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2013年8月号より

“規模では負けても質で勝負 「野村」に追いつく気概
日比野隆司 大和証券グループ本社社長

日比野隆司 大和証券グループ本社社長

ひびの・たかし 1955年9月27日生まれ。岐阜県出身。79年東京大学法学部卒。同年大和証券入社、債券部に配属される。その後、ロンドン駐在や秘書室長、エクイティ部次長などを経て、99年大和証券グループ本社経営企画部長。2004年取締役入りし、大和証券キャピタル・マーケッツ副社長などを経て、11年4月より現職。

「セル・イン・メイ」という指摘もあるように、5月の株式相場は例年、下がりやすいというのが通説だった。しかし、今年は4月に日銀が宣言した異次元の金融緩和効果で5月22日まで一直線で伸び、翌23日に日経平均は1143円の暴落。その後は乱高下が続き、6月10日には、その時点で今年最大の上げ幅となる636円高となった。

大和証券グループ本社の日比野隆司社長にインタビューしたのは、暴落から2営業日後の5月27日のこと。本誌が店頭に並ぶ頃の株価は誌面に反映できないが、にわかにボラティリティが高くなった相場の展望、その中での大和の戦い方、アライアンスなどを聞いた。

相場の波乱は今後も?

―― 5月23日の突然の暴落では、「まだはもうなり」という相場格言を思い起こした人も多かったと思います。
日比野 我々証券人から見ても、前日の22日までの伸びは、いくら何でもという速いスピードでしたからね。特に1万4000円台に乗せた後のスピードは、半月で2000円近い上げ幅。そういう意味では、しかるべき調整だったと思います。日本はハイ・フリークエンシー・トレード(HFT=高速高頻度取引)の比率が約4割で、これは海外と比べても高い数値です。だから以前より上げも下げも速く、かつ幅も大きくなりました。株価が大きく振幅した後は、しばらく上げ下げが続くもの。これから徐々に終息していくプロセスだと思います。

―― 証券会社にすれば、株価が高くても安くても、値が動いて出来高が大きいほうが手数料が稼げて、いい相場ということになります。
日比野 とはいえ、昔のような固定手数料の時代でもないですし、ネット証券でもない我々の収益のソースは、株式の売買委託手数料だけに依存してはいません。マーケットがあまりに速く変わり過ぎると、その間にあるべき企業の資金調達や投資活動が休止状態になりますから、むしろマイナス部分もあります。そういう意味ではジワジワ株価が上がるのがベストなんですけど、上がり過ぎたら調整があるのは普通のことだし、むしろ一本調子で上がっていましたから、一般の投資家も“買い場”が見つけにくかったのではないでしょうか。

―― 暴落時、ヘッジファンドの半期決算売りなども指摘されましたが、マーケットは依然、6割強が外国人投資家です。売買のボリュームからして、彼らがブルドーザーのように株価を押し上げておいてストンと売り落とし、個人投資家が翻弄される構図は変えようがありませんが、この先の株価水準はどう見ていますか。
日比野 これからの経済政策や成長戦略の実効次第という部分も大きいですが、普通に考えれば、1万6000円から1万8000円というのが年末から年度末に期待できる水準ではないかと思います。その数字の前提となる企業収益も、円安分で四半期決算ごとに業績を上方修正する可能性があって、株価押し上げ要因になりますし。

―― 証券会社が扱う案件は社債や増資、IPO(株式新規公開)などいろいろある中で、長期金利の上昇によって社債発行の延期、ないし見送りをする企業も出てきましたが。
日比野 社債はすでに相当、高水準の発行額になっています。中期的に脱デフレで一定のインフレが達成されると考えれば、趨勢的には長期金利は上昇するのかなと。ただ、そもそもこれまでは金利の絶対値が低かったですから、できれば(社債期間の)長めのものを発行したいという感じになってきていますね。異次元の金融緩和宣言以降、未知のゾーンに入って、今後もいろんなことが起こるかもしれませんが、デフレが続くことで確実に起こる弊害と比べたら、いいことのほうが多いと思いますよ。

―― そうした環境下で、大和証券の戦略はどうでしょう。
日比野 成長のための方法論は、ひたすら「貯蓄から投資へ」ということですが、ともあれ歴史的なマネーシフトのチャンスと捉えることで、グループ全体が成長すると考えています。リテール部隊がそのフロントに立つのはもちろんですが、それをバックアップする部分がホールセール部門や海外拠点であったり、あるいはアセットマネジメント会社や大和総研であったりということです。

