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特集記事

2014年5月号より

“仕事のない時こそ信頼獲得の大チャンス
大野直竹 大和ハウス工業社長に聞く

大野直竹
大和ハウス工業社長

おおの・なおたけ 1948年愛知県出身。71年慶応大学法学部を卒業し大和ハウス工業入社。以後一貫して営業畑を歩き、静岡建築営業所長、新潟支店長、東京本店特建事業部長、横浜支店長を歴任し、2000年に取締役就任。常務、専務、副社長営業本部長を経て、11年4月社長に就任した。

始まった第4次中計

―― 4月1日に消費税率が5%から8%へと上がります。住宅は高額商品の最たるものですから、その影響は大きいのではないかと思いますが、4月以降についてどのように見ていますか。
大野 4月に8%となり、このままいけば、来年10月には10%となるわけですが、消費増税そのものをそれほど気にしているわけではありません。むしろ多少の逆風であればチャンスと捉えることもできますし、これまでやれなかったことを実行するいい機会になるかもしれません。でも一番気になるのは世の中の動きです。仮に社会全体がしぼんでしまってはどうしようもありません。一企業のやれることには限界があります。ですから、安倍首相もよくおっしゃってますが、景気の中折れがないよう、そこは政治によってきちんとした舵取りをしてほしいと思います。

―― 消費増税と時を同じくして大和ハウスでは、昨年から2015年度を最終年度とする第4次中期経営計画が始まっています。これによると今期2兆5500億円の売上高を、2兆8000億円に、1500億円の営業利益を1700億円に、800億円の最終利益を1000億円に引き上げようというものです(今期数字はいずれも見込み)。
大野 昨年秋にこの中計を発表した時には、ずいぶん保守的だとアナリストから言われました。みなさん、売上高3兆円という数字が出てくると思っていたようです。でも、消費増税のように、実際にやってみなければわからないところもありますから、その分、固めに見ています。

―― 大和ハウスは現在、建設関連産業で唯一の2兆円企業で、他を引き離しています。それでもまだ進軍ラッパは止まらず、3兆円が現実のものとなろうとしています。
大野 これまで売り上げを積み重ねてここまできましたが、各部門を見るとけっしてトップではありません。戸建住宅もトップではないですし、賃貸住宅でもそうです。マンション事業もトップではありません。あくまで総合体としてトップに立っているにすぎません。

ですから、もう一工夫してトップになる。もしくはトップに近いポジションになりたいというのが正直な気持ちです。でも、ここで注意しなければならないのは、内容が伴っていなければならないということです。

戸数だけを追い求めると、どこにでも建てればいいということになりかねない。でも我々はそういう商売のやり方はとりません。例えば賃貸住宅を建てるなら、その物件が満室になるようにフォローをしていく。戸数の目標ありきで、建てたあと、誰も住まないようなものは引き受けない、みんなが建てたい、みんなが住みたい家を建てるのが、大和ハウスのやり方です。

―― とはいえ、営業には目標数字があるわけですから、とりあえず目標をクリアしたいという欲求に負けてしまうこともあるでしょう。
大野 そうならないように、内部にチェックする部門を持っています。営業が持ってきた案件を、そこでいったん審査する。この審査を通らないことには、建設を引き受けることができないようになっています。

厳しく審査するのは当然ですが、それと同時に、そのままではあまり人気が出そうにない場合などは、最初からエアコンを設置するなどの提案も行っています。そのように、建設の仕方を工夫することで、住みたい家にしていくわけです。こうした議論を徹底的に行っています。

物流施設の成長見込む

―― 公共投資や復興需要もあり、建設業界は活況を呈しています。さらに、ここに東京五輪特需が加わります。しかしその一方で、人手不足で人件費は上がり続け、円安によって建築資材も上がっています。その影響はかなり大きいのではないですか。
大野 いまでさえ人手が足りません。これに五輪特需が加わったらどうなるのか、ちょっと想像できないところがあります。ですから同業の中には、受注や売り上げは増えるけれど、利益は出ない、とおっしゃっているところもあるようです。状況は我々も同じです。ですからいま、モノづくり全体の見直しを図っています。プレハブ化をいま以上に進める。そのために集中生産、平準化、生産・調達品種の絞り込みを行っていきますし、物流ネットワークを構築することで配送コストも削減します。

