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経営者インタビュー

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2017年7月号より

【BOSS×WizBiz】飲み口でろ過「浄水器を携帯する」ドイツ生まれのブリタ式発想法

汗ばむ季節になり、外出先にもペットボトルのミネラルウォーターや緑茶を携帯することが多くなった。そこに、飲み口でろ過するという新発想で〝携帯する浄水機能付きボトル〟を売り出したのが、ドイツ生まれのブリタ・ジャパンだ。「そういえば」と、ブリタのテレビCMを思い出した方もいるだろう。そこで同社のマイケル・マギー社長に、販売の手ごたえや戦略、ブリタの考え方などを聞いた。

キモは小型カートリッジ

── 「ブリタ」といえば、ドイツの家庭用ポット型浄水器ブランドとして日本でも人気ですが、今年2月に、“浄水器を携帯する、という新習慣”〟いうコピーで、浄水機能付きボトル、要は外出先で補充した水道水も飲み口でろ過をするという、「fill&go」(以下フィル&ゴー)を発売しました。〝おいしい水を買わずに飲めるという新提案〟というコンセプトでしたが、ここまでの販売の手ごたえはどうですか。
当初のプランニングの段階では、かなり高い販売目標にしていました。まったく新しい商材でしたので、昨年対比とかそういうものがなく、新しい市場を作り出すという意気込みです。価格的にも、割とアグレッシブな単価を設定(実売価格で2000円前後。交換式のカートリッジが3個セットで同1900円前後)したのですが、いまのところ予定通りに推移しています。今回の商品は、ボトルウォーターの市場をヒントに開発したものですが、実際に使っていただいて、ご満足いただいたという声もたくさん返ってきていますし、販売も順調ですね。

── 日本以外でも販売している商品なのですか。
台湾と欧州の一部、ドイツと英国ではすでに販売しています。特に1年ほど前から先行販売した台湾でも好評で、大成功を収めていると聞いていますし、どの国であっても、水道水の中に含まれる塩素などを除去し、美味しく水を飲みたいという欲求は、万国共通なものとしてあるでしょう。

── 商品の開発過程で苦労された点は何ですか。
さきほど言いましたように、ヒントとしてはボトルウォーターの市場が伸びているので、そういうニーズを取り込むのに我々でしかできない商品を、というのが原点でした。携帯して持ち歩く商品なので、性能は高く、しかも小型で扱いやすいものというのがキーワードです。

開発のポイントは、何と言っても新開発した、高性能かつ小型化を両立させた「マイクロディスクカートリッジ」でしょう。このカートリッジは、直径5.5センチメートルの円形で、厚さ6ミリ、さらに重さが7グラムという軽量さです。そして、カートリッジ1個当たりのろ過能力は水150リットル。これは、500ミリリットルのペットボトルウォーターで300本分にもなり(フィル&ゴーは600ミリリットル)、活性炭の表面積を合計するとサッカー場約1面分の広さに相当するのです。

── 購入した消費者の声も、ダイレクトに入ってくるものなのでしょうか。
ええ、当社では「ブリタクラブ」という20万人からの会員組織の活動を行っていて、そこから直接いろいろな声をいただいています。たとえばフィル&ゴーのキャップはヴィヴィッドなカラーで4色展開していますが、「可愛い」とか、「家族で使い分けができていい」など好評で、色に対するフィードバックが思った以上にたくさん返ってきていますね。プラス、便利で手軽に持ち歩けるということと、ペットボトルを捨てなくていいとか、環境を意識された声も上がってきています。

また、ブリタ会員になっていただいたら、会員様とのつながりを大事にしていきたいので、イベントを企画したりもしています。いまの時代は、オンラインでもオフラインでも直接、お客様から使用感やご意見、ご要望をいただける時代ですので、ありがたいですね。

ご家庭では、2リットルのペットボトルのミネラルウォーターを買い置きされるところが多いかと思いますが、ネット通販などでの宅配は別にして、お店から持って帰るだけでも大変でしんどいことですよね。そこで水道水を美味しく、かつ安全に飲めるソリューションとして、フィル&ゴーはとてもメリットが大きいのかなと思います。

── アマゾンなどで購入者のレビューを見ると、若干容器が大きいとか、飲み方を一工夫しないとゴクゴクとは飲めないといった感想や要望も散見されますが。
もちろんそうしたお声も承知しており、今後の商品展開に活かすかどうかの参考にさせていただいています。容器の大きさに関して言えば、通常の500ミリリットルのペットボトルより少し大きい程度ですが、製品の形状や容量もイノベーションの大事な要素だと思っていますので、貴重なご意見として受け止めています。

── 同じ市場ではないですが、「サントリーの天然水」など、既存のミネラルウォーター市場を取っていく考えもありますか。
同じ土俵とは捉えていませんが、一部、ニーズは重なっていますのでそこは需要を取り込めるのではないかと。ただ、その程度の話ですね。ペットボトル市場にも我々の製品にも、それぞれに役割があると思っていますし、それぞれの市場規模が大きく違いますから、おそらくほんの一部のシェアをいただけるかどうかだと思います。

── フィル&ゴーと直接、競合するような商品は、まだ出ていないですか。
数年前に、三菱レイヨンさんから「クリンスイ」という商品は出ましたが、この市場は規模としてはまだ小さいですから。実質的には、新しい市場を作っていくんだという意気込みで我々としては活動しています。

