますが、日本は「知る権利」のほうが重要だという判例が出ています。

── 海外と日本で炎上の仕方に違いはありますか。
欧米だと、炎上は組織立っていて、匿名ではない。グリーンピースなどのように、名前や組織名を出して責めてくる。日本は陰湿で、匿名の個人が刺してくる感じです。

── その違いはどこから出てくるのでしょう。
日本は妬みのようなものが多い。個人のSNSでも、高学歴の人や大企業勤めだと、より炎上しやすい。内定を取り消してやろうとか、クビにさせてやろうとかが多いですね。企業の従業員や従業員の家族から炎上することもあります。例えばタレントが来店したとか、誰と誰がカップルで来ていたとSNSで上げる。ちなみに、女子高生のツイートで、その父親の企業が特定され、会社を辞めざるを得なかったような話も聞きます。

※エルテスが設立したデジタルリスク総研のレポート記事のアクセスランキング。ソーシャルリスク分野に加えて、企業内部の不正や金融犯罪の検知をはじめとしたリスクインテリジェンス分野における研究を進めている。

── 企業としてはどう対処したらいいのでしょう。
従業員については、ネットリテラシーに対する教育です。アルバイトの場合、一般人と従業員の境が難しいのですが、そこを教育するしかない。昔は法人と個人は別のものとして分かれて考えられていました。でも、個人は必ず学校や会社などの組織に属しているので、現代のような炎上時代だと、どこから燃え出すのかわかりません。

── 経営者が考えなければいけないデジタルリスクはありますか。
ほとんどの中小企業の経営者の方は、ウチはリアルの業務だから関係ないと言っていたりします。実際にあった話なのですが、ある飲食店で、なぜか火曜日に客が来ないと思ったら、ネットで火曜日が定休日にされていたという話があります。ネットの風評を多面的に見ておかないと、実は機会損失を起こしている可能性があるのです。

── エルテスは人工知能(AI)やビッグデータといった新しいテクノロジーにも注力していますね。将来的な展望を聞かせてください。
いまビッグデータでテロリストを見つけるということに取り組んでいます。2020年の東京五輪に向けて、それを完成させる。我々はフィンテックならぬ国防テックと呼んでいるんですが、いまや国防は日本国内で完結していけるようにしなければいけません。こういう分野にビッグデータやAIを使って貢献していくのが目標です。

ビッグデータでは、サンプルではなく全量調査を行うので、リスクは下がります。欧米ではすでに実現してますので、日本も早く整備したほうがいい。最近のテロリストはネットで犯行予告をするケースもあり、事前にリスクの高い動きをデータとして蓄積することで対応が可能になります。政府行政とも連携し、社会的リスクをテクノロジーで解決していく企業に成長したいですね。

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経営戦記

加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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マニアユーザーに応えるBTO-PC こだわりとゲームPCの広がり サードウェーブデジノス会長 尾崎健介/ゲーミング事業部部長 野口基督

百花繚乱を極めた日本家電メーカーによるPC産業も今や昔。撤退を続ける日本メーカーを横目に、マニアの需要に応えているのがBTOメーカーのサードウェーブデジノスだ。そんな同社のものづくりの極意とは?

残るのはBTOだけ

4月1日、将棋のプロ棋士とコンピューターソフトが勝負する第2期電王戦二番勝負で、佐藤天彦名人が破れ話題となった。現役のタイトル保持者(名人位)が公式の場でコンピューターソフトに敗れたのは、初めてのことだった。昨年の囲碁に続き、将棋のトップ棋士までもが敗れるほどに、ソフトやAIの進化が進んでいることを印象づけた。

そんな電王戦で使われているのがサードウェーブデジノス(ドスパラ)のゲームPC「ガリレア(GALLERIA)」というマシンだ。

「電王戦で使ったモデルは演算処理で高性能なPCで、短い時間でより多くの計算ができるシステムになっています。見た感じはゆったりと動いているように見えますが、裏ではものすごい勢いで連続的な計算を行っています」

尾崎さん(上)と野口さん(下)。

こう話すのはサードウェーブデジノスゲーミング事業部部長の野口基督さん。

サードウェーブデジノス(ドスパラ)という社名を聞いてピンときた方はかなりのPC通。同社は、パナソニック、東芝、NECやデル、レノボといった電機メーカーやPCメーカーと違うBTOメーカーなのだ。

BTOとは「Build to Order」つまり受託生産という意味だ。具体的には、電機メーカーやPCメーカーのPCは、メーカーによって決められたパーツで構成されているが、BTOはメモリーやHDDの容量、グラフィックボード搭載の有無やその種類、もっと言えばCPUまでもが自分の好きなもので構成することができる。いわば顧客の要望に合わせたオーダーメードなPCを組み立て、販売しているメーカーというわけ。