こうした工夫によって、住宅系事業で100億円のコストを削減しようと考えています。

中計終了時には、売上高3兆円も見えてくる。

―― 中計の発表会見では、住宅部門以外の、商業施設や事業施設の展開について時間を割いて説明していました。中でも物流センターの開発・建設は、最近の物流拠点開発ブームもあって、期待できる分野ですね。
大野 いまさまざまな業界の業務形態が変わってきています。コンビニエンスストアへの物流なら、当日配送は当然ですが、商品管理が徹底され、より新鮮でおいしい状態でお店に届ける機能がより重要になってきます。そのために、従来は工場があって、そこから物流センターへ運び、各店舗へ、というものだったのに対し、最近では、物流センターそのものが工場機能の一部を持つケースも出てきています。またEビジネスなどは、物流のインフラがあって初めて可能なビジネスです。このように、これまで以上にいろんな機能を持つ物流施設が必要になってきています。

―― 事業用物件の場合、大和ハウスが施主から依頼を受けて建設するよりも、大和ハウスが企画・建設したものをテナントに貸し出すケースのほうが多いそうですね。
大野 最初の頃のお客様というのは、この土地に物流倉庫を建てたい、というケースが大半でした。ところが、そのうち、このエリアに物流拠点が欲しい。機能はこれだけ必要だ。ただし、自社で物件を所有することはできないので、賃貸の形で使用できないかという要望が増えてきました。そこで当社で土地を探し、土地のオーナーに提案し、倉庫を建てていたのですが、今度は土地のオーナーからも、土地は貸すけれど建物は大和ハウスの所有にしてという要望が出てくる。時には、土地も当社が所有する。いまでは物流施設を我々がつくって所有し、それをテナントにお貸しするケースが7割にまで達しています。

―― いま首都圏周辺では物流拠点建設ラッシュです。それだけに他の建設会社との競争も厳しいでしょうが、その中でも大和ハウスの強みとはなんですか。
大野 我々の強みは、テナントとの付き合いが古いということです。先ほど言ったように、最近の受注はオーダー型が中心です。テナントが場所や機能などの要望を出し、我々はそれに応えるわけですが、そのためには両者の深い信頼関係が必要です。信頼があるから機能に関して細かい注文も出てくる。我々はその注文に応じる。その代わり、長期的に借りていただく。そういう関係が構築できているのです。

もう一つは、土地を探す力があることです。というのも、我々は商業施設の立地をずっとフォローしているからです。仕事があろうがなかろうが、ずっとフォローしている。その土地がいまどういう状況にあるのか、オーナーの意向はどうなのか、常に把握しています。土地の売買情報もいち早く入ってくるため、必要なら土地を手当てすることができる。これは当社の強みです。

住宅メーカーへのこだわり

―― 仕事とは関係なくフォローをし続けるということですか。
大野 オーナーやその土地について知っているというだけではダメなんです。そこでいかに親しくして信頼されるかが勝負です。そしてこれは、お金の関係がない時こそ重要です。私がよく言うのは、仕事が出てからオーナーのところにかけつけてはダメだということです。仕事のない時に、どういうふうに通うかによって信頼関係を築くことができる。

仮に一つの仕事を運よく取ることができたとしても、それで仕事を終わりにしてはいけません。そのあとも、ずっと付き合いを続けていくことが必要です。

我々にはスーパーゼネコンさんのような歴史はありません。そんな会社が商売をしていくには、お客様一人ひとりから、あの会社は信頼できる、あの会社はいい、そう思ってもらえるかにかかっています。そこが我々の生命線です。

―― それは事業用施設についてだけではないわけですね。
大野 もちろんそうです。事業用施設も戸建住宅も賃貸住宅も全部一緒です。大和ハウスは1955年に、歴史も暖簾もお金もないところからスタートして、一歩一歩積み重ねて今日まで来ました。昔は「ヤマトハウス」なんて言われたりもしていました。それが今日まで来ることができたのは、先輩たちが、お客様や取引先様との信頼関係をずっと作ってきてくれたからです。

その先達に教わったことをこれからも大切にしていきたいし、さらには次の世代に伝えていく。それが我々の役目です。

―― となると社員教育が重要になってきますね。
大野 根気よく、根気よく、意識づけをしていかなければなりません。石橋信夫創業者、樋口武男会長など、先輩が築いてきた大和ハウスの伝統を、いかに下の人間に教えていくか。それによって、大和ハウスが順調に伸びていけるのか、伸びたのは一瞬だけの会社で終わってしまうのかは、この部分にかかっています。

