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2014年3月号より

“吉永泰之 富士重工業社長に聞く
吉永泰之 富士重工業社長に聞く

吉永泰之
富士重工業社長

よしなが・やすゆき 1954年生まれ。77年成蹊大学経済学部卒業後、富士重工に入社。99年国内営業本部営業企画部長、2002年スバル戦略本部スバル企画室長、03年経営企画部長を経て、05年執行役員。07年常務。09年専務。11年6月社長に就任。

昨年、円安で好調の自動車業界にあって、ひときわ注目を集めたのが富士重工だった。為替に頼ることなく販売台数、生産台数ともに過去最高を更新し、北米市場、国内市場では右肩上がりの成長を持続している。これに為替も追い風となり、14年3月期の決算見通しでは、売上高2兆3000億円(前年比20.2%増)、営業利益2780億円(前年比130.9%増)、純利益1780億円(前年比48.8%増)と、大幅な過去最高の決算となることが確実だ。なぜ富士重工は国内外で評価が高まっているのか。富士重工社長の吉永泰之氏に話を聞いた。

アメリカで売れる理由

―― 販売台数から純利益まで、すべての項目が過去最高の数字になりそうですが、なぜスバルだけが伸びているのでしょうか。
吉永 スバルの場合、自動車会社の中では規模が小さいから、少し伸びると率が上がるという面もあるでしょう。アメリカを中心に台数が伸びて、非常にありがたいと思っていますが、やはり「スバルとは何ぞや」を議論してきた結果が出てきたのではないかと思っています。

自動車会社としては、我々は規模が小さいので、自分たちの特色を明確にして強みを伸ばしたほうがいいと4、5年前から言ってきました。経営資源が豊富な会社ではないですから、大手の会社に負けているところはいっぱいある。全方位的に勝とうというのではなく、強みは何かを議論してきたわけです。

我々がたどり着いた答えというのが「安全と愉しさ」なんです。スバルっぽくこだわって、「楽」ではなく「愉」。議論のなかで、我々は飛行機会社から始まっていることを、もっと大事にしたほうがいいと確認しました。企業はそれぞれ歴史があるわけで、歴史に根ざさないことを話せば言葉が浮ついてしまう。

例えばオートバイのメーカーから入ってこられた自動車メーカーは、モデルチェンジなどが早いんです。車名も変える。ウチはモデルチェンジは遅いし、ずっと「レガシィ」と言っている。悪く言えばいつまでも同じことをやっている。しかし、飛行機会社から始まり、いまも飛行機を作り、自動車も作っている唯一のメーカーです。飛行機をやってきたからこそ、車体の剛性など「安全」に対する考え方が非常に厳しい。突き詰めていくと、「アイサイト」などぶつからないクルマに発展してきたわけです。

―― それがアメリカはじめ市場に受け入れられてきたと。
吉永 昨年、アメリカで米国道路安全保険協会(IIHS)から、アイサイトが衝突回避性能評価で最高評価をいただきました。単純にクルマを米国向けに大きくしたからといって、ここまで伸びるものではない。つい最近も、モータートレンド誌でスバル車がベストSUVに選ばれています。5年、6年と本質的な価値の訴求をスバルもしているし、お客様も反応しているということでしょう。

東京モーターショーで紹介された日本専用車「レヴォーグ(LEVORG)」。

米国市場のお客様というのは、合理的な購買行動を起こされるのだなと感じています。新しいブランドだから不安というのではなく、客観的なデータを重要視する。かつてソニーが、まったく知名度がなかったにもかかわらず米国で成功したように、新しいブランドであっても安全だとわかれば一気に売れるわけです。これはただの偶然ではなく、我々としては非常にうまくいっている。

私はアメリカで売れている理由を3つ挙げているんですが、1つはお話ししてきた商品力、もう1つはマーケティングです。とにかく価格競争をやめました。スバルの価値を訴求していくようにしています。そして3つ目が、販売網の強化です。

いま北米で621のディーラーがスバルを売っているんですが、この5年間で25%が入れ替わっています。リーマン・ショックのあと、GMやフォードなどの破綻危機の時に、これらのメーカーがディーラーを切ったんですね。その時に、それまでスバルを扱ってもらえないような大きなディーラーがスバル車を売ってくれて、ディーラーが強くなることの効果を実感しました。いま売れていますから、スバル車を扱いたいというディーラーも増えてきましたので、現地のSOA(スバル・オブ・アメリカ)が戦略的にディーラーを入れ替えています。売れて儲かればまた宣伝してくれますから、販売網の強化が大きな成果に結びついています。

