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2013年3月号より

少子化時代に入園者を増やす幼稚園の「秘密」
柴原 幸保  慈眼寺住職

柴原 幸保  慈眼寺住職

しばはら・ゆきやす 1959年生まれ。駒沢大学卒業後曹洞宗大本山総持寺で3年間修行したあと慈眼寺に戻る。98年併設する秩父幼稚園などを運営する学校法人弘道学園理事長に就任。99年慈眼寺住職となる。マーケッター、セミナー講師、コンサルタントとしても活躍している。

どん底からの復活

―― 柴原さんが住職を務める埼玉県秩父市の慈眼寺は、秩父札所三十四寺のうち十三番札所となっている名刹だそうですね。
柴原 慈眼寺は戦国時代の1486年に開かれた曹洞宗のお寺です。私で20代目の住職ですが、大正時代に私の祖父がこの寺の養子入り、その後、父、私と住職を務めています。

―― 現在、秩父幼稚園と秩父保育園を併設(学校法人弘道学園)していますが、幼稚園を開いたのもずいぶん早かったとか。
柴原 1925年(大正14年)、秩父で最初の幼稚園でした。

―― 少子化時代の幼稚園経営というのはさぞや大変だろうと思うのですが、秩父幼稚園では7年間にわたって園児が増え続けているそうですね。
柴原 少子化に加え、秩父では過疎化も進んでいるため、子供の数がどんどん減っています。近くの小学校では、生徒数が学年で十数人しかいない。ですから環境は非常に厳しいです。

私は駒沢大学を卒業したあと3年間、曹洞宗大本山総持寺で修行し、その後、慈眼寺に戻り1987年に幼稚園に就職したのですが、その頃は園児が毎年30人ずつぐらい減っていく状況で、最盛期には320人いた園児が、90年には120人にまで減っていました。悪いことは重なるもので、間もなく父ががんを患い、私が経営を任されるようになっていきました。

それでも、90年を底にして、4年間、園児数は増えました。しかし2005年までの12年にわたり園児数は減り続けました。この時は何をやってもうまくいかなかった。私自身、ストレスで押しつぶされそうになりましたし、一時は閉園の噂まで出たほどです。

―― そこからどうやって甦ったのですか。
柴原 なぜ何をやってもうまくいかなかったのか。いまから考えれば覚悟がなかったんです。何が正しいかもわかりませんでした。ですから、園児を増やすことばかり考えていて、ポリシーも何もなく、ひたすら数を追うばかり。しかし結果は表れない。その一方で職員には厳しく当たってしまい、溝ができてしまっていました。

そうしたどん底の状況の中で、自分をもう一度見つめ直してみました。なぜいま自分が幼稚園の経営をやっているんだろう。なぜこの場所なんだろう。自問自答していくと、それはいま、自分が必要とされていることに気付いたのです。

では自分の役割とは何なのか。

そもそも秩父幼稚園は、祖父が開いたものです。祖父は幼くして親兄弟をなくし、いくつかの家を転々としたそうです。そうしてこの地にたどりついたあと、これまでお世話になった人に恩返しするつもりで幼稚園をつくったそうです。

私もその原点を忘れてはいけないし、そのためには園を絶対につぶしてはいけない。私の次の世代がきちんと経営できるようにして渡すことが自分の役割であることに気づいたのです。この時から覚悟が決まりました。

―― 具体的にはどのような手を打ったのですか。
柴原 数を追うことはやめました。それまでは誰でもいいから入ってほしかった。でもそうすると結果的にクレームも増えてしまう。そこで、まず自分たちのポリシーを決め、その方針が好きでない人は来てくれなくていいというように変えました。すると、集まる人の質が変わってきたのです。

また、それまでも子供の教育には重点を置いてきましたが、それをわかってくれないというジレンマがありました。でもこれは私の一人よがりだったのです。教育を押し付けるのではなく、母親に寄り添うような育児講座を始め、子供たちをやる気にさせるヨコミネ式教育法を取り入れました。

教職員に対しても、失敗を責めるのではなく、力を活かすように考えを改める一方、父兄にアンケートを取り、職員をやる気にさせる言葉を書いてもらいました。

しばらくは、入園児の減少は止まりませんでした。それでも、昨日より今日、ティッシュ1枚分でいいから成長しようと続けていったところ、教職員との一体感を得られるようになり、教職員は笑顔でのびのび働くようになっていったのです。

そして何をやっても増えなかった園児数が、05年を底に伸びるようになりました。120人まで減った園児は、現在160人まで回復しています。

結局、私がやったことは、自分の役割を自覚し覚悟を決め、マイナス思考からプラス思考へと舵を切ったことだけでした。

葬式に頼らない寺院経営

―― その体験をもとに、最近では講演活動や慈眼寺を舞台にしたビジネス交流会まで開いているそうですね。しかもテーマが「仏教を経営に活かす」だとか。
柴原 いまも自分のやってきたことを振り返りましたが、よくよく考えてみれば、これはもともと仏教の教えにあることなんです。

仏教を特徴づけているのが「四法印」、すなわち「諸行無常」「諸法無我」「一切行苦」「涅槃寂静」です。この言葉を私流に解釈すれば、諸行無常は「変わり続ける」ということですし、諸法無我は「みな、つながっている」、一切行苦は「プラス受信」、涅槃寂静は「みんなが“はっぴー”に」ということです。

これを経営にあてはめれば、「常に変わり続ける」「みな、つながっている。だから先に渡す」「何ごともプラスに受け止める」「みんなが“はっぴー”に」ということであり、まさに私がやってきたことそのものです。
そういうことをセミナーでは話しています。

こうしたことに加え、今年は「愚門塾」を毎月1回のペースで開いていきます。これは、偉大な究極のメンターは自分自身の物語の中に存在していることを学ぶ場です。

―― しかしお寺をそういうことに使うことを嫌がる檀家も多いのではないですか。
柴原 私が目指しているのは、開かれたお寺です。お彼岸やお盆、葬式や法事など、特定な時期だけに来てもらうのではなく、地域コミュニティの場として、いつでもお寺を利用してほしい。

そしてこれは、新しい寺院経営の試みでもあるのです。多くのお寺が、収益の多くを法事や葬式に頼っています。その一方で檀家がどんどん減っている。しかも葬式にお金をかけたくないという人たちも増えている。そのため経済的に厳しいお寺はたくさんあります。
そこで私は葬式に頼らない寺院経営を目指しています。そうなるには、お寺がもっと開かれた場所になることが必要です。いま、慈眼寺を訪れる人は、年間5万人を超えています。7月8日に行われる「あめ薬師縁日」には、150もの露店商が出店し1日で2万人を超える参拝者で賑わいます。

また、檀家や信者、参拝者には寺報「月心」を無料で送付していますが、発行部数は1100部を超えました。また当寺に登録されている人は4000人を超えていますが、今度はこの人たちを対象にポイントカードを発行しようと考えています。お寺に来ればポイントが貯まり、そのポイントに応じて、相談にのるなど何らかのサービスを提供するというものです。

―― お寺のポイントカードというのはユニークですね。
柴原 大切なのは、お寺をもっと身近なものにするということ。常にお寺と接点をもってもらう。そうすることによって、次のビジネスチャンスが生まれる可能性があるわけです。

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