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名経営者30人の名言・格言|月刊BOSSxWizBiz

今号で創刊30周年に突入した「月刊BOSS」。前身の「月刊経営塾」時代を含め、早々たる経営者たちが誌面を彩ってきた。今回の記念号では、その名経営者インタビューのなかから30人を厳選。バブルの好景気、失われた20年から、リーマンショックの大不況、勝ち組ベンチャーまで、時代時代に語られた名経営者の言葉をふり返ってみたい。

盛田昭夫 ソニー会長

「アメリカ人は商売で、すぐに『時間がない』と言う。しかし私はよくアメリカ人に言うことは『時間がないとは言いなさんな。日本はいまだかつて後ろに下がったことはないんだ。いつでも前に進んでいて、やることはちゃんとやっているんだ。そして実績を上げている。だからこそ、日本はここまで強くなったんだ。これに対して、アメリカのポリシーを見ていると、逆さまになったり、裏返しになって歩いたりしている』ということだ」
(1989年2月号掲載・社名、肩書は掲載当時のもの)

盛田氏が脳内出血で倒れたのは1993年のこと。それまで盛田氏はインタビュー、対談、座談会と、本誌創刊から何度となく登場し、その論客ぶりを見せつけてくれた。

「ソニー会長」という肩書での登場ながら、登場した際の話の多くがアメリカ絡み。大賀典雄氏が社長に就いていたこともあり、ソニー本業の話は大賀氏、日米経済問題については盛田氏と棲み分けがされていた。

冒頭の言葉は、共和党のブッシュ新政権についてのインタビューで語ったもの。盛田氏は日本の立場を常に米国に主張しつづけ、国際舞台でも日本の立場から言うべきことは言う、という姿勢を貫いた。このインタビューでも「アメリカは貿易赤字の数字を見て増えた減ったと言っているが、赤字の量ではなく質の問題だ」と言及。米国の問題点を「ロウヤーとアカンターばかり力を持ち、自国の産業力の状況を誰も見ていない」と切り捨てた。公然と米国に苦言を呈する、まさに“「NO」が言える日本人”を具現化した存在だった。

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名経営者30人の名言・格言|月刊BOSSxWizBiz

椎名武雄 日本アイ・ビー・エム社長

「親(会社)を説得したこと。これは相当気をつかいますよ。親のいうことばかり聞いていたんでは会社はつぶれてしまう。だから椎名が言うならしょうがないやというところまでもっていくのが大変だった。これは逆に考えればよくわかる。日本の企業の海外子会社が、日本の言うことばかり聞いていたら、うまくいくわけがない。それと同じで日本アイ・ビー・エムの玄関に星条旗を掲げちゃだめなんだよ」
(1992年11月号・社名、肩書は掲載当時のもの)

75年に日本IBMの社長に就いた椎名氏は、約18年間社長を務め、93年1月に北城恪太郎氏に社長を引き継ぐことを発表、これはその直後のインタビューで発せられた言葉だ。長い社長生活のなかでの思い出として本誌に語られたものだが、「日本法人の独立性」に腐心したことがうかがえる。

椎名氏は、外資系企業でありながら経済同友会の副代表幹事を務めるなど、日本の財界にも影響力を持ち、終身雇用や顧客第一主義等、日本企業以上に日本的経営にこだわるスタイルでIBMの社会的認知度を高めた、その立役者だと言える。

親会社である本国が関与してきても、「いざとなったら、こっちも啖呵を切るからね。お前ら何を言っているんだ、これは俺のテリトリーだろう、こっちにもプライドがある」と意見を押し通したという。

99年に椎名氏は会長を退任。以降、日本IBMは2001年から12年連続で減収決算となり、リストラ・減俸に追われることになった。寂しくも12年から外国人が日本IBMの社長に就いている。

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名経営者30人の名言・格言|月刊BOSSxWizBiz

孫 正義 日本ソフトバンク社長

「事業に関して僕は『豆腐の心意気』ということを常々言っています。豆腐の数はどうやって数えますか。一個二個ではなく一丁二丁ですよね。事業でも同じだと思うんです。男が事業をやるかぎりは、売り上げは、一億、二億ではなく、一兆、二兆の規模にならなきゃいけないと考えています。これはまあ駄ジャレですけど、会社を設立した時からの目標なんです。こうした考えが学生の頃からあったんでしょうね。19歳の時に一億円稼いだ時も(中略)浮かれることもなく、一億、二億なんて大したことはないと冷静に考えていました」
(1989年8月号掲載・社名、肩書は掲載当時のもの)

