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経営者インタビュー

2015年7月号より

実践の場「神奈川県・さがみロボット産業特区」

実証に力を入れた特区

「パワーアシストハンド」特区の中小企業がリハビリ病院や大学の意見をとり入れて開発した。撮影/中野昭夫

企業がさまざまなロボットの開発を進める一方、自治体でもロボット産業が地域活性化につながるとして取り組みはじめている。その1つが神奈川県の「さがみロボット産業特区」である。

「行政が産業振興に取り組む場合、基礎部分、研究段階の上流部分を中心に進めるところが多いのですが、われわれのさがみロボット産業特区は、実証部分の実用化に向けた出口に近い部分の支援を行っていくことに重点を置いています」

と話すのは、神奈川県産業労働局産業・観光部産業振興課さがみロボット産業特区グループの渡部力氏である。この特区に指定された地域は広く、神奈川県の中央部分の相模原市、平塚市、藤沢市、厚木市、伊勢原市、座間市など10市2町に及ぶ。

「中央部は製造業が盛んで、県内の研究開発の人口のうち約5割がこの地域に集中しています」(渡部氏)

神奈川県では特区に指定した地域をそれぞれの地域性に合わせて、北部を災害対応、中央部を介護・医療、南を高齢者への生活支援と、3つに分類している。また、こうした総合特区では、規制緩和、財政、税制、金融の4つについて特例を設け、支援を行えるが、ここでは、規制緩和と財政の2つに特化する。

また特区内だけでなく、全国から実証実験を行いたい企業を公募し、「場」の提供も行っている。実験には、以前は県立高校だった校舎や体育館などの施設を利用。校舎では病院や福祉施設に見立てて自立運転型のロボットの実験を、校庭では無人遠隔操縦のロボットの実験を行う。

このほか、ロボット特区ということもあって、特区内の病院や介護施設も協力的だ。

一方、財政支援では、県が直接財政支援を行うのではなく、総務省、経産省、中小企業庁、厚労省といった中央省庁が出している補助金の情報を収集。企業からの相談に応じて、それらの補助金を受けやすいよう申請書類の作成方法や説明書類のつくり方のアドバイスをしている。実際にこうした取り組みで、2013年は5件・1億8000万円あまり、14年には11件・4億2000万円以上の補助金を獲得している。

特区だからできたこと

こうした取り組みから生まれた地元の中小企業が集まり商品化第1号になったのが、パワーアシストである。これは脳梗塞などで、手に障害が生じた際のリハビリのサポートを行う。

「これは地域の企業が集まり、特区内の大学、リハビリ施設の協力を得て開発されたものです。モーターを使っていないため、無理なくリハビリができるのが特徴です」(渡部氏)

手の不自由な方が体の一部(写真でアゴ)を少し動かす だけで、自分で食事がとれるようになるロボット。セコムが開発した。撮影/中野昭夫

さらに、生活支援ロボットの浸透・定着を目的に、(1)パワーアシストハンド(エルエーピー)、(2)食事支援ロボット「マイスプーン」(セコム)、(3)コミュニケーションロボット「パルロ」(富士ソフト)、(4)自動ページめくり機「りーだぶる3」(ダブル技研)、(5)非接触バイタル感知センサー(ミオ・コーポレーション)の5つのロボットの介護保険適用の申請を特区として行った。

「通常、介護ロボット適用については市町村の提案になるのですが、直接ロボット開発を行う企業が集まっている特区ですので、メーカーの声を特区として提案しました。結果としては、残念ながら5つとも認められなかったのですが、介護ロボットについては、今後、厚労省も柔軟に対応していくという方針を示されまして、実際はわかりませんが、特区として提案したことで今後の対応に変化がでてきたのかなと、感じています」(渡部氏)

3年目──次への課題

一方、特区はロボット関連企業だけのものではない。地元に住む人に「生活支援ロボットとはどういったものか」「ロボットのある生活とは」というものへの、理解を深めてもらう啓発活動も行っている。

その1つが特集ページでも紹介した特区内にある住宅展示場などを活用し、直接、生活支援ロボットに触れることができる「場」の提供だ。また、町のなかにも、通常は「歩く人・止まる人」になっている歩行用信号機を、イメージキャラクターである鉄腕アトムのシルエットにするなど、ロボット特区ならではの雰囲気づくりもされている。

さまざまな産業特区があるなかで、実際にはなんのための特区なのか、わからないところもある。そんななかでさがみロボット産業特区は、その名前からも旗幟鮮明な特区といえる。今後の展開として、渡部氏は次のように話す。

「実用化の方策としては、特区内には159の企業が集まっているので、こうした企業による共同開発が進められないか。また15年で3年目になるので、次の大きなテーマとして、もっと社会に浸透させる事業を行っていきたいと思います。その1つが年間100カ所ほどの施設でのロボット体験ができる『ロボット体験キャラバン』です。

また、ロボットをお試し使用ができるモニター制度の構築もしていきたいと考えています。ロボット社会への定着としては、どこでロボットを使うことが可能か、各分野のオピニオンに参加していただき、いろいろな提言もしていければと思っています」

産業用ロボットの分野では、世界のトップを走る日本。しかし、生活支援ロボットの分野は緒についたばかりだ。そんななかで、実用性を推し量るこうした特区は重要な存在といえるだろう。

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