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相続税の大増税から2年─いまどきの相続事情|月刊BOSSxWizBiz

もはや税務署に筒抜け
個人の所得と資産

2015年1月1日から相続税の基礎控除や小規模宅地等の特例の見直しなどを含んだ改正相続税法がスタートした。さらにマイナンバーの導入後の16年1月からは相続税の申告の際、17年からは確定申告、贈与税の申告などでもマイナンバーの記載がはじまり、所得については、ほぼ税務署に筒抜け状態になっている。

加えて18年12月31日までには銀行や郵便局の預貯金の口座、債権や株式取引に使う証券口座についてもマイナンバーの通知をしなくてはならず、個人のお金の流れ、資産もガラス張りにされてしまうのだ。

そんななかでも、まだ相続に対する関心が薄い人も多いようだ。

フジ相続税理士法人 代表社員 髙原 誠さん

「自分や自分の親にもしものことがあったときに相続税がかかるか、どのくらいかかるのかを知らないという方もまだまだ多く、対策している人としていない人の差が大きいですね」と話すのは、相続を専門に扱うフジ相続税理士法人代表社員の髙原誠税理士である。

相続税の改正によって、これまで相続税の対象外の人も申告が必要になるとされ、東京23区では4人に1人が対象になるといわれている。

もちろん、関心が薄い人がいる一方で、相続セミナーはいまも活況だ。

「セミナーに来る人は増えています。相談で多いのは、自分にはどのくらいの相続税がかかるのか、また家族間でもめているがどうしたらよいかという質問です。近い将来の相続を意識している人のなかには、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減といった知識をお持ちの方も多く、そうした制度についても細かく質問されてきます」

では、15年1月から施行された改正相続税制のおさらいをしておこう。

この改正でのもっとも大きな変更点は、基礎控除が5000万円+(1000万円×法定相続人の数)から、3000万円+(600万円×法定相続人の数)に減ったこと。そして、相続税の税率が細分化されたことの2点だ。

具体的には、法定相続分に応ずる取得金額1億円超の税率が2段階から4段階になり、6億円超の最高税率が50%から55%になった。なお、贈与税も10%~50%までの6段階から8段階に細分化された。

一方、被相続人が住んでいた居住用宅地に相続人が引き続いて住む場合等に80%の評価減がされるという小規模宅地等の特例は、適用限度面積が330平方メートル(約100坪)に拡大、特定事業用宅地等と特定居住用宅地等の完全併用も可能となった。また、事業承継税制の見直しなど、控除や特例、制度の簡素化も行われた。

狙われる資産1億円
自分の財産をどう守るか

この制度改革では、「資産規模としては1億円前後ぐらいの層に一番悩まれている方が多いように感じます」と髙原さんがいうように、いわゆるミリオネアといわれる富裕層が納税対象者のボーダーになると見られている。

「たとえば、相続人が2~3人であれば基礎控除は4200万~4800万円。土地の占める割合にもよりますが、小規模宅地等の特例を使えれば、相続税がかからない場合もあります。しかし、相続人の数や資産の種類によっては相続税がかかってきます」

では、「資産1億円」という人は、日本に何人ぐらいいるのだろうか。

16年11月、野村総合研究所が、「2015年における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模」を各種統計資料やアンケートを使い調査、その結果を発表した。

これによると、日本の15年の純金融資産1億円以上の「富裕層」は122万世帯。預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険などの「純金融資産」の総額は272兆円になるという。また、日本の総金融資産は1402兆円で、1億円以上の富裕層が持つ総金融資産の割合は全体の19.4%になる。

13年の前回調査と比較すると1億円以上の「富裕層」は20%、5億円以上の「超富裕層」は35・2%、両方を合わせた世帯数では21万世帯、保有資産は31兆円増加した。また、5000万円以上1億円未満の「準富裕層」、3000万円から5000万円未満の「アッパーマス層」は純金融資産総額を増やし、合計額は21兆円の増加になるが、世帯数では準富裕層はマイナスになっている。さらに3000万円未満の「マス層」に目を転じると、総金融資産は64兆円増加しているものの、世帯数が9.7万戸マイナスで、このことからも人口の減少が着実に始まっていることをうかがわせる。この調査は、あくまでも金融資産だけの動向だが、これに不動産が加わると、その様相は若干違ってくる。

前の野村総研の調査より1年古いデータになるが、クレディ・スイスの「2015年度グローバル・ウェルス・レポート」(15年11月発表)では、日本の1億円以上の資産家(ミリオネア)は212万人。その資産総額は1900兆円あまりと推計。1億円以上の資産家の総数ではアメリカ、イギリスに次いで世界3位だ。また、この調査ではこうした日本の富裕層は、20年には359万人に増えると予測されている。

その一方で、世界的に格差が広がっているといわれるなかで、日本の所得格差は先進国のなかでもっとも小さくジニ係数は63%、日本の成人人口の60%の6200万人は「中流階級」に分類され、総資産の49%をこの階層の人が占めている。その結果、資産1億円以上の富裕層の数は世界3位にあるが、資産50億円以上の超富裕層の数になると、世界8位、先進7ヵ国6番目になる。

企業オーナー、地主と税務署
それぞれの“相続税対策”

では具体的な相続税対策にはどのようなものがあるのだろうか。

「ケースバイケースですが、暦年贈与の非課税枠110万円を利用した生前贈与がオーソドックスな方法です」(髙原さん)というように、最初に考えたいのがこの生前贈与だ。

実際、先の野村総研のレポートでは、企業オーナーの富裕層、超富裕層の43%は、生前贈与は「したことはないが関心がある」というところまで含めると76%で、気になる対策といえる。その一方で、別のアンケートでは31%が財産の大半を生前贈与することに抵抗を持っており、どこまでを贈与するかは微妙なところだ。

もっとも、この調査は企業オーナーが対象で、そこには事業承継が関係してくる。相続財産には自社株も多く含まれるため、贈与しやすい一方で、経営権は渡したくないというような思いも垣間見える。また、サラリーマンであれば、すべてを贈与してしまうと自らの老後資金への不安も残るため、なかなか贈与を進めにくい部分もあるようだ。

次に相続財産に土地が多いケースにはどうか。髙原さんはこう話す。

「賃貸マンションなどの収益物件を建てるというのが一番わかりやすい方法ですが、大きな建物を1棟建てるだけでなく、小規模な物件を複数棟建てて評価単位を分けるという方法もあり、その場合遺産分割もしやすくなります。また、広大地評価の適用を検討するなど、不動産は資産を圧縮する方法がいろいろあります。たとえば、2つの道路に挟まれた土地の場合、一部をコインパーキング等にして評価単位を分けることで、路線価の高い道路に面している部分を小さくし、評価額を下げることで相続税を抑えることも可能です。

そのほかの対策としては買い替えもあります。つまり、収益性の低い土地を売却し、もっと利回りのよいところに買い換えるということです。なお、小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地等に該当すれば200平方メートルまで50%減額になりますが、平方メートル単価の低い土地で50%減の適用を受けるよりも、単価の高いところで受けた方が有利だと言えます」