孫氏のインタビュー初登場はこの時で、まだ32歳の青年社長だった。いまでこそ孫氏を語る上で「豆腐の心意気」は有名な逸話として知られているが、会社設立8年目の当時はパソコンソフトの卸売業で、売り上げも約300億円。まだメディアの露出が多いわけではなく、知る人ぞ知る存在だった。

この時は売り上げ1兆、2兆の話をしていたが、2004年4月号に登場した際は「いま僕の目指している事業像は平たく言えば経常利益で1兆円、2兆円は行って当たり前だと思っているんですよ。(中略)数千億円規模で利益が上がった下がったというのは誤差のうち」と、目標値が大きく上がっていた。

そしてソフトバンクが売り上げ1兆円を超えたのは06年3月期決算、そして経常利益が1兆円に達したのは14年3月期決算だった。いまや売り上げ10兆円は目前。豆腐のケタが変わりつつある。

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経営者インタビュー

百貨店、食品スーパーに続く 柱を決める1年にしていく 鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長
すずき・あつし 1956年4月5日生まれ。80年関西学院大学経済学部卒。同年阪急百貨店(現・エイチ・ツー・オー リテイリング)入社。2000年阪急百貨店SC事業部統括部長、06年執行役員、08年阪急阪神百貨店執行役員、13年同社取締役常務執行役員、14年3月エイチ・ツー・オー リテイリング取締役、同年4月から現職。

Sポイントで“血流”を

── まず、足元の消費環境はどう見ていますか。
アッパーミドル層という、百貨店にとって一番中心になっている中間層の方々が、モノを買う以外にレンタルで済ますとか、あるいはみんなでシェアして使い回すとか、そういうのが根底にあって、皆さん、よく考えてお金を使っていらっしゃる傾向はありますね。それは今後も続いていくと思います。

そういうお客様に対して、我々のようなリアルの小売り店舗は、割とハイタッチな話とか、あるいはお客様との会話など、販売スタッフの技量にすごく頼ることになる。マルチ販売スタッフと言いますか、世の中のトレンドの話ができたり趣味の話ができて、生活者のプロみたいなスタッフと会話しながらお客様がモノを買えるようにしていかないと、なかなかリアル店舗の小売り業は難しいでしょう。これは百貨店のみならず、専門店なども含めて、みんなそうだと思います。

── その中で、グループの総本山ともいえる阪急うめだ本店の、足元の販売状況はどうですか。
2016年8月から10月頃は、週末ごとに雨が降ったりしたので(来店の客足が)少し厳しかったですけど、11月、12月とだんだん盛り返してきて、今年の1月とか2月は前年の売り上げをクリアしました。3月もプラス。百貨店業界全体はともかく、うめだ本店は健闘しているほうですね。

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

非日常を演出するのが百貨店の役割。

課題は、いままでやってきたことをブラッシュアップし、さらに広域からお客様に来ていただくこと。これは、百貨店に限らず当社が進めている“関西ドミナント戦略”全体の話ですが、スーパーマーケットのイズミヤとか、いろいろな業態のグループ会社を持っていますし、グループを横断する「Sポイント」という共通ポイントも1年前からスタートさせました。

Sポイントは、お買い物だけでなく、阪急電車に乗っても阪神電車に乗っても、あるいは阪神タイガースの応援で甲子園球場に入場いただいても貯まるポイントで、貯めたポイントを阪急うめだ本店、ないし阪神梅田本店の両店で使っていただくような、いわばグループ内での“血流”がちゃんと流れ始めるようになれば、さらにシナジーが高められるでしょう。

── H2Oリテイリング前社長の椙岡俊一さん(現・取締役相談役)はかつて、30年スパンの経営計画を掲げられ、最初の10年で百貨店の強化を、次の10年で現在進めている関西ドミナントを、さらに先の10年で海外事業を深耕すると言われました。
それはそのままです。もちろん、いまから8年後には関西ドミナント戦略、いわゆるステージ2の段階が終わって、次の海外事業はステージ3になるんですが、現在も海外事業の仕込みや勉強などは当然、やっていますし、すでに着手している海外事業もあります。逆に海外事業の第3ステージの時期も、まだまだ関西ドミナントは深耕しないと。

