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2013年9月号より

“東京の新ランドマークになる「虎ノ門ヒルズ」の狙い
辻 慎吾 森ビル社長

辻 慎吾 森ビル社長

つじ・しんご 1960年9月9日生まれ。広島県出身。85年横浜国立大学大学院工学研究科修了。同年森ビル入社。2001年タウンマネジメント準備室担当部長、06年取締役、08年常務、09年副社長、11年6月から現職。趣味は温泉巡り。最近も箱根・仙石原へ出かけた。ドライブ帰りに御殿場のプレミアムアウトレットに立ち寄ることが多いという。写真正面奥の左手が虎ノ門ヒルズ。

今年4月、森ビルが手がけた六本木ヒルズが10周年の節目を迎えた。前後して、三井不動産も近隣の東京ミッドタウン(2007年開業)内の商業テナントを大幅入れ替えし、六本木エリア周辺が再び賑わっている。そして、今後の目玉は来夏にも竣工予定の「虎ノ門ヒルズ」(森ビル)。ビルの高さもワンフロアの広さも六本木ヒルズに並ぶものとなり、東京都心部の新しいランドマークになりそうだ。そこで、森ビルの辻慎吾社長に、虎ノ門ヒルズへの思いから他エリアの複合再開発、シンガポールや上海など海外との都市間競争、などを聞いた。

故・森稔の思い入れ案件

―― 虎ノ門ヒルズは森稔さん(森ビル元社長、故人)の著書(『ヒルズ 挑戦する都市』朝日新書)の最終章でも触れていて、「これまでたくさんのヒルズを創ってきたが、ひとつとして同じものはないし創らない。新たなヒルズの都市モデルが出現するだろう」と述べており、思い入れも強いプロジェクトです。ビルの真下を、整備中で道路幅の広い環状2号線が通るという意味でも注目を集めています。
 もともと、虎ノ門ヒルズ周辺が森ビルのスタートの地ですからね。環状2号線、通称マッカーサー道路も1946年に都市計画されながら、ずっと実現しないままでした。言われるように、この道路と建物を一体にして作っていくのがものすごくチャレンジングです。

森稔も、すでに体調が良くない状態だったにもかかわらず、「どうしても行くんだ」と言って、虎ノ門ヒルズの地鎮祭に出席したほどですから。残念ながら竣工を見届けることができずに亡くなりましたけど、このプロジェクトは、今後の再開発の中でも相当重要なもので、都市開発のモデルケースになるでしょう。

元来、虎ノ門エリアは、官庁街の霞が関に隣接したオフィスゾーンとして、非常にいいポジションだったわけです。昔はまず丸の内と大手町、次いで、その近くということで虎ノ門、霞が関が注目エリアでした。でも、いまはどうかというと、虎ノ門界隈に点在する個々のビルも小さいし、どんどん老朽化しているんですね。力のあるテナント企業なら、いまでは六本木エリアのオフィスビルに入居されています。このエリアにはヒルズにミッドタウン、住友不動産さんの泉ガーデンタワーもあり、少し離れて我々のアークヒルズもありますし。

ですから、虎ノ門ヒルズの開発を核に再び虎ノ門エリアのポテンシャルが上がっていけば、該当エリアのみならず、東京全体にとってもいい。単なる1棟の大型ビルプロジェクトではなく、もっと大きな意味合いを持つと思います。とはいえ、虎ノ門ヒルズが1棟だけ、ポツンと建っているのではどうしようもない。そこで、隣接する、我々が持つ(第○△森ビルなどの)ナンバービルも再々開発していきます。そうすることで、虎ノ門エリアがもう一度、面展開として復活していくのです。

―― 森稔さんは「バーティカル・ガーデン・シティ」(垂直の庭園都市)という開発コンセプトを軸にして、不動産業界では異能ぶりが際立っていました。
 森は亡くなる前の1年間ぐらい、「世界の都市間競争に勝つためには、都市のグランドデザインが必要だ」と言い、六本木ヒルズから新橋、虎ノ門、神谷町あたりを含めた500ヘクタールのグランドデザインを描こうとしていました。都市とはこうあるべきで、こう創るべきだという思想を強く持っていたし、亡くなるまで365日、そればかり考えている人でした。いま、ようやく「都市間競争」という言葉が定着してきましたが、彼はもう、20年前からその言葉を使っていたのです。

