ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

経営者インタビュー

「月刊BOSS」と、日本最大のビジネスマッチングポータルサイト「WizBiz」との提携に伴い、 19万社を超えるWizBiz会員の中から伸び盛りの企業を毎月1社をピックアップ。トップの事業への情熱に迫る。

2018年5月号より

【BOSS×WizBiz】各事業でシェアトップを!「売上高10兆円」への成長戦略 芳井 敬一 大和ハウス工業社長
芳井 敬一 大和ハウス工業社長

芳井 敬一 大和ハウス工業社長

よしい・けいいち 1958年生まれ。大阪府出身。81年中央大学文学部卒業後、ラガーマンとして神戸製鋼でプレー。90年大和ハウス工業入社。姫路支店長、金沢支店長、海外事業部副事業部長を経て、2011年取締役海外事業部長。13年常務、16年専務、17年11月社長に就任。経営幹部育成のための「大和ハウス塾」1期生。

2017年11月に大和ハウス工業社長に就任した芳井敬一氏。創業100周年の2055年に売上高10兆円を掲げる同社にとって、社長職は常に自分の在任期間以上の長期的な成長戦略を描き続けなくてはいけない難しい立場だ。目標を達成するための将来的な戦略と人財育成について、新社長の芳井氏に話を聞いた。

年頭所感で思いを伝える

── 昨年11月に社長に就任されました。就任前と就任後で、想像と違ったことなどはありましたか。
ぜんぜん違いますね。社長職は想像を絶します。たとえば、今日、こうして話をしたことが、場合によっては明日、活字になる。それが自分の思っていたこととニュアンスが違って伝わったりする。それも会社全体のことや海外の話など、いろんな切り口で聞かれますので、自分の思いが伝わればいいのですけどね。

── 今年はじめの年頭所感では、「4つのお願い」という形で社員に思いを伝えています。
私は、伝える方法というのをいつも考えているんです。文章を上手に長く伝えるのは苦手なもので、どこがキーワードなのかわからなくなります。だからいつも伝え方を大切にして、メモをしてもらおうと考えています。どうすればメモしてもらえるのか。全体朝礼でもダラダラ話すとどこをメモすればいいのかわからなくなりますから、最初に4つとか、3つとか、数を言う。1つ目と数を言えば、少なくとも1番目と書いてくれます。簡単なキーワードを言って、それから説明をする。みんなを動かそうと意識に刷り込むことが大事ですので、数を言うことは決めているんですよ。

── まさに芳井社長がやりたいことがこの4つに凝縮されていると思いますが、まず「各事業でのシェアナンバーワンの奪取」です。住宅・建設・不動産業界においてトータルでの売上高は1位ですが、あえて個別事業での1位を狙うと。
なかにはプロ野球のように3位に入ってクライマックスシリーズを目指そうというチームもありますが、やはりどんな場合でも、目指すのは1位です。勝つためには、1位との差は何か、と分析をします。分析をするということは、追い付いて勝とうということですから、1位との差は伸びしろのはずです。例えば住宅業界であれば積水ハウスさんや大東建託さんが高いパフォーマンスを出されていますが、我々は誰も行ったことがない山を登るのではなく、誰かが登った足跡を追いかけるわけです。先人が登っている山があるのであれば、それを追いついて、1歩でも2歩でも自分のパフォーマンスを上げる。その差が成長戦略と考えれば、いまお約束しているいろんな数字が化けてくるかもしれません。

これからの日本に残るのは、各分野の1位か2位か。3位はどうか。全体で1位だから残れるかと言えば、大きな間違いで、個別事業も生き残っていかなくてはいけません。この事業は惨敗だからやめるということになれば、全体の足し算もなくなるわけですから、とにかく1位を取りに行く。1位を目指すことを机上の方針にせず、そのためにどうすればよいのか、目指す方法を決めていきたいですね。

── 既存の事業の進め方を見直すためにも1位を掲げると?
樋口会長(武男氏)が言っていましたが、我々は「総合生活産業」です。あらゆるものをやっています。そしてそれぞれの各分野で1位を獲るためには、新たなチャレンジをしていかなくてはいけません。そのことに気が付いてもらいたい。いまのままで満足するなということなんですよ。樋口会長はうまく例えていましたが、日本の高い山は、1位は富士山だけれども、2位の山はどこかわからないと。2番目、3番目では名前も覚えられないんですね。