要は、10年ごとにどこに力点を置くかはありますが、それぞれが重なっていく部分がある。ですから、最初の10年で掲げた、百貨店事業を盤石なものにするという流れも当然、続いていくわけでしてね。百貨店事業で言えば、2021年度に阪神梅田本店がグランドオープン(第1期オープンは18年春の予定)したら、阪急うめだ本店と併せて〝超本店〟と言おうと思いますけど、関西の、いわば“へそ”のロケーションに超本店があって、そこから関西の商圏を全部、包み込んでいくような戦略が基本中の基本です。

── 一方、スーパーマーケット事業については、以前からある阪急オアシスのほか、買収したイズミヤ、資本参加した関西スーパーなどがありますが、それぞれで客層は少しずつ違うのでしょうか。
客層もそうですし、お店の展開エリアも少しずつ違います。イズミヤは大阪市内から南大阪、東大阪に店舗数がすごく多い。で、豊中市や吹田市などの北摂エリアや阪神間になるとイズミヤは少し減ってきまして、阪急オアシスが増えてきます。

関西スーパーさんは当社からは10%の出資ですので、同じように語ってはいけないのでしょうけれども、あちらも伊丹に本社があって、阪神間にお店は多いです。

売り上げ構成は“2本足半”

── それぞれのスーパー事業を束ねる、中間持ち株会社(エイチ・ツー・オー食品グループ)も1年前に設立しています。
ここは、いわば“会議体”みたいな会社ですが、商品の共同調達などは始まっていて、あるいはお惣菜みたいなものを、各店で共通で扱うという話もだいぶ進んでいます。関西スーパーさんともそろそろ始まっていくでしょう。

── 単純合算でいえば、すでにスーパーマーケットの事業は百貨店の売り上げを超えているのですか。
ざっくりいえば、H2Oリテイリングとしての売り上げは9200億円ぐらいですが、約9000億円として見れば、百貨店事業で4000億円、食品スーパーの事業で4000億円、残りで1000億円ですね。つまり、いまは“2本足半”ぐらいの経営です。もちろん、利益となると百貨店のほうが高いわけですが、売り上げ構成比でいえばそういうことです。

── 物販に限らず、コト消費関連分野でも、M&Aを含めてまだかなり拡大余地はありますか。
生活に寄っている業種、という漠然としたイメージですが、Sポイントは「一緒にやりませんか」という話がボチボチと来ています。M&Aはお相手のあることなので、そう簡単にはいきません。

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

日常生活での囲い込みに大きな力となるイズミヤ。

特に、今年、来年、再来年の向こう3年ぐらいは、阪神梅田本店の建て替えに加えて、イズミヤでも建て替える店舗が出てくるので、いろいろとお金がかかる時期です。

そして、建て替えるためには一旦、お店を潰してから新しく建てるわけですから、1年半とか2年ぐらいの期間、建て替え対象店のイズミヤはお店を閉めなければいけません。その間は売り上げが減る一方、人件費は減りませんから、一定期間はほかのお店で働いていただき、その後、新しく建てた新イズミヤに戻っていただく。そういうことを繰り返しやっていくわけです。

一番お金がかかってそんなに売り上げが伸びない時期に入ってはいきますが、巡航速度ではありますから、売り上げが極端に落ちることはないと思っています。そして、その間に新しい事業の柱を見つけると。

── 百貨店事業については、どこももう、本店、準本店の都市型で大型の店でないと生き残れない時代になってきているという指摘も多くあります。そのあたりはどんな認識を持たれていますか。
当社には郊外店はありますが、(より苦戦している)地方店はありません。梅田駅まで20分前後で来られる立地ばかりにお店がありますので。総じて、地方の百貨店が大変だというのはデータ的には見ていますけど、当社としては切羽詰まった感じはないですね。

── 地方店と郊外店とでは、品揃えは違うものなのですか。
どこまでを地方店と言うかですが、地方の1番店だけが本当にフルラインで商品を揃えていく形なんでしょうね。本店の周辺、いわば衛星都市にあるような郊外店は、都心の本店の代替機能みたいな感じです。東京、名古屋、大阪など、都心のど真ん中の本店と、その周りの衛星的なお店というのは、まだまだいけるのではないでしょうか。長いスパンで見た将来はわかりませんが、これが百貨店です、これがショッピングセンターですといった垣根も、だんだんなくなってくるでしょう。

