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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2015年2月号より

お手本は「ユーカリが丘」トヨタホームの新司令塔 山科 忠 トヨタホーム社長
山科 忠 トヨタホーム社長

山科 忠 トヨタホーム社長

やましな・ただし 1951年5月8日生まれ。千葉県出身。77年早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了。同年トヨタ自動車に入社。98年第2実験部長、2001年トヨタテクニカルセンターUSA社長、03年トヨタ自動車常務役員、05年第1トヨタセンターセンター長、06年トヨタモータースポーツ有限会社副会長、07年同社会長。08年トヨタ自動車専務取締役、09年技術管理本部長、同年モータースポーツ部統括、11年第1技術開発本部長、同年専務役員、12年トヨタ自動車研究開発センター(中国)社長。14年4月から現職。

トヨタ自動車の多角化の筆頭と言えば住宅ビジネス。ハウスメーカーとしてのポジションはまだ中下位圏だが、これから上位をどうキャッチアップしていくのか。2014年4月に社長に就いた山科忠氏に、差別化や成長戦略を聞いた。

ミサワホームと共同開発も

〔トヨタ自動車の創業家・豊田一族にとって、「一代で一事業」というのが半ば家訓になっている。そして、住宅事業を発案して参入したのが豊田章一郎・現名誉会長だった。自動車業界盟主のポジションからすれば、トヨタの住宅事業はスケールこそ小さいものの、旧トヨタ自工に住宅事業部が発足したのが1975年だから、ちょうど40年の節目になる。

また、2015年はもう1つの節目の年だ。トヨタ自動車がミサワホームに資本参加したのが05年だったからだ。当時、野村プリンシパル・ファイナンス、あいおい損保とともにミサワの第三者割当増資を引き受けて13.4%を出資、10年には出資比率を27.8%まで高めた。そして、トヨタ自動車専務やトヨタ自動車研究開発センター(中国)の社長などを経て、14年4月にトヨタホーム社長に就任したのが本稿の山科氏である〕

ミサワさんとは、資材の共同調達や物流、住宅部材の共通化など、バックヤードでの協業は進めてきました。そういう、ややわかりにくい部分での協業が多かったので目立ちませんが、14年4月からは、ミサワさんのニューセラミック外壁材と当社の鉄骨構造体(EST工法)を組み合わせた、3階建ての賃貸住宅(ブランド名はトヨタホームが「エスパシオ」、ミサワホームが「ハイブリッド」)を共同開発しています。

よく「ミサワさんとは合併するんですか」と聞かれますが、いまはまったく考えてないですね。協業できるところから始めて、お互いの良さを出しながら体力をつけることです。

もともと合併とか統合といった発想はないんですが、こういう市場動向(消費税増税前の駆け込みの反動で戸建て注文住宅の需要が減少)ですと、なおさらお互いに合併どころではありません。お互いの設計・開発陣でダブっていたところをダブらないようにして一本化していくとか、そういうことは考えていきますけどね。現在、当社の戸建て住宅が全体に占める割合は8割ぐらいあります。ミサワさんはもう少し多角化が進んでいるので、ミサワさんにも教わりながら多角化を進めていきたいと思っています。

〔では、戸建て住宅への依存度を減らしつつ、どのような事業ポートフォリオを考えているのだろうか〕

まずは、戸建ての比率を7割以下にしていくことですね。太陽光発電パネルを屋根の上に乗せて、ミサワさんが「ソーラーマックス」という名称、当社では「グレートソーラー」にしました。グレートというのは米国ではよく使われていて、すごくいい言葉なんですね。呼びやすくて覚えやすい。いま、このグレートソーラーが当社の戸建て商品の主力になっています。

あとはリフォーム事業をさらに拡大して、トヨタホーム独自のマンション事業も伸ばしていく。さらに、グループに「トヨタすまいるライフ」という会社があって、ここと一緒にシニア事業にも参入しました(愛知県豊田市にサービス付き高齢者向け住宅の第1弾として「T-グランシア水源」を14年秋にオープン)。ミサワの竹中宣雄社長も教育事業や保育所事業に興味を示していますが、こういうジャンルも出てくるかもしれません。そして海外。目下、インドネシアでの事業を少しずつ始めているところです。

〔山科氏が掲げる目標は現在、ハウスメーカーで8位のポジションを5位まで上げることだという〕

五指入りと、20年までの早い時期に7000戸販売という中期計画があるのですが、人口減少など右肩下がりの中での目標なので、ちょっと厳しいことは厳しいんです。ただ、当社は人口の多い大都市でのシェアがまだ少ないものですから、そのシェアを上げていけば達成しうる数字だと考えている。いい商品を出して大都市でのシェアを上げれば、それなりの戦いはできるかなと。

