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2013年3月号より

「復興本社」と「社内カンパニー」出直し東京電力の命運
廣瀬直己(東京電力社長)

廣瀬 直己  東京電力社長

ひろせ・なおみ 1953年2月1日生まれ。76年一橋大学社会学部卒業後、東京電力に入社。83年イェール大学経営大学院修了(MBA取得)。平岩外四会長が経団連副会長・会長ポストにあった86年から94年まで、秘書を務めた。2006年執行役員営業部長、10年常務取締役、11年福島原子力被災者支援対策本部副本部長、12年取締役兼代表執行役社長兼指名委員会委員。

再稼働なくば再値上げ?

―― この1月1日から、福島復興本社(東京電力の副社長が常駐)がスタートしました。
廣瀬 腰掛けで、2、3年したら引き払いますよということではなくて、じっくり時間をかけて被災者の方々と向き合いたいです。また、賠償や除染などの話以上に、これから福島県の雇用や復興をどのように考えていくのかをしっかりとお示しする上でも、やはり復興本社という形が一番わかりやすいし、皆さんからも受け入れていただけるのではないかと考えました。本来であれば「来るな」とか「出ていけ」と言われても仕方がない時に、郡山市や福島市、いわき市、南相馬市から、ぜひウチの市に本社を持ってきてほしいという誘致話もいただいて、本当にありがたかったですね。福島県民の方の期待も総じて高いと思いますので、掛け声倒れだとか、本社が変わっても何も変わらないじゃないかと言われないよう、いろんな策を打っていくつもりです。

細かいところで言えば、たとえば年末年始に神社の境内をお掃除したり、草を刈ることや重い荷物運びなどもそうですし、自治体の方にもいろいろニーズをお知らせいただいています。除染作業となると、それなりの準備も必要、道具も要るということで、それはそれできちんとした人材を派遣していきますし、賠償も迅速に意思決定します。何より、ポーズで、現地に何万人動員しましたといった話になってはいけないと思いますから。単に会社という入れ物だけ移しただけ、中味は変わらないと言われないよう、ともあれしっかり取り組んでいきます。

―― 原子力発電所の事故から、かれこれ2年近くが経過しました。2013年の展望はどう描いていますか。
廣瀬 今年は勝負の年。もちろん、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働の行方も大事なポイントです。13年度に黒字化が達成できないと、どうしても取引金融機関との関係がギクシャクしてしまいますから。

―― 柏崎の再稼働なくば、昨年の9月に続いて、いずれ再値上げもやむなしということですか。
廣瀬 電気料金の原価方式上から言えば、今年4月からの再稼働が前提でしたので、それが狂ってしまえば、料金の立てつけ自体が変わってしまいます。そこは、ひとえにどれだけ再稼働の時期が遅れるかにかかっていて、半年か1年か、あるいは2年か3年かによって、打つ手が違ってきます。自由化部門(家庭向けは電力会社を選べないが、工場やオフィスなどの企業向けの電力販売は自由化)のお客様には、昨年4月の値上げが合意できていないところが少々残っており、まだプロセスの中にあって、値上げが終わっているという認識は、我々にはありません。

「オプションとしての原子力は持つべき」と廣瀬氏。

その中で、原発が予定通りには動かないから、じゃあすぐに値上げさせてくださいというのもかなり厳しいし、同業他社も値上げに動いたばかりということもあるので、何とか値上げという方策は取らずに対応していかないと、お客様のご理解が得られないでしょう。ただ、再稼働がずっと先送りになると手は限られてきます。いずれにせよ、まだ何か判断できる段階ではないですね。

もちろん、性能のいいLNG(液化天然ガス)などの火力電源はどうしても必要になってきますし、燃料費は全コストの半分ぐらいを占めますので将来、北米産のシェールガスをどのくらい入れていくかといったことにも、積極的に取り組んでいきたいなと思います。

―― 昨年末、敦賀原発(福井県)の下に活断層ありという判定報道があって、ほかの原発もなかなか再稼働への道のりは簡単ではありません。
廣瀬 敦賀の件と柏崎とはまたまったく別物で、我々としては福島での事故をさらに検証し、その学習効果を柏崎につなげて、なるほどこれなら大丈夫だと思っていただけるように全力を挙げることに尽きます。

