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経営者インタビュー

「月刊BOSS」と、日本最大のビジネスマッチングポータルサイト「WizBiz」との提携に伴い、 19万社を超えるWizBiz会員の中から伸び盛りの企業を毎月1社をピックアップ。トップの事業への情熱に迫る。

2018年10月号より

【BOSS×WizBiz】ブロックチェーンで目指す「あたらしい経済のかたち」
肥後彰秀 日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事 ガイアックス執行役

肥後彰秀 日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事
ガイアックス執行役

ひご・あきひで 2001年ガイアックス入社。技術部門の組織運営、技術基盤部長を経て2016年より現職。16年ブロックチェーンサミットのオーガナイザー。経済産業省ブロックチェーン検討会委員。シェア経済サミット登壇。17年総務省ブロックチェーン活用検討サブワーキンググループ構成員。18年6月よりJBA代表理事就任。


肥後代表理事。ガイアックスではサービスを支える技術部門を統括する。

2018年6月22日。金融庁からある業務改善命令が下された。対象は金融庁登録済みの「仮想通貨交換業者」6社。内容は業者により異なるが、共通する主眼はリスク管理体制へのテコ入れだ。

その業務改善命令の対象に、業界大手の取引所「ビットフライヤー」が含まれていたことも、仮想通貨界隈を騒がせた。同社は新規顧客受け入れを停止してまで、体制改善に乗り出すことになる。そして、同社の加納裕三社長は業界団体「一般社団法人 日本ブロックチェーン協会(以下、JBA)」の代表理事を、自ら辞任した。「ブロックチェーン(分散型台帳)」は仮想通貨の基幹技術としてよく知られるが、その技術を活用する事業者団体のひとつが、JBAである。

 仮想通貨業界の大物である加納氏がトップを降りたJBA。その長を継いだのが、今回取材した肥後彰秀氏だ。肥後氏は仮想通貨交換業ではない、シェアリングエコノミー(共有型経済)事業を積極的に進めるガイアックスの執行役だ。新代表の抱負と「仮想通貨だけではない」ブロックチェーンの可能性について、話を聞いた。

「JBA」って何だ?

―― 2008年にビットコインおよびブロックチェーンが発明され、日本初のビットコイン取引所「マウントゴックス」の開設が10年。同社が不正アクセスにより約65億円の被害を受け、経営破綻したのが14年でした。この事件でネガティブな形で仮想通貨に注目が集まりました。同年、法整備への協力や自主規制ガイドラインの作成を目的とした業界団体「日本価値記録事業者協会(JADA)」が発足。これは仮想通貨(当時は通貨として認められず「価値記録」と呼んでいた)の信頼回復と健全化が狙いで、加盟企業もビットコイン交換業等5社のスタートでしたね。
そのJADAを、仮想通貨に限らずブロックチェーン技術全体の発展を促進するため16年に改組したのがJBAです。事業者の声を集め、国への政策提言、意見表明、各種法整備への協力のほか、仮想通貨交換業の認定自主規制団体を目指していました。しかし、今年4月に設立された「日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)」が認定自主規制団体を目指し、JBAはブロックチェーンに改めてフォーカスし、国と事業者をつなぐ役割を主に担っていきます。特に、事業者間の活発な交流の「場づくり」に注力していきます。

―― ブロックチェーンの業界団体には、ほかに「ブロックチェーン推進協会(BCCC)」がありますよね。JBAとBCCCはどんな関係なのですか? 意見対立などがあるのでしょうか。
現在、両協会で何か示し合わせてはいませんが、協調していくなら私は、今が良い契機かなと思っています。対立はありませんよ(笑)。BCCC副代表の杉井さん(靖典氏・カレンシーポート社長)には、今回JBAの理事にも入っていただいていますし。

―― 会員企業の棲み分けはどうでしょうか。JBAはブロックチェーンの金融利用、BCCCはそれ以外という違いがあるとか。
いえ、あえて言うなら適用分野ではなくスタンスの違いでしょうか。JBAは会員の声を集めて政策提言や産業振興を目指す面が強いのですが、BCCCはユーザーグループと位置付けていらっしゃる。各社の開発及び運用のノウハウを持ち寄り、共有することを目的にしている、という認識です。

