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経営者インタビュー

2017年1月号より

世界の飲料業界で「第3極」目指す そのために売上げ2兆円は必要
小郷三朗 サントリー食品インターナショナル社長

小郷三朗 サントリー食品インターナショナル社長

こごう・さぶろう 1954年大阪府生まれ。77年京都大学法学部卒。同年サントリー入社。洋酒事業部長や宣伝事業部長、SCM本部長などを経て、2011年サントリーホールディングス常務、同年サントリー食品インターナショナル専務、13年副社長、16年3月より現職。

飲料業界の動きが活発化する中、コカ・コーラグループと2強を形成する、サントリー食品インターナショナルは今後、どう戦線を拡大し、勝ち戦をつかもうとしているのか。同社の小郷三朗社長に聞いた。

利益では海外が6割

―― まず、国内外の事業における重点課題ですが。
新興国としてのアジア、欧州における新興国としてのアフリカ、これらの新興国群で積極的な展開をしていくと。日本では、利益率の改善というところを基軸にして伸ばしていきます。

―― 海外比率は現状どのくらいで、今後どう持っていこうと考えていますか。
売上げで言いますと6対4で国内、利益で言うと逆に4対6で海外のほうが多いんです。海外は今後もアジア、アフリカ等々の国での伸びが期待できますので、さらに海外比率は上がってくると思います。

―― 数字が逆転してしまうというのは、それだけ国内市場が過当競争だということの裏返しですか。
海外展開は、主にM&Aなどでボリュームを増やしてきていますから、結果としてそういう構成になっているだけで、国内も売上げ、利益ともに順調に伸ばしています。ただ、相対的に国内依存度がどんどん低くなっているのは事実ですね。それだけグローバル化が進んでいるわけです。

―― 緑茶、ミネラルウォーター、コーヒーなど、ジャンル別のいまの足元の課題は何でしょうか。
飲料業界はずっとデフレで価格競争が激しく、値段の勝負になることをできるだけ回避する方針で取り組んできました。その政策がいま、だいぶ効いてきましたので、その分、(2リットルサイズなどの安価な)大容量のペットボトルサイズの伸びは足踏みです。でも、当社が戦略商品として見ている500ミリリットルのペットボトル、あるいは「伊右衛門 特茶」を中心とした高付加価値商品を順調に伸ばしていますので結果、非常に大きな利益率の改善ができました。そういう意味では、国内市場ではここ2、3年、目指してきた成果が出ていると思います。

―― 商品ジャンルの守備範囲が広い中で、さらにのびしろが高そうな商品、あるいはラインナップにはまだなくて、これから強化したい分野というのはありますか。
当社の特徴でもありますが、「ナチュラル&ヘルシー」というところのポートフォリオが非常に強いと。そういう意味では「南アルプスの天然水」、さらに炭酸入りの天然水や、「ヨーグリーナ」のような微糖のニアウォーター系の市場が、当社の商品を中心に伸びています。このウォーター系のところを伸ばしていくのがまず1つ。

歌手、宇多田ヒカルさんを起用した「南アルプスの天然水」のテレビCMは話題になった。

さらに緑茶のところでは、従来のコモディティなお茶ではなくて、付加価値の高い商品を増やしていきます。16年8月には「伊右衛門 特茶」のカフェインレス商品も出しましたし、15年は「黒烏龍茶」のリニューアルも行いました。無糖茶の分野で、より健康志向の高いセグメントを伸ばしていく考えです。

ほかの分野におきましても、「オランジーナ」のような新しいカテゴリー、あるいはスポーツドリンクで透明タイプの新しいカテゴリーなど、従来とは異なる、少し新しいカテゴリーの挑戦との併せ技で伸ばしていこうというのが我々の戦略です。

「オランジーナ」育成の鍵

―― 微炭酸でヒット商品に育った「オランジーナ」(2012年発売)は、「ブラッドオランジーナ」や「ハニーレモンジーナ」など、かなり派生商品を出しましたが、直近の販売ボリュームはどのくらいですか。
15年の販売実績数字で言いますと、1320万ケースで前年比139%でした。ただ、これも新製品のところでの当たりはずれで波があるんですが、ある程度、日本の消費者に「オランジーナ」という商品が定着したのかなとは思います。商品投入から5年目ですけど、なかなか炭酸系飲料で市場に残るということは難しいですからね。ここからさらに伸ばすのが非常に難しいカテゴリーなので、17年以降、いろいろな手を打っていくつもりです。

それと「オランジーナ」の場合、どちらかといえば大人向けのドリンクということを目指していますので、業務用とかお酒と一緒に飲んでいただくとか、そういう需要開発の仕事をしていかなければいけません。いままでのように、新商品を出して既存の流通チェーンに商品を流すというだけの商売ではダメです。同時に市場開発型の仕事もしていくことが大事で、「オランジーナ」はじっくり育成していくのがポイントですね。