ピーク時期以外も危ない

―― 昨年の夏は暑かったですが、最大の電力需要期を乗り切っています。ところが昨年11月の最終週、急に冷え込んだことはあったにせよ、震災直後を除くと初めて、他社から電力融通を受ける事態になりました。
廣瀬 夏と冬のピーク時に合わせて電力計画を組みますので、ピークシーズン以外の時に、どうしても火力発電設備の点検をやらざる得ません。その時に急に寒くなって、天気予報の最高気温が一気に9度もマイナスに外れたりしますとね。昨年の夏でも、電力需要が90%を超えたのは2回しかないんですが、その時よりもよっぽどヒヤヒヤものでした。もちろん、供給量でいえば、4000万キロワットちょっとの低いレベルだったんですが、冬に入る前の時期だったので、そんなに電気をお使いにならないだろうという見立てで、供給力を落としていたものですからね。

柏崎刈羽原発(新潟県)再稼働の日は来るのか――。

皆さん、暑い夏が乗り切れたから原発は要らないというふうにお考えになりがちですが、その夏を何とか乗り切るために、いろんなことを総動員しないといけません。火力発電所が止まってしまうトラブルも当然、あり得る話です。この冬は、特段無理のない節電で乗り切れると思っておりますが、春や秋の需要の端境期に大きく予想気温が外れると、危ういことになるリスクはあります。



―― 東電にとっては、自民党政権に戻ったことで、これまでの民主党政権の3年余りよりも政府との距離感が縮まったでしょう。
廣瀬 どんな政権であっても、原発事故後の経営環境を劇的に引っ繰り返すようなことは起こりようもないですし、福島復興本社をはじめ、やれることを粛々と進めていくことだと考えています。そこがまずありきでないと、国に対しての主張も通りません。国が当社の取り組みを見て、どのように対応してくださるかだと思っています。

―― 実質的に国有化された東電では、なかなか身動きが自由に取れないのかもしれませんが、たとえば、全国の電力会社が供給エリアを超えて協力するとか、ガス会社ともっと連携するといった方向はないんでしょうか。原発比率が低いがゆえに唯一、値上げしないで済む中部電力(逆に原発比率が高いのが関西電力)は、業種も地域も超えて大阪ガスと組み、北米でLNG加工にも乗り出しています。
廣瀬 いまのように、大口だけが自由化されて家庭向けは自由化されてないという併存の形では我々も非常にやりにくいですし、昨年の値上げでもかなりバランスを欠いた形になってしまいました。むしろ全面自由化して、その中で引き続きお客様に選んでいただけるよう、最大限努力をするのがあるべき姿だと思っています。そこは基本的にウエルカムなのです。

ただ、供給地域をまたいだ競争ということになると現状、どの会社もなかなか需給がひっ迫している状況ですので、ほかのエリアのお客様にもサービスするのは、現実的には厳しいのは事実です。ある程度供給力に余裕があって、電力が余っているから安く売りましょう、遊ばしているなら安く売りましょう、ということなら競争に勝てますが、もともと供給がパンパンの状態で安くするのは難しい。できれば議論の順番として、原子力発電というものをどうするのか、ある程度議論した上でないと、理屈先行であるべき姿を言っても無理筋なのではと思います。

―― 原発の存廃は、安全問題は別として、原子力技術の継承という観点に立つと、全廃したら世界の主要国に比べて決定的、致命的な遅れを取ると主張する人の理屈もわかります。
廣瀬 オプションはたくさん持っておくというのが、あるべきエネルギー戦略だとは思います。何かを除外してしまうと、それだけ手中にあるカードが減っていきますから、やはり全体最適を目指すべきです。原発の比率はともかく、オプションには入れておいて、その中でどうやってほかのエネルギー源とベストミックスを組んでいくのかが重要です。そのオプションのポートフォリオの中で、たとえ原発比率は1%しかなくていいという結論に達したとしてもです。

1960年代後半から70年頃までは、当社も石油火力が7割以上の比率を占めていました。それ以降、石油ショックがあって、ガスや原子力を導入してという過程を経て、ざっくり言えばすべて3分の1ずつぐらいの状態になっていたのです。そこに、地球温暖化で二酸化炭素の排出削減気運が世界的に高まり、原子力発電の比率をもう少し増やさなければいけないという流れがありました。