オーソドックスな節税対策とはいえ、いまも根強く利用されているのが生命保険をつかったものだ。

「マイナス金利の影響で、一時払い終身保険については販売中止も増えていて使いづらくなっています。しかし、単に自分(親)を被保険者とする生命保険だけでなく、保険金受取人を自分(親)にして子どもに死亡保険を掛け、自分の死後はその子どもが保険契約の権利を引き継ぐというやり方もあります」

法人を使った節税対策は、むしろ清算する人も増えているという。

「法人化しても、その会社が儲からなくては、あるいは法人の存在意義が家族に理解されなければ意味がありません。相続をきっかけに会社を解散するというケースも目立ちます」

一方、税金を取る側の税務署側は、この相続税引き上げで変わったところはあるのだろうか。

「改正後、税務調査が増えたというような実感はありません。税務署のマンパワーの問題もあると思いますが、税率の高いところから入りやすい傾向はあるように思います。

1つの目安として相続税納税額が1000万円以上ですと、税務調査が入る可能性について触れるケースもありますが、これも一概には言えません」

一般的に調査が入った場合、8割方は追徴課税の対象になるといわれている。しかし、「税務調査で問題となるのは、多くが名義預金などの金融資産です。きちんと申告しておけば、心配することはありません」とのことだ。

これからの相続に
欠かせない考え方とは

相続税の引き上げからおよそ2年、さまざまな相続税対策が出され、ハウスメーカーや生命保険会社などによるセミナーも数多く開かれ、いまなお多くの人が集まっている。しかし、「アパート建設や、タワーマンション、信託、生命保険などいろいろな相続対策が出てきましたが、そもそもの資産状況や正確な予想相続税額を把握しないまま対策に手をつけている方も多いように思います」と髙原さんはいう。とはいえ、多くの相続に携わるなかで、「もっと早く聞いておけば、やっておいたのに」という言葉をしばしば聞くという。

「相続財産が増えれば、生前贈与、生命保険、不動産活用…とその対策の方法も増えていきます。そして、相続税を一切払いたくないという方のなかには、多額の借入れを伴う不動産活用を実行する人もいます」

しかし、そこで重要なのは、配偶者や子どもたちといった家族の思いだと、髙原さんはいう。

「相続税対策でアパートを建てた方で、その後、奥さんが相続され、それを子どもが引き継ぐときに、その奥さんが『相続税対策のために借金をしてアパートを建てたけれど、後年はその借金の返済とアパートの修繕費のやりくりに追われました』と話されたんです。アパートを建てたことで相続税を減らすことはできたんですが、果たしてそれが家族にとってよいことだったか……」

節税対策としては成功でも、本当に家族のことを思った相続対策としては、疑問が残る対策もあるという例といえるかもしれない。

そのうえでこれからの相続対策を考えるときに欠かせないのが、介護問題だと髙原さんは指摘する。

「相続対策はすべてそうですが、親だけで考えてもダメ、子どもたちだけで話してもダメな問題です。親子両方で取り組んではじめて効果が出ます。親を相続という舞台に引っ張り出すのは大変ですが、介護はだれしもが見過ごせないもので、相続はその地続きにあります。残りの人生を幸せに過ごし、円満な相続をするためにも、介護状態になったらどこでだれに世話してもらいたいか。子どもは親が介護状態になったらどう取り組むか、双方の意思疎通からはじめてみてはどうでしょうか」

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将来、家族、いきなりわく不安  ままにならない心と体|月刊BOSSxWizBiz

セカンドキャリア研修が引き金に

田中さんの第一印象は、少し疲れた俳優の堤真一さん。けれど、180センチを超える身長と体格の良さはいかにも男らしく、若かりしころはモテただろうなという感じです。大学時代にはアメリカンフットボール部に所属して、仲間とともに練習に励んでいたそうです。高学歴に加えて、体育会系の心身の強さは、就職時の採用ポイントのひとつにもなったでしょう。

そんな田中さんが相談にやってきた最初の理由は、「もの忘れがひどくなってきた」というものでした。

そのころ、職場では管理職への昇格が叶わず、部下だった女性が上司になったといいます。さらに、セカンドキャリア研修を受け、「もう自分の役目は終わってしまった感じがする。居場所がない感じがする」ということでした。

一生懸命働いて手に入れた自宅にすら居心地の悪さを感じていました。というのも、自宅を購入するときに妻の両親の援助を受けていたからです。なんとなく、妻に対して頭が上がらないような気持ちがあったのかもしれません。そして、一人息子は中学受験の真っ最中。妻は息子の勉強にかかりきり。寝転がってテレビを見ることにさえ、気が引けていたようです。

この年代の男性は、年下の女性社員をまだまだ「女の子」と呼んでしまうような世代。田中さんの口からも何度も「女の子」という言葉が発せられており、女性を上司として認めることに、なかなか気持ちがついていかなかったと考えられます。

HAM-Dを実施してみると、うつの症状が強かったため、産業医の先生を通して心療クリニックにも通ってもらいました。同時に、おカネのかからない、でも体を動かせる趣味を見つけるようにすすめました。

9カ月くらいカウンセリングに来ていた田中さんの様子が明らかに変わってきたのは、彼がマウンテンバイクを買ってからでした。休みの日に、男友だち数人と多摩川の上流までツーリングするようになったというのです。みんなでツーリングすることで、体育会時代の状態に近いことを体感できた。これが落ち込み気味だった更年期を明るい気持ちにさせる大きな要因になったと思います。

COUNSELOR'S EYE

田中さんのように、かつては男らしく遊び、男らしく仕事をしてきたタイプの人こそ、更年期に陥りやすいといえます。少し上の世代は、経済逃げ切り組で、うまく資産運用して夫婦仲良く老後を過ごしている。しかし、この年代は、バブル期には社会や女性からちやほやされていたにもかかわらず、その後は男としての居場所がなくなる一方……、そんなふうに感じる人が多いようです。

更年期をうまく乗り越えるためには、田中さんのように学生時代と同じような経験ができる趣味を見つけることは有効だと思います。ちなみに、自転車はおカネがかからないだけでなく、一人乗りの乗り物。奥さんから浮気の心配をされることもなく、更年期にはもってこいの趣味といえそうです。

特集 働き盛りの男たちが陥る「更年期」というエアポケット

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経営者インタビュー

世界の飲料業界で「第3極」目指す そのために売上げ2兆円は必要

小郷三朗 サントリー食品インターナショナル社長
こごう・さぶろう 1954年大阪府生まれ。77年京都大学法学部卒。同年サントリー入社。洋酒事業部長や宣伝事業部長、SCM本部長などを経て、2011年サントリーホールディングス常務、同年サントリー食品インターナショナル専務、13年副社長、16年3月より現職。

飲料業界の動きが活発化する中、コカ・コーラグループと2強を形成する、サントリー食品インターナショナルは今後、どう戦線を拡大し、勝ち戦をつかもうとしているのか。同社の小郷三朗社長に聞いた。

利益では海外が6割

―― まず、国内外の事業における重点課題ですが。
新興国としてのアジア、欧州における新興国としてのアフリカ、これらの新興国群で積極的な展開をしていくと。日本では、利益率の改善というところを基軸にして伸ばしていきます。

