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経営者インタビュー

「月刊BOSS」と、日本最大のビジネスマッチングポータルサイト「WizBiz」との提携に伴い、 19万社を超えるWizBiz会員の中から伸び盛りの企業を毎月1社をピックアップ。トップの事業への情熱に迫る。

2018年1月号より

【BOSS×WizBiz】ハンバーガーという商品のみならず、サービスや雰囲気など総合力で勝負 紫関 修 ファーストキッチン社長(兼ウェンディーズ・ジャパン社長)
紫関 修 ファーストキッチン社長(兼ウェンディーズ・ジャパン社長)

紫関 修 ファーストキッチン社長
(兼ウェンディーズ・ジャパン社長)

しせき・おさむ 千葉県出身。1961年7月29日生まれ。84年青山学院大学法学部私法学科卒。同年東急ホテルチェーンに入社。94年ボストン大学経営学修士(MBA)取得。同年さくら綜合研究所入社(現・日本綜合研究所)、97年日本マクドナルド入社、2005年ゴルフパートナーに入社し、取締役副社長に就任。10年ゼビオ執行役員(兼務)、11年ヴィクトリア取締役就任(同)、12年ユニマットホールディング執行役員、同年フレッシュネス代表取締役副社長、14年同社社長に就任。16年9月ファーストキッチン、ウェンディーズ・ジャパンの代表取締役社長に。

ダブルネームで価値創造

── ファーストキッチンとウェンディーズのコラボ店として、2015年に「ファーストキッチン・ウェンディーズ」第1号店が六本木(東京・港区)に開店し、目下、このコラボ店は26店(17年10月中旬時点)まできていますが、手応えはどうですか。
チェーン店として生き残っていくためには、ある程度の規模がないと戦っていけません。その中で、いかに独自の“色”を残していくかが重要だと思うんです。

ファーストキッチン・ウェンディーズは、私にとっては与えられたフォーマット(紫関氏がファーストキッチン、ウェンディーズ・ジャパンの両社の社長に就いたのは16年9月)ですが、要はダブルネームでいきますと。ファーストキッチンとウェンディーズを融合させようとは思っていないわけですし、だからダブルネームのコラボ店でやっているわけでして。

ただ、未来永劫ダブルネームでいかないといけないとなると、ブランディングは非常に難しい。ウェンディーズとファーストキッチン、それぞれに歴史がありますから、お互いに独立してやれればいいですけど、独立路線では難しいことも、お互いにわかっていますから。

そして、両社ともにいろいろなお客様がいて、ウェンディーズにはグローバルな展開があって、その中に日本もあってという中でコラボしていかなくてはいけない。そこをどういう形にしていくのかは簡単ではないですね。

── ファーストキッチン、ウェンディーズの両社をぶら下げる、持ち株会社を作るのはあまり現実的ではないですか。
それをしたところで一緒です。つまり、会社がどういう形態かということより、我々はB2Cのビジネスをしていますので、肝心なのはお客様からどう見えるかで、そこに尽きるわけですから。

具体的には、ダブルネームのコラボ店舗をお客様にどう評価していただけるかです。そこを我々がしっかりと作り上げていかなければいけません。

── 見えてきた課題は何でしょうか。
ウェンディーズで単価が600円とか700円のハンバーガーを売っているじゃないですか。では、ファーストキッチンでまったく同じスペックの商品を売ったとしましょう。それでウェンディーズと同じように伸び率が期待できるかといえば伸びない。そこは明確なんです。

ウェンディーズもファーストキッチンも、どちらかがエゴを張って、「オレたちのブランドネームを全面に出してやろう」と思った瞬間に、たぶんうまくいかないんです。このコラボ店を、どうやってお客様に親しんでもらうかがものすごく重要で、これから10年経った時、「ああ、ファーストキッチン・ウェンディーズね」と、お客様からすぐに言われるようなブランドにすることが大事だと思います。