歴史的なマネーシフト

―― 株価だけで見れば、野村證券を抜いてすでに久しい(6月中旬時点)ですね。時価総額ではまだ野村の半分の水準ですが、野村は過去、大規模な増資を2度していますし。
日比野 規模ですぐに(野村を)キャッチアップできるとは考えていません。ただ、クオリティのところはキャッチアップしなければいけない話で、その結果としてジワジワと追い上げ、証券会社の双璧と言われるようにしたいですね。

―― 営業マンの大幅増員や店舗の増強も打ち出していますが、今後も大きな調整局面が来て、日経平均の水準が切り下がっていくような状況になっても、強化策に変更はありませんか。
日比野 もし、日経平均で1万円を割ってしまうようなことがあれば別ですが、今後も上昇トレンドは変わらないという認識ですし、大きなマネーシフトが起きる可能性が高い見通しを持てる限り、積極的な戦略を推進します。

攻勢をかける日比野隆司・大和証券グループ本社社長。

リスクとしてはコストの増大がありますけど、店舗については小型店が中心で、ほどほどに増強してもそんなに固定費増にはなりません。人件費も若干、増えますけど、過去にグループ全体の決算が赤字の時でも、実はリテール部門は赤字になったことがないんです。つまり、証券冬の時代であっても、自分たちのコストが賄えないということは一度もなかった。ですから、経営上のリスクは皆さんの印象ほど高くはないんです。

むしろ、これから100兆円規模のマネーシフトが起きたとして、それを指をくわえて見ていたら、その機会損失たるや、莫大なものになってしまう。そちらのリスクのほうが怖いです。

―― 昨年4月、法人向けのホールセール会社(旧大和証券キャピタル・マーケッツ)と個人向けの大和証券を統合しました。ホールセール会社は、三井住友銀行との合弁を解消した時点で、別会社にしている意味がなくなったわけですが。
日比野 それぞれの会社のオペレーションがありますから、統合がスムーズに流れていくには、やはり何カ月かかかるんですね。上半期中には統合作業も終わってましたが、それ以降、マーケットが好転したことで巡り合わせ的にも幸運でしたね。ファイヤ―ウォールで、それまでは2社が顧客情報を必ずしも共有できない部分がありました。何よりも、2社ともに100%子会社にもかかわらず、何となく財務などで競い合ってしまうようなところがありましたから。

債券市場でも、リテールからホールセールまで一気通貫ですから、非常に機動的でやりやすくなりました。これは統合していなければできなかったことです。マーケットが活発になって、リテールからホールセール、あるいは国内から海外までがシームレスでつながる状態になれたのは、やはり大きいです。

―― それにしても、かつては投資銀行業務の強化を高らかに掲げていた大手証券ですが、結局最後は株式相場の上げ下げで業績が左右されてしまう。
日比野 これはもう、宿命ですよね。その振れ幅の度合いを少しでも小さくしようということで、私も社長就任以来、「強靭な収益基盤を」と言ってきました。マーケットが逆風の時、それほど儲けられないのは(株主に)許してもらうとして、赤字にはなってはいけない。ということで、株式以外の安定収益、たとえば投資信託やファンド商品の運用報酬などで少しでもカバーしようと。具体的には、固定費の50%まではその安定収益で賄えるようにしたい。もう、それしか手がないです(笑)。

―― さて、スタートは来年1月からですが、NISA(日本版の少額投資非課税制度)の口座獲得競争が、早くも過熱しています。個人投資家にとっては朗報といえる制度ですが、1年で100万円までという投資枠があり、1人1口座しか持てないので勢い、争奪戦の様相です。逆に言えば、それなりの口座ボリュームを稼がないと、証券会社にとってはそんなに収益源にはならない気もしますが。
日比野 何よりも、貯蓄から投資へのムード醸成、ここに期待したいんです。まだ、日本では投資はあまりよろしくないものという空気がある中で、NISAには投資姿勢を積極化させるインパクトがあると思います。それが、間接的に目先のビジネスの拡大につながる部分もありますので、ありがたい話です。

―― NISA口座獲得の際、投資資金の即時決済ができる、大和ネクスト銀行を持っている点は、他社にはない強みですね。
日比野 差別化という点で、銀行を持っているのは確かに貴重だと思います。投資への待機資金も、比較的高利で置いてもらえますし、生活口座から大和ネクスト銀行へ移しておいてもらえば、外貨投資など、ほかの投資にも活きてきますから。