── お願いの2つ目は「行動第一」でした。これはある意味、大和ハウス工業らしい指針ですね。
そうですね(笑)。アクティブに行動する。とにかく行動することによって、必ず何らかの跳ね返りがしっかりと私たちに返ってきます。行動したフリだけで行動を起こさなければ、何も返ってきません。本気でやってもらわないと困る。これも樋口会長の言葉ですが、「やりつづけようや、最後までやろうや」と。私もそう思います。目指す方向をしっかり決めて、アクティブに、しかも素早く。それをもう一度、行動に落としてもらいたいと思っています。

── そして「海外事業の拡大」です。近年は海外企業のM&Aが注目されました。
ウチの次の成長戦略として、リフォームを新しく始めました。こうした事業も国内にはあります。その一方で、日本は人口が縮小していきます。人口が増えている海外に出ていく必要があります。以前は進出したけどやめて、という時期もありましたが、また新たに出て行って、現在は20カ国ほどになりました。いま海外に出ていくのは、自分たちが提供できるメニューが増えてきたからこその再挑戦という面もあります。人口が増えている国に出る一方で、アメリカやオーストラリアなど、成熟した市場にも出ています。

その心というのが、樋口会長が創業者の石橋信夫から言われたことですが、その国、その地域の人が何で困っているのか。困っていること、必要としているものを事業に置き換えて、お手伝いをしようと。決して儲けから入るなよというのが創業精神として残っているんです。どうやってお役に立つのか、彼らの求めているメニューがウチのメニューのなかには揃ってきています。だからこそお役に立てる機会が増えるわけです。

ベンチャー投資にも注力

── 海外事業は今期2000億円を見込んでいます。
来季は2500億円。今年の2000億円は、為替が半分にでもならないかぎり間違いありません。

── 将来的に海外売上比率をどこまで引き上げるのか、目標はありますか。
樋口会長は2055年の売上高10兆円を想像した時に、5:5か6:4になると。私もそれくらいだと思います。自動車を売るとかぜんぜん違う会社にならないかぎりは、国内でそれ以上のパフォーマンスを出すのは難しい。となると、海外比率は高まってきます。街づくり、モノづくり、そして私たちがイノベーションを進める商品ですね。

── 20カ国では足りませんね。
最初は100カ国を目指す形でしょうね。ロボット事業で「moogle(モーグル)」という床下点検ロボットも持っていますし、人を助ける商品にも工夫して投資もしています。そういう商品も海外に出ていけばいい。

いまベンチャー企業のセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズに投資させてもらっている全自動折り畳み機。こうしたものもいろんな国で活躍するかもしれない。これは個人だけでなく、3K職種とも言われる高齢者施設で、この自動折り畳み機で各部屋に洗濯物を届けられるようになったら、業務の一部を助けることができます。

── AIやIoTといった、新しい技術を持つベンチャー企業に対しても出資を進めています。
シナジーがもちろん考えられますよね。日本は高齢社会になって、建設業に人が足りなくなってきています。重いものを運ぶためにロボット化してしまおうとか、ベンチャー企業さんのアイデアにもご協力いただきたいですし、世の中で生活するうえで助けになるものも必要です。我々がバックアップして、研究がさらに進むのであれば、出資に対しても非常に前向きにやっていきます。

物事をいろんな角度から見ることが重要です。建設業界の場合は、いわゆる専門職に入っていくと、物の見方が、その方向で見るのが当たり前のように思ってしまいます。外から見る人は、まったく違う視点で見ますので、そういう気づきを他の企業から学ぶことができます。私自身、よくこんな考え方ができるなと驚くことも多く、そういうベンチャーさんの存在は大きいです。我々のR&Dもそうならなければいけないのですが。

── そういう意味でも、最後の「人財育成」には、投資も必要ですし、システムの構築が求められますね。
現在の支店長制度や大和ハウス塾、社外の研修といった育成システムはありますし、これは私も評価しています。いまの役員を見ても、大和ハウス塾の出身者が非常に多いです。また、支店長候補生として研修を受けてきた人が支店長になってきています。数字的な成績や技術的な成績だけでなく、研修を受けることで人としてどうかが見えてくるわけです。このシステムは非常にいいと思っています。