── これも以前、椙岡さんが言われていたことですが、「ビジネスには戦略と戦術、それに戦闘とがあって、戦闘だと価格競争に巻き込まれて体力勝負になってしまう。だから、地方郊外店ほど百貨店の文化の匂いを維持して、そこで勝負しないといけない」と。
百貨店のみならず、どの業態もみんなその3層構造になってきていると思います。その中で自分たちのお店はどう生きていくのかを最初に決めておかないと、戦術に溺れてしまうんですね。要は「誰が敵ですか? どう戦いますか? 武器は何ですか?」ということです。武器ばかりを考えていると、価格競争になってしまいがち。自分たちは何者で、誰がお客様で、誰と戦うんだということが最初にありきで、そこで戦略を組まないといけない。それはどの業種の会社にもいえることですけど、すごく重要だと思います。

新たに電子マネーも開始

── 話は変わって、先ほどお話に出た、グループを横串しにするSポイントですが、いま、主だったものだけでも覚えきれないくらいのポイントカードがあります。Sポイントを駆使した戦い方はどう考えていますか。
たとえば、ポイントカードの会員数が多いとか発行枚数が多いとか、そういうところで勝負しても何の意味もないと思っています。これまで、関西エリアではすでに、阪急阪神東宝グループが発行し、何十年もやっているポイントカードがある。関西で我々のコアな展開エリアはおよそ860万の世帯数があると言われてますが、そこですでに750万枚のカードをお持ちいただいています。

これはもう、驚異的なカバー率だと思いますが、いままでは互換性に欠ける、バラバラのポイントでした。それを昨年4月に1つに統合して、いまは、どのカードを使っても全部、Sポイントに片寄せして貯まる仕組みです。そうなると、関西圏にお住まいの方々とは、すごく太くて深い関係が築けるわけです。

何しろ、阪急や阪神の電車に乗っても宝塚歌劇を観ても、あるいは甲子園に応援に行ってもポイントが貯まる。そんなことを実現できる流通グループは、ほかにはたぶんないでしょう。プラス、関西エリアの密度の濃い生活圏でそれを展開しているわけですから、お客様にとっても非常に使い勝手のいいポイントだと自負しています。

── Sポイントの、ポイント金額の負担はどうなりますか。
基本的に、当社であろうがグループ外のところであろうが、お客様にポイントを付与したところがポイント経費を負担し、お客様がポイントを使ったところでは経費は発生しないというシンプルな構造です。

ポイントに加えて、この4月からは電子マネーの「litta」も始めました。これは、百貨店でというよりは、グループの食品スーパーで釣り銭のやりとりがなくなり、これまたお客様にとって使い勝手のいいものになりましたし、このlittaでももちろん、Sポイントは貯まります。

── 最後に今後の重点課題を。
百貨店、食品スーパーに続く、もう1つのコアな事業に何かメドをつけたいなと。そこではM&Aもあるかもしれませんし、芽が出てきたものを太い幹の木にしないといけないですから。向こう1年で木になるかどうかはわかりませんが、少なくても、なりそうだとか、するぞと決める1年にはしないといけません。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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経営者インタビュー

SNS炎上からテロリストまでテクノロジーで社会問題を解決 菅原 貴弘 エルテス社長

菅原 貴弘 エルテス社長
すがわら・たかひろ 1979年生まれ。東京大学経済学部経営学科在学中の2004年にエルテスを創業。社長に就任。ソーシャルリスクマネジメントの領域に着目し、リスク解決を手掛ける。昨年11月東証マザーズに上場。デジタルリスクマネジメント専業の企業として初めて上場(東証マザーズ)を果たしたエルテス。創業以来、サイバー攻撃や風評被害など、テクノロジーの発展とともに顕在化したデジタルリスクの問題解決を図ってきた。昨今では官民連携して社会問題にあたるなど、注目企業に成長している。そのエルテス社長の菅原貴弘氏に話を聞いた。

デジタルリスクで初の上場

── インターネットでの炎上や風評被害がよく報道されるようになりましたから、企業として認知されやすくなったのではないですか。
そうですね。しかし、SNSの炎上やフェイクニュースは、昔からあった問題です。何をいまさらと感じる人も多いでしょう。ネット上には間違った情報が氾濫しているという認識は、多くの人が持っていたと思います。それがようやく社会的、政治的な問題になってきました。