―― 海外比率は現状どのくらいで、今後どう持っていこうと考えていますか。
売上げで言いますと6対4で国内、利益で言うと逆に4対6で海外のほうが多いんです。海外は今後もアジア、アフリカ等々の国での伸びが期待できますので、さらに海外比率は上がってくると思います。

―― 数字が逆転してしまうというのは、それだけ国内市場が過当競争だということの裏返しですか。
海外展開は、主にM&Aなどでボリュームを増やしてきていますから、結果としてそういう構成になっているだけで、国内も売上げ、利益ともに順調に伸ばしています。ただ、相対的に国内依存度がどんどん低くなっているのは事実ですね。それだけグローバル化が進んでいるわけです。

―― 緑茶、ミネラルウォーター、コーヒーなど、ジャンル別のいまの足元の課題は何でしょうか。
飲料業界はずっとデフレで価格競争が激しく、値段の勝負になることをできるだけ回避する方針で取り組んできました。その政策がいま、だいぶ効いてきましたので、その分、(2リットルサイズなどの安価な)大容量のペットボトルサイズの伸びは足踏みです。でも、当社が戦略商品として見ている500ミリリットルのペットボトル、あるいは「伊右衛門 特茶」を中心とした高付加価値商品を順調に伸ばしていますので結果、非常に大きな利益率の改善ができました。そういう意味では、国内市場ではここ2、3年、目指してきた成果が出ていると思います。

―― 商品ジャンルの守備範囲が広い中で、さらにのびしろが高そうな商品、あるいはラインナップにはまだなくて、これから強化したい分野というのはありますか。
当社の特徴でもありますが、「ナチュラル&ヘルシー」というところのポートフォリオが非常に強いと。そういう意味では「南アルプスの天然水」、さらに炭酸入りの天然水や、「ヨーグリーナ」のような微糖のニアウォーター系の市場が、当社の商品を中心に伸びています。このウォーター系のところを伸ばしていくのがまず1つ。

歌手、宇多田ヒカルさんを起用した「南アルプスの天然水」のテレビCMは話題になった。

さらに緑茶のところでは、従来のコモディティなお茶ではなくて、付加価値の高い商品を増やしていきます。16年8月には「伊右衛門 特茶」のカフェインレス商品も出しましたし、15年は「黒烏龍茶」のリニューアルも行いました。無糖茶の分野で、より健康志向の高いセグメントを伸ばしていく考えです。

ほかの分野におきましても、「オランジーナ」のような新しいカテゴリー、あるいはスポーツドリンクで透明タイプの新しいカテゴリーなど、従来とは異なる、少し新しいカテゴリーの挑戦との併せ技で伸ばしていこうというのが我々の戦略です。

「オランジーナ」育成の鍵

―― 微炭酸でヒット商品に育った「オランジーナ」(2012年発売)は、「ブラッドオランジーナ」や「ハニーレモンジーナ」など、かなり派生商品を出しましたが、直近の販売ボリュームはどのくらいですか。
15年の販売実績数字で言いますと、1320万ケースで前年比139%でした。ただ、これも新製品のところでの当たりはずれで波があるんですが、ある程度、日本の消費者に「オランジーナ」という商品が定着したのかなとは思います。商品投入から5年目ですけど、なかなか炭酸系飲料で市場に残るということは難しいですからね。ここからさらに伸ばすのが非常に難しいカテゴリーなので、17年以降、いろいろな手を打っていくつもりです。

それと「オランジーナ」の場合、どちらかといえば大人向けのドリンクということを目指していますので、業務用とかお酒と一緒に飲んでいただくとか、そういう需要開発の仕事をしていかなければいけません。いままでのように、新商品を出して既存の流通チェーンに商品を流すというだけの商売ではダメです。同時に市場開発型の仕事もしていくことが大事で、「オランジーナ」はじっくり育成していくのがポイントですね。

―― もう1つ、グラクソ・スミスクラインの清涼飲料事業買収で手に入れた「ルコゼード」(機能性飲料)や「ライビーナ」(果汁飲料)は、日本での展開やシナジーはどうですか。
いまのところ日本に導入することはないです。カテゴリー的に言うと、「ルコゼード」はエナジードリンク。この市場はいま、いろいろ方策を考えていますが、「ライビーナ」ともども、知名度が日本ではほとんどありません。

ただ、この2商品は英国の商品ですので、かつて英国の植民地であった国々には、これらの商品ブランドが残っているんですね。つまりフットプリントがある。ですから、ナイジェリアでこれら2商品の事業を買収したのもそういう文脈ですし、もともと商品基盤のある国については積極的にやっていくつもりです。ですから、シナジーは海外のほうでしょう。

―― サントリー食品インターナショナルは、商品ラインナップのほとんどがトップブランドかナンバー2の商品ですが、まだ、てこ入れが必要な商品群はありますか。
少し弱いと思っているのはエナジー系ですね。このジャンルは「デカビタC」という商品を持っていますが、いずれにせよ、ほとんどのカテゴリーに何らかの形で商品を持っています。商品力の強い弱いは若干ありますけど、フルライン。敢えて言えば、ほとんどフットプリントがないのは野菜ジュース系ですかね。このジャンルは過去、何度かチャレンジしているんですが、得意分野ではないのでなかなか難しいです。

―― 野菜ジュース系だけでなく、アサヒ飲料における「カルピス」のような、乳酸菌系飲料といったジャンルはどうでしょうか。
すでにある、既存の市場に真横からぶつかっていくのは非常に体力も要ります。そうではなく、新たなカテゴリー、サブカテゴリーと言っておりますが、そういう商品ジャンルを作ることにいま、注力しています。たとえば「ヨーグリーナ」は「カルピス」の真横に置く商品じゃないですけど、満足度としては非常に近しいもの、なおかつ健康的でナチュラル、糖分も少ないものですから。

自販機はインロケで勝負

―― 15年には、自販機事業をJT(日本たばこ産業)から1500億円で買収(=ジャパンビバレッジHD。以下JB)しました。当初、その買収金額が高いか安いか、ずいぶん話題になりましたが、統計データ的に見ると、飲料販売のチャネル別シェアでは、自販機は右肩下がりでコンビニが横ばい、スーパーやネット通販などが伸びています。
全体で言えば、約3分の1の流通ルートが自販機です。数が多いコンビニといっても全国でおよそ5万店、飲料の自販機は全国で250万台あります。なので、これが一朝一夕でなくなるわけではありません。とはいえ、コンビニでも割安な価格で売られるケースも増えた。トレンドで言いますと、自販機の250万台というのはすでに飽和状態にあって、とりわけ、屋外に設置している自販機は淘汰されていくでしょう。

印象的な「オランジーナ」のテレビCMも新バージョンを投入。

―― のびしろとしてはビル内、あるいは法人向けが大きいと。
JB社のビジネスモデルは、我々がやってきたベンダービジネスとは少し、違うんです。当社はメーカーとして、自分たちの商品をいかに消費者にお届けするか。その手段として自販機を設置してきました。

一方、JB社はメーカーではないので、設置先のロケーションのニーズに応じて、単一のメーカーではなく、いろいろなメーカーの商品をミックスした自販機を持っています。ほかにもペットボトルや缶ではなく、紙コップの自販機とか、品揃えが多いんです。いわば、設置先のニーズに応じて提供しましょうという、まさにリテール型のビジネスモデル。