―― もう1つ、グラクソ・スミスクラインの清涼飲料事業買収で手に入れた「ルコゼード」(機能性飲料)や「ライビーナ」(果汁飲料)は、日本での展開やシナジーはどうですか。
いまのところ日本に導入することはないです。カテゴリー的に言うと、「ルコゼード」はエナジードリンク。この市場はいま、いろいろ方策を考えていますが、「ライビーナ」ともども、知名度が日本ではほとんどありません。

ただ、この2商品は英国の商品ですので、かつて英国の植民地であった国々には、これらの商品ブランドが残っているんですね。つまりフットプリントがある。ですから、ナイジェリアでこれら2商品の事業を買収したのもそういう文脈ですし、もともと商品基盤のある国については積極的にやっていくつもりです。ですから、シナジーは海外のほうでしょう。

―― サントリー食品インターナショナルは、商品ラインナップのほとんどがトップブランドかナンバー2の商品ですが、まだ、てこ入れが必要な商品群はありますか。
少し弱いと思っているのはエナジー系ですね。このジャンルは「デカビタC」という商品を持っていますが、いずれにせよ、ほとんどのカテゴリーに何らかの形で商品を持っています。商品力の強い弱いは若干ありますけど、フルライン。敢えて言えば、ほとんどフットプリントがないのは野菜ジュース系ですかね。このジャンルは過去、何度かチャレンジしているんですが、得意分野ではないのでなかなか難しいです。

―― 野菜ジュース系だけでなく、アサヒ飲料における「カルピス」のような、乳酸菌系飲料といったジャンルはどうでしょうか。
すでにある、既存の市場に真横からぶつかっていくのは非常に体力も要ります。そうではなく、新たなカテゴリー、サブカテゴリーと言っておりますが、そういう商品ジャンルを作ることにいま、注力しています。たとえば「ヨーグリーナ」は「カルピス」の真横に置く商品じゃないですけど、満足度としては非常に近しいもの、なおかつ健康的でナチュラル、糖分も少ないものですから。

自販機はインロケで勝負

―― 15年には、自販機事業をJT(日本たばこ産業)から1500億円で買収(=ジャパンビバレッジHD。以下JB)しました。当初、その買収金額が高いか安いか、ずいぶん話題になりましたが、統計データ的に見ると、飲料販売のチャネル別シェアでは、自販機は右肩下がりでコンビニが横ばい、スーパーやネット通販などが伸びています。
全体で言えば、約3分の1の流通ルートが自販機です。数が多いコンビニといっても全国でおよそ5万店、飲料の自販機は全国で250万台あります。なので、これが一朝一夕でなくなるわけではありません。とはいえ、コンビニでも割安な価格で売られるケースも増えた。トレンドで言いますと、自販機の250万台というのはすでに飽和状態にあって、とりわけ、屋外に設置している自販機は淘汰されていくでしょう。

印象的な「オランジーナ」のテレビCMも新バージョンを投入。

一方でインロケと言って、いわばオフィスの中、あるいは工場といった立地での自販機は非常に有望です。ビルが高層化し、外に飲み物を買いに行くのがなかなか大変な中で、近くて便利な存在という意味では、オフィス内というのはコンビニ以上に消費者に密着したロケーションです。ですから屋外とインロケとを分ければ、自販機と言っても一律的ではありません。インロケ市場を活性化したいという思いから、インロケに強いJB社を買収したわけです。


―― のびしろとしてはビル内、あるいは法人向けが大きいと。
JB社のビジネスモデルは、我々がやってきたベンダービジネスとは少し、違うんです。当社はメーカーとして、自分たちの商品をいかに消費者にお届けするか。その手段として自販機を設置してきました。

一方、JB社はメーカーではないので、設置先のロケーションのニーズに応じて、単一のメーカーではなく、いろいろなメーカーの商品をミックスした自販機を持っています。ほかにもペットボトルや缶ではなく、紙コップの自販機とか、品揃えが多いんです。いわば、設置先のニーズに応じて提供しましょうという、まさにリテール型のビジネスモデル。

サントリーグループ最大の企業を牽引する小郷氏。

そこで当社とJB社が一緒になることで、商品やサービスの幅がさらに広がり、付加価値を高められ、法人との開拓や結びつきの点でも需要拡大が狙えると。法人対法人は総合的なお付き合いということになってきます。その点、サントリーグループにはお酒もある、あるいはアイスクリームの「ハーゲンダッツ」などさまざまな商材がありますので、法人と総合的なお付き合いができます。そこが競合他社に比べて競争優位ですね。サントリーコーポレートビジネス社という法人営業専門の会社も持っていますから、そのネットワーク活用で、まさにシナジーが期待できるのです。インロケをほぼ法人向けと考えますと、これまでは自販機のインロケ比率は4割弱でしたが、JB社が加わったことでほぼ半分がインロケになりました。ここからさらに増やしていく考えです。

―― 最後に将来的な目標を。
売上げで2兆円の規模にはなりたいという思いはずっとあります。世界的に糖分を控えるというニーズがありますから、そこを強みにして、世界の第3極になる。それには2兆円はないといけないということです。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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