── 先日もDeNAがキュレーションメディアに関する謝罪会見を開きましたが、不正確な記事や著作権法、薬機法に違反する記事があったことで問題が広がりました。
今回のメイントピックの1つである著作権は、管轄が文化庁になります。文化庁は行政のなかでも民間に介入してこない、民間と民間で決着してくださいというスタンスのところです。なぜなら、特許庁のように申し込みや登録がされる場合は権利が侵害されているかどうかの判断ができますが、著作権は書いた瞬間に生じるものなので、引用された側が言わなければわからないからです。

引用された側もネット上のすべての書き込みのなかから見つけるのは不可能ですし、効率も悪いです。見つけて訴えるとしても、自分の著作権料よりも裁判コストのほうが高くなる。取り締まりが非常に難しく、健全化も難しいと言えます。その意味で、業界全体できちんと自主規制をして、権利を侵害しないようにするしかできないでしょう。

── こういった問題でも、エルテスの出番はあるわけですか。
たとえば、発信する側の企業から、著作権がきちんと管理されるようなフローを作ってほしいといった依頼ですかね。健全化するためのフロー、または健全化したのちの文言をコンサルティングしてほしいという話はあります。特にBtoCのネットビジネスでは、行政対応の作業が非常に多いです。たとえばネット上のコミュニティの場合、児童買春や児童ポルノといったトラブルが起こらないようにすることも健全化にあたります。こうした行政の要望にも応えられるサイトにする手伝いをコンサルティングする場合もあります。

特に弊社の場合、行政対応までコンサルティングしますので、上場したことで企業の側から問い合わせをいただくことが増えている。ビジネスとしては追い風になっていると感じますね。

── SNSなどで、企業の発信の仕方に関するリスクもありますね。
現在、どういった面での批判が集中しているのか、論点を掴んでおかなければいけないですね。たとえば女性蔑視といったパターンで炎上しやすい時は、似たようなことをしていると炎上してしまいます。ある自治体での話ですが、うなぎを女の子に見立ててスクール水着を着せて泳いでいるPR動画があったところ、うなぎ養殖を、女の子を監禁しているように思わせると大炎上になってしまいました。似たようなことをしていると、炎上が飛び火して連鎖していくことになります。

── 単発で事故やトラブルが起こることは仕方ないとしても、飛び火するのは怖いですね。
食品の異物混入も大きな騒ぎになりましたが、マスコミの方も炎上させる側になってきています。食品メーカーの場合、1件の異物混入については、お客さんの間違いの可能性もあるので、公表しないんです。食品メーカーと接しているぶんには、メーカーの言い分のほうが正しいと思います。購入した方の勘違いの可能性もあるなかで、1件だけで公表して自主回収するのはやりすぎです。それを隠蔽だと責めてくる人が増えている。マスコミの方もスクープを取りに来て変質しているように思います。

日本の炎上は「妬み」から

── 仮に何か不祥事があったとして、企業としては炎上を大きくしないために、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
人のせいにしないのが重要ですね。現場が暴走しましたというような発信は二次炎上するケースが多いです。現場の暴走と言っておきながら、実はマニュアル通りだったことが情報として出てくると、大変なことになります。基本的には、情報収集をしっかりやって、経験ある業者の力を借りて、きちんと対応すること。企業の広報の方で炎上を何度も経験している人は、そうはいません。初めての場合は動揺して、火に油を注ぐことになる可能性もありますから。

── 企業からエルテスに依頼がある場合、広報担当の部署が多いわけですか。
そうですね。ツイッターを始めるのに、経営陣が炎上を気にするからルール作りをしてほしいとか。実は、炎上してから相談されても、できることは限定されているんです。なかったことにはできません。欧州では、言ってみれば「忘れられる権利」のような権利が認められていますが、日本は「知る権利」のほうが重要だという判例が出ています。

── 海外と日本で炎上の仕方に違いはありますか。
欧米だと、炎上は組織立っていて、匿名ではない。グリーンピースなどのように、名前や組織名を出して責めてくる。日本は陰湿で、匿名の個人が刺してくる感じです。

── その違いはどこから出てくるのでしょう。
日本は妬みのようなものが多い。個人のSNSでも、高学歴の人や大企業勤めだと、より炎上しやすい。内定を取り消してやろうとか、クビにさせてやろうとかが多いですね。企業の従業員や従業員の家族から炎上することもあります。例えばタレントが来店したとか、誰と誰がカップルで来ていたとSNSで上げる。ちなみに、女子高生のツイートで、その父親の企業が特定され、会社を辞めざるを得なかったような話も聞きます。