サントリーグループ最大の企業を牽引する小郷氏。

そこで当社とJB社が一緒になることで、商品やサービスの幅がさらに広がり、付加価値を高められ、法人との開拓や結びつきの点でも需要拡大が狙えると。法人対法人は総合的なお付き合いということになってきます。その点、サントリーグループにはお酒もある、あるいはアイスクリームの「ハーゲンダッツ」などさまざまな商材がありますので、法人と総合的なお付き合いができます。そこが競合他社に比べて競争優位ですね。サントリーコーポレートビジネス社という法人営業専門の会社も持っていますから、そのネットワーク活用で、まさにシナジーが期待できるのです。インロケをほぼ法人向けと考えますと、これまでは自販機のインロケ比率は4割弱でしたが、JB社が加わったことでほぼ半分がインロケになりました。ここからさらに増やしていく考えです。

―― 最後に将来的な目標を。
売上げで2兆円の規模にはなりたいという思いはずっとあります。世界的に糖分を控えるというニーズがありますから、そこを強みにして、世界の第3極になる。それには2兆円はないといけないということです。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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経営者インタビュー

日本のホテル産業底上げを目指し「森トラスト・ホテルリート」上場へ

伊達美和子 森トラスト社長
だて・みわこ 1971年生まれ。94年聖心女子大学文学部卒。96年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。同年長銀総合研究所入社、98年に森トラストへ入社。2000年取締役入りし、03年常務、08年専務、11年森観光トラスト(13年から森トラスト・ホテルズ&リゾーツ)社長に就任。16年6月より森トラスト社長。

強まるコト消費は追い風

―― ひと頃に比べて円高に振れたこともあって、最近はインバウンド需要が少し弱含みと言われ、その影響で百貨店は総じて苦しくなっています。ホテルは、また百貨店とは事情が違うと思いますが、インバウンドについてはどう見られますか。
インバウンドの市場を見ますと、2015年実績で言えばざっくり、20%ぐらいがホテルへの宿泊、40%ぐらいがいわゆるショッピングでした。ですが、それは本来の姿からすると、買い物比率が高過ぎていびつだったと思います。

本来、宿泊と買い物比率は逆であってしかるべきでしょう。ホテルの客室単価が総じて上がっても、ホテルのシェアが20%ぐらいだったことを考えると、やはりちょっと異常な事態ではありました。

もう1つ、一度日本で買い物をされたらその後、定期便的に送ってあげるという仕組みがウケていることもよく聞きます。それはそれでビジネスとしてはいいわけですが、一方でリアルのお店には買い物に来なくなる仕組みもどんどん作っていることになります。

それに対して、ホテルや観光の立場というのは買い物と違い、その場に来ないと体験できないから来られるわけで、ホテルなり観光地なりに魅力がある限り、インバウンドは減りませんし、むしろさらに増やせる可能性があります。

―― そこを捉えても、時代はモノ消費からコト消費に確実にシフトしていると。
モノ消費は、インターネットを介せばある程度は済みますからね。ですから、消費そのものが減っているわけではありません。対してコト消費は、そこでしか体験できないから意味があるのであって、どこへ行っても同じ体験しかできないのであれば、わざわざ来る必要もありません。

ただし、リピーターも2度3度となればそのうち飽きてきます。そこで、新たな魅力をどうクリエイトし、ブランディングしていくかが重要です。これから産業界を挙げて、インバウンド需要に向けた本格的な産業育成に入っていくということじゃないでしょうか。20年の東京五輪までに、日本のそれぞれの地域でコト消費に向けた整備を、より高めて完成させないといけません。

当社グループで言えば、ホテルの需要に関しては当然、円高に振れた分、16年5月ぐらいから為替の影響が少しありましたし、熊本地震の影響も若干ありました。さらに中国の景気足踏みの影響もあって、伸び率では鈍化していると思います。ただ、それでも業績自体は15年より伸びている状態にありますので、そこそこ順調かなと。いずれにしても、インバウンドが今後、まだまだ伸びるようにするためにどうするか、そこは常に意識しています。

赤坂や品川・三田エリアも

―― 森トラストグループの中長期ビジョンでは、2019年度の目標値として、売上高で1800億円、うち賃貸関係事業で650億円、ホテル関係事業で400億円、不動産販売事業その他で750億円、その先の23年度は売上高2100億円、賃貸が850億円、ホテルで550億円、不動産販売などで700億円としています。この計画に向けた考え方を改めて聞かせてください。
単純にいまの環境のまま伸びていけば、確かにホテル事業はほかの部門に拮抗してくることになると思います。ただ、不動産事業としての収益力は、やはりオフィス賃貸のほうが効率がいいということも考えなければいけないので、売上げだけを単純に見ても、本当は比較はできません。ホテルであれオフィス賃貸であれ、あくまでもその投資の結果としての利益が、投資対効果でどうなのかを見ていかなくてはいけないですからね。

―― 今後の主なオフィスビル計画にある、赤坂ツインタワー建て替え計画(仮称・赤坂2丁目プロジェクト)や、品川・三田エリアに保有するビル3棟の一体再開発計画はどう展望しますか。
赤坂のプロジェクトは、いまオンプロセスでやっているところですので、細かいところはお話しできないのですが、だいたい方向性は決まっていて、基本的には虎ノ門、赤坂、それに丸の内の3つの特区で連携し合いながら、東京をどうPRしていくかが鍵になります。

赤坂プロジェクトのオフィスビルは、もちろんホテルも誘致していきたいと思っています。虎ノ門や赤坂エリアでも今後、かなりホテルが集積してきますが、それを競合と見るのか、ポジティブに捉えて面的な集積と見るのか。私は後者の立場を取ります。丸の内もそれなりにホテルが集積し始めて、日本橋にもあるという状況と比較して、インターナショナルないいホテルがあるところはどのエリアかをイメージしていただいた際、虎ノ門、赤坂エリアがそこにきちんと入ることが重要ですから。

―― 品川・三田エリアは、JR品川駅と田町駅間にできる新駅、および周辺エリアの開発度合にもよりますし、27年開業予定のリニア新幹線などを考えると、かなり長期スパンで考えていくプロジェクトになりそうですね。
はい、丸の内や虎ノ門エリア周辺の動きが活発化し、その次に大きく動くのが品川・田町エリアです。その時代を迎える頃には当社の大きな2つの開発(虎ノ門と赤坂)が終わって、その上で品川・田町というエリアのポジショニングが、JRさんも含めてどうなっていくのかを見ながら考えていくべきことだと思っています。

品川・田町エリアは、都心の中で羽田空港にも比較的近いですし、新線や新駅もできてくることを含めて考えますと、(虎ノ門や赤坂とは)また違うコンセプトがあってしかるべきですね。東京を意識しながらも、常に地方も意識している、あるいは世界を意識しているものと、全部がつながっていくような位置づけのプロジェクトになるでしょう。具体的な再開発の用途に関しては、もう少し時代を見ていくべきかなと。単純にオフィスビルを造ればいいわけでもないですし、オフィスの在り方も変わってくるかもしれませんから。

