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2014年2月号より

“コカ・コーラとの差を縮め 飲料メーカー首位を目指す
鳥井信宏 サントリー食品インターナショナル社長 に聞く

鳥井信宏
サントリー食品インターナショナル社長

とりい・のぶひろ 1966年3月10日生まれ。大阪府出身。89年慶應義塾大学経済学部卒。91年日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に入行。97年サントリー入社、2002年大阪支社長、03年東海北陸営業本部長、05年営業統括本部部長、、06年同本部長兼ビール事業部プレミアム戦略部長、07年に取締役入り。国際戦略本部長などを経て、11年1月より現職。

強いブランドをなお強く

2013年、最大の大型上場だったのが、7月3日に株式公開したサントリー食品インターナショナル(以下サントリーBF)。親会社のサントリーホールディングスは非上場のままだが、傘下のグループで最も規模が大きいのがサントリーBF(13年12月期の売上高見通しは1兆1200億円)だ。利益面からいってもグループの牽引役の同社は炭酸飲料ビジネスこそ3位だが、缶コーヒーと茶飲料では2位、そして国産ミネラルウォーターでは断トツの首位と、4ジャンルすべて上位。

次世代を担う鳥井信宏・サントリーBF社長。

このサントリーBFを率いるのが鳥井信宏社長(47)で、サントリー創業者の鳥井信治郎のひ孫、佐治信忠・サントリーHD社長の甥にあたる。信宏氏は慶應大学を卒業後、米国の大学に留学し、91年に一旦、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に入行、サントリーには97年に入社している。

サントリーBFは上場間もない9月、英国の大手製薬会社、グラクソ・スミスクラインの清涼飲料事業を2106億円で買収すると発表し、創業家社長ならではの“スピード経営”も印象付けた。

さらに遡ると4年前の09年11月、フランスの飲料大手、オランジーナ・シュウェップス・グループを3000億円で買収した際はサントリー本体でM&Aを担当し、海外のタフネゴシエーターと渡り合っている。身長が186センチと、欧米のビジネスマンにも気圧されない堂々たる体躯の鳥井氏に、サントリーBFが目指すものや課題、これまでの転機などを聞いた。

―― サントリーBFは12月決算なので、間もなく決算の締めになります。まず、2013年はどう総括しますか。
鳥井 本当に、まだまだ道半ばですね。国内市場ではおそらくトータルのシェアは上がると思うんですけど、我々がやろうと考えていたことは、全部はやり切れなかった。海外も、特に欧州は市場環境が悪いということもありましたが、悪いなりにもっとスピードを上げて開拓しなければいけない。アジアはトップライン(=売上高)こそ伸びていますけど、商品単価が低いので、こちらもまだ途上です。

―― 上場会見の際、国内市場で飲料メーカー首位のコカ・コーラを抜くのは、悲願ではなく「必達目標」だと宣言しました。
鳥井 今年も、(コカ・コーラとの)差は縮まりますよ。国内メーカーが国内マーケットでトップになっていないのは、外食と飲料メーカーだけらしい(笑)。つまりマクドナルドさんとコカ・コーラさんですが、せっかくのマザー・マーケットですから、日本の会社がトップになりたいですよね。

―― その必達目標に向けて、課題は何でしょう。
鳥井 一つ一つのブランドを、まだまだもっと強くしていく必要があると思っていますし、今年、当社の「天然水」にしても、ようやくブランドとしての力がついてきたなという感じです。私自身、自社製品の中でも気に入ってよく飲んでいるのが「天然水スパークリング」なんですが、これは水と炭酸のどちらのカテゴリーか微妙でしょう。正確に言えば水なんですけどね。緑茶の「伊右衛門」もトクホバージョンで「特茶」を出しましたし、これからもっと伸びると思います。

―― 商品展開として、これからはやはり「健康」というキーワードは外せないですか。
鳥井 そうだと思います。ただ、健康を意識する半面、当社では「ユニーク&プレミアムブランド」と言っているのですが、お客様に飲みたいと思っていただくことが何より大事です。

―― 商品化の過程では、鳥井さんが自ら試飲してGOかどうか決めることもあるのでしょうか。
鳥井 正直言いまして、特にジュース類は私が試飲してもまったく役に立たんですね(笑)。たまには試飲させてもらうこともありますけど、若者をターゲットにした甘い飲み物は、ただただ甘いと思うだけで(笑)。でも、缶コーヒー(=「BOSS」)は一応、全種類試飲しているかな。試飲はともかく、研究開発部門には顔を出して話をするし、また聞くようにもしています。

