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経営者インタビュー

2017年6月号より

百貨店、食品スーパーに続く 柱を決める1年にしていく
鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

鈴木 篤 エイチ・ツー・オー リテイリング社長

すずき・あつし 1956年4月5日生まれ。80年関西学院大学経済学部卒。同年阪急百貨店(現・エイチ・ツー・オー リテイリング)入社。2000年阪急百貨店SC事業部統括部長、06年執行役員、08年阪急阪神百貨店執行役員、13年同社取締役常務執行役員、14年3月エイチ・ツー・オー リテイリング取締役、同年4月から現職。

Sポイントで“血流”を

── まず、足元の消費環境はどう見ていますか。
アッパーミドル層という、百貨店にとって一番中心になっている中間層の方々が、モノを買う以外にレンタルで済ますとか、あるいはみんなでシェアして使い回すとか、そういうのが根底にあって、皆さん、よく考えてお金を使っていらっしゃる傾向はありますね。それは今後も続いていくと思います。

そういうお客様に対して、我々のようなリアルの小売り店舗は、割とハイタッチな話とか、あるいはお客様との会話など、販売スタッフの技量にすごく頼ることになる。マルチ販売スタッフと言いますか、世の中のトレンドの話ができたり趣味の話ができて、生活者のプロみたいなスタッフと会話しながらお客様がモノを買えるようにしていかないと、なかなかリアル店舗の小売り業は難しいでしょう。これは百貨店のみならず、専門店なども含めて、みんなそうだと思います。

── その中で、グループの総本山ともいえる阪急うめだ本店の、足元の販売状況はどうですか。
2016年8月から10月頃は、週末ごとに雨が降ったりしたので(来店の客足が)少し厳しかったですけど、11月、12月とだんだん盛り返してきて、今年の1月とか2月は前年の売り上げをクリアしました。3月もプラス。百貨店業界全体はともかく、うめだ本店は健闘しているほうですね。

非日常を演出するのが百貨店の役割。

課題は、いままでやってきたことをブラッシュアップし、さらに広域からお客様に来ていただくこと。これは、百貨店に限らず当社が進めている“関西ドミナント戦略”全体の話ですが、スーパーマーケットのイズミヤとか、いろいろな業態のグループ会社を持っていますし、グループを横断する「Sポイント」という共通ポイントも1年前からスタートさせました。

Sポイントは、お買い物だけでなく、阪急電車に乗っても阪神電車に乗っても、あるいは阪神タイガースの応援で甲子園球場に入場いただいても貯まるポイントで、貯めたポイントを阪急うめだ本店、ないし阪神梅田本店の両店で使っていただくような、いわばグループ内での“血流”がちゃんと流れ始めるようになれば、さらにシナジーが高められるでしょう。

── H2Oリテイリング前社長の椙岡俊一さん(現・取締役相談役)はかつて、30年スパンの経営計画を掲げられ、最初の10年で百貨店の強化を、次の10年で現在進めている関西ドミナントを、さらに先の10年で海外事業を深耕すると言われました。
それはそのままです。もちろん、いまから8年後には関西ドミナント戦略、いわゆるステージ2の段階が終わって、次の海外事業はステージ3になるんですが、現在も海外事業の仕込みや勉強などは当然、やっていますし、すでに着手している海外事業もあります。逆に海外事業の第3ステージの時期も、まだまだ関西ドミナントは深耕しないと。

要は、10年ごとにどこに力点を置くかはありますが、それぞれが重なっていく部分がある。ですから、最初の10年で掲げた、百貨店事業を盤石なものにするという流れも当然、続いていくわけでしてね。百貨店事業で言えば、2021年度に阪神梅田本店がグランドオープン(第1期オープンは18年春の予定)したら、阪急うめだ本店と併せて〝超本店〟と言おうと思いますけど、関西の、いわば“へそ”のロケーションに超本店があって、そこから関西の商圏を全部、包み込んでいくような戦略が基本中の基本です。

── 一方、スーパーマーケット事業については、以前からある阪急オアシスのほか、買収したイズミヤ、資本参加した関西スーパーなどがありますが、それぞれで客層は少しずつ違うのでしょうか。
客層もそうですし、お店の展開エリアも少しずつ違います。イズミヤは大阪市内から南大阪、東大阪に店舗数がすごく多い。で、豊中市や吹田市などの北摂エリアや阪神間になるとイズミヤは少し減ってきまして、阪急オアシスが増えてきます。

関西スーパーさんは当社からは10%の出資ですので、同じように語ってはいけないのでしょうけれども、あちらも伊丹に本社があって、阪神間にお店は多いです。

売り上げ構成は“2本足半”

── それぞれのスーパー事業を束ねる、中間持ち株会社(エイチ・ツー・オー食品グループ)も1年前に設立しています。
ここは、いわば“会議体”みたいな会社ですが、商品の共同調達などは始まっていて、あるいはお惣菜みたいなものを、各店で共通で扱うという話もだいぶ進んでいます。関西スーパーさんともそろそろ始まっていくでしょう。

── 単純合算でいえば、すでにスーパーマーケットの事業は百貨店の売り上げを超えているのですか。
ざっくりいえば、H2Oリテイリングとしての売り上げは9200億円ぐらいですが、約9000億円として見れば、百貨店事業で4000億円、食品スーパーの事業で4000億円、残りで1000億円ですね。つまり、いまは“2本足半”ぐらいの経営です。もちろん、利益となると百貨店のほうが高いわけですが、売り上げ構成比でいえばそういうことです。