東京・千代田区内幸町の東京電力本社。

組織の大変更は未知数

―― さて、東電のガバナンスと将来像ですが、昨年11月に発表した新経営計画では、この4月から小売り、送配電、燃料火力の各カンパニーをスタートさせますね。
廣瀬 賠償や除染、廃炉の費用が青天井でなく、どこまでなのかがわからないと社員も不安ですし、我々経営側も経営のしようがありません。この点は、社外役員の方にも「青天井というのは無理」という共通認識がありました。

―― 野武士揃いの社外役員(小林喜光・三菱ケミカルHD社長、数土文夫・JFEHD相談役、藤森義明・LIXILグループ社長)は、役員会の場でどんな発言を。
廣瀬 人件費も削減し、コストダウンの徹底で黒字化を目指すということを経営者としてはやっていかなければいけない。それは徹底的にやれというご意見ですが、一方で、社員のモチベーションやモラルの維持ということに関しては、社外役員の皆さんも非常に懸念されていて、「ただ人件費を安くすればいいというものじゃない。たとえば、これだけのコストダウンが達成できたらこれだけはみんなで分けようというような示し方をしないと、コストダウンしながらモチベーションを維持するのは難しいだろう。どんな経営者がやっても限度があって、この先からは無理だということは国にしっかり言っていくべきだ」と。

―― 同時に、人材流出という点も頭の痛い問題ですね。エネルギービジネスの関連性から、商社に転職した人も少なからずいるようですが。
廣瀬 我々から見ると、なかなか退職者に歯止めがかかっていないのでつらいところなんですけどね。名前を知っている幹部社員なら、「あいつも辞めるのか」と内心、憮然としてしまいますが、といって怒るわけにもいかないですし。確かに、給料が大幅に減額された上、社会からの強い風圧の中で、社員の家族はプレッシャーを受けているでしょうから、残念ですけど、退職するしないはそれぞれの選択です。

当社では、震災直前に2020年ビジョンというものを打ち出して、海外事業に1兆円使っていくんだと高らかに宣言しました。特に若い社員の中には、MBA(経営学修士)も取得して海外事業に意欲を燃やしていた人も多く、さあ、これからだという期待も大きかっただけに、震災後の反動が、余計に大きくなってしまいました。そういう人たちに、甘い言葉で「もう1年待て」とか、無責任なことも言えませんから。

―― 将来は持ち株会社も視野に入れるということですが、これはカンパニー制の後、実際に事業会社としてぶら下げて、事業再編をやりやすくという狙いもあるのでしょうか。
廣瀬 細かいことを言えば、電気事業法を改正しないことには持ち株会社にはできませんが、そういう組織になってもいいようにという思いはあります。ただ、そこでの狙いは発送電を分離することではありません。発電と小売りがそっぽを向いて好き勝手にやっていったらうまくいかないと思うのは当然。むしろ持ち株会社制を敷いて、全組織を横串にするコーポレートと呼ぶ組織(ここに原子力部門や経営補佐、賠償、廃炉作業組織も含まれる)がある程度グリップをし、それぞれのカンパニーの自由度も発揮しながらというのが一番いいだろうと。他社とアライアンスを組む、あるいは他社から資金調達をするといった場面を想定しても、カンパニーを分けておいたほうがいいという判断です。

2代前の社長の清水正孝氏(左)と前社長の西澤俊夫氏。

ですから、各カンパニーの自由度は上げながら、あくまで持ち株会社の下で発電から小売りまで一貫してやっていくイメージ。ただ、全体最適の部分についてはコーポレートがしっかりグリップをしていく。そこは外さないようにしていこうということですね。もともと、タコツボと言われていたような会社ですから、社内カンパニー制をやり過ぎるとそれぞれでまた、部分最適が起きてしまいます。だから、コーポレートがしっかり人事交流を促し、ヒト、モノ、カネの配分は引き続き把握していく必要があると思っています。

―― 株主責任も問われる一方で、特に高齢層の中には、安定配当だった東電の株にかなりの資産を投資し、老後資産を失った個人株主も大勢います。
廣瀬 あまり耳障りのいいことを言えないのが申し訳ないところなんですが、1日でも早く、皆さんからの評価が高まってくれば株価も上がるでしょうし、復配となると、もう少ししっかりとした決算数字が出てきませんと何とも言えませんが、社債市場に復帰するというのも1つの大きな目標だと思っています。残念ながら、何年にどこまでやれると言える段階にないのが現状で、株主には本当に申し訳なく思っています。

(聞き手=本誌編集長・河野圭祐)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

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