ウェンディーズもファーストキッチンも40年からの歴史がある一方で、ファーストキッチン・ウェンディーズは誕生してから、まだ日が浅いわけですから、コラボ店は我々が作り込んでいかないと。40年の歴史があったからと、そこに引きずられたりすると見誤ると思います。新しいブランドを、お客様の嗜好に合わせて作っていくことが我々に望まれていることですから。

他社ができないことをやる

── 総じて言えば、ファーストキッチンはメニューが豊富でカフェタイムに強く、女性客が7割。ウェンディーズは、男性客が6割でランチ、ディナータイムに強く、バーガーファンが多くて平均客単価も高い、という傾向があるようですが。
表面上はそうですね。これからは、ファーストキッチン・ウェンディーズを使っていただける機会をどう創出していくかです。いまは、どちらかといえばファーストキッチンをご愛顧いただいていたお客様がそのままファーストキッチンを使って、ウェンディーズのお客様もウェンディーズとして使ってという感じです。つまり、ワンストップで両方使えていいねみたいな。そこからさらに発展、進化させていくのはこれからです。

── 日本マクドナルドやモスフードサービスといった、ハンバーガー業界の上位企業とは、明らかな差異化を打ち出していくと。
他社ではできないことをやっていくというのが差別化。これはほかの同業他社もそうだと思いますが、お客様が「とりあえず、マクドナルドに行けばいいよね」となっちゃうと勝てないし、もっと言えば、(マクドナルドのように)3000店舗を擁しているところができることを我々がやっても勝てない。

逆に言えば、我々は3000店舗のチェーンが諦めることをやらないといけないわけです。それと、お客様が食べてみたいとかこの店を使ってみたいというニーズの両方が合致するようなものを、もっと突き詰めていかないといけない。ですから、たかだかちょっと美味しいハンバーガーを作っただけではダメなので、そこが一番難しいですね。

── 付加価値商品で勝負するとなると、シェイクシャックなどのグルメバーガーを展開しているところのように、商品単価が1000円か、それ以上のハンバーガーも多くなってきますが、そのあたりの戦い方はどう考えますか。
我々が提供しているものは食ですから、プロダクトと言いがちですけど、厳密にはプロダクトではないんです。単純にモノとお金を引き換えるだけであれば、自動販売機のほうがよっぽど効率的で楽ですから。

「ファーストキッチン・ウェンディーズ」のブランディング強化に挑む紫関修氏。

1つの例を挙げると、私がゴルフパートナーに在籍していた時に言っていたことですが、たとえばお客様がゴルフクラブを買いに行くじゃないですか。でも、目的はゴルフクラブを買いにいくことではないんです。だって、買ってそのクラブを使うのが目的なわけですから。

つまり、ゴルフクラブで満足感を得るのは、買った時ではなくて使った時。でも、販売側の目的はといえば、買っていただけるかどうかなので、そこに全力を注ぎこむわけです。ですから買ってくれたことで満足する。そこにギャップがあって、お客様の満足度を得るためには、またお越しいただけた時にそのお客様の顔を覚えていて、「この前のクラブ、いかがでしたか?」と一言言えば、割引をしなくてもゴルフクラブは売れるんです。

一方、我々のいまのビジネスは、買っていただけた後、満足してもらえたかどうかはすぐにわかります。「いらっしゃいませ」から「ありがとうございました」まで、店内空間を含めた満足感をお客様に与えることに我々の存在意義があるので、商品であるプロダクトは、その一部に過ぎません。

そうなると、商品以外に接客サービスだったり、店内の居心地だったり空調だったり、あるいはBGMの音楽だったり、総合的にお客様の満足度を高めていくことが我々の価値創造になるのです。