〔ハウスメーカーは、積水ハウスや大和ハウスといった横綱企業から住友林業、パナホームといった大手、準大手に加え、各都市ごとに地場の有力工務店がひしめく業界だ。そこで特色を出して強烈な差別化を図っていくのは簡単なことではない〕

お客様が本当にトヨタホームのファンになってくれるか、あるいは商品で圧倒的優位にもっていく、ということでもない限り、大変難しい事業なのは事実です。クルマでさえ、一昔前から、モータージャーナリストの方がよく「クルマのデザインはみんな似通ってくるし、性能はいいし、移動手段で乗るならどのメーカーでもある程度、品質が確保されている」といったことを話していたくらいですからね。

主力商品「グレートソーラー」の住宅模型を手にする山科忠・トヨタホーム社長。

ただ、売れる商品は何でもそうですが、美しくなければいけない。美しいものってお客様を呼ぶんですね。そこに技術革新が入って、それが消費者にどんなメリットを与えてくれるのか。この三拍子が揃って、アフォーダブル(手頃)な価格が加われば強い。「アクア」(トヨタのコンパクトハイブリッドカー)が売れたのも、そうした要件を満たしたからですよ。

それを住宅に置き換えてみるとどうか。いままでにない美しいデザイン、造形、佇まいの家を建て、そこに技術革新が入る。家ならゼロエミッションハウス、要は自分の家で使うエネルギーは自分の家で作るみたいな形ですよね。ゼロエミッションハウスでは、先行投資分のイニシャルコストと日々のランニングコストがちゃんとバランスできるようになれば、建て替えていただけるお客様がまだ増えていくはずなんです。

もちろん、1社だけで住まい方の提案をしていても変わらないわけですが、新しい住宅トレンドが本格化した時に、当社が後れを取ることがないよう、技術は磨いておこうと思います。私は技術屋なので、技術で負けちゃうような家は作りたくないですから。まずは、商品のレベルや基本性能で上位に追いついて、あとは販売店さんに頑張ってもらい、いい家をいいサービスで売る。この循環はクルマも家もまったく同じだと思います。

グループシナジーも強みに

〔前述のゼロエミッションハウス、あるいはスマートハウスといった、これから需要が伸びそうな分野では、オールトヨタのシナジーも活きてきそうだ。たとえばデンソーならエコキュートや全館空調、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)、豊田自動織機はプラグインハイブリッド車や電気自動車の充電装置、豊田通商なら土地・マンション・住宅資材等の分野で貢献が見込める〕

そうなんですが、彼らにとってはボリュームの大きいクルマがメインなんですよね。クルマに相当するほど当社の資材のボリュームが上がってくればいいんですけど、そんな域にはまだまだいけないですし。ただ、当社独自の商品力だけでは足りない点があれば、連携という点で求心力がグループ間に働くことはありますね。住宅分野でそこを総合的にまとめるのがトヨタホームになりますが、ここは同業他社に比べて大きな強みだと思います。

〔当面の目標は、前述したように業界内でのポジションを5位まで上げることだが、ランキングや販売戸数だけでなく、売り上げや利益でももちろん目標値はある。ただし、社内向けで対外的には非公表らしい〕

売り上げや利益目標でなく、あくまで戸数で発信しています。売上高で競うことを優先すると、大きな土地を買って、その土地を右から左に流したほうが売り上げが立って早いんです。でも、当社のもともとの考え方として、「日本の人たちにいい家を供給しよう」という事業理念があるので、売り上げや儲けに走ると、“トヨタ不動産”みたいになってしまう。それではいけないんです。

当社のブランドビジョンは「人生をごいっしょに。」で、住宅購入の検討から子供に譲っていく時まできちんとお付き合いしましょうというポリシーなので、あまり土地転がしみたいなビジネスは向かないと思いますね。土地を転がすんじゃなくて、土地をちゃんとしつらえて、お客様にいい家を建て、ちゃんとした暮らしを提供する。愚直にこれを追い求めるのがトヨタウエイなのです。

〔山科氏には、ベンチマークにしたい会社があるという。会社名は山万。社名だけではすぐにはピンとこないが、千葉県佐倉市の「ユーカリが丘ニュータウン」を手がけたディベロッパーと聞けば分かる方も多いだろう。1988年に千葉県下で初の超高層マンションを着工し、その後もホテルやシネコン、それらの商業施設を結ぶペデストリアンデッキなどの駅前整備、さらに福祉施設や保育園事業など、宅地開発・分譲にとどまらず、街作り企業として、現在もユーカリが丘開発を進めている〕