―― 東京五輪が20年に終わった後、仮に予定通り27年にリニア新幹線が開業するとしても、五輪後の景気後退は前回の東京五輪で経験しています。その点は、森章さん(森トラスト会長で伊達氏の実父)も以前、「五輪後の財政の崖」に懸念を示されていました。不動産業界に限ってみれば、そこのリスクヘッジは、いかに他社よりもいい立地を抑えるかがやはり基本ですか。
ロケーション重視で、次に投資のボリューム、というか投資バランスを崩さないということだと思うんですね。いまの金利状況では資金調達もしやすいですし、容積率も緩和されている等々の条件の中で、建築費が高いという懸念はありますが、簡単に新規の投資価値が見いだせてしまうのです。だからといって、いままでの3倍も4倍も投資しようと思ってはいけません。

次世代の森トラストを担う伊達美和子社長。

一方で、景気不景気の波がある中でも、コンスタントに投資をしていかなければ事業は持続、成長していかないのも事実です。さらに、財務体質を良くし、自己資本比率も厚めにしていく。あらゆる点で逆風になった時には貸し渋りも起きてきますので、そういう事態にもきちんと備えておく必要があります。そこは会長自身もやってきたことですが、その部分を今後も崩さないというのが1つのセオリーでしょう。

ホテルに関しては、かつてよりも投資を加速しています。景気の波はどんな業界でもあるわけですけど、世界の旅行者は増え続けていますし、どの国から来られるかという点が変わってくるだけですので。ありがたいことに日本の観光資源は磨けば魅力がありますから、紆余曲折はあっても伸びていく分野なので、投資は続けていきます。都心で大型のオフィスビル1棟を建てるのと、ホテルを10棟ぐらい建てるのとが同じくらいの投資というケースもあります。そういう意味では、ホテルのほうが投資を少し早めたり、逆に少し遅くしたりと、供給の調整がしやすいかなと思います。

―― ホテルの立地等々を見極めながら、運営方法もフランチャイズ方式のほか、所有は森トラストでマネジメントや管理・運営は提携先のホテルチェーンに任せるMC方式、さらに直営やリース案件など多彩ですね。
MCになればなるほど、いままでにないようなホテルブランド、あるいは高単価なホテルを誘致できます。一方でFCはFCで、我々がハンドリングできるので、オペレーションのコントロールがしやすいというメリットがある。ですのでそうした比較の中で決めますし、要は選択肢の中でのバランスだと思います。

「常に先を先を見ている」

―― 近年は、マリオットを軸に外資系ホテルと組んだリブランドが活発ですが、森トラスト・ホテルリート投資法人の株式上場(16年度中)も予定されています。
資金調達をし、自分たちのノウハウや技術で開発もして、新しいホテルを保有していること自体は、そんなに重荷ではありません。いま、ホテルは簿価に対して時価では相当な利益率のある状態ですから、無理にリートに組み込まなくても問題はないわけです。

我々がホテルリートの上場を目指すのは、ホテル産業をもっと拡大していきたいからにほかなりません。ホテル産業を確たる地位に引き上げることによって市場が活性化し、次に自分たちが投資をする環境も整う循環になります。ホテルビジネスも安定的、かつ成長力もある事業であることを、世間にさらに理解していただくと。上場リートという市場のポジショニングにすることによって、ホテルに対する投資の見方などを変えたいという思いがあります。

ホテルに関するたくさんのプレイヤーが来て、その街が更新されて力をつけ、PRできていく。そのエリアが日本で目立つ存在になり、海外からも人が来るという循環も生まれます。そのためには、自社でホテル事業を完結するだけでは限界があるのではと思います。

会長(森章氏)も早くから「リートを作るべきだ」という提唱をしてきて、森トラスト総合リート投資法人(大型オフィスビル主体で商業施設、ホテルにも投資)も15年ほど前に設立していますが、それも同じです。不動産と金融をつなげることによって、銀行借り入れではない市場を作ることで不動産市場が活性化すると考えました。

収益還元法(該当物件を賃貸に出して利用された場合の資産価値を算出)という客観的な価値と、キャップレート(期待利回り)という、ある種公平な尺度ができて、不動産業が正しい産業に成長したのがリート。ホテルもそういう循環になったらいいなという思いから、ホテルリートの上場を考えているのです。

―― ほかの大手ディベロッパーも最近はホテル事業に積極的ですが、たとえば財閥系ディベロッパーとの差別化ポイント、あるいは森トラスト独自の立ち位置やDNAといった点はどうですか。
私は世界中のホテルを見ながら、どういうところとビジネスパートナーとして組んだらいいか、どういうブランドがいいかなとか、先を先を見るようにはしています。あとは、選択する中でパートナー先の将来性も見ていますね。地方で、なるほどと思えるエリアを先に押さえていくことによって、新たなビジネスチャンスを作っていきます。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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経営戦記

加留部 淳 豊田通商社長
かるべ・じゅん 1953年7月1日生まれ。神奈川県出身。76年横浜国立大学工学部電気工学科卒。同年豊田通商に入社。99年物流部長、2004年取締役入り。06年執行役員、08年常務執行役員、11年6月末より現職。学生時代はバスケットボール部に所属。座右の銘は着眼大局、着手小局。

近大とマグロ養殖でタッグ

〔昨年、豊田通商が近畿大学と提携して卵から育てるマグロの“完全養殖”事業に参入(養殖事業そのものは2010年に業務提携)するというニュースが大きな話題になった。11年に同社の社長に就いた加留部淳氏は、就任後初めての出張が近大水産研究所で、同研究所の宮下盛所長と意気投合。今後は豊通と近大のタッグで完全養殖マグロの生産を順次拡大し、海外へも輸出していく計画だ〕

もともと当社は人材育成には力を入れ、いろいろな研修プログラムを用意していますが、その中に若い社員の事業創造チャレンジのプログラムがあるんです。自分たちでまず研究し、社内外の先輩や識者の意見も聞いて新事業案を作らせるものですが、その過程で「ぜひ、近大さんの販売や養殖のお手伝いをしたい」と提案してきた社員がいましてね。

面白い事業プログラムだったので、当時の経営陣が「やってみろよ」と。で、動き始めて実際に予算もつけ、近大さんにもお話をしに行ってというのがスタートでした。こういう社内提案制度は、起業家精神の醸成にすごく必要だと思います。もう1つ、マグロの漁獲量が減る一方で、需要は日本や東南アジアを中心に増えているわけですから、商社のビジネスとして意義がある。会社としてもやる意味があるし、若い社員を育てる点でも有効、その2つの観点から全面的にバックアップしています。

もちろん、ほかの商社でも水産系ビジネスには力を入れています。その中で、我々は違う土俵で戦うケースもありますし、どうしても同じ土俵の時は、真っ向勝負だと当社の企業体力では勝てないわけですから、戦い方を考えないといけない。そこは全社員と共有しています。そういう意味でも、他社が手がけていないマグロの完全養殖事業は非常に面白いビジネスですね。