「水」には多くの事業機会

オフィスでもなじむボトルデザインだ。

── もう1つ、従来展開してきた浄水ポットのほうですが、こちらも東レが「トレビーノ」という商品を出していますが、そうした競合品との差別化ポイントはどのあたりに置いていますか。
カートリッジのシステムが違ったりということはありますが、それ以外にもデザイン性や使いやすさ、利便性、そのあたりですね。そもそも、この商品カテゴリーを作ったのはドイツのブリタなので、歴史も他社より長いのです。ドイツでブリタが誕生して昨年で50年ですから、歴史もノウハウもあると自負していますし、開発の多くがドイツ本社で行われていますので、ドイツのデザインセンス、あるいはモノづくりへのこだわりも活かされているわけです。

── 商品ジャンルは違いますが、精密機器や自動車などで、ドイツ製の製品に対して、日本人の信頼感はすごく高いですしね。
はい、こだわりの多い文化だと思います。

── もともと、ドイツでブリタが創業した経緯はどんなものだったのでしょうか。
ハインツ・ハンカマーさんという方が創業者ですが、家庭で使えるろ過ピッチャーを彼が発案し、いまの製品とは姿、形も大きく異なりますが、水を、より美味しく飲むための製品を作る情熱がありました。余談ですが、彼は名前のハインツを社名にしたかったらしいのですが、残念ながらケチャップで有名なメーカーで先に、ハインツが社名に使われていたので断念し、ご自分のお嬢さんのブリタからとったそうです。ですからいまでも基本、ブリタは同族経営の企業ですが、ルーツは小さく事業を始めたという経緯ですね。

── マギー社長個人も、かなり前からブリタは使っていたのですか。
個人的にも以前から好きで、ブリタに入社することになったきっかけも、水という生活になくてはならない大事なものでありながら、日々の暮らしの中ではあまり考えずに接しているものが水ですので、いろいろなビジネス・オポチュニティがあるという思いから入社を決断しました。

── ブリタ製品はすでに、本国のドイツ以外での売り上げが全体の8割以上を占めているとか。
今後、さらにドイツでの比率は下がっていくと思います。いま現在、60カ国以上で展開していますが、成長が顕著なのはやはり海外ですね。

── その中で、日本市場の占めるボリュームはどのくらいですか。
そこは非開示ですが、メジャーな市場の1つであることは間違いありません。アジアが大きな成長マーケットだと捉えていますが、中でも味にこだわる日本のマーケットへの期待は大きいです。なので我々も、よりいまの市場を拡大することに努めていきたいですね。

── 日本では、さらにどんな展開を。
付加価値や新しい市場を作っていくことですね。既存市場の中でシェアを取り合うというよりは、まったく新しい価値を作りだしていく。フィル&ゴーは、まさにその第1弾だと思っていますけど、そういう根本的なイノベーションを目指していきます。

販路としてはかなり幅広く展開させてもらっていまして、オンラインでの販売ももちろんありますが、さらにブリタというブランドを知っていただきたい。ポット型浄水器もそうですし、フィル&ゴーも認知度がまだまだだと思っています。ブランドを知っていただき、製品も理解していただき、その良さをわかっていただくことが重要です。広告投資も大事ですが、店頭で実際に手に取ってご実感していただきたいので、量販店をはじめとした店頭販売には特に力を入れています。

店頭での販売が特に重要

「ヴィヴィッドなキャップカラーも人気の要因」とマイケル・マギー社長。

── マギー社長は過去、異業種の日本法人にいらっしゃったんですね。
かつてはフィリップス、前職ではスリーエムという会社にいまして、いまのブリタも含めてみんな、イノベーションという共通項があると思っています。前職も、基本はマーケティング系の仕事で、いかにして市場価値を作って買っていただくかの仕事を、スペシャリティにやってきています。スリーエムでの担当は文具市場でしたが、いずれにせよ、消費者が満たされていないところに、いかに新しい価値を提供していくのかが大事で、現在とは扱っている商材は違えど、ビジネスの考え方は同じだと思っています。

── その2社以外にもキャリアはあるのでしょうか。
私のワーキング・キャリアはずっと日本で、実は親が宣教師をしていた関係で北海道で生まれ育ち、日本はいまではホーム・カントリーぐらいの気持ちでいます。途中まで日本の小学校にも通っていましたがインターナショナル・スクールに転校し、大学は米国(ミシガン大学のビジネススクールでMBAを取得)。さきほどの2社の前は、ジョンソン・エンド・ジョンソンにしばらく勤めていました。

── ドイツの本社には、各国のブリタの現地法人社長が定期的に集まるかと思いますが、最近は、どんな話題が多いのでしょうか。
多様化が1つのキーワードで、製品も日本で販売しているもの以外にもたくさんあるのですが、では、どういう製品をどこで売っていけばいいのか、どういうスピードで製品ポートフォリオを多様化していったらいいのか、そのへんの戦略が大きなテーマになってきていますね。

── 長期的にみて、ブリタの成長は日本でどう考えていきますか。
ポット型と、今回のマイクロディスク型製品と2本の柱で、まだまだ成長できると思っていますので、しばらくはこれらの商品の家庭内浸透率であったり、あるいは認知度をさらに上げて、いまの数倍規模までは伸ばせると思っています。その後は、日本ではまだ発売していない製品群もたくさんありますので、その中から適宜、日本市場にもマッチするものをチョイスして、さらなる成長に向けた多様化を図っていきたいですね。

── コンシューマー向け以外に、法人向けビジネスも何か手がけていくのでしょうか。
いま現在はないですが、海外にはプロフェッショナル・ビジネスというものは存在します。具体的には業務用製品のフィルターなどですが、そういうものも1つのビジネスアイテムとして検討はしていきたいですね。ただし、急ぐこともないと思っています。

ともあれ、先ほど言いましたように店頭での販売がとても重要なので、ここで正しくお客様にブリタ製品をご理解いただき、商品の良さも実感していただくということが、プライオリティの第1になります。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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