―― 特にのびしろありと考えているジャンルは。
鳥井 お茶関連でしょうか。まだまだ急須やティーポットにお茶葉を入れて飲んでいらっしゃる方が多いようなので、そういう意味では市場の拡大余地は大きいのかなと。そこで当社が13年11月から売り出したのが、魔法瓶製造のサーモスさんと共同開発した「ドロップ」という商品です。これは専用の魔法瓶ボトルに濃縮タイプの液体を入れ、水やお湯で薄めて飲む商品。首都圏の1都3県のセブン-イレブンさんと、セブンネットショッピングさんのネット通販で販売を開始し、評価も上々です。

―― 商品ラインナップ的に足りないものがあるとすれば、あとはどういうものでしょう。
鳥井 13年は数量的には少し伸びたかとは思いますが、「ペプシ」はあまりマーケティングがうまくいかなかったのでやり直す必要があります。

とはいえ、コアブランドはそれなりにどの商品も育ってきているので、もっとラインナップを広げるというよりも、既存のブランドを、より一層強くしていくことが大事です。お客様に喜んでいただける商品に、しっかりとヒト、モノ、カネをかけて愚直にやる以外ない。缶コーヒー市場全体がやや苦戦している中で、BOSSも健闘していますし、13年の後半戦は幸い、特茶がそれなりにご評価いただいているので、そういう商品をきちんとタイムリーに出していくことです。

海外市場では大型買収

―― さて、地道な国内マーケットの掘り起こしに対し、海外飲料メーカーの買収は華やかですね。4年前に3000億円で買収したオランジーナの案件は当時、鳥井さんがM&Aの担当だったわけですが。
鳥井 一貫して、いいブランドを手に入れたいという思いがありました。M&Aの部署が立ち上がったのは08年の4月なんですけど、海外市場をもっと伸ばさなければいかんので、時間を買う意味でのM&A。佐治(サントリーHD社長)は常に、「買収に際しては(市場価値よりも)高く買うことは許さない」という姿勢で、オーバー・ペイはしないというのがポリシーですから。

―― オランジーナは日本でもかなりのヒット商品になりましたが、今回の、グラクソ・スミスクラインの清涼飲料事業買収で、主要ブランド(機能性飲料の「ルコゼード」と果汁飲料の「ライビーナ」)は日本でも浸透させたいという考えですか。
鳥井 (日本でもヒットする)可能性はあるかなとは思ってますが、こればっかりはやってみないとわからない。オランジーナの場合、味の評価は日本でも非常に良かったですし、意外に幅広い年齢層のお客様に受け入れられたと思います。

―― 親会社が非上場のまま子会社が上場した変則的な形だったため、上場会見の際、鳥井さんは「独立性はきちんと担保することをお約束します。そのために社外役員も入れました」と言われました。その社外役員が、リクルート前社長の柏木斉さん(現・取締役相談役)ですが、柏木さんとの接点、招聘した理由は。
鳥井 柏木さんは過去、当社の幹部候補者研修などで講師をしていただいたり、お付き合いは以前からあったらしいんですね。私は直接の面識はなかったんですけど、柏木さんは年齢も比較的若い(現在56歳)ですし、「柏木さんみたいな人が社外役員としてふさわしい」という声が社内で多かったので、お会いしてお話をし、ご快諾いただいたということです。

―― 柏木さんが取締役会に出席して、具体的にはどんなやりとりがあるのでしょう。
鳥井 ご自身もおっしゃっていますが、「製造業(の社外役員就任)は初めて」だと。ただ、彼の経営者としての視点でいろいろ的確なアドバイスもいただきますし、非常にオープンに、興味を持って我々に質問していただけるので、本当に良かったと思います。たとえば、当社では欧州の事業がこれまではやや苦戦していますが、欧州の飲料市場をどのくらいと見積もっていて、それがいま実際はどのくらいなのかといった、規模感について聞かれました。

―― 上場前と後とで、何が大きく変わりましたか。
鳥井 いや、何も変わっていません。強いて言えばオフィスを台場(東京・港区)からここ(同・中央区京橋の東京スクエアガーデン)に移転したことが一番大きいでしょう。

―― 確かに、親会社の不動産に入居してはいけないというのも上場要件の1つだったわけですが。
鳥井 家賃負担は軽くないので、余計に頑張って稼がなアカンですね(笑)。でも移転によって、社員の士気はさらに上がっています。