近大とマグロの完全養殖事業で提携。左端が宮下盛・近大水産研究所長、右から2人目が加留部社長(2014年7月の会見)。

〔近大とのタッグは話題性が大きかったが、豊通という会社全体として見れば1事業の域は出ていない。これに対し、加留部氏が12年末に決断した買収案件は全社横断的な規模だ。当時の為替レートで同社では過去最大となる、2340億円を投じて買収したフランスの商社、CFAO(セーファーオー)がそれ。CFAOは、30年には中国を上回る巨大市場になると目されるアフリカ市場で強固な事業基盤を持ち、とりわけフランス語圏の多いアフリカ西側地域で圧倒的な商権を持っている〕

過去最大の投資ですから、我々もものすごく慎重に考えましたし、私も実際に現場を見に行きましたが、先方も傘下の自動車販売会社の修理工場とか、結構オープンに見せてくれましてね。当社とはDNAが合いそうだなと。

もう1つ、彼らは自動車関連事業以外もたとえば医薬関係、あるいはオランダのハイネケンと一緒に合弁工場を手がけるほか、BICブランドのボールペンなど、プラスチック成型品の生産なども手がけていて当社と親和性が高かったのです。

海外に商社という業態はあまりないですが、彼らは自分たちのことをはっきり「商社だ」と言いますから。ですから豊通がやっている事業はすぐに理解してもらえましたし、右から左のトレーディングだけでなく、彼らは工場を持ってモノづくりまで踏み込んでいるので、(トヨタグループの豊通と)お互いの理解はすごく早かったですね。

唯一、気になったのは若手社員の意識でした。若い社員が果たしてアフリカの地でビジネスをやってくれるのかどうか。そこで数人の若手に聞いてみたところ「この買収案件はいいし、アフリカは将来、伸びる市場だからやりましょうよ」と。そういう声に最後、後押しをしてもらえたようなところもあるんです。“一人称”という言葉を当社ではよく使うんですが、一人称、つまり当事者意識をもってやっていく気持ちがあるかどうかが大事ですから。

独自戦略を掲げる加留部氏。

フランス商社買収で攻勢

〔前述したように、CFAOは歴史的にアフリカ西海岸エリアの市場を得意とし、豊通は東海岸に強みを持っていたため、エリア補完も綺麗に成立した〕

地域的、事業的な割り振りで言えば、自動車関係はお互いの強みなのでしっかりやっていこうと。アフリカ西海岸で当社が細々とやっていたテリトリーは全部、CFAOに渡しています。物流の共通化なども進めて、お互いの事業効率を高めてきていますし、トヨタ車の販売や物流もCFAOと一緒にやっています。

当社としてはマルチブランドを扱うつもりはあまりなくて、トヨタと日野自動車、スバル(=富士重工)の商品を扱うわけですが、CFAOはマルチブランドなので、たとえば今年、アフリカでフォルクスワーゲンとのビジネスも決めました。

当社はケニアでトヨタ車を扱っていますが、CFAOはケニアにVW車を持ってくるわけです。CFAOは豊通の子会社なのにと一瞬、矛盾するような印象を持たれるかもしれません。我々はトヨタ車で現地シェアナンバー1を取りたいけれども、彼らもVW車でナンバー2を取ればいい。そういう組み合わせみたいなものができてくると思うんです。

いずれにしても、自動車関係のビジネスはお互いに共通しているので、この分野はオーガニックな成長で伸ばしていけるでしょう。一方、医薬品関係はいま、彼らもどんどん伸ばしていて、我々も日本の製薬メーカーを紹介したりといったサポートをしています。

〔豊通がCFAOを買収したことで、新たな効果も表れてきている。たとえば、前述したCFAOが合弁で手がけるハイネケンの工場運営会社。豊通の傘下に入る前は、CFAOの株主が収益はすべて配当で還元してほしいと要請していたため、新しい投資ができなかったのだが、豊通が入ったことでロングタームで事業を見るようになってくれたのだ〕

私もハイネケンの合弁会社社長に会って話をしました。先方も理解してくれて、生産国もコンゴだけだったのを別の国でも展開しようという話に発展しましたしね。さらに、フランス大手スーパーのカルフール。CFAOがカルフールとの合弁でコートジボアールで店舗を出しますけど、これも私がカルフールの社長とお会いし、アフリカ8カ国で展開することを決めました。

日系メーカーとではこんな事例もあります。ヤマハ発動機のオートバイを生産する合弁会社をCFAOがナイジェリアで作るのですが、彼らもヤマハとのお付き合いは従前からあったものの、それほど深かったわけではありません。

一方で、我々は日本でも(ヤマハと)いろいろなビジネスをやらせていただいているので、この合弁話を提案したら了承してくださり、出資比率も50%ずつでOKしてくれたんです。CFAOは豊通の資本が入っている会社だからと、全幅の信頼を置いていただけた。普通は、日本のメーカーが現地へ出るのに50%ずつというのはあまりなく、イニシアチブは日本のメーカー側が取るものだからです。

そういうCFAOとの協業ロードマップは10年スパンで立てていまして、私もCFAOの首脳もお互いに行き来しています。フェース・トゥー・フェースで、年に4回ぐらいは顔を合わせているでしょうか。それ以外にも毎月、テレビ電話での会議も1時間半ぐらいかけて実施し、いまの経営課題や将来の絵図などをお互い共有化するようにしています。

〔豊通には、TRY1という経営ビジョンがある。これは収益比率として自動車と非自動車の割合を均等にしていき、さらに20年にはライフ&コミュニティ、アース&リソース、モビリティの3分野の収益比率を1対1対1にするというものだ。CFAOをテコにしたアフリカビジネスの拡大も、TRY1計画達成に寄与する部分は大きいだろう〕

いまでもCFAOは1億ユーロぐらいの純利益を上げていますから、それだけでも我々は彼らのプロフィットを(連結決算で)取り込むことができますし、プラス、将来的な絵図という意味でも、お互いにステップ・バイ・ステップで各事業を伸ばしていくことで、TRY1の実現にすごく貢献するはずです。

〔総合商社といえば近年、資源ビジネスで荒稼ぎしてきたイメージが強かったが、資源価格の市況に大きく左右されるリスクがあることは、住友商事や丸紅が資源価格の大幅な下落などで多額の減損を強いられたことでも明らか。とはいえ、こうしたリスクテイクは、総合商社にとってはいわばレーゾンデートルでもあり、投資するしないの判断は難しい〕

資源といってもいろいろあると思います。いまさら石炭や鉄鉱石の採掘ビジネスにお金をガンガンつぎこんでもダメ。また、シェールガスやシェールオイルも私が社長になった頃に他社がみんなやり出して、社内でも「やりたい」という声が多かったのは事実です。でも、よく調べてみたら、当社はすでに周回遅れ、しかも1周でなく2周も3周も遅れている。「これでは高値掴みしてしまう可能性があるし、投資金額も大きいのでやめておきなさい」と、社内でかなり明確に言いました。

ですから、我々はもっとニッチで別な土俵で勝負していこうと。たとえば、チリで開発しているヨード。これはイソジンのうがい薬、レントゲンを撮る時の造影剤でも使うんですが、ヨード産地は日本、米国、チリと世界で3カ国しかありません。当社はその全部の産地で開発拠点を持っているので、将来的には取り扱いシェアを15%まで高めたいと考えています。