そういう森ビルのDNAが好きで入ってきた社員が多いので、森ビルイズムの継承では、社員を信じています。「何々不動産らしくやろうぜ」というのはなかなか言えないことですが、そこはやはり森ビルらしくありたい。もちろん、ビジネスですからいいものを創りたいし、されど資金は要るしで難しいところもあります。森の個性を薄めたほうがいい部分もあるかもしれないですけど、とがった部分は絶対になくしてはいけないと思います。

―― ナンバービルの再々開発は、構想としてはどのあたりまで具体化していますか。
 その前に、虎ノ門ヒルズに隣接する南側と北側の敷地も、すでにプロジェクト化しています。ナンバービルの再々開発はたぶん、その後にやることになるでしょう。ともあれ、虎ノ門は大事な戦略エリアですし、大きなポテンシャルもあるということです。社員にも言っているのは、これから東京が国際新都心としてのポジションをつかみ、世界中からヒト、モノ、カネが集まるようにしなければいけないと。

また、そうならない限り、東京は世界の都市間競争に敗れてしまうんです。国際新都心になっていくには、もっと海外の企業を呼び込み、外国人向けの病院や教育機関、文化、芸術などのインフラももっと整備しなければいけません。そこを担うのは、虎ノ門や六本木などのエリアだろうと思うのです。

大使館だってほとんど港区内にありますし、このエリアが国際新都心としての中心軸になりえるんじゃないかと。現時点では夢のような話ですが、10年あるいは20年後に、そうなれる可能性はあるし、その結果として東京がもう一度、アジアのヘッドクオーターの役割を担えるようになる。そういう意味でも虎ノ門ヒルズのエリアは重要ですね。

「国際新都心」に脱皮を

―― 外国企業を呼び込む条件として、為替は円安で追い風になっています。あとは、海外と比較して高い法人税が下がれば、もっと日本に入ってくるのでしょうけど。
 森記念財団というシンクタンクで毎年、都市ランキングというものを出していますが、東京は、ロンドン、ニューヨーク、パリに次いで4位、シンガポールが5位です。2008年から調査していて、5年間東京はずっと4位なんです。

虎ノ門ヒルズの上棟式で(中央が辻氏。今年3月1日)。

1位は、過去4年がニューヨークで、昨年ロンドンが初めてトップになりました。これは間違いなくオリンピック効果。東京は経済力では1位ですが、法人税を含む法規制や国際空港から都心までの距離、5つ星ホテルの数などで全体の評点を下げています。各項目の評点が上がるということは、その都市の魅力、磁力が上がっているということなので、人も海外から入ってきやすくなる要因になりえます。

いま、アベノミクスの中で「特区制」の推進が議論されていますが、特区なんかはわかりやすいですよね。まず特区で何かをやってみて、結果を見て、いいなら広げればいい。そういう時期に来ている気はします。いきなり全部、規制緩和していこうでは難しいのもわかりますし、まずは特定のエリアの中で規制緩和をやってみて、それでも実効がなければやめたらいいじゃないか、そう思います。

―― 東京が世界の中で都市ランクを上げる上で、2020年のオリンピック開催都市の決定(9月7日)は、1つの分岐点になりそうです。
 オリンピックをもってくれば日本の雰囲気も変わるし、いろんなインフラも整備されてきます。ロンドンも、05年にオリンピック開催が決まってから、スタジアムやホテルといったインフラを整備し、国際会議や国際イベント、文化イベントをいろいろ招致してきました。都市にはやっぱり活気が必要です。開催地が東京に決まれば、20年までの7年間でいろんなことができますし、需要も生まれてくるでしょう。

―― 六本木ヒルズの運営では、周辺の街を陳腐化させない、いわゆるタウンマネジメントのノウハウを蓄積してきました。それを、虎ノ門ヒルズでも活かしていくことになるわけですが。
 街作りは、複合ビルを作ってテナントが埋まればそれでいいということではありません。当社のコンセプトは街を創り、街を育てることにあります。これから、六本木ヒルズも50年、100年と生き続けていくわけで、10年は1つの通過点にしか過ぎません。こういう街がもっともっとできてほしいし、たとえそれがライバル企業が創ったものだとしても、相乗効果のほうが大きい。

虎ノ門ヒルズにはアンダースという、六本木ヒルズにあるグランドハイアットと同じ、ハイアットグループのホテルが入る予定です。ひょっとしたら、グランドハイアットのお客さんが取られるかもしれない。でも、都市が強くなっていく過程では、顧客争奪より相乗効果のほうが大きいのです。