―― 日本国内の販売も、登録車では唯一、前年比増です。
吉永 国内の場合、一番効いているのはアイサイト。台数は少ないですが、「XVハイブリッド」も人気があります。実際は、11月からクルマが足りなくなってしまって前年割れになってきている。売れてないのではなく、アメリカでも足りずに国内に出荷できる数も限られてしまって、頭の痛い状況です。

―― 生産増はまだ時間がかかりそうですか。
吉永 14年の夏までに日本の本工場で2万台、アメリカで3万台、能力を増強するので、夏になれば落ち着くと思うんですが、しばらく足りないでしょうね。と言っても、能増をするたびに販売が上回ってくるので、何ともいえないのですが(笑)。

中国市場の課題

―― アメリカ以外の海外市場はいかがですか。数字的には北米や日本ほど伸びていないようですが。
吉永 北米、日本の次に伸ばしたいと思っているのは中国で、いま年間約5万台。10月1日から新しい販売合弁会社を立ち上げ、足元の台数は伸びてきて、我々のマーケティングをできる形が整ってきたので楽しみにしています。完成車を日本から輸出する形で、ブランドイメージを大切にしながら、富裕層を相手に日本製のクルマを買っていただき、10万台を目標に増やしたい。

ロシアはいま、年間1万5000台ほど。全需は300万台ですので、1%獲っても3万台。ですからいまの倍くらいにしたい。ディストリビューターはスバルの資本ではないですから、スバルの考え方を理解してもらえるように強化しています。

オーストラリアはいまシェアが4%と、スバルのなかでは結構高い。全需が100万台で、ウチが4万台。ここは少しずつ伸ばしていければいいかなと。

あとはASEANでも富裕層が増えてきているので、12年12月からマレーシアでノックダウン生産をXVで始めました。年間5000台計画で、予定通り進んでいる。タイ、インドネシア、マレーシアを相手に、現地生産5000台、日本から輸出で5000台くらい。これも伸ばしていきたい。

欧州はいま4万台くらいですが、ここは経済環境も厳しく、そもそも欧州に自動車メーカーがたくさんあるので、私としては4万台を減らされては困るんですが、無理に乱売合戦に突っ込んだりしなくてもいい。スバルには4輪駆動で水平対抗エンジンでバランスがいいという特徴がある。これをわかっていただけるお客様に4万台買っていただければいい。価値訴求でいまの規模を売っていければいいと思っています。

これらが小さめの柱に育てば、いい形になる。手は順番に打っていますから、あとは様子を見ながらやっていく。

―― 中国では、森郁夫前社長時代から現地生産の話が出ていましたが、実現には至っていない。
吉永 森社長の時に現地生産をやろうと決めて、私が社長になった時の中期経営計画で始めると発表したのですが、何の認可も下りないんです。なしのつぶて。いまになってみれば、認可が下りなくてよかった。

世界販売を牽引する「フォレスター」。

当社の場合、生産技術の人間がそんなに多くないですから、アメリカと中国、両方の工場で能力を増強するということができないんです。もし中国工場ができていたら、アメリカで売れているのに何の手も打てないところだった。中国が動かなかったぶん、出すはずの生産の人間が日本にいたので、SIA(スバル・インディアナ・オートモーティブ)の能力を増強できる。将来的には、政治が落ち着けば中国の現地生産は考えるべきですが、いまの状況だと焦る必要はないので、販売のほうの合弁会社をつくって輸出で売ることを優先します。

中国も15年くらいに供給過剰になるという話があって、それくらいの勢いで欧州勢、日本勢、現地資本が工場を建てています。いま欧州の自動車産業は1900万台くらいの供給能力がある。全需が下がって1200万台。それが結局中国等に流れて乱売の元になっているわけです。生産能力をつけてしまえば、インセンティブをつけてでも売っていくしかない。その意味では、スバルは恵まれている。在庫が少ないと言ってもフル稼働ですから、贅沢なことが言えるんです。もしもう1つ大きな工場を持っていたら、同じく乱売する状況になっていたかもしれない。自動車のビジネスは、在庫を抱えてしまえば捌かざるを得ない。供給が少し少ないくらいにしておきたいですね。