※エルテスが設立したデジタルリスク総研のレポート記事のアクセスランキング。ソーシャルリスク分野に加えて、企業内部の不正や金融犯罪の検知をはじめとしたリスクインテリジェンス分野における研究を進めている。

── 企業としてはどう対処したらいいのでしょう。
従業員については、ネットリテラシーに対する教育です。アルバイトの場合、一般人と従業員の境が難しいのですが、そこを教育するしかない。昔は法人と個人は別のものとして分かれて考えられていました。でも、個人は必ず学校や会社などの組織に属しているので、現代のような炎上時代だと、どこから燃え出すのかわかりません。

── 経営者が考えなければいけないデジタルリスクはありますか。
ほとんどの中小企業の経営者の方は、ウチはリアルの業務だから関係ないと言っていたりします。実際にあった話なのですが、ある飲食店で、なぜか火曜日に客が来ないと思ったら、ネットで火曜日が定休日にされていたという話があります。ネットの風評を多面的に見ておかないと、実は機会損失を起こしている可能性があるのです。

── エルテスは人工知能(AI)やビッグデータといった新しいテクノロジーにも注力していますね。将来的な展望を聞かせてください。
いまビッグデータでテロリストを見つけるということに取り組んでいます。2020年の東京五輪に向けて、それを完成させる。我々はフィンテックならぬ国防テックと呼んでいるんですが、いまや国防は日本国内で完結していけるようにしなければいけません。こういう分野にビッグデータやAIを使って貢献していくのが目標です。

ビッグデータでは、サンプルではなく全量調査を行うので、リスクは下がります。欧米ではすでに実現してますので、日本も早く整備したほうがいい。最近のテロリストはネットで犯行予告をするケースもあり、事前にリスクの高い動きをデータとして蓄積することで対応が可能になります。政府行政とも連携し、社会的リスクをテクノロジーで解決していく企業に成長したいですね。

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経営戦記

加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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マニアユーザーに応えるBTO-PC こだわりとゲームPCの広がり サードウェーブデジノス会長 尾崎健介/ゲーミング事業部部長 野口基督

百花繚乱を極めた日本家電メーカーによるPC産業も今や昔。撤退を続ける日本メーカーを横目に、マニアの需要に応えているのがBTOメーカーのサードウェーブデジノスだ。そんな同社のものづくりの極意とは?

残るのはBTOだけ

4月1日、将棋のプロ棋士とコンピューターソフトが勝負する第2期電王戦二番勝負で、佐藤天彦名人が破れ話題となった。現役のタイトル保持者(名人位)が公式の場でコンピューターソフトに敗れたのは、初めてのことだった。昨年の囲碁に続き、将棋のトップ棋士までもが敗れるほどに、ソフトやAIの進化が進んでいることを印象づけた。

そんな電王戦で使われているのがサードウェーブデジノス(ドスパラ)のゲームPC「ガリレア(GALLERIA)」というマシンだ。

「電王戦で使ったモデルは演算処理で高性能なPCで、短い時間でより多くの計算ができるシステムになっています。見た感じはゆったりと動いているように見えますが、裏ではものすごい勢いで連続的な計算を行っています」

尾崎さん(上)と野口さん(下)。

こう話すのはサードウェーブデジノスゲーミング事業部部長の野口基督さん。

サードウェーブデジノス(ドスパラ)という社名を聞いてピンときた方はかなりのPC通。同社は、パナソニック、東芝、NECやデル、レノボといった電機メーカーやPCメーカーと違うBTOメーカーなのだ。

BTOとは「Build to Order」つまり受託生産という意味だ。具体的には、電機メーカーやPCメーカーのPCは、メーカーによって決められたパーツで構成されているが、BTOはメモリーやHDDの容量、グラフィックボード搭載の有無やその種類、もっと言えばCPUまでもが自分の好きなもので構成することができる。いわば顧客の要望に合わせたオーダーメードなPCを組み立て、販売しているメーカーというわけ。

一時、日本の電機メーカーはほぼすべてがPCの製造販売を行っていた。しかし、徐々にPC事業から撤退が進み、ついには日本のPCを牽引してきたNECも中国のレノボと設立した合弁会社の株式をレノボに売却し撤退。富士通もパソコン事業部をレノボ傘下に移すことを決定している。いまや国産メーカーとしてはパナソニックと本体から切り離された東芝ぐらいなもの。しかも、大手メーカーのPCはほとんどが中国で組み立てられた「メイドイン・チャイナ」だ。

