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経営者インタビュー

2017年1月号より

日本のホテル産業底上げを目指し 「森トラスト・ホテルリート」上場へ
伊達美和子 森トラスト社長

伊達美和子 森トラスト社長

だて・みわこ 1971年生まれ。94年聖心女子大学文学部卒。96年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。同年長銀総合研究所入社、98年に森トラストへ入社。2000年取締役入りし、03年常務、08年専務、11年森観光トラスト(13年から森トラスト・ホテルズ&リゾーツ)社長に就任。16年6月より森トラスト社長。

強まるコト消費は追い風

―― ひと頃に比べて円高に振れたこともあって、最近はインバウンド需要が少し弱含みと言われ、その影響で百貨店は総じて苦しくなっています。ホテルは、また百貨店とは事情が違うと思いますが、インバウンドについてはどう見られますか。
インバウンドの市場を見ますと、2015年実績で言えばざっくり、20%ぐらいがホテルへの宿泊、40%ぐらいがいわゆるショッピングでした。ですが、それは本来の姿からすると、買い物比率が高過ぎていびつだったと思います。

本来、宿泊と買い物比率は逆であってしかるべきでしょう。ホテルの客室単価が総じて上がっても、ホテルのシェアが20%ぐらいだったことを考えると、やはりちょっと異常な事態ではありました。

もう1つ、一度日本で買い物をされたらその後、定期便的に送ってあげるという仕組みがウケていることもよく聞きます。それはそれでビジネスとしてはいいわけですが、一方でリアルのお店には買い物に来なくなる仕組みもどんどん作っていることになります。

それに対して、ホテルや観光の立場というのは買い物と違い、その場に来ないと体験できないから来られるわけで、ホテルなり観光地なりに魅力がある限り、インバウンドは減りませんし、むしろさらに増やせる可能性があります。

―― そこを捉えても、時代はモノ消費からコト消費に確実にシフトしていると。
モノ消費は、インターネットを介せばある程度は済みますからね。ですから、消費そのものが減っているわけではありません。対してコト消費は、そこでしか体験できないから意味があるのであって、どこへ行っても同じ体験しかできないのであれば、わざわざ来る必要もありません。

ただし、リピーターも2度3度となればそのうち飽きてきます。そこで、新たな魅力をどうクリエイトし、ブランディングしていくかが重要です。これから産業界を挙げて、インバウンド需要に向けた本格的な産業育成に入っていくということじゃないでしょうか。20年の東京五輪までに、日本のそれぞれの地域でコト消費に向けた整備を、より高めて完成させないといけません。

当社グループで言えば、ホテルの需要に関しては当然、円高に振れた分、16年5月ぐらいから為替の影響が少しありましたし、熊本地震の影響も若干ありました。さらに中国の景気足踏みの影響もあって、伸び率では鈍化していると思います。ただ、それでも業績自体は15年より伸びている状態にありますので、そこそこ順調かなと。いずれにしても、インバウンドが今後、まだまだ伸びるようにするためにどうするか、そこは常に意識しています。

赤坂や品川・三田エリアも

―― 森トラストグループの中長期ビジョンでは、2019年度の目標値として、売上高で1800億円、うち賃貸関係事業で650億円、ホテル関係事業で400億円、不動産販売事業その他で750億円、その先の23年度は売上高2100億円、賃貸が850億円、ホテルで550億円、不動産販売などで700億円としています。この計画に向けた考え方を改めて聞かせてください。
単純にいまの環境のまま伸びていけば、確かにホテル事業はほかの部門に拮抗してくることになると思います。ただ、不動産事業としての収益力は、やはりオフィス賃貸のほうが効率がいいということも考えなければいけないので、売上げだけを単純に見ても、本当は比較はできません。ホテルであれオフィス賃貸であれ、あくまでもその投資の結果としての利益が、投資対効果でどうなのかを見ていかなくてはいけないですからね。

―― 今後の主なオフィスビル計画にある、赤坂ツインタワー建て替え計画(仮称・赤坂2丁目プロジェクト)や、品川・三田エリアに保有するビル3棟の一体再開発計画はどう展望しますか。
赤坂のプロジェクトは、いまオンプロセスでやっているところですので、細かいところはお話しできないのですが、だいたい方向性は決まっていて、基本的には虎ノ門、赤坂、それに丸の内の3つの特区で連携し合いながら、東京をどうPRしていくかが鍵になります。

赤坂プロジェクトのオフィスビルは、もちろんホテルも誘致していきたいと思っています。虎ノ門や赤坂エリアでも今後、かなりホテルが集積してきますが、それを競合と見るのか、ポジティブに捉えて面的な集積と見るのか。私は後者の立場を取ります。丸の内もそれなりにホテルが集積し始めて、日本橋にもあるという状況と比較して、インターナショナルないいホテルがあるところはどのエリアかをイメージしていただいた際、虎ノ門、赤坂エリアがそこにきちんと入ることが重要ですから。

―― 品川・三田エリアは、JR品川駅と田町駅間にできる新駅、および周辺エリアの開発度合にもよりますし、27年開業予定のリニア新幹線などを考えると、かなり長期スパンで考えていくプロジェクトになりそうですね。
はい、丸の内や虎ノ門エリア周辺の動きが活発化し、その次に大きく動くのが品川・田町エリアです。その時代を迎える頃には当社の大きな2つの開発(虎ノ門と赤坂)が終わって、その上で品川・田町というエリアのポジショニングが、JRさんも含めてどうなっていくのかを見ながら考えていくべきことだと思っています。