トヨタとの関係

―― 資本関係にあるトヨタとの提携は今後どうなりますか。SIAでのトヨタ車の生産をやめるという話も出てきています。
吉永 トヨタさんからは、SIAでの「カムリ」の生産をやめる検討をしたいと言われています。私どもとしては、今まで通り作らせていただきたいというのが本音。ただ、トヨタさんも決定はしていない。トヨタさんにしてみれば、世界の生産体制を見直すうえでの、ごく一部のカムリの話ですので、メインテーマではないんですね。そこにウチが絡んでしまっている。仮に生産をやめるとしても、今年すぐにというわけではなく、少し先の話ですから、時間はあります。

スバル側の能力増強は進めていて、いま17万台なんですが、30万台にまで増やす。これは予定通り、計画は変わりません。誤解されている人がいるかもしれないですが、カムリの設備でスバルがつくれるわけではない。トヨタさんの設備ですから、トヨタさんが撤去されたあとに、スバルのラインを敷くのか、撤去されたままにしておくのか、販売の売れ行きを見ながら考えるということです。ただ、工場の固定費の半分くらいはカムリが負担してくれた面もあるので、経営の安定という意味では、作らせてもらえるほうがありがたい。当社からやめたいという気持ちはまったくない。

提携そのものについては、最初がカムリで、生産を中心とした提携関係でした。08年9月に「86」「BRZ」の共同開発を発表し、世の中に出し、いまは技術や商品のアライアンスになっています。これはいい流れです。スバルという会社の特徴から見ても、技術・商品を軸にした提携関係がいちばんよい。我々にとっては将来の環境技術、例えば燃料電池車の開発は我々の規模では無理ですから、トヨタさんとのアライアンスのなかで学んでいくということになる。生産との繋がりをなくしたいとは思わないですが、技術・商品の繋がりのほうがスバルっぽいですよね。

―― トヨタの豊田章男社長もスバルの技術力には一目置いているようですね。
吉永 親しくさせていただいていますが、すごいですね、あのクルマ好きは(笑)。自工会でSUGOサーキット(宮城県)に行ったときも、グルグルとスピンターンをやったり、本当に好きなんだなあと。「インプレッサはいいクルマだ。ただ、ダンパーをもう少しこうしてほしいんだ」とか。こういう社長がトヨタさんにいることは、スバルに悪いことではない(笑)。

いい意味で言っているんですが、よくトヨタさんに章男さんのような人が社長に出てきたなと。「もっといいクルマをつくろうよ」というメッセージを出した時に、いまはすっかり浸透していますが、トヨタの人たちが戸惑った顔をしていたのを覚えている。クルマの会社ですから、すばらしいメッセージだと思います。

ウチは、そんなことを言ったら大変なことになります(笑)。スバルは「利益も少しは考えようね」と言わないと、技術系の連中は、採算度外視で、どこまで作りこんでしまうかわからない。だから営業系の私が社長をやっているんでしょうけど、「給料を払わないといけないんだから」「事業性を考えろよ」と言わないと、会社に泊まりこんで作り始めてしまう(笑)。

共同開発では、提携を活かして、我々もできるコストダウンはしていこうと思っている。いちばん印象的だったのは、86、BRZの時の両社のテクニカルスタンダードの違いですね。いい悪いではなく。例えばマニュアルシフトの長さの技術基準が違うんですよ。スバルは短くて、カチッカチッと入る。トヨタさんは長くてフワリと抵抗なく入る。ステアリングもスバルは動かしたらピッとタイヤが動く。トヨタさんはあそびが大きい。同じクルマでも味付けが違うんですね。マニアの間ではその違いに対して話題沸騰だったようです。技術的にはお互い譲れないところがあるでしょう。こういう話をウチの技術系の人とすると、朝までやっている。こういう会社があってもいいでしょう(笑)。

―― 最後に、14年の抱負を。
吉永 13年は60周年、14年は61年目なので、次のスタートを切る大事な年です。いま気になっているのは、これだけスバル車が売れているということは、初めてスバルを買ってくださるお客様がたくさんいらっしゃるということ。そのお客様が、クルマはもちろんアフターサービスも含めて「スバルにしてよかった」と思っていただけるかが勝負だよ、と言っています。確かに売れていることはうれしいですが、次もスバルを買うよと言ってくださった時に、はじめてぼくらは本物になるのであって、いまが勝負です。それは絶対に忘れてはいけない。

(聞き手=本誌・児玉智浩)

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