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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2014年10月号より

増収増益の再スタート 消費税増税でも視界良好 遠藤裕之 ケーズホールディングス社長
遠藤裕之 ケーズホールディングス社長

遠藤裕之 ケーズホールディングス社長

はせがわ・ひろゆき 1951年生まれ。茨城県出身。1973年日本マクドナルド入社。85年カトーデンキ販売(現ケーズホールディングス)入社。、95年取締役、2006年専務取締役。11年6月より現職。

エコポイント、テレビのデジタル化などの追い風に乗って、売り上げを伸ばしてきた家電量販店。しかし、こうした需要が終わると同時に、消費が低迷するなかで一転、苦境に立たされた。アベノミクスによって一息ついたものの消費税増税、ネット通販という新たな消費スタイルの変化にどのように立ち向かうのか。ケーズホールディングスの戦略を聞く。

会社は誰がやっても変わらない

〔消費不況といわれる市場環境、同業他社やネット通販との価格競争と、逆風下での経営を強いられている家電量販店業界。アベノミクス効果によって、明るい兆しは見えつつも消費税の増税と“喜憂相半ば”といった状態にある。
そんななかにあってケーズホールディングスの売り上げは2012年、13年と前年割れしたものの、14年3月期は前年比3.5%増と持ち直した。しかし、4月からの消費税増税の影響が懸念される。とはいえ、消費税導入前のマスコミの取材に遠藤裕之社長は「影響は一時的で夏ぐらいには回復する」と語っていた。インタビューは現在の足下の状況からはじまった〕

売り上げ自体は、予定通りという感じですね。ただ、想定していたよりは影響を受けているという感じはあります。イメージとして4月は前年同月比80%、5月が90%で、6月に同じになって、7月からプラスと考えていたのですが、そこが若干弱い。とはいっても、これは消費税の影響というより、去年は6月に入った直後から猛暑で売り上げが伸びたのですが、今年は7月中盤から暑くなったという影響が大きい。

来年も消費税の増税が出ていますが、駆け込みがあって、反動減があっても、期をまたがないのでフラットに考えればいいと思っています。

当社は基本的に前年と比較して「大変だ」とか、「今年はいい」という見方をしないので、ここまではまあまあ順調だと思っています。

そもそも11年までの売り上げが、テレビのデジタル化などによってとんでもなく売れた特別な状態でした。ですから「これは会社の実力でも能力でもない」と僕はずっと言っていました。あの状況を実力と思ってしまうと、落ち込んだときに「会社の力が落ちた」となってしまう。そうなると、それを戻すにはどうすればよいかという話になります。

しかし、あの売り上げ自体がたまたま起きた事象だと思えば、落ちても気にする必要はなく、大きなプレッシャーを感じることはありません。もちろん、実際の数字を見れば厳しいですから、ため息も出ますがそれはそれとして、ゆっくりと戻っていけばよいと考えていました。というのは、家電の需要というは基本的に、特別なイノベーションが起きない限り、買い換えの需要で成り立っています。この買い換え需要をしっかり取れる体制を保っていればよいと考えています。

〔家電量販店というと、競合他社との弱肉強食の熾烈な戦いが繰り広げられているイメージがある。そんななかで同社は、加藤修一会長の「がんばらない」「従業員1番、取引先2番、お客さま3番、株主4番」といった独特の経営理念のもと成長し、業界4位のポジションにある。11年6月、遠藤社長はそんなカリスマ経営者の加藤現会長から、経営のバトンを渡された〕

私が社長になったのは、たまたまなんですよ。会長からは「サイコロをふったら“遠藤”という名前が出たからやれ」と。これまで営業の黒子として仕事をしてきたので「トップになる気はありません」とお断りしたのですが、「サイコロをふったら出ちゃったから」と(笑)。「会社は誰がやっても変わらないよ」と言われ、受けることにしました。

当社は64年間増収を続けてきて、私が社長になってから、どーんと落ちました。しかし、これまで会長から「一喜一憂すると施策を間違う」という教育を受けていたので、そのことを意識してやってきました。ありがたいことに昨年度は増収増益になり、「連続増収増益の再スタート」だと社内では言っています。

前にお話ししたようにそれまでの売り上げが“特需”によるものだから、それが落ちても、何かで埋めようと考えるのではなく、売り上げが落ちたなりに、利益が出る方法をしっかり考えていこうと思っていましたね。

社長になったからといって、僕の独自の考え方で経営をしようという考えはまったくなく、基本は「正しいことをしっかりやり切れる会社になろう」ということを社内でも言い続けてきました。

「がんばらない」という意味

「少子化といっても世帯数は増えている」と話す遠藤社長。

「がんばらない」というのは、つまりは「余計なことはしない」ということです。といっても、これは怠けるという意味ではなく、やることは1つ、お客さまのご要望にお応えするということです。100人のお客さまがいれば、その要望も100通りある。その100通りの要望に対し、それぞれの従業員が正しいと思うことを実践していただくことです。そして、お客さまに相対している従業員が、正しいと思うことをやり切れる環境をつくるのが僕ら経営側の仕事です。