一方、サードウェーブデジノスのPCはすべて神奈川県綾瀬市で組み立てられた「メイドイン・ジャパン」と、日本製PCはもはやBTO-PCだけになっている。

本当のユーザー視点

こうしたBTO-PCを使っている人とはどういう人か。それはPCゲームや画像、映像を扱うクリエーターというハイスペックな機能を求めるマニアなユーザー層が中心だ。だからこそ、求められる要求も高い。

1台1台丁寧に組み立てを行っている工場内。

同社の会長である尾崎健介さんはこう話す。

「私たちBTOメーカーは、それぞれの使用目的に合わせ、それに対応できる性能を持ったPCをきちんと販売していかなくてはなりません。具体的には、一般的なメーカーPCでは1分近くかかる何万行もあるようなエクセルファイルを1秒で開く、詳細な3Dグラフィックがストレスなく動くというようなことです。そのためには商品開発、製造で重点を置き、明確な目的を持ったお客さまの満足度を深掘りしています」

こうした製造でのポイントを前出の野口さんは「ゲーミング部では、常にこのマシンでユーザーがゲームを楽しめるのかということを考えています。ゲームがわからない人間が想像したり、ユーザーから話を聞くだけではなく当社では作っている人間もゲームユーザーです。快適にPCが止まることなくゲームを続けるためにはどうするかについて議論をしています」と話す。

そのためにはCPUやグラフィックボードなどの中核部品はもちろん、同社らしいこだわりが隠されている。

「ゲーム用PCは通常PCと注目すべき点が違い、グラフィックなどの処理能力を上げるとPC内の温度が上がり故障の原因になる。そこで冷却ファンを回すのですが、ファンを回してもうるさくない静音性が求められる。また、安定性という面では電源も重要なパーツで多少の電圧の変動にも耐えるものが必要です。これはハードだけでなくソフトとの関係もあり、そうしたところまで見極め動作保証している点が他社との違いです」(前出・尾崎さん)

PCゲームの広がり

ゲームというと、今やスマホゲームが思い浮かぶ、しかし、今、ゲーム業界に大きな変化が起きつつある。それがe-スポーツというものだ。

GALLERIA GAMEMASTER NX(ノート・左)/GX(デスクトップ・右)はゲームPCの最高峰。

e-スポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームを一種のスポーツ競技として捉えプレーヤーが競い合う。海外では年収1億円を超えるプロゲーマーもいる。

「日本ではゲームというと、スマホやコンソールゲームが中心ですが、海外ではPCゲームが大きな市場になっています。実際、中国では東京ドームのようなところを使ってイベントを開くと、何万人という観客が集まってテレビ放映もされるほど盛り上がっています。

日本はまだまだですが、ユーザー数もだんだんと伸びてきて、e-スポーツ協会が発足し、昨年はe-スポーツ元年とも言われています」(前出・尾崎さん)

すでに成熟商品と思われがちなPCだが、VRやヘッドマウントディスプレイの進化によって、高性能PCの需要はこれまで以上に高まりそうだ。まさに同社の活躍の場が大きくなる。

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【BOSS×WizBiz】リサイクル業から 「捨てさせない屋」へ 企業在庫もきれいに処分

山田正人 日本リユースシステム社長

山田正人 日本リユースシステム社長
やまだ・まさと 1977年千葉県生まれ。95年高校を中退後、個人事業として床下換気扇訪問販売を始めて、以後寝具・リフォーム営業代行、不動産ブローカーなどに従事したのち、放置自転車買取事業、中古品・再生資源原料の輸出専門商社と提携。2004年丸和運輸機関と資本業務提携を行い、日本リユースシステムを設立。代表取締役に就任。

私たちは捨てさせない屋

── 基本的な事業内容はどういったことでしょうか。
一般的にはリユース、リサイクル屋ですが、うちでは「捨てさせない屋」と言っています。メーンは日本で行き場がなくなった中古品を、途上国に届けるというビジネスです。現在、世界32ヵ国に生き物、車、家具を除いたいろいろな物を輸出しています。地域別の輸出先は、東南アジアが6割で、残りは中東、アフリカです。