もともと、銀行の設立主旨であった貯蓄から投資、預金から証券へのゲートウェイとしての銀行のプレゼンスは、NISAが世間に広まる中で、さらに上がると思います。NISAは、いつまでに何口座という形での目標はありませんが、来年中には当社分で100万口座ぐらいは突破しているでしょう。

―― ただ、NISAと入れ替わるように、従来の証券税制の優遇(配当、売却益ともに10%)が20%へ戻されます。となると、例年なら12月は株価が上がる年が多いと思いますが、今年に限っては増税前の利益確定売りが出て、相場が下がる可能性もありそうです。
日比野 12月の1カ月だけで激しく起こることでもないでしょうけど、相場のリズムを取っていくような動きは出るでしょうね。そういった観点から、証券取引自体が活発化する要因はありますし、売りっぱなしということはないと思いますから。

大株主、ハリスの動向

―― ネット証券との手数料格差はいまも小さくはないですが、これは、世代によって使う証券会社が変わってくるという、割り切りで考えているのでしょうか。
日比野 ひとしきりの手数料競争は、もう終わっているという認識ですから。ネット専業証券と同一のフィールドで競争するわけじゃないということです。手数料だけの部分をとれば彼らにかないませんし、そこで競争する気もありません。たとえばシステムの総合的な安定性、あるいは付随するいろんな投資情報など、いろんなクオリティの切り口で差別化はできます。

我々も対面のコンサルティングコースとネットのダイレクト口座と2コース持ってますし。ですから価格競争はしません。1人あたりの預かり資産なども、ネット証券とはかなり違うでしょう。

そこは大和ネクスト銀行もそうです。ネット銀行のカテゴリーに分類されていますけど、実際には預金の預け入れは支店経由がほとんどで、インターネット経由ではないんですね。ゆえに、預金を預けていただいている方の属性は、ほかのネット銀行とは相当違います。

―― 大和証券グループとして、今後のM&Aなどアライアンスの可能性はどうですか。
日比野 国内では、特に資本を伴う大きな提携はなかなかないんだろうなと。たまたま、リテラ・クレア証券をTOB(株式公開買い付け)で子会社化したり、もう少し前に遡ると日の出証券も子会社化しているので、そういうグルーピング化をガンガンやるのではという噂も流れましたが、そこまでの話ではありません。もともと親密先で、ずっと社長を送り続けていたので、経営のテコ入れ、強化という観点で子会社化したわけです。

海外もなかなか難しいところがあって、大きく資本提携して、特に投資銀行業務でうまくいくケースはほとんどないんです。強いて言えば、最近ではタイの大手金融グループ傘下の証券会社と業務提携したくらいです。

―― 外資といえば以前、大和証券グループ本社の株を、米国のファンド、ハリス・アソシエイツが買い増していたことがありました。
日比野 当初、ハリスの持ち株は10%ぐらいだったんですが、順次買い増してきて、彼らの投資先企業の中でも例外的な扱いで、一時16.5%ぐらいまでいったんです。それが昨年の秋頃ですね。

で、昨年の12月からはマーケットの好転で売却を開始しまして、直近では7.2%(5月上旬時点)です。ハリスは、実質安定株主だったんですが、半年ぐらいで約1億5000万株、発行済み株式の1割近くを売るというのは大変なこと。ですけど、おかげさまでマーケットがいい状況だったので、株価のほうはそれなりに売りを吸収できました。彼らとしては、250円ぐらいの時に当社の株を買って、高値の時は1000円を超えましたからね。持ち株を減らさないと、彼らのグローバル投資の中では突出した含み益になっていましたから。マーケットが厳しい間、長期保有してくれて、恩返しができてよかったと思います。

―― ソニーの株主に躍り出たサード・ポイントのように、今後も外資ファンドが突然、企業の大株主に出てくることはありそうですか。
日比野 だと思います。とにかく、株価が上昇に転じた昨年11月14日から約10兆円、外国人だけで買っていますから。当社の株も、大量保有報告に至るまでにはなってないですが、どこかの外資が買っているわけで、あちこちの企業でいろんな株主が生まれている可能性はあります。ただ、企業によっては国益を担うところもあるでしょうし、日本の年金基金とか機関投資家も、もう少し日本株を持ったほうがいいという気はします。

(聞き手・本誌編集委員・河野圭祐)

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