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2014年5月号より

“長野智子 ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン編集主幹に聞く
長野智子 ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン編集主幹に聞く

長野智子
ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン編集主幹

ながの・ともこ 米国ニュージャージー州出身。1985年上智大学外国語学部英語学科卒。同年フジテレビジョンアナウンス部に入社。90年フリーに。99年ニューヨーク大学大学院卒。2000年にテレビ朝日系「ザ・スクープ」キャスター、11年から「報道ステーションSUNDAY」のメインキャスターを務める。『踏みにじられた未来 御殿場事件、親と子の10年闘争』(幻冬舎)など著書多数。

テレビ朝日の「報道ステーションSUNDAY」メインキャスターの長野智子氏が去る1月、ザ・ハフィントン・ポスト日本版の編集主幹に就任した。ハフィントンポストは米国のリベラル系インターネットメディアで、創業編集長(現在は米国本社代表)のアリアナ・ハフィントン氏が2005年5月に開設。第一線で活躍中の、様々な著名コラムニストや識者が執筆するブログ、および自社の編集者による取材、執筆などで構成され、ジャンルも政治経済から社会、文化、ライフスタイル、そしてエンタメまで幅広い。
日本版は昨年5月、ハフィントンポストを買収した米国AOL(アメリカ・オンライン)と朝日新聞社との合弁事業としてスタートし、新たなステージに向けて今回、長野氏の起用となった。同氏は過去、月刊BOSSでも03年から6年間、経営者との連載対談で聞き手を務めていただいたのだが、ネットニュースメディアではどんな取り組みを見せてくれるのか、その抱負などを聞いた。

原点の読者参加型に特徴

―― まず、改めて就任の経緯から聞かせてください。
長野 昨年12月半ばぐらいに、朝日新聞社さんからお話をいただきました。お話を伺って面白そうだなと思い、ぜひ、やってみたいと。その理由の一つは、私がテレビの報道番組に携わって14年になるのですが、報道の軸足は、どうしても身近でドメスティックな話題にならざるを得ないんですね。

その点、ハフィントンポスト(以下ハフポスト)は世界各国で展開していますし、ネットメディアということで何か新しいことにも挑戦できるでしょう。そういう点に惹かれてお受けしました。メールでの連絡が多いので、ここ(東京都千代田区外神田にあるハフポスト日本版編集部)に来るのは週に1回程度ですが、移動中も含めて、ハフポストの記事を朝から晩まで、無我夢中で読んでいます。

―― ネットニュースメディアはあまた存在しますが、長野さんのネットニュースとの接し方は、これまでどんなものでしたか。
長野 一人の読者として、ツイッターやフェイスブックでフォローしていましたし、ネットニュース全般にわたってかなりチェックしています。ハフポストに関しては、自由な言論空間という点に特徴があって、たとえば日本でも「BLOGOS」(提言型ニュースサイト)などがありますが、ハフポストはまた違う存在として見ていました。米国を軸に広く世界に扉を開けて、何かトライしようとしているのかなというイメージもあり、海外のニュースを翻訳ですぐに読めることからフォローしてましたね。

―― ハフポストの差別化として、読者参加型の、双方向コミュニケーションをかなり意識されているかと思いますが。
長野 そうですね、そもそもハフポストの成り立ちとして、ブロガーの人たちもたくさんいますし、読者の方からもコメントが寄せられて、言論空間がものすごく盛り上がってきました。ただ、日本は米国とはまた違うカルチャーじゃないですか。たとえば、自分の信念を鮮明にすることって、日本ではある種、マイナスになるようなところもありますし、自分が思っていること、考えていることを、率直にぶつけてどんどん表現していくような点でも、米国とはだいぶ差があります。

そんなカルチャーの中で、日本もやっとネットメディアが盛り上がってきて、自己主張を積極的にする人が少しずつ増えてきた段階だと思うので、言論空間として盛り上がっていくという点ではまだまだ先になるでしょう。もちろん、ハフポスト日本版にもすごくいいコメントがたくさん集まってきていることは確かなんですが、米国に比べればやっぱり、まだ数も少ないです。

ただ、記事のクオリティは高いですし今回、私がハフポスト日本版に入ったことで、日本におけるブランドイメージを強化することが役目なのだと思っています。たとえばフロントページ。メインになる「スプラッシュ」と言われる一番大きな記事を考えたり、新たに著名ブロガーを発掘して書いていただいたりとか。そうやって、ハフポスト日本版ってどんなサイトなんだろうという関心を、もっと多くの方に持っていただく。いまはそういう段階なのかなと思います。

そして、ブランディングをさらに強化した上で、たとえば米国と日本、それぞれで寄せられたコメントを日米間で交換するとか、米国の記事に対して日本の読者がコメントしたことを翻訳し、米国の読者がその日本の読者のコメントを読んで反応してくれたりとか。さらに、各国のハフポスト同士の双方向性を強めるとか、次のステージでやってみたい構想はたくさんあります。