── 物販に限らず、コト消費関連分野でも、M&Aを含めてまだかなり拡大余地はありますか。
生活に寄っている業種、という漠然としたイメージですが、Sポイントは「一緒にやりませんか」という話がボチボチと来ています。M&Aはお相手のあることなので、そう簡単にはいきません。

日常生活での囲い込みに大きな力となるイズミヤ。

特に、今年、来年、再来年の向こう3年ぐらいは、阪神梅田本店の建て替えに加えて、イズミヤでも建て替える店舗が出てくるので、いろいろとお金がかかる時期です。

そして、建て替えるためには一旦、お店を潰してから新しく建てるわけですから、1年半とか2年ぐらいの期間、建て替え対象店のイズミヤはお店を閉めなければいけません。その間は売り上げが減る一方、人件費は減りませんから、一定期間はほかのお店で働いていただき、その後、新しく建てた新イズミヤに戻っていただく。そういうことを繰り返しやっていくわけです。

一番お金がかかってそんなに売り上げが伸びない時期に入ってはいきますが、巡航速度ではありますから、売り上げが極端に落ちることはないと思っています。そして、その間に新しい事業の柱を見つけると。

── 百貨店事業については、どこももう、本店、準本店の都市型で大型の店でないと生き残れない時代になってきているという指摘も多くあります。そのあたりはどんな認識を持たれていますか。
当社には郊外店はありますが、(より苦戦している)地方店はありません。梅田駅まで20分前後で来られる立地ばかりにお店がありますので。総じて、地方の百貨店が大変だというのはデータ的には見ていますけど、当社としては切羽詰まった感じはないですね。

── 地方店と郊外店とでは、品揃えは違うものなのですか。
どこまでを地方店と言うかですが、地方の1番店だけが本当にフルラインで商品を揃えていく形なんでしょうね。本店の周辺、いわば衛星都市にあるような郊外店は、都心の本店の代替機能みたいな感じです。東京、名古屋、大阪など、都心のど真ん中の本店と、その周りの衛星的なお店というのは、まだまだいけるのではないでしょうか。長いスパンで見た将来はわかりませんが、これが百貨店です、これがショッピングセンターですといった垣根も、だんだんなくなってくるでしょう。

── これも以前、椙岡さんが言われていたことですが、「ビジネスには戦略と戦術、それに戦闘とがあって、戦闘だと価格競争に巻き込まれて体力勝負になってしまう。だから、地方郊外店ほど百貨店の文化の匂いを維持して、そこで勝負しないといけない」と。
百貨店のみならず、どの業態もみんなその3層構造になってきていると思います。その中で自分たちのお店はどう生きていくのかを最初に決めておかないと、戦術に溺れてしまうんですね。要は「誰が敵ですか? どう戦いますか? 武器は何ですか?」ということです。武器ばかりを考えていると、価格競争になってしまいがち。自分たちは何者で、誰がお客様で、誰と戦うんだということが最初にありきで、そこで戦略を組まないといけない。それはどの業種の会社にもいえることですけど、すごく重要だと思います。

新たに電子マネーも開始

── 話は変わって、先ほどお話に出た、グループを横串しにするSポイントですが、いま、主だったものだけでも覚えきれないくらいのポイントカードがあります。Sポイントを駆使した戦い方はどう考えていますか。
たとえば、ポイントカードの会員数が多いとか発行枚数が多いとか、そういうところで勝負しても何の意味もないと思っています。これまで、関西エリアではすでに、阪急阪神東宝グループが発行し、何十年もやっているポイントカードがある。関西で我々のコアな展開エリアはおよそ860万の世帯数があると言われてますが、そこですでに750万枚のカードをお持ちいただいています。

これはもう、驚異的なカバー率だと思いますが、いままでは互換性に欠ける、バラバラのポイントでした。それを昨年4月に1つに統合して、いまは、どのカードを使っても全部、Sポイントに片寄せして貯まる仕組みです。そうなると、関西圏にお住まいの方々とは、すごく太くて深い関係が築けるわけです。

何しろ、阪急や阪神の電車に乗っても宝塚歌劇を観ても、あるいは甲子園に応援に行ってもポイントが貯まる。そんなことを実現できる流通グループは、ほかにはたぶんないでしょう。プラス、関西エリアの密度の濃い生活圏でそれを展開しているわけですから、お客様にとっても非常に使い勝手のいいポイントだと自負しています。

── Sポイントの、ポイント金額の負担はどうなりますか。
基本的に、当社であろうがグループ外のところであろうが、お客様にポイントを付与したところがポイント経費を負担し、お客様がポイントを使ったところでは経費は発生しないというシンプルな構造です。

ポイントに加えて、この4月からは電子マネーの「litta」も始めました。これは、百貨店でというよりは、グループの食品スーパーで釣り銭のやりとりがなくなり、これまたお客様にとって使い勝手のいいものになりましたし、このlittaでももちろん、Sポイントは貯まります。

── 最後に今後の重点課題を。
百貨店、食品スーパーに続く、もう1つのコアな事業に何かメドをつけたいなと。そこではM&Aもあるかもしれませんし、芽が出てきたものを太い幹の木にしないといけないですから。向こう1年で木になるかどうかはわかりませんが、少なくても、なりそうだとか、するぞと決める1年にはしないといけません。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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