ほかにも、アルゼンチンではこれからの自動車ビジネスに直結する、リチウム関連の鉱山事業を昨年から始めましたし、豊通らしさというんでしょうか、ニッチキラーでもいいからウチらしさが出て、かつ上位の商社とも十分に戦えるビジネス分野でやっていこう、というのが当社の基本ポリシーです。

〔目下、前述したTRY1達成に向けて歩を進める豊通だが、現在の非自動車ビジネス拡大の基盤を整えたともいえるのが、06年に旧トーメンと合併したこと。トーメンが持っていた化学品や食料といった主力事業分野を得たことで、総合商社としての幅が各段に広がったのだ〕

実際、事業ポートフォリオが広がって、合併は結果として大正解でした。エネルギーや電力関係のビジネスはいま、一部を除いてすごくうまくいっているんですが、こうしたジャンルは豊通のままだったら絶対に出てきていないビジネスですね。

豊通はもともとが自動車関連ビジネスメインでしたから、農耕民族なんです。畑を耕して種をまいて、雑草をとって肥料や水をやってと。それが狩猟民族(=トーメン)と見事に化学反応したという感じ。狩猟民族の人も農耕民族から学んでもらえたし、お互いの良さを認め合ってすごくいい合併だったと思います。

業界ランクには興味なし

〔加留部氏は横浜国立大学工学部出身だが、就職活動では「とにかく商売がやりたくてしかたがなかった」と述懐するように、入社試験は商社しか受けなかったという〕

私は1976年の入社ですが、当時は就職が全般的に厳しくなり始めた頃で、「商社冬の時代」になりかけていた難しい時期。各商社とも採用人数を絞り、狭き門になっていました。それでも私はとにかく商社に行きたくて、最初に内定をくれたのが豊通だったんです。商社としては規模は小さいけれど、その分、若手にも仕事を任せてくれるんじゃないかと。トヨタグループだから財務基盤もしっかりしていましたしね。

〔豊通入社後は3年目に米国駐在となり、米国でのビジネスで5年間揉まれて逞しくなった後に帰国。国内で6年過ごして結婚後、再び渡米して9年間駐在した。こうした国際経験豊富な加留部氏だけに、昨年からは入社7年目までの社員を対象に、駐在でも長期の研修でも語学留学でもいいから、とにかく一度、海外へ出ることを奨励している。

ただし、加留部氏はほかの商社との戦いにおいては、純利益で何位といった相対的な物差しでなく、あくまで豊通としてどうなのかという基準で考えると強調する〕

2年か3年前、社員みんなにメールを打った時に触れましたが、何大商社とか何位であるとかは、私はまったく関心がないんです。自分たちが目指す方向に向かえているかが大事ですから。たとえば敵失があって他社の順位が下がったとします。仮に順位を純利益で測ったとして、「他社が失敗してウチが5位になったところで君たちは嬉しいか? 私は嬉しくないよ」と。

社員向けのメッセージメールは年に8回か9回出していますが、ある時、新入社員から「何位を目指しますか?」という質問を受けた時も同じことを言いました。各社ごと、事業ポートフォリオがかなり違いますし、順位は関係ない。自分たちのビジネスがどうなのか、常にそこを自問自答し検証することが正しい道だと考えます。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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エレベーターの到着音は「拍子木」大手町の日本旅館「星のや東京」

東京・大手町という、大都会のど真ん中でオープンした日本旅館の「星のや東京」。運営を手がける星野リゾートにとっても、ここは将来、海外の大都市に日本旅館を展開する上で、重要な起点になる施設だ。

京都の庭師が、しつらえ

東京の大手町という指折りのオフィス街で異彩を放つ建物、それが2016年7月20日に開業した、星野リゾートが手がける日本旅館、「星のや東京」だ。建物外観は重箱をモチーフにしたデザインで、“塔の日本旅館”がコンセプトになっており、最上階には天然温泉の大浴場もある。宿泊者は玄関で靴を脱ぎ、和風の下駄箱に靴を預ける。周辺はコンクリートジャングルで高層ビルが屹立しているだけに、何から何まで和のテイストで和ませてくれる「星のや東京」は、エントランスに入った途端、訪れる人をホッとする空間で包んでくれるのだ。

「星のや東京」の随所にこだわりを盛り込んだ馬場義徳氏。

上階に上がるエレベーターを利用すると、同社のこだわりの1つが伝わってくる。エレベーターの床面は畳が使用され側面は木を使用、い草の香りが心地いい。そして、一番の圧巻は目的フロアに着いてエレベータードアが開く瞬間だ。普通は、エレベーターの到着音は「ピンポーン」といった感じが一般的だが、和の世界観に統一するため、エレベーターの到着音に拍子木の音を使ったのである。星野リゾートの企画開発部プロジェクトプロデューサー(一級建築士・金融戦略MBA)の馬場義徳氏はこう語る。

「エレベーターの音はすごく思い入れのある部分です。まずは床を畳にしようと。玄関から客室まで、ずっと同じ畳でつなげることで、要は玄関に入った瞬間にお部屋が始まっていますよ、ということをお伝えしています。で、旅館の建設途中、現場を確認に行った時に『ピンポーン』というエレベーターの到着音が聞こえて、『ん? これは待てよ。この音を聞いた瞬間にお客様が日常に戻ってしまう。自分のオフィスのエレベーターと同じような音が聞こえたら、仕事を思い出してしまうんじゃないか』と考えました」

エントランスの扉を開けた途端、和のテイスト空間が広がる。

馬場氏が疑問を感じた時点で、すでにエレベーターの仕様は決まっていたのだが、少し無理を言って変更をお願いしたという。同氏が続ける。

「日本らしい、太鼓の『ドドーン』とか『カッチン』とかいろんな和風の音があるじゃないですか。そこを社内で急いで協議して、太鼓だと響き過ぎる。では、拍子木ならどうか。これなら、エレベーターが開く感じが表現できるのかなと。日本旅館にあるべきエレベーター、並びにその音にはこだわりましたね」

旅館の外観デザインコンセプトは重箱を重ねた塔のイメージ。

もう1点こだわったのが、庭の在り方だった。一般的には、門があって庭があり、その後ろの建物へと通じていく。だが、大手町という一等地のオフィス街では、そのような空間を確保するのは難しい。そこでランドスケープのデザイナーと協議の末、石の貼り方を庭のように展開していくことで解決したという。「星のや東京」の庭は、近隣の大きなビルから旅館という小さな建物の世界観へと、宿泊者の気持ちを切り替えてもらう重要な入口。それだけに、わざわざ京都から腕利きの庭師に来てもらい、しつらえている。

日本旅館を世界に発信

「星のや東京」は地上18階建てで、3階から16階まで計84室の客室が用意されており、1フロア6室。旅館の立てつけとしては、6室しかない旅館を14層重ねたという設定で、各フロアに置かれている「お茶の間ラウンジ」も特徴の1つだ。従来とは違う、重箱を重ねたような塔の旅館というコンセプトだからこそ生まれたものといえる。お茶の間ラウンジには夜間以外はスタッフが常駐し、朝ならおにぎりやみそ汁、カフェタイムにはコーヒー、あるいは抹茶や日本酒なども用意している。