一時、日本の電機メーカーはほぼすべてがPCの製造販売を行っていた。しかし、徐々にPC事業から撤退が進み、ついには日本のPCを牽引してきたNECも中国のレノボと設立した合弁会社の株式をレノボに売却し撤退。富士通もパソコン事業部をレノボ傘下に移すことを決定している。いまや国産メーカーとしてはパナソニックと本体から切り離された東芝ぐらいなもの。しかも、大手メーカーのPCはほとんどが中国で組み立てられた「メイドイン・チャイナ」だ。

一方、サードウェーブデジノスのPCはすべて神奈川県綾瀬市で組み立てられた「メイドイン・ジャパン」と、日本製PCはもはやBTO-PCだけになっている。

本当のユーザー視点

こうしたBTO-PCを使っている人とはどういう人か。それはPCゲームや画像、映像を扱うクリエーターというハイスペックな機能を求めるマニアなユーザー層が中心だ。だからこそ、求められる要求も高い。

1台1台丁寧に組み立てを行っている工場内。

同社の会長である尾崎健介さんはこう話す。

「私たちBTOメーカーは、それぞれの使用目的に合わせ、それに対応できる性能を持ったPCをきちんと販売していかなくてはなりません。具体的には、一般的なメーカーPCでは1分近くかかる何万行もあるようなエクセルファイルを1秒で開く、詳細な3Dグラフィックがストレスなく動くというようなことです。そのためには商品開発、製造で重点を置き、明確な目的を持ったお客さまの満足度を深掘りしています」

こうした製造でのポイントを前出の野口さんは「ゲーミング部では、常にこのマシンでユーザーがゲームを楽しめるのかということを考えています。ゲームがわからない人間が想像したり、ユーザーから話を聞くだけではなく当社では作っている人間もゲームユーザーです。快適にPCが止まることなくゲームを続けるためにはどうするかについて議論をしています」と話す。

そのためにはCPUやグラフィックボードなどの中核部品はもちろん、同社らしいこだわりが隠されている。

「ゲーム用PCは通常PCと注目すべき点が違い、グラフィックなどの処理能力を上げるとPC内の温度が上がり故障の原因になる。そこで冷却ファンを回すのですが、ファンを回してもうるさくない静音性が求められる。また、安定性という面では電源も重要なパーツで多少の電圧の変動にも耐えるものが必要です。これはハードだけでなくソフトとの関係もあり、そうしたところまで見極め動作保証している点が他社との違いです」(前出・尾崎さん)

PCゲームの広がり

ゲームというと、今やスマホゲームが思い浮かぶ、しかし、今、ゲーム業界に大きな変化が起きつつある。それがe-スポーツというものだ。

GALLERIA GAMEMASTER NX(ノート・左)/GX(デスクトップ・右)はゲームPCの最高峰。

e-スポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームを一種のスポーツ競技として捉えプレーヤーが競い合う。海外では年収1億円を超えるプロゲーマーもいる。

「日本ではゲームというと、スマホやコンソールゲームが中心ですが、海外ではPCゲームが大きな市場になっています。実際、中国では東京ドームのようなところを使ってイベントを開くと、何万人という観客が集まってテレビ放映もされるほど盛り上がっています。

日本はまだまだですが、ユーザー数もだんだんと伸びてきて、e-スポーツ協会が発足し、昨年はe-スポーツ元年とも言われています」(前出・尾崎さん)

すでに成熟商品と思われがちなPCだが、VRやヘッドマウントディスプレイの進化によって、高性能PCの需要はこれまで以上に高まりそうだ。まさに同社の活躍の場が大きくなる。

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【BOSS×WizBiz】リサイクル業から 「捨てさせない屋」へ 企業在庫もきれいに処分

山田正人 日本リユースシステム社長

山田正人 日本リユースシステム社長
やまだ・まさと 1977年千葉県生まれ。95年高校を中退後、個人事業として床下換気扇訪問販売を始めて、以後寝具・リフォーム営業代行、不動産ブローカーなどに従事したのち、放置自転車買取事業、中古品・再生資源原料の輸出専門商社と提携。2004年丸和運輸機関と資本業務提携を行い、日本リユースシステムを設立。代表取締役に就任。

私たちは捨てさせない屋

── 基本的な事業内容はどういったことでしょうか。
一般的にはリユース、リサイクル屋ですが、うちでは「捨てさせない屋」と言っています。メーンは日本で行き場がなくなった中古品を、途上国に届けるというビジネスです。現在、世界32ヵ国に生き物、車、家具を除いたいろいろな物を輸出しています。地域別の輸出先は、東南アジアが6割で、残りは中東、アフリカです。