六本木ヒルズではタウンマネジメントという概念でやってきましたが、虎ノ門ヒルズでは「エリアマネジメント」として、エリアで仕掛けていくつもりです。そういう意味では六本木ヒルズの1つの進化形となるプロジェクトです。

―― 六本木ヒルズ周辺では、いわば「第2六本木ヒルズ」ともいうべき計画もあります。地元地権者との交渉を含め、こちらの方向性は。
辻 六本木ヒルズもアークヒルズも、20年近くかかって手がけたプロジェクトですが、世界の都市間競争はもっと開発スピードが速いんです。なので、それでは勝負になりませんから、ちゃんとスケジュール感をもってやっていくということを、社員にも地権者の方々にも伝えているところです。

アジアのヘッドクオーターとして、グローバル企業が集まってくるという場をちゃんと作れる素地が六本木を含むエリアにはあるので、早く仕上げていくべきですね。再開発というのは、いろんな人を巻き込んで地権者とも共同でやっていく事業ですから当然、いろんな合意形成に時間はかかります。でも、再開発で街を“更新”していくことは、都市間競争では必要不可欠なのです。海外の競合都市に勝っていくには、香港や上海、シンガポールのように、ランドマークが必要ですから。

銀座松坂屋跡地も注目

―― ここ半年余り、アベノミクスによって、不動産市場が俄然盛り上がってきていますが。
 外国人が住むようなプレミアムな高級住宅は、円安効果もあって昨年比で2割も安く、問い合わせが増えています。基本的に日本は人口が減っていくわけですから、国策的にも、こうして外国人をどんどん受け入れていかないと。(昨年8月に竣工した)アークヒルズ仙石山森タワーも、決まったテナントは大半が外資系です。

外資系金融はリストラでオフィスのスペースを減らすところが多かったので引き合いはやや弱いですが、代わりにIT系企業などの引き合いが強くなっています。外国人は、当社が持つオフィスビルやレジデンス棟などを相当、気に入ってくれますね。六本木ヒルズはいい住環境でセキュリティも高く、買い物も便利、文化施設もエンタメもあって、ここに住んだら何もかも完結できる。

六本木ヒルズ誕生から10年が経過した。

―― 森ビルのホームグラウンドである東京・港区以外に目を転じると、今年6月30日をもって閉店した、銀座松坂屋ビルの跡地再開発が注目です。このプロジェクトには森ビルも参画しています。
 銀座については、商業地の中では独特のいい地位を得ている場所ですし、銀座エリアでは、もう今後そうないくらいの大型再開発になります。これまで、デパートの建て替えはあっても、道路を隔てた裏の敷地も含めて、一体でエリア全体を再開発するプロジェクトはほとんどありません。もっと言えば、これからの東京の商業施設はどのようなものがいいのかという時に、新しい提案ができる資格のあるプロジェクトだと思います。

我々が再開発のコーディネーターをやらせていただいてますけど、松坂屋さんや大丸さんとこれからの商業施設のあるべき姿の議論をして、計画の詰めをしていくということですね。銀座でもう一度、商業の楽しさを創造していく、絶好のプロジェクトになるでしょう。

もともと、六本木ヒルズの商業施設も試行錯誤があったんです。敷地内も広いし、商業施設専用ビルを建てることもできました。でも、敢えて街中の路面に店を散りばめたのです。回遊しながら買い物をしたほうが面白いという発想でした。大きな考え方の中で、将来はどうなっていくのかを読んでいかないといけません。当初、場所柄、六本木では夜の飲食以外成り立つわけがないと言われましたが、仕掛けによって全然変わることを我々は証明しました。

―― 同じ虎ノ門を拠点とする、森トラストとの協業の可能性は。
 まさにアジアのヘッドクオーターにしようとしているエリアに、お互い拠点があるわけですから、うまく連携して都市作りをしていくべきだと思っています。

森トラストが手がける、虎ノ門パストラルの跡地開発も、いい形で街が変わってくればエリア全体が良くなりますし、近隣のホテルオークラさんも開業から50年以上が経過して、そろそろ建て替えの話もあるかもしれません。それこそ、このエリア全体が特区として生まれ変わっていければ一番いいですね。

(聞き手・本誌編集委員・河野圭祐)

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