そのためには日常業務を通じた教育が重要です。もちろん研修も必要ですが、やはり、日々の仕事を通して学んでいく。先ほど言った、仕事のない時にも通うことなど、最初はその意味が分からない社員もいるかもしれません。だけど、遠回りに見えるかもしれないけれど、それこそが近道です。簡単な近道はどこの世界にもありません。こうしたことを業務を通して学んでいくわけです。

―― とはいえ、大和ハウスはいまや2兆5000億円を売り上げる巨大企業です。社員の中には業界ナンバーワン企業という誇りというか驕りを持つ人も出てくるんじゃないですか。
大野 そんな社員がいたとしたら大和ハウスの危機ですね。でもその心配はあまりしていません。というのも、いくら規模が大きくなっても、当社は住宅メーカーだからです。

家を建てるお客様にとって、その家の価格が高い、安いというのは関係ありません。そのお客様にとっては、人生で最大の買い物になるわけです。自分の夢なんです。その夢を我々は預かっている。その重い気持ちを受け止めなければなりません。ですから、高い安い、大きい小さいということで、対応に差をつけたりすることはありえません。どんなお客様でも、全力で対応する。そして建てたあとでもフォローする。

この住宅メーカーとしての心を、社員全員が持っています。

すべての事業がその延長線上にあります。賃貸住宅も、その物件を建てるオーナーにしてみれば、非常に大きな事業です。ですから全力でそのお手伝いをする。建物を建てるだけでなく、空室を埋める努力もする。工場でも倉庫でも同じです。経営者にとってみれば、みなさん大きな決断をして建てるわけです。その重い気持ちを大切にすることが重要です。

いくら会社が大きくなっても、その気持ちに変わりはありません。将来的には、恐らく住宅部門の売上比率は小さくなっていくでしょう。でも大和ハウスは住宅メーカーですし、社名からハウスの名前がなくなることはありえません。

M&Aの基本的考え

―― ところで、中堅ゼネコンのフジタを買収してほぼ1年がたちました。フジタの買収は、海外事業を強化するという目的があったと思いますが、合併の成果は出始めていますか。
大野 フジタと大和ハウスとでは、会社として生き方が違っていたことは事実です。ですから、我々の文化の中からいいところを学んでほしいですし、その逆に我々もまた、フジタの優れたところを学んでいきたいと思っています。特に海外事業については、学ぶべきものは非常に多いと感じています。

重要なのは、フジタの社員一人ひとりが、何を変えなければいけないのか感じてもらうことです。我々が押し付けるのではなく、自ら感じて変わってほしい。ですから、いまのところ社長を送り込むことも考えていませんし、ゆっくり、慌てずにやっていこうと思います。

―― 大和ハウスは2008年に小田急建設(現・大和小田急建設)の筆頭株主となり、一昨年6月には東京電力から老人ホーム経営の東電ライフサポート(現・大和ハウスライフサポート)を買収、そしてフジタです。その後もマンション大手のコスモスイニシアを買収していますし、中計にも500億円のM&Aが盛り込まれています。どういう基準でM&Aを考えているのですか。
大野 ひと言で言うと、我々は、お客様が生まれた時から亡くなる時まで、すべてのシーンでお付き合いしていきたいと考えています。つまり川上から川下までです。そう考えていくと、足りないところはたくさんある。これまでにも、多くの企業と提携しながら、足りない部分を強化していきましたが、自分たちでやったほうが効率がいいものに関しては、M&Aという手法で、その部分を埋めていこうと考えています。

ただし、これは樋口会長からもよく言われていることですが、儲かるからやるのではない。世の中のために、役に立つことをやる。その視点でM&Aを考えています。ですから、我々の事業と関係がない会社を、単に儲かりそうだからという理由で買収することはありえません。

すべてのことに言えるのですが、あまり得か損かということは気にしないほうがいい。そうではなく、何が世の中のためになるのか。まずはそれを考える。その結果として、お客様に大和ハウスを認めていただければ、それが最終的に当社の得となる。ですので、その時その時で一喜一憂するのではなく、常にお客様の役に立つことを考える。それができれば、中期経営計画も予定どおりにいくはずです。

(聞き手=本誌編集長・関 慎夫)

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