期待値の基準を変える

── そのあたりは、最初に就職された東急ホテルチェーンでの、いわば“おもてなし”のサービス精神が活きてくるわけですね。
そうです。ホテルでは、コーヒーが1杯1000円でも売れるというのはそこじゃないですか。もちろん、いいコーヒー豆は使っているでしょうけど、最高峰、最高級のコーヒー豆ではなかったとしても、ホテルのゆったりとした優雅な雰囲気、あるいは素敵な音楽が流れ、丁寧で気持ちのいいサービスがあって、そのうえでの1000円のコーヒーですよね。それと同じだと思うんです。

写真上/産学共同で「エイジングシート」を使用した熟成肉の新商品を発表(左端が紫関氏)。 写真下/「発酵熟成肉 黒毛和牛バーガー」は3種類を発売。

ファストフードであっても商品はもちろん、総合的ないいサービスは諦めてはいけなくて、店舗の作りとか椅子、空間の居心地なども含めて、提供価値をどこまで高めていけるかが勝負です。そこがファーストキッチン・ウェンディーズの目指すところでもあります。

もちろん、商品も差別化要因ではありますけど、他社のお店でも経験できるものではしょうがない。ほかでは味わえない、満足感のある商品、たとえば「発酵熟成肉 黒毛和牛バーガー」(17年10月26日から数量限定で発売)もそうでしたが、「熟成肉って、レストランに行かないとなかなか食べられないけど話題になっているから、どんなものか一度、食べてみたいよね」という方のために出したものです。

その1000円のハンバーガーが高いか安いかですが、コストコントロールをしなければ、1500円ぐらいの値付けでないと採算には合わないという商品を1000円で出しますと、「グルメバーガーと並ぶぐらいの美味しさだけど、これは安いよね」と言われたら、我々の勝ち。そうではなく、お客様にマクドナルドさんと比較されているうちは我々の負けなんです。

お客様の満足度って、要は期待値じゃないですか。お客様がマクドナルドさんと同じ期待値を持たれて我々のお店に来られると、「ああ、高いね」という話になってしまう。でも、違う期待値をもって来られたら、違う満足度になると思うんです。ある意味、お客様の期待値の基準を変えていくことが我々の仕事だと考えていますから。

その、基準を変えるという仕事が、プロダクトだけではなくて、さきほど言いましたように店舗のイメージだったり雰囲気だったり接客サービスであったりするわけです。総合的にそこを作り込んでこそ、本当のブランドだといえるでしょう。そういう勝負でどれだけ成功できるかという1例が1000円バーガーなわけで、「お、こんなの作って美味そうだから食べてみようかな」と思っていただけるようにする。

── 将来的な店舗展開や、ダブルネームのファーストキッチン・ウェンディーズはどのくらいまで増やしていく構想がありますか。
会長(=ファーストキッチン、ウェンディーズ・ジャパン両社の会長を務めるアーネスト・M・比嘉氏)は500店舗が目標と言っていますけど、あながち笑い話ではなくて、500店舗にするくらいの意気込みがなくて外食ビジネスをやっていてはダメだと思うんです。

特にチェーン店はそうです。中途半端が一番ダメですから。フランチャイズ店と直営店のバランスは、私は別にこだわりはなくていいと思うんですが、いま130店舗ぐらいですから、これを早く200店舗にするというのが、まず当面の目標になるでしょう。

あとは平均月商で言うと、最近、1店舗あたりの売り上げをデータベースで見ていたら、ダブルネームのファーストキッチン・ウェンディーズは、いいロケーションに展開している(六本木や赤坂見附、新宿南口、日比谷シャンテ前など)からでしょうけど結構、数字がいいんですよ。そういう店を1つでも多く作っていくことが大事ですね。

小さなお店をたくさん作っていっても、少子高齢社会の日本では、これからはたぶん、難しくなっていくと思います。もう1点、我々のお店の厨房はものすごくコンパクトな作りになっていますが、いままではこれがある意味、弱みでした。

でもいまは強みに変わってきている。人手不足などでマンパワーが総じて充足していない外食業界の中で、当社のような効率的な厨房は、これからもっとプラスに働いていくと思います。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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