── 「捨てさせない屋」というのは面白いですね。
どうすれば使える物を捨てさせない仕組みを作るか、ということから行き着いた結果です。「自分は何屋なんだ?」と考えたときにリサイクル屋ではなく、捨てさせない屋だなと思ったんです。この仕事では売ることはあまり難しくない。むしろ集めることが難しい。そこで捨てさせない仕組みをいかに作るかが勝負だと、1年くらいやってわかったことです。

── リユース事業というのは、どういったところがポイントになるのですか。
どこのだれから品物を集めるかでまったく変わります。当社はリユースになるわけですが、物流屋でもあります。実際、どこの国で何がいくらで売れるかは決まっています。ですから、500円でしか売れない商品を、1000円かけていては損をしてしまう。そこでどうコストを落とすか。これはロジスティクスにかかってきます。そこで当社では桃太郎便の丸和運輸機関さんから出資を受け、配送を終えて空荷になったトラックで回収してもらい物流のコストを抑えています。

また、商品をどこから集めるかについては、BtoBかBtoCかで違ってきます。エンドユーザーから商品を集める場合は、お客さまに喜んで物を出していただけるような仕組み作りがポイントです。

当社の現状はBtoBとBtoCの比率が7対3ですが、将来的にはこれを逆転させたいと思っています。前にも言いましたが、リユースビジネスではどうやって売るかではなく、どう集めるかですからね。

── 古着でワクチンというのも、その1つの方法ですか。
これはCSV(Creating Shared Value=社会的価値と経済的価値の共通価値の創出)というビジネスモデルです。リサイクル屋が買取りますといっても、持ってきてくれない人たちがたくさんいることに気がついたんです。

そういう方でも、リサイクルショップに持ち込めば売れるかもしれないと思っています。でも、お客さまとしては自分の思い入れのある服や、それなりの金額で買った服をリサイクルショップで二束三文で引き取られたら気分が悪いですよね。とはいえ、捨てるに忍びない。

ですが、それがだれかの役に立つのであればというような動機付けをすることで、品物を出してくださる方はいらっしゃいます。募金箱にお金を入れた瞬間、何かいいことをしたという気分になれるのと同じようなものです。

そういう方たちにはどうしたら物を出してくれるだろうかと考えた時に出た1つの答えとして、物を出すことで「世の中の役に立つ」「支援につながる」といった、心の満足という価値で物を交換してくれるのではないかと考えて、リクルートさん、JCV(世界の子どもにワクチンを 日本委員会)と、当社が組んでできたのが古着でワクチンです。今では平均すると月間1万人くらいの方からご利用いただいています。

在庫処分の「闇市」

── このビジネスを始めたきっかけは何だったのですか。
私はこれまで会社勤めはしたことはありません。いろいろな仕事を個人事業や、会社を作ってやってきました。そんなときにテレビでリサイクルショップの番組を見て「これからはこれだ」と思い浮かんだんですよ。すぐにその社長に会いに行って、「カバン持ちするから修業させて欲しい」とお願いし半年くらい修業して、独立させてもらったのが、この会社の始まりです。

── 事業内容に「在庫処分の闇市」というのがありますが、どういったものでしょうか。
これは今の会社を作る前からやっていたものなんです。企業がいろいろな理由から抱えた在庫を捨てさせない仕組みを作ろうと始めた、いわゆる在庫処分のソリューション事業です。簡単にいうとバッタ屋ですが、当社ではいろいろな手法を導入したソリューションと言っています。

企業が抱える在庫というのは、いろいろな理由があって、処分の方法についてもそれぞれ企業によって事情があります。

こうした在庫の扱いについては、大別すると5つぐらいのパターンがあります。

1つめが換金重視のパターン。このパターンは国内で売られようがどうでもよく、単にお金になればよいというものです。2つめは廃棄代はかけたくないが国内で売られて、値崩れやブランドイメージが下がっては困るというパターン。こうしたパターンは主に海外で何とかするというやり方になります。3つめは国内も海外もダメ。でも、処分費用をかけたくないというパターン。4つめは在庫を上手に活用し、寄付という形でCSRに活用するパターンです。5つめは儲かっている会社の在庫の活用です。

これらについては詳しいことはお話しできませんが、当社ではこうした企業の在庫処分、活用についてはそれぞれのソリューションを持っていますので、在庫でお困りのことがあればどんなことでも相談に応じられると思います。

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