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経営者インタビュー

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2018年4月号より

【BOSS×WizBiz】EC時代の小売業と無印良品の強みを語ろう 金井 政明 良品計画会長
金井 政明 良品計画会長

金井 政明 良品計画会長

かない・まさあき 1957年10月13日生まれ。76年西友ストアー長野(現・西友)に入社。93年良品計画に転じ、生活雑貨部長として同社中核部門を牽引。2001年常務営業本部長、03年代表取締役専務に就き、商品本部長のほか、販売本部、宣伝販促室を管掌、08年2月社長、15年5月より現職。

前号の特集で、アマゾンが日本の小売業を駆逐し始めていることに触れ、食材宅配事業におけるセブン&アイ・ホールディングスとアスクルの提携も取り上げた。その後、楽天がウォルマート(実質は傘下の西友)と、さらにイオンもソフトバンク、ヤフーと組んでインターネット通販に乗り出すことが明らかになるなど、束になってアマゾンに挑む様相を呈している。

だが、その巨象のアマゾンでも容易には切り崩せない小売業がある。それが無印良品を展開する良品計画だ。そこで同社の金井政明会長に、EC(電子商取引)時代の小売業から、他社には真似のできない無印良品の事業モデルや強み、世界観などを改めて聞いた。

情報解析でできないこと

── デス・バイ・アマゾンなど、あまり穏やかでない表現でアマゾンの脅威が喧伝される昨今ですが、まず、EC時代の小売業についての見解から聞かせてください。
これからやってくる5G(第5世代移動通信規格)も含めた情報処理能力、あるいはビッグデータといった新しいデジタル技術が、流通の世界も消費者の生活も変えていくことは間違いないですよね。そこに向けて企業がどんどん進化をしないと生き残っていけないという、大きな転換期には来ていると思います。

確かに今後、ビッグデータを解析することで、何が消費者にいま支持されていて、これからどんなものが支持されていくだろうということは、ある程度、容易につかめるでしょう。ただ、その情報解析の中には、僕たちがどういう生活をしていくことが幸せを感じるかとか、社会や自然、あるいは人と人との関係性みたいなことに対して、どうしたらいいバランスを取れるかといった解はないと思います。

いま彼ら(=アマゾン)がデジタルを活用して作り上げてきている利便性に関しては、そこでの同質化競争もどんどん起きていくでしょうから、その競争に企業として勝つのは、そう簡単ではないなと。ですが、その情報解析力の優劣で企業に独自性、あるいは独創性のあるものが生まれるかというと疑問です。結局、ビッグデータ頼りだとみんな同質化競争に明け暮れ、そこに企業としての思想なり哲学が何か生まれるかというと難しいでしょう。

── 同質化競争では、価格軸での戦いでウイナー・テイクス・オールに収斂してしまうと。最近、セブン&アイHDとアスクル、あるいは楽天とウォルマート、イオンとソフトバンクやヤフーといった連合体が次々と報道されているのも、もはや1社で戦っている場合ではない、あるいは1社では戦っていけないという危機感の表れかと思いますが。
(アマゾンは)大きな戦略を持ちながら、米国の資本主義的な発想もあって、利益が取れなくてもマーケットを作って市場を席捲してしまおうという考え方。また、そういうサービスは消費者にとっては魅力であることも間違いないので、既存の流通企業がそっぽを向いているわけにはいかないのも事実です。

── 日本の小売業がアマゾンに対抗していくための条件は何でしょう。
グローバル化が進んでいる一方で、すごくいろいろなものが分断されちゃっているでしょう。人と人、人と自然、人と社会、みんなそうですよ。モノを作る人と売る人も分断されていて、買うほうも、いかに安いものを買うかで作り手のことは考えてないですよね。一言で言えば、江戸時代から連綿と作ってきた暮らしの共同体システムを、ある意味壊してきたのだと思います。

ただ、大都市部とは違って地方に行くとまだ、その古き良き共同体が残っている。小売業は、その共同体をもう1回つないでいくのが使命になるんじゃないでしょうか。そういうことは、たとえば製造業の日立さんやトヨタさんではできない仕事で、生活者とダイレクトにつながっている我々小売業の新たな使命ではないかと。誰とも話さず、ワンクリックで注文して家にモノが届いてという便利さの一方で、人間はロボットではありませんから、便利さの代償として失ってきたものを補わないといけない時代に、今後ますますなると思っています。

「単品」では語れない世界

── では、無印良品のEC時代の立ち位置や考え方、リアルとバーチャルの考え方はどうでしょうか。
物販だけでなく、人と人や人と社会をつないでいく場、あるいはコトも作っていかなきゃいけないでしょうし、僕たちは僕たちなりの理想を持っているので、そこに向けたコンテンツを作りながらも、あくまでリアル店舗がベースです。