しかし、一番問題なのは、人が足りないことです。事業を拡大しようと思えば、まだ足りない。ずっと昔からある大和ハウスのDNAをいかに継承して人としてやっていけるかが大事ですから、安易に人を採っても、難しい。私も中途採用の1人ですが、ある程度イズムを持ってもらわないといけない。

支店経営もそうで、この店に誰を支店長に置くのか、順番を入れ替えてでもこの店の問題を解決できるという人を置かなくてはいけません。人を間違えるとやはりダメです。大野前社長(直竹氏)もよく言われていましたが、思い通りにいった人事は非常に嬉しいですね。

創業精神を繋ぐ

── 大和ハウスの場合は育成に創業精神を重要視していますね。
創業精神から外れたらウチは滅びます。我が社のDNAは、調子のいい時には頭を叩いてくれます。図に乗るなよと。調子の悪い時には励ましてくれます。私たちからすると、そういうバイブルです。「俺が俺が」では、会社はうまくいかない。

樋口会長とはたまに大阪でランチをするのですが、その際に出た話で、「どうして樋口さんは講演で自分のことを語らないんですか」と言われるそうです。樋口会長は「俺は事業を引き継いだだけや。起こしたのは相談役(故・石橋信夫氏)や。起こした人、井戸を掘った人が一番偉い。俺は水を汲んでいるだけや」と。多角事業をしていますから、扇の要はその時にプレイしているCEOでいいと思いますが、一致団結は創業精神のもとに集まるわけですから、これから外れたらうまくいかない。

別に神格化されているわけではありません。『わが社の生き方』(石橋氏が著した入社時に社員に渡される小冊子)に書いてあること、それを解説する『先の先を読め』(文春文庫)や『熱湯経営』(文春新書)に繋がるのですが、それを読めば、そうだなあとか、俺はこう受け取っているとか、必ず出てくるので、それが受け継がれているんですね。

── 人口減少で、住宅・賃貸市場が不安視されていますが。
少子化は避けて通れません。人口は減っていく。では、どういう動態で見るかということになります。私が金沢支店長をしていたころ、人口が減って100万人を切るだろうと。ところが不思議にも、世帯数は増えたんですね。2世代、3世代が一緒に住んでいたのが、子供たちが独立してアパートに住むことで世帯数が増えたわけです。最近は新幹線が通って人口が増えてきたのもありますが、金沢支店は非常にアパートが好調です。東京も世帯数が増えていますから、楽観はしていませんが、私たちがお役に立てることはまだまだあると思います。

一方で、賃貸については、昨年賃貸物件の空き室問題などの報道がありました。しかし、私たちは建ててはいけないところには建てません。というのは家賃を保証するからです。大和リビングというグループ会社が管理、保証会社としてありますが、いまでは50万戸扱って、うち45万戸以上家賃を保証しています。この入居率のアベレージは94~96%。つまり間違ったところには出さない。オーナーさんにも、ここでは建てないほうがいいとはっきり言います。積水ハウスさんも私どももネガティブに書かれましたが、積水ハウスさんでも94%とかですから、空いていません。一部、建てるだけ建てて逃げる業者もあったようですが、我々が選ばれない理由がないんですよ。報道が出て、少し影響はありましたが、受注にならないのはローンが厳しくなったせいですので、もう少ししたら戻ると思います。

── 3月1日には建設・住宅業界初の「EP100」「RE100」(エネルギー効率および再生可能エネルギーに関する国際イニシアティブ)に加盟しました。
海外の投資家、機関投資家も含めて、企業を利益だけでは見なくなっています。ガバナンスやCSRに加えて、エネルギーについても注目されるようになってきました。「EP100」「RE100」は、いずれ私たちがいろんな事業をする上で、プラスになります。特に海外だと選ばれる会社に変わってきます。

また、機材、資材、設備なども日進月歩で進化しています。スマートハウスの概念も、エネルギー効率を考えていた時代から、いまや顔認証が常識でドアが自動的に開き、冷蔵庫に何があるか、「お疲れ様」まで声をかけてくれる(笑)。最初のスマートハウスの概念がどんどん遠のいて、答えがわからなくなっています。そのわからない答えを、私たちの業界も追いかけ出しているんですよ。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い