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経営者インタビュー

2016年7月号より

チャレンジャーとして収益性、安全性でもトップを目指す
西澤 敬二 損害保険ジャパン日本興亜社長

西澤 敬二 損害保険ジャパン日本興亜社長

にしざわ・けいじ 1955年生まれ。1980年慶應大学卒業、安田火災海上保険(現損害保険ジャパン日本興亜)入社。(安田火災海上)執行役員営業企画部長、取締役常務執行役員自動車業務部長、損保ジャパンHD取締役執行役員、損害保険ジャパン日本興亜専務執行役員、副社長を経て、2016年4月損害保険ジャパン日本興亜代表取締役社長執行役員に就任。

介護事業の買収、保険事業の周辺サービスに力を入れ、注目が集まる損保ジャパン日本興亜グループ。今年10月からは新たな経営体制を導入し、新たなステージへと移行する。その国内損保事業の経営を担うのが副社長から昇格した損害保険ジャパン日本興亜の西澤敬二新社長だ。経営課題、合併後の社内融和、次への挑戦を聞く。

経営体制見直しの意味

―― 経営体制が変わるということですが、どう変わるのですか。
柔軟性を持ってそれぞれの事業に取り組んでいこうということです。海外や介護と事業が拡大。これを1人で見るというのは難しくなっています。そこで海外事業と介護事業にはそれを担当する「オーナー」を置きます。一方、これまでも国内損保事業と生保事業は社長を置いていたので大きな変化はないと思いますが、今まで以上に権限委譲を行い、それぞれの責任で対応していくというのが、今回の組織変更の狙いです。

―― 保険業界は少子高齢の中で厳しい業界といわれます。これについてはどう受け止められていますか。
いま日本の人口はおよそ1億2000万人ですが、30年後に8000万人、60年後には6000万になるといわれます。しかし、これで何をオタオタしているのかということです。というのは、グローバルトップのドイツの損保会社「アリアンツ」があるドイツの人口は8000万人あまり。英国やイタリアなどもよい保険会社がありますが、そうした国々の人口は6000万人ぐらいです。もちろん、人口減少の影響は大きいですが、こればかりをネガティブに考えて事業を行っては絶対にだめだと思ってるんです。事業費を減らすことばかり考えていては、成長は望めません。われわれはサービス産業として国内では介護事業やまだまだ伸びるリフォーム事業に着手し、事業領域を拡大していますから、まだまだ成長の余地があると社内では言っています。

あたり前のことの重要性

―― 社長に就かれて、何から取り組まれようとお考えですか。
就任発表の会見では、現場力とデジタル戦略ということをお話ししました。その前提は物事の本質をしっかり見て、あたり前のことを正しくやっていくということです。実はこの「あたり前に」というのが難しい。そこでもう一度、本質的なことを見つめようと。その本質はお客さまですね。われわれの保険事業は目に見えない商品を売っていますが、今後はサービス領域に出ようとしています。それには何事もお客さま本位で考えなくてはなりません。

今後はデジタルとともに、最終的に他社と差別化するには、現場力が重要です。それはお客さまとのリアルな接点になるのは現場で、その現場力が最終的に差別化に繋がるんだと思っています。

――具体的な施策としては。
営業社員と代理店だけでは365日・24時間カバーはできません。代理店さんの質を高めるのは重要ですが、加えてコールセンターの充実化、また、WEB対応も必要です。これだけではマルチチャネル化しただけです。最近はオムニチャネルというように、各チャネルで瞬時に情報連携ができるようにすることが必要です。しかし、当社では、まだそれができていません。

どのようにお客さまが望む対応、品質、価格で商品やサービスを提供できるか。それに必要なものがデジタルと現場力ではないかと考えているのです。

―― どのように独自性を出していこうと考えていますか。
正直、自動車保険や火災保険といった保険商品で差別化するのは本質的には難しいと思っています。差別化にはサービス領域で独自性を出さなくてはなりません。とはいえ、多角化は本業周辺でやらなくては失敗してしまいます。われわれは、自動車、住宅、人への「安心・安全・健康」を考えてきた会社で、すなわちこれが保険事業のそのものです。

たとえば、事故のときは保険金が出るので安心できる。しかし、故障のときはどうか。故障のときに安心を提供するには――それにはアシスタンス会社を。メーカーの保証期間内なら、お金の心配はいりませんが保証期間が切れたら――それには延長保証会社を、ということでアシスタンス事業に参入し、2015年に延長保証会社「PWJ」を買収。アシスタンスから延長保証までサービスの領域を広げました。また、修理部門では品質の高い整備工場さんのネットワークを作って、お客さまにご紹介する優良整備工場ネットワークを作っています。このように自動車保険の周辺でのサービスを行う合弁会社を作ったり、買収したりしてきています。火災保険の周辺ではリフォーム事業に参入しています。

―― 自動車保険では走行距離に基づいて保険料が決まるPAYD型が注目されています。
当社でも法人向けですが「スマイリングロード」という商品を出しています。導入した企業では20%ほど事故が低減しています。事故が少なくなれば、被害者も減り、運転者にとっても導入企業の保険料も少なくなるwin-winな商品です。個人向けにも販売を開始していますが、こちらはまだそれほど宣伝はしていないのに反響をいただいております。こうした商品は売れることばかりではなく、ビッグデータを集めることができて、そのデータをもとにさらに安心安全な商品開発へとつながります。

片寄せの背景とは

――損保ジャパン、日本興亜の合併にともない一気に人事を一本化し、業界内でも話題になりました。
私は経営企画を担当していたので、この合併の統括責任者という立場にありました。もちろん最終判断は二宮(雅也・会長)ですが、担当者として迷ったのが、合併にあたってのシステムや商品、事務など実務的な問題をどうするかでした。現場では2社のよいところを生かした素晴らしいシステム、商品を作ろうと理念や理想に燃えていました。しかし、私は「このままでは頓挫する」と思いました。あまりにも理想論すぎている。現実は生易しいものではなく、システム統合となればそのリスクは高い。そこで損保ジャパンの商品、システムに一旦は片寄せをしたほうがよいと二宮に相談。スピード英断で決められました。

損保ジャパンのシステム、商品にしたことで、日本興亜の職員には苦労をかけたと思っています。一方、損保ジャパンの職員にも仕事をしながら、日本興亜の職員に教えるというのは大変な時間を費やすことになってしまいました。

常にチャレンジャーとして

―― 以前よりスピード重視ということを強調されています。
5年計画、10年計画というような目標を立て、そこに向かって走り続けていくことをしたいのですが、お客さまの思考変化やデジタルの技術革新などにより、これが難しくなってきていると思っています。ですから、いま、気づいたことはすぐ実行し、正しければ続け間違っていれば修正というような柔軟な発想をする。職員は自主自立し、自らが判断し自ら決断してチャレンジすることを尊ぶような会社にしていこうと話をしています。

―― 「日本一」というキーワードもよく使われていますが、これの狙いとはどのようなことですか。
われわれは国内損保会社としてトップですが、これは合併したからトップになっただけのこと。他社さんがまたどこかと合併されたらそちらがトップになってしまう。それだけのことなんです。もちろん、業界トップであることのメリットはありますが、私自身が目指すものは大きさだけではなく、質を伴った成長です。それには収益性や安全性などでも、トップを目指そうと社内で話しています。ただ、少し保守的になっているかなと思っています。

ホールディングスベースでは、3位になってしまいます。そう考えると、われわれは圧倒的にチャレンジャーで、すべてにおいてチャレンジしていくという気概を持たなくてはなりません。志を高く持ってやろうということを言いたいですね。

(聞き手=編集局長・小川純)

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