品川・田町エリアは、都心の中で羽田空港にも比較的近いですし、新線や新駅もできてくることを含めて考えますと、(虎ノ門や赤坂とは)また違うコンセプトがあってしかるべきですね。東京を意識しながらも、常に地方も意識している、あるいは世界を意識しているものと、全部がつながっていくような位置づけのプロジェクトになるでしょう。具体的な再開発の用途に関しては、もう少し時代を見ていくべきかなと。単純にオフィスビルを造ればいいわけでもないですし、オフィスの在り方も変わってくるかもしれませんから。

―― 東京五輪が20年に終わった後、仮に予定通り27年にリニア新幹線が開業するとしても、五輪後の景気後退は前回の東京五輪で経験しています。その点は、森章さん(森トラスト会長で伊達氏の実父)も以前、「五輪後の財政の崖」に懸念を示されていました。不動産業界に限ってみれば、そこのリスクヘッジは、いかに他社よりもいい立地を抑えるかがやはり基本ですか。
ロケーション重視で、次に投資のボリューム、というか投資バランスを崩さないということだと思うんですね。いまの金利状況では資金調達もしやすいですし、容積率も緩和されている等々の条件の中で、建築費が高いという懸念はありますが、簡単に新規の投資価値が見いだせてしまうのです。だからといって、いままでの3倍も4倍も投資しようと思ってはいけません。

次世代の森トラストを担う伊達美和子社長。

一方で、景気不景気の波がある中でも、コンスタントに投資をしていかなければ事業は持続、成長していかないのも事実です。さらに、財務体質を良くし、自己資本比率も厚めにしていく。あらゆる点で逆風になった時には貸し渋りも起きてきますので、そういう事態にもきちんと備えておく必要があります。そこは会長自身もやってきたことですが、その部分を今後も崩さないというのが1つのセオリーでしょう。

ホテルに関しては、かつてよりも投資を加速しています。景気の波はどんな業界でもあるわけですけど、世界の旅行者は増え続けていますし、どの国から来られるかという点が変わってくるだけですので。ありがたいことに日本の観光資源は磨けば魅力がありますから、紆余曲折はあっても伸びていく分野なので、投資は続けていきます。都心で大型のオフィスビル1棟を建てるのと、ホテルを10棟ぐらい建てるのとが同じくらいの投資というケースもあります。そういう意味では、ホテルのほうが投資を少し早めたり、逆に少し遅くしたりと、供給の調整がしやすいかなと思います。

―― ホテルの立地等々を見極めながら、運営方法もフランチャイズ方式のほか、所有は森トラストでマネジメントや管理・運営は提携先のホテルチェーンに任せるMC方式、さらに直営やリース案件など多彩ですね。
MCになればなるほど、いままでにないようなホテルブランド、あるいは高単価なホテルを誘致できます。一方でFCはFCで、我々がハンドリングできるので、オペレーションのコントロールがしやすいというメリットがある。ですのでそうした比較の中で決めますし、要は選択肢の中でのバランスだと思います。

「常に先を先を見ている」

―― 近年は、マリオットを軸に外資系ホテルと組んだリブランドが活発ですが、森トラスト・ホテルリート投資法人の株式上場(16年度中)も予定されています。
資金調達をし、自分たちのノウハウや技術で開発もして、新しいホテルを保有していること自体は、そんなに重荷ではありません。いま、ホテルは簿価に対して時価では相当な利益率のある状態ですから、無理にリートに組み込まなくても問題はないわけです。

我々がホテルリートの上場を目指すのは、ホテル産業をもっと拡大していきたいからにほかなりません。ホテル産業を確たる地位に引き上げることによって市場が活性化し、次に自分たちが投資をする環境も整う循環になります。ホテルビジネスも安定的、かつ成長力もある事業であることを、世間にさらに理解していただくと。上場リートという市場のポジショニングにすることによって、ホテルに対する投資の見方などを変えたいという思いがあります。

ホテルに関するたくさんのプレイヤーが来て、その街が更新されて力をつけ、PRできていく。そのエリアが日本で目立つ存在になり、海外からも人が来るという循環も生まれます。そのためには、自社でホテル事業を完結するだけでは限界があるのではと思います。

会長(森章氏)も早くから「リートを作るべきだ」という提唱をしてきて、森トラスト総合リート投資法人(大型オフィスビル主体で商業施設、ホテルにも投資)も15年ほど前に設立していますが、それも同じです。不動産と金融をつなげることによって、銀行借り入れではない市場を作ることで不動産市場が活性化すると考えました。

収益還元法(該当物件を賃貸に出して利用された場合の資産価値を算出)という客観的な価値と、キャップレート(期待利回り)という、ある種公平な尺度ができて、不動産業が正しい産業に成長したのがリート。ホテルもそういう循環になったらいいなという思いから、ホテルリートの上場を考えているのです。

―― ほかの大手ディベロッパーも最近はホテル事業に積極的ですが、たとえば財閥系ディベロッパーとの差別化ポイント、あるいは森トラスト独自の立ち位置やDNAといった点はどうですか。
私は世界中のホテルを見ながら、どういうところとビジネスパートナーとして組んだらいいか、どういうブランドがいいかなとか、先を先を見るようにはしています。あとは、選択する中でパートナー先の将来性も見ていますね。地方で、なるほどと思えるエリアを先に押さえていくことによって、新たなビジネスチャンスを作っていきます。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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