家を建てて、パッと売って、はい次、というのでは街作りになりませんよね。その点、山万さんは本当に素晴らしい。山万さんは基本、マンションを年に200戸しか売らなくて、バブル期の頃でも200戸強しか売らなかったんです。いま、古いニュータウンを筆頭に空き家問題が深刻化し始めていますが、ある一定時期に大量に分譲してしまうと、その世代が高齢化すると街がゴースト化しかねない事態になってしまう。

でも、200戸販売を守ってきた山万さんのユーカリが丘では、世代間の連続性が保たれているわけです。そういう売り方をしないといけないし、それが理想の街作りではないかと。私も実際にユーカリが丘を見せていただき、深い感銘を受けました。私がトヨタホームへ来てからの半年強の間で、ユーカリが丘の素晴らしさは一番衝撃的でしたね。

海外志向で駐在経験豊富

〔山科氏は早稲田大学大学院理工学研究科で機械工学を専攻した、根っからの技術屋だが、実家がクルマの修理業を営んでいたせいかクルマへの興味はもともと強かったようだ〕

大学に自動車工学研究会がありましてね。サンドバギーを作ったり、ちょっとレースカーっぽいクルマの工学を勉強する会です。理工学部の建物の隣に自動車部はあったのですが、1、2年生はいつもマラソンをしている。ラリーに出るために体力をつけないといけないから走っていたわけですが、それなら自動車部より、自動車工学研究会のほうがいいなと(笑)。

就職は、海外に行きたかったので当初、東洋エンジニアリングや千代田化工といった会社を考えていました。ただ、家業がクルマ屋でしたから、もちろん昔からクルマは好きでしたし、プリンス自動車工業(当時。後の日産自動車)で「スカイライン」の開発で知られた桜井眞一郎さん(故人)に憧れてました。で、父親に「クルマ屋にはならんのか」と言われて自動車メーカーに。

当時は「販売のトヨタ」、「技術の日産」と言われていたので、ゼミの教授から「君にはトヨタは向かないから早く帰ってくるんだな」と言われていましたね(笑)。ところが入社してみると、ボディ設計の部署で新人にもいろいろな実験をさせてくれる、いい会社だったのです。

〔その後、山科氏はもともとの海外志向が叶い、米国には都合3度赴任し、中国の研究開発センターも担ったほか、モータースポーツ部統括でF1ビジネスにも携わるなど、多彩なキャリアを積んでいる。

では、山科氏自身のクルマ遍歴や住宅観はどうなのだろうか〕

いままで、自分で買ったいろいろなインテリアがあるのですが、私はなかなかモノが捨てられない性格。なのでこだわりは、そのインテリアをいかにそのまま生かして自分の家を作るかです。米国に最初に赴任した時、なけなしのお金をはたいて買った「イーサン・アレン」の食卓テーブルが思い出深いですね。当時のお金にすると、給料の2カ月分ぐらいでしたから。椅子とセットでもう、35年ぐらい使い続けています。どちらかと言えば欧米系ファニチャーにこだわりがあるので、自宅に畳の部屋はありません。

クルマは、とにかくたくさん乗りました。学生の頃は、「スカイライン」の、いわゆるハコスカ。クルマのこだわりは、エコよりもやはり走りですね。いまは「クラウン」のハイブリッドに乗っています。前の3.5リットルのクラウンハイブリッドがことのほか良かった。

当社のグレートソーラーの家は120平方メートルで、上物で2500万円ぐらいです。これから自分の家をもし建てるとしたら平屋ですね。トヨタホームも昔はデザインがイマイチと言われましたが、最近はずいぶんと良くなって、13年にはグッドデザイン賞もいただいています。いまは、「もっと美しい家を作れ」と社内でハッパをかけているところです。

〔最後に、トヨタホームの近未来像はどう描くのか〕

クルマ文化は欧米から派生していった部分があると思うんですけど、住宅文化は国ごと、あるいはその土地土地で異なる文化があるので、そこを見極めないといけない。だからクルマ以上に難しいのですが、海外は強化していかないと。

国内は、定位置みたいな感じでいま業界8番手ですが、まずは1つ先を抜くこと、次が2つ抜くことが地道な夢です。いきなり海外で利益を上げるのは難しいですから、次世代にいい形で引き継ぐためにも、1つでもポジションを上げたいですね。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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