「『お茶の間ラウンジ』は、そのフロアにお泊りの方が使える、セミプライベートな空間なんです。自宅にいる時にお茶を飲みに行く場所のように、気軽に使っていただきたいという思いがありまして、お茶の間とお泊りのお部屋を一体にして使っていただくわけです」

各フロアに設けた「お茶の間ラウンジ」も売りの1つだ。

馬場氏は早稲田大学大学院で建築工学を修め、1999年に西武建設に入社し、同社には08年夏まで在籍した。西武建設時代は、「横浜八景島シーパラダイス」の水族館、「としまえん庭の湯」という日帰り温泉施設、あるいは軽井沢のアウトレットの増床、スキー場のゲレンデ改良などの仕事をこなした。だがその後、西武鉄道が有価証券報告虚偽記載問題で上場廃止となり、経営陣の一新や西武グループの再編成、リストラの過程で、新規の開発案件が一旦、減っていってしまう。

「そこで、ビジネスや投資家の人たちの考えを、より知りたいと思って一橋大学大学院で学ぶことにしました。その後、一橋大の教授を介してヘッドハンターの方を紹介されまして、『星野リゾートという会社はどうか』と。入社して、すぐに携わったのが『星のや京都』でした。

その後、将来の展開で海外を見据えた時に、これまでリゾート地ばかりで行っていた事業に対して、海外に出ていくには1度、東京に旅館を出すべきとの議論になったんです」

「星のや東京」は、大都会のど真ん中に出した日本旅館という点で、ニューヨーク、パリ、ロンドン、シンガポールといった海外の主要都市に星野リゾート流の旅館を手がける、橋頭堡にもなった。宿泊料金は、税サービス料込みで1室1泊7万8000円からで食事付きではないが、ここに泊まった外国人観光客の口コミなどを考えれば、日本発の旅館が世界に打って出る日は、そう遠くないだろう。

(本誌編集委員・河野圭祐)

月刊BOSS×WizBizトップインタビュー

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【BOSS×WizBiz】会社はどこに向かうのか経営者の思いを伝えるCIブック

矢野 慎也 アンサング社長
やの・しんや 1979年生まれ。独立系コンサルティング企業で、マーケティング責任者と新規事業立ち上げ責任者を兼任。WEBマーケティング会社の取締役を歴任。同社退職後、株式会社アンサングを設立。「デザインにストーリーを組み込んだ」ビジュアルブックをベースに、理念浸透、インナーブランディング、採用ツール制作支援などを行う。

企業の独自性を伝える

── アンサングはコーポレーション・アイデンティティ(CI)事業を柱に据えていますが、どういったビジネスなのでしょうか。
CIブックと言いますが、会社の企業理念などをビジュアルブックの体裁にして、それを従業員に共感していただけるようお手伝いをしています。

会社の企業理念は、多くの場合、標語になってしまっていて、カードにして社員に配ってもポケットに入っているだけで理解されていないことがあります。実際にCIブックを作ったある企業では、企業理念を社員に伝えてはいたのだけれども、まったく共感されず、理念の背景もわからない状況で、価値観の浸透もされていなかったそうです。組織を拡大するにあたり、いかに理念を伝えるのかということで、企業理念の要素を分解し、物語やストーリー調にしてビジュアルブックという体裁にして作っていきました。

その他には、事業承継をしたいという会社です。先代の社長から新社長に代わるにあたって、いままで事業をしてきたDNAを完全に無視することは、既存の社員から反発を招くことになります。大切にしたい軸を残しながら、次世代の経営に繋げていくというCIブックを作る企業もありました。

―― どういった経緯からCI事業を手掛けることになったのですか。
最初からCIというわけではありませんでした。もともとはある女性スタッフが私に作ってくれた一冊の本が始まりでした。彼女は出版社に勤めた経験があって、作家としての活動もしています。アンサングのスタンスはこういうことですよね、と私に32ページのビジュアルブックを作ってくれたのです。見た瞬間にゾクッとしました。起業したばかりの、多くの判断で迷っていた時でしたから、目の前の靄が一瞬にして消し飛んだ感覚があったのです。その本のタイトルは「unsunghiro」というタイトルで、今でも鞄に入れて持ち歩いて、迷ったときに、原点に戻るために時折見返しています。思い返せばCIブックをサービス化しようとした始まりでした。

―― 矢野社長ご自身は、この事業を進めるにあたって、CIについてどのように考えていますか。
企業理念と言っても、共感する理念もあればしない理念もあります。共感しない理念は、標語として存在しているだけの、取ってつけたお題目のようなもので、企業行動が不一致の場合は伝わりません。性格不一致の夫婦が家庭内別居や離婚をするように、企業と従業員の間に不一致があれば、家庭と同じようにバラバラになってしまいます。ただ理念は考えても答えが出るわけではありません。結局、経営者がどのような会社にしたいのか、決めなければいけないのです。不一致にならないためには、経営者は自ら禅問答をして決めた答えに、自ら従う必要があります。

そうして生まれた経営理念も、うまく表現できないこともあれば、伝え方がわからない場合もあります。私たちの仕事は、思いを形にして伝える手法として、クリエイティブな見せ方をすることです。こうした会社の軸となる規範が従業員すべてに伝われば、人事評価、採用基準、ブランディング、教育方針、内装すべてに一本の軸が通り、不一致になることはありません。自社にとって何が正しいのかを従業員それぞれが判断できる会社は強いです。

だからこそ、社名を他社に置き換えても成立するようなお題目の理念は、会社独自の理念とは考えていません。企業を構成する要素に一貫性が出てくれば、その価値観に合った人たちが集いやすくなりますので、会社が好きで誇りを持って働き甲斐を感じてくれる人も増えます。

自分たちが思っている以上に、人は発言と行動の不一致を見抜きます。魂がこもらない理念を作ると、まず経営者が理念を守りませんから、従業員には伝わらない。人数の多い大企業でしたら中和されるかもしれませんが、中小企業で経営者の行動に疑問を持たれると、致命的なダメージになりかねません。

―― 採用面でも活用できると。
新卒の学生が50社100社と企業回りをしていますが、企業が配っている採用ツールは、だいたい決まりきったことしか並べていません。○○の業種で職種は△△、先輩のインタビューが載せてあって、キャリアパスがどうとか。多くがホームページを見れば収集できることをパンフレットにしています。私たちが作る場合は、ストーリーを紡ぎ、未来のイメージを受け手側に見せることができます。現在の止まっている情報ではなく、自分の人生はどうなっていくのか、を内在的に問いかけるようなものも作れます。ありきたりの文言ではなく、その会社の個性を伝えることができます。昔は商品で差別化ができたのかもしれませんが、企業の独自性を伝えるのに商品だけでは難しい時代になっていますから、こうした働きかけも採用の武器になります。

―― B2Cのビジネスも2本目の柱に育っているようですね。
「絵本の学校」をやっています。絵本を作りたい生徒を集めて、企画編集から商業出版の企画書の書き方、コピーライティングやセルフブランディングの方法等、絵本作家として一冊の本を作り、自己プロモートできるまでを1年間かけて学んでいく。卒業後もアーティストとして活動を展開するためのフォローもしているスクール事業があります。ドライブがかかりはじめていますので、仕組みが整えば、こちらのほうがボリュームが大きくなる可能性がありますね。

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