── 「捨てさせない屋」というのは面白いですね。
どうすれば使える物を捨てさせない仕組みを作るか、ということから行き着いた結果です。「自分は何屋なんだ?」と考えたときにリサイクル屋ではなく、捨てさせない屋だなと思ったんです。この仕事では売ることはあまり難しくない。むしろ集めることが難しい。そこで捨てさせない仕組みをいかに作るかが勝負だと、1年くらいやってわかったことです。

── リユース事業というのは、どういったところがポイントになるのですか。
どこのだれから品物を集めるかでまったく変わります。当社はリユースになるわけですが、物流屋でもあります。実際、どこの国で何がいくらで売れるかは決まっています。ですから、500円でしか売れない商品を、1000円かけていては損をしてしまう。そこでどうコストを落とすか。これはロジスティクスにかかってきます。そこで当社では桃太郎便の丸和運輸機関さんから出資を受け、配送を終えて空荷になったトラックで回収してもらい物流のコストを抑えています。

また、商品をどこから集めるかについては、BtoBかBtoCかで違ってきます。エンドユーザーから商品を集める場合は、お客さまに喜んで物を出していただけるような仕組み作りがポイントです。

当社の現状はBtoBとBtoCの比率が7対3ですが、将来的にはこれを逆転させたいと思っています。前にも言いましたが、リユースビジネスではどうやって売るかではなく、どう集めるかですからね。

── 古着でワクチンというのも、その1つの方法ですか。
これはCSV(Creating Shared Value=社会的価値と経済的価値の共通価値の創出)というビジネスモデルです。リサイクル屋が買取りますといっても、持ってきてくれない人たちがたくさんいることに気がついたんです。

そういう方でも、リサイクルショップに持ち込めば売れるかもしれないと思っています。でも、お客さまとしては自分の思い入れのある服や、それなりの金額で買った服をリサイクルショップで二束三文で引き取られたら気分が悪いですよね。とはいえ、捨てるに忍びない。

ですが、それがだれかの役に立つのであればというような動機付けをすることで、品物を出してくださる方はいらっしゃいます。募金箱にお金を入れた瞬間、何かいいことをしたという気分になれるのと同じようなものです。

そういう方たちにはどうしたら物を出してくれるだろうかと考えた時に出た1つの答えとして、物を出すことで「世の中の役に立つ」「支援につながる」といった、心の満足という価値で物を交換してくれるのではないかと考えて、リクルートさん、JCV(世界の子どもにワクチンを 日本委員会)と、当社が組んでできたのが古着でワクチンです。今では平均すると月間1万人くらいの方からご利用いただいています。

在庫処分の「闇市」

── このビジネスを始めたきっかけは何だったのですか。
私はこれまで会社勤めはしたことはありません。いろいろな仕事を個人事業や、会社を作ってやってきました。そんなときにテレビでリサイクルショップの番組を見て「これからはこれだ」と思い浮かんだんですよ。すぐにその社長に会いに行って、「カバン持ちするから修業させて欲しい」とお願いし半年くらい修業して、独立させてもらったのが、この会社の始まりです。

── 事業内容に「在庫処分の闇市」というのがありますが、どういったものでしょうか。
これは今の会社を作る前からやっていたものなんです。企業がいろいろな理由から抱えた在庫を捨てさせない仕組みを作ろうと始めた、いわゆる在庫処分のソリューション事業です。簡単にいうとバッタ屋ですが、当社ではいろいろな手法を導入したソリューションと言っています。

企業が抱える在庫というのは、いろいろな理由があって、処分の方法についてもそれぞれ企業によって事情があります。

こうした在庫の扱いについては、大別すると5つぐらいのパターンがあります。

1つめが換金重視のパターン。このパターンは国内で売られようがどうでもよく、単にお金になればよいというものです。2つめは廃棄代はかけたくないが国内で売られて、値崩れやブランドイメージが下がっては困るというパターン。こうしたパターンは主に海外で何とかするというやり方になります。3つめは国内も海外もダメ。でも、処分費用をかけたくないというパターン。4つめは在庫を上手に活用し、寄付という形でCSRに活用するパターンです。5つめは儲かっている会社の在庫の活用です。

これらについては詳しいことはお話しできませんが、当社ではこうした企業の在庫処分、活用についてはそれぞれのソリューションを持っていますので、在庫でお困りのことがあればどんなことでも相談に応じられると思います。

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