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経営者インタビュー

2015年7月号より

想定外の需要──富士ソフト「PALRO」

人の中心にいるロボット

「そのまま背伸びをしましょう。ううんと、力を入れて、ううんと……」テーブルの上で両腕を上げて、背伸びの運動をするロボット。その周りにはイスに座ったお年寄りが集まり、ロボットの動きと同じ運動をする――その時間およそ25分。誰ひとりそこを離れることはない。

こうした高齢者施設で活用されているのが、富士ソフトが開発したコミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」である。

富士ソフト「PALRO」

神奈川県藤沢市にある「藤沢富士白苑」は、特養の入所者140・ショートステイ20の160ベッドを備える。ここでは2014年3月にパルロを導入した。

施設長の関野雅之氏がこう話す。

「100人の顔認識ができるなら、面白い使い方ができるだろうと導入したんです」

富士白苑では3階建ての施設の各フロアに1機、エントランスに1機の計4台を備えている。

いまでは高齢者の人気者になったパルロだが、開発のスタートは7年前にさかのぼる。

「そもそも開発のスタート段階では介護といったことは、まったく考えていませんでした」

と話すのは、富士ソフト常務執行役員プロダクト・サービス事業本部長の渋谷正樹氏だ。

「当時、iPhoneが発売されてコンピュータがポケットに収まり、その先のコンピュータはどうなるのか、ということが開発のきっかけです。いまのコンピュータは人が指示を出していますが、その先は、あらかじめ動いていて、もっとやさしいインターフェースのコンピュータになるだろう。そして、それは知能を持つコンピュータ、人間に近いものになるだろうと考えました」

ラップトップPCから始まった開発がいつしかロボットに変わり、開発チームは大学のロボット研究室などのリサーチをはじめる。その延長線上で、汎用部品を使ったパルロのプロトタイプを製作。そんなとき、営業担当者から「おばあちゃんがすごく気に入ったから売ってほしいという人がいる」との連絡を受ける。確認をすると、そこが高齢者施設だったというのである。

「笑わなかったおばあちゃんが、一定期間パルロを使っていたら、笑うようになったというんですね。そこから、お役に立てるならとはじまったわけです」(渋谷氏)

実際の開発にあたっては、馴染みやすいロボットにするため、大きさやデザインについてこだわりを持ったと渋谷さんはいう。

「パルロの全高は約40センチですが、これはテーブルにのせたときに、向き合った人が見上げない、その人の目線よりも低くしたいという理由からです。また、デザインはすべて女性の意見です」

会話は0.4秒がカギ

本田英二・富士ソフト執行役員(左)/渋谷正樹・富士ソフト常務執行役員

コミュニケーションロボットとして重要なポイントは、人との円滑な会話が成り立つかどうかにあり、それには、最初の言葉への答えがすぐに必要で、反応が遅れると、人はストレスを感じるという。

「通常、会話は0.4秒でのやりとりなんですね。それが0.8~0.9秒かかってしまうと、ちょっとイラっとする。また、日本語は複雑でイエス・ノーだけで124種類もあります。最初、パルロと会話をはじめたときは、コンピュータ相手ということで、はい・いいえをはっきり言いますが、会話が進むとそれを忘れて、きちんとした言葉ではなくなってくるんです」

介護施設へと用途が広がったパルロだが、「開発の当初の目的だったコンピュータやネットに触れない人にも触れてもらうためのインターフェースを組み上げるというスタンスは変わっていません」と渋谷氏は話す。

ロボットは静かに確実に、日常生活に入りつつあるようだ。

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