ブロックチェーンをシェアエコに

―― 仮想通貨の普及を大きく後押しした加納氏の後任に、仮想通貨交換業でないガイアックスから代表理事が選出されたことに驚いた方もいると思います。立派な上場企業(市場は名証セントレックス)ですが、改めてガイアックスの事業とブロックチェーンの関係、JBAとの関わりについて教えてください。
ガイアックスは、ソーシャルサービスやシステム開発のほか、シェアリングエコノミー(物・サービス・場所などをユーザーが共有・交換して利用する仕組み。シェアエコ)に注力している企業です。ライドシェア(ユーザー同士が車に乗り合わせて移動する)の「notteco」、ミールシェア(料理教室を通して家庭料理をシェア)の「Tadaku」などのシェアエコサービスの立ち上げ、投資の支援、サポートなどをしています。現在主流である企業が人を雇用してサービスを提供しお金をもらうというBtoCの経済とは異なる、ユーザー間によるCtoC取引のシステムを広めようとしているのです。

当社では15年頃からシェアエコとブロックチェーンの相性がいいと考え、活用を模索してきました。JBAには16年の改組時から加入し、当社代表の上田(祐司氏)が理事に就いていました。私は当時から上田のサポートとしてJBAに関わっており、今回の代表理事拝命を受けたという流れです。

ブロックチェーンは、一般には仮想通貨と表裏一体の技術とみられています。間違いではないのですが、その性質の捉え方次第でさらに活用は広がります。

公共の場所に置けるデータベースと考えた場合、データの形式をそろえることができれば、サプライチェーンで処理を連結させ、自動化できます。きわめて改ざんしにくいため、行動履歴の記録にも向いている。またエスクローや契約、支払いまでを含む取引が自動化された「スマートコントラクト」の実現にあたっても可能性が大きいでしょう。

―― 具体的には、ブロックチェーンをどのようにシェアエコに役立てるのでしょうか。
BtoCからCtoCへ、と言っても、すぐには実現しません。現状では、CtoCの取引を行うプラットフォームをBが運営しているという形ですよね。
いまはプラットフォーマーがサービスを提供するユーザーのサービス品質をある程度は担保しないといけない。ユーザーがユーザーを選ぶ手助けや、支払いの仲介も必要です。こうしたプラットフォーマーの持つ機能を、いきなり自動化することはできない。BtoCからCtoC+プラットフォームの形態に進化した後に、やっとプラットフォームが不要になり、CtoCが完成する。そのフェイズでブロックチェーンによるスマートコントラクトが有用なのです。

商品やサービスの品質が企業によって担保されないCtoC取引では、何を信頼して取引相手を選べばよいのでしょう? そこで指標になるのがユーザー同士の評価、レビューです。ユーザーがお互いの行動をもとに評価し合う機能を持っていることはシェアエコではきわめて重要です。

こうした「個人」の行動に紐づくデータベースと、ブロックチェーンは相性抜群です。ある人がサービスに参加するとき、まったくレビューのない状態では信用ゼロで、取引できないかもしれない。しかし、その人が他のサービス内では評価を得ている場合もあるでしょう。そこでレビュー評価がブロックチェーンによって記録されることにより、複数のサービスで共有されるとしたら、非常に有意義です。

―― 個人と紐づいた情報といえば、戸籍やマイナンバーなどが思い浮かびます。これらもブロックチェーンで管理できるのでしょうか。
それに関しては、私自身はあまり積極派ではないんです。ダイレクトにセンシティブな情報より、レビュー評価など二次的な情報を書き込んで共有したほうがいい。マイナンバーなどをブロックチェーンに置くにはまだ技術的な検証が足りていないし、個人がその情報をコントロールする権利がしっかり持たれている状態にしておくべきだと考えます。

―― ブロックチェーンが信用の根拠を示す手段として普及したとき、たとえば銀行のように信用を担保することで成り立っている機関は、どうなるのでしょうか。
「信用」にもいろいろ意味含むところがありますよね。個人に紐づく行動の履歴などから生み出される信用はブロックチェーンによって分散化が進んでいっても、世の中の信用がすべてユーザー側からカバーできるわけではないと思います。第三者機関によって担保される信用や、組織間の信用のツリー構造などは残されるのではないでしょうか。

ただし、ブロックチェーンによって信用を表現する方法が増え、現在企業や機関が担保している信用とのウエイトは将来変わっていく。そのための技術開発や法整備について、業界内で活発に議論しながら発信していく必要がある。その「場」をつくっていくことが、JBAの役目です。

正直、貢献者である加納さんの後の代表理事で恐縮していますが(笑)、頑張っていきますよ。

(聞き手=本誌・祢津悠紀)

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