社名に意外な舞台裏

―― サントリーBFは、上場によって自己資本比率が目に見えて上がりました(12年12月期で22.5%、13年の第3四半期時点で41.6%)。
鳥井 昔は、たとえば無借金会社っていい会社だと言われていたんですけど、この頃は必ずしもそうではないですよね。特に投資家の皆さんはむしろ、「借金をしてもっと事業を伸ばせ。無駄に資金を寝かせておくな」というスタンスの方も少なくないですから。当社で言えば、今回1つ大型買収はありましたけど、そんなに借金が増えるレベルではないですし、当面はお金を借りる予定もないですね。

―― 社名の略称はサントリーBFですが、正式社名はサントリー食品インターナショナル。ワールドワイド、グローバルにという狙いはわかりますが、ちょっと長過ぎる気もします(笑)。
鳥井 いやいやまったく逆で、私はインターナショナルはつけたくなかったんです。インターナショナルとついている会社にインターナショナルな会社はないから嫌やと(笑)。でも社内外へのメッセージとして、インターナショナルを目指すという思いが通じないぞと佐治に言われて。そこで妥協点として、私の名刺を裏返してもらうとわかりますが、英文表記ではインターナショナルとはつけていないんです。「サントリー・ビバレッジ&フード・リミテッド」ですから。日本語表記でインターナショナルとつけるのは、しゃあないです(笑)。

2013年7月3日、サントリーBFは東証1部に株式上場。20年に2兆円という売上高目標を改めて宣言した。

―― では、将来はインターナショナルは外してしまう可能性も?
鳥井 うーん、日本語表記をやめるとか(笑)。ただ、フードとつけてはいますが、あまり食品分野にはいかないでしょうね。飲料と食品とではビジネスが違いますから。

―― 佐治さんにはどんな点に学びがありますか。
鳥井 まだ学んでいる途中ですけど、とにかくしつこいですわ(笑)。あんだけよう続けられる。できるまで、「やれ!やれ!やれ!」と。ものすごく体力が要ると思いますけどね。逆に言えば、あのバイタリティは大したものだと思います。

―― 鳥井さん自身の、これまでの転機は?
鳥井 やっぱり、ビール事業部でプレミアム戦略部長をしていた頃ですね。もう、そのポストから代わって5年が経ちますけど、もっと販売を伸ばそうと思うと、クリエイティブな部分を変えるとか製品をいじるとか変えたがるじゃないですか。そういう意味ではいじらなかったですけど、全社挙げて拡販に打って出た時期ですから思い出深いですね。

―― サントリーグループは事業範囲が広いので、グループシナジーも大きいかと思いますが。
鳥井 調達やバックヤードなどの部分では、グループで協力しながらやっていくことはもちろんですが、数値でグループシナジーというのはなかなか言い表わしにくいですね。ただ、サントリーHDがいろいろなCSR活動をやっていることで、たとえば環境に優しい企業で1位になったりすると、有形無形の形で、我々のブランドには間違いなく効果が大きいですよね。

基本はオーガニック成長

―― さて、14年の商戦はどう考えていますか。
鳥井 国内市場では、やることはそんなに変わりません。ただ、残念ながら円安という為替の影響で原価が上がり、かつ消費税も上がるということで、相当いろいろなことを工夫して、やると決めたことはやり切らないと、なかなか厳しい環境になるだろうと思っています。

海外では、さきほどのルコゼードとライビーナという2ブランドが入ってきますので、特に欧州ではビジネスそのものが大きくなりますけど、ただ大きくするだけではうま味がないというか、オランジーナとインテグレートしてどうやっていくかという点が、すごく大事な仕事になってきますね。

―― 東京五輪開催イヤーの2020年、売上高で2兆円の目標を掲げています。そこへ到達するまでの過程で、まだこれからM&Aはいくつか出てくると思いますが、大きな目標に向けたロードマップはどう描いていますか。
鳥井 どこまでがオーガニック(自立的)な成長といえるのか非常に難しいところですけど、新規事業なども考えなければいけないかもしれませんし、まずは、いまある商売を伸ばしていくというのが大前提です。

で、それでも足りない部分が出てくるのでM&Aという順序でしょう。M&Aばかりは出会いや運でどうなるかわからないですね。(大型のM&Aは)出てくるかもしれないし、出てこないかもしれない(笑)。

(聞き手・本誌編集委員・河野圭祐)

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