もちろん、消費者からすればスマホからも商品を注文したいし、スマホで買ったほうが合理的な商品もあるわけです。我々が持っている6000アイテムから7000アイテムぐらいの商品群の中で、スマホ、あるいはAIスピーカーに話しかけて注文できる商品群はそうすればいい。で、それでは補えないものをリアル店舗の中で価値として提供していくのです。

要は価値の創造を、商品で行うのはもちろん、流通段階の買いやすさ、あるいは利便性みたいなものでも行い、複数の価値を、より磨いていかなければいけない。その価値を作る時、一般的には情報が重要視されるので、情報を集めて解析して価値が何であるかを考えることに、アマゾンさんのようなデジタルの会社がフォーカスしてやっていらっしゃる。ですが、すべての価値がそこから生まれてくるわけではありません。

── アマゾンはともかく、日本の小売業のSPA(製造小売り)との比較で考えても、たとえばユニクロやニトリと無印良品が違うのは、以前もお話しいただきましたが、“無印良品は単品で語っても意味がない”という点に凝縮されています。
無印良品は、鉛筆1本から食品、雑貨、衣料品、住宅、さらに最近はホテル(2018年1月18日にオープンした中国・深圳のMUJI HOTEL。3月20日には北京で、来春は東京・銀座でも開業予定)まで手がけていて、ライフスタイルの提供そのものが無印良品であり、唯一無二の真似できないところです。これは、膨大な数の単品で勝負するアマゾンとて真似できません。

去る2018年1月18日に開業した中国・深圳のMUJI HOTEL。

ホテルに関して言えば、ラグジュアリーホテルで大きな部屋にお金持ちが泊まって、ということに対してはアンチテーゼです。ただ、安っぽいビジネスホテルみたいな居心地のよくないホテルも僕たちは嫌です。そうでないものを作る。それにはある種のクリエーションと思想が必要ですし、僕たちはホテルを外部の地域コミュニティにも開いていきたいと思っています。

ですから、ホテルがある街の美味いラーメン屋や焼き鳥屋の情報なども出しますし、ホテル自体も、無印良品のお店があって、MUJIダイナーというレストランも併設し、さらに上層階ではMUJI HOTELに泊まれてしまう。こういうフォーマットって、1つのブランドで展開する企業は我々以外にないでしょう。

── ホテルで言えば、かつて同じ小売業ではダイエーがオリエンタルホテルを、セゾングループがホテル西洋銀座やインターコンチネンタルホテルチェーンを手がけましたが、本業とは離れた事業拡大や野心がベースにありました。そこが無印良品とは決定的に違いますね。住宅もそうかもしれませんが、ホテルは、いわば無印良品の世界観の集大成といえるものでしょうから。
たとえば大手百貨店もホテル事業に乗り出すという。でも、それはお金を使って単純にホテルという事業をやるという話だけであって、ほかの百貨店がホテルをやっても差がないですよね。その点、当社がやるホテルは価値観っていうか、ホテルってそうじゃないよね、自分たちのような庶民から見ればこういうホテルが欲しいよねというものを作るわけですから、確かに全然違います。

NPOで外部も巻き込む

── そこで改めて、無印良品のらしさやDNAですが、時代の変遷とともに変えていいものと変えてはいけない、普遍的なものがあると思います。
経営技術がどうだとか、どうやったらROE(株主資本利益率)や総資産回転率を高められるかとか、それはそれで経営には大事ですけど、我々には枝葉でしかありません。そうではなくて、どう暮らすべきか、感じいい暮らしとは何か、あるいは生活が美しくなれば社会はもっとよくなる、なんていうことから考えるのが当社です。日本の、簡素だけどきちんとした共同体があってというのが幸せじゃないかと。

── 最後に、良品計画が目指す近未来像は。
生活に困っているエリア、たとえば空気が薄いような高地の国まで我々が出ていって役に立っているようなイメージですかね。

一方で、世界の主要な都市では、当社の店舗もレストランもホテルもワンストップで入っているような形を広げていきたい。我々は多角化はやっているつもりはないんですけど、クリエイティブ力を持ちつつ、圧倒的に組織力を高めることができれば、さきほど言ったような普遍的な価値観や思想を持っているので、まだまだ、いろいろなことができると思っています。世界の小売業を見渡しても、当社のようなところはいまだにないですから。

今後は、さらにNPOを推進し、当社をリタイアした人だけでなく、外部の人もどんどん巻き込んでいき、“LOCAL GOOD MUJI”といったNPOの展開なども考えていくつもりです。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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