団塊ジュニア世代に照準

―― 日本版の場合は、ターゲット層はどんなイメージですか。
長野 昨年5月に立ち上げた時は、団塊ジュニアをターゲットに定めています。この層は、ボリュームが多いのにサイレントというか、一番本音が聞こえてこない世代ともいえますから。

でも、10年もすればこのボリュームゾーンがオピニオンの中心になりますし、彼ら彼女らが何を考え、どういう意見を持っていて、社会をどうしていきたいのかを記事で発信し、その反響の輪を広げられるような形にしていきたいですね。プラス、団塊ジュニアのコアターゲット以外にも、ニュースが大好きな世代といえる、50歳以上の層にも浸透してほしい、という思いで動き始めたところです。

ハフィントンポスト日本版の松浦茂樹編集長(左)と二人三脚でブランド強化に挑む長野智子氏。

―― 紙とネットの違いはありますが、たとえばニューズウイーク日本版に関して思うのは、米国版の翻訳記事などを含めて、米国本社からのしばりや制約と、日本版の自由度のバランスはどうだろうかということです。ハフポストの場合はどうでしょうか。
長野 私が一番感じたのは、フォーマットというか、たとえばフロントページの作り方、見せ方にしてもそうですが、もっと日本人が見やすいように変えたらいいのではということでした。一例を挙げれば、スマートフォンでアクセスする時にコメントが書きづらいとか、逆にフェイスブックページのほうがコメントが書きやすいといったことがあるでしょう。

米国ではラップトップのデバイスからネットニュースにアクセスする人が多いのですが、日本人はスマートフォンを使うシーンがすごく多い。そうすると、使っているデバイスによってコメントの量も変わってきてしまう。そうした点は改善の余地ありですね。米国のほうからも、「もっとこういうふうにしてほしい」という、直接の要望はありますが、個別の記事に関してどうこうというのはないです。

―― 読者参加型というのとはちょっと違うと思いますが、同じネットニュースメディアという点では過去、韓国発祥で日本版も出したオーマイニュースがあります。オーマイニュースの特徴は、市民記者、市民ジャーナリズムという点にあって、日本版の合弁相手であった、ソフトバンクの孫正義社長も“市民ライター”として投稿したことがありました。でも結局日本では根付かず、サイトクローズに至っています。
長野 米国と日本とで違いがあるように、韓国と日本の違いというのもあるじゃないですか。ニュースを自分のこととして受け止めている人たちが記者になり、その人たちが発信して、あわよくばそれを権力層にも届けるというオーマイニュースのコンセプトは、ハフポストと似ている面もありますし、広く門戸を開いたオープンなニュースサイトはみんなそうでしょう。

ただ方法論として、ハフポストではプロの記者、プロのエディターが取材をしてますし、日本版のクレディビリティ、つまり信頼性という点でも、朝日新聞社という大手メディアがパートナーになっています。プラス米国もそうですが、ハフポストの大きな売りの一つが、著名な方から、何かの分野でものすごく詳しい専門を持っている方まで、幅広い方が書いてくださっているブログにあります。私自身、ハフポストってなんて贅沢な読み物なんだろうと思いますし、閲覧する上での登録などもまったくありませんから。

もちろん、読者がクリックして記事をどんどん読み進んでいく過程で、どうお金を得ていく仕組みを作っていくのかとか、ページビューをさらに増やしていき、安定的なスポンサーについていただくことも必要で、そこもこれからですね。

世界のハフポストと連携

―― サイトの見せ方もそうですが、これからの重点課題はどう考えていますか。
長野 やっぱり、ハフポスト日本版がどんな主張をして、どういったニュースに特に力を入れていくかという、ブランドイメージをもっと明確に作り上げることでしょう。ただ、これも簡単ではなくて、米国のハフポストってものすごくエッジが利いていて、すごくリベラルですけど、それをそのまま日本でやって成功するのかといえば、文化背景も違うので難しいですよね。そこは、すごく慎重に見極めながらやらなければいけないと思っています。

米国のようにエッジの利いたことをどんどんやっていくというより、むしろ、たとえば政治家以外の方も含めて、いろいろな意見、主張をお持ちの方々に、東日本大震災についてのブログを豪華メンバーで揃えていくとか、地道に定点観測していくことも強みにしたいし、またなると思っています。そういうものを少しずつ、仕込んでいきたいですね。

あとはこの2月末、新しく韓国版のハフポストコリアもローンチしました。いま、日韓関係が政治的にすごく難しい局面ですけど、先日私も韓国に行きまして、米国のアリアナ・ハフィントン代表、それに現地の女性の編集主幹と3人で会談する機会をいただきましたし、ハフポストというメディアでも、日韓関係改善に向けて何か新しい仕掛けができないか、いろいろ議論していきたいと思います。

もう一つ、ホットイシューというか、原発問題から靖国参拝、アベノミクスや沖縄の基地問題、あるいは憲法や集団的自衛権まで、ハフポストではこんなに意見交換がなされているという、そうしたイメージを作ることに注力すべきだと思います。そして、言論が一番盛り上がるイシューに対し、ハフポストの存在イメージを慎重に、かつ丁寧に作っていくことが大事ですね。

(聞き手・本誌編集委員・河野圭祐)

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