たとえば、1週間前に買った商品が壊れたとお客さまが来店されたとき、そのお客さまが何を望まれるのかを見極めて、対応した従業員の判断で行ってよいということです。また、冷蔵庫や洗濯機が故障して来店されたお客さまであれば、使えないで困っているのですから、お客さまの優先度が高くなります。そのとき配送がいっぱいであっても、その日中に配送できるよう手配してみるなど、その従業員の判断で行ってよいと言っています。

もちろん、そのときどきの判断でミスもあるでしょう。しかし、当社では怒られる、叱責されることはないので、個々が自由に考えて行動できるんですね。こうしたことは研修などで身に付くものではなく、社内の伝承、企業文化によって長い時間のなかでつくられたものだから、一朝一夕にできるのではありません。

「従業員が1番」というのも、「お客さま第一」を実現するための従業員が1番なんです。従業員がこの会社で働きたい、毎日、会社に行きたいと思って出社できる会社なら、お客さまに対しても親切になり、それが結果的にお客さま第一になります。従業員に「働け、コラ!」と言ったのでは、「お客さまに親切に」と言っても、なかなかできません。

取引先が第2というのも同じです。仕入れをギリギリと値切ってしまっては、売れている商品、こちらがほしい商品を当社に入れようとは思いませんよね。従業員は、お客さまがほしいという商品を売る。そのために商品を揃えなくてはならないのですから、取引先が重要で、結果的にお客さま第一につながる。そして、それが会社の利益につながり、それが株主への還元になります。

〔ケーズデンキグループの店舗数は、429店舗(14年6月末日現在)。同社の店舗展開は、都市圏の中心部に大型店舗を出すのではなく、中心部の周辺にドミナント方式で展開するというのが特徴だ〕

店舗展開については、中長期にどのエリアにどういう店をつくっていくかという計画に沿って行っています。単年度では40~50店舗の出店ができるようにとは言っています。しかし、エリアによっては、こちらの希望通りの広さの土地がないなど、さまざまな問題であるので、今年は36店舗、13年は38店舗、12年は29店舗という状況です。

東京都心への進出は、今のところ考えず、東京近郊のエリアへの出店を進めています。また、西日本のエリアでは、大阪、兵庫と西へと向かいながら、今、岡山にまで来たという感じです。西へはこれからも伸びていきますが、他の地域でもまだまだ出店できるところがたくさんあります。都心部よりも出店するところがほかにもあるということです。

ドミナント方式にしているというのも、大きい店舗を展開すれば、1店舗の商圏は広くなりますが、コストも高くなる。そのため各店舗のエリアを重ねながら商圏を広げていくというのが私たちの考え方です。

この方式であれば、トータルのシェアを広げながら、販促費を下げることができ、結果、経費率を上げなくて済むわけです。ところが大都市圏に大型店をつくると、その1店にダイレクトにすべてのものがかかってしまうので、なかなか利益を出しにくい。当社は経費をしっかりとコントロールし強い体質を持った会社にすることが念頭にあるので、店舗展開においても、急拡大というのは基本的にはありません。

ネットに対抗する必要はない

〔家電量販店が逆風に立たされた原因の1つに、ネット通販との新たな価格競争がある。そんななかリアル店舗を持つ量販店は「ネット通販のショールーム」とさえいわれる。しかし、遠藤社長のネット通販に対する考え方は独自で、最終的にはネット通販も家電量販店同士の新たな戦いの場になると予測する〕

ネット通販は難しい部分もありますが、お客さまの買い方の違いなので、ひとりのお客さまがリアル店舗で買うときもあるし、ネットで買う場合もある、という捉え方をしています。つまり、ネットで買い物されるお客さまも、状況や商品によって買い方を変えているということです。

ネット通販によって売り上げが伸びないという話を聞きますが、当社の場合は、変わっていません。当社もネット通販をやっていますが年間の売り上げは全体の1%ぐらいです。これを伸ばそうという考えは今のところありません。はっきり言ってしまうと、ネット通販で家電だけを売っていたら、収益が出にくいのです。ネット通販による家電の粗利では、物流コスト、ショッピングモールへの出店フィーを吸収しにくいのです。

アマゾンさん自体が扱っている家電の品数は少なくなっているように感じますし、家電量販店の一部がアマゾンさんを通じて販売しているというのが現状です。

以前から僕は「ネットに対抗する必要はない。何もしなくていい」と言ってきましたが、それが現実になってきたように感じています。

家電について言えば、日本は、米国や欧州とは環境がまったく違います。そもそも「ネット対リアル店舗」と言うからおかしくなってしまうのです。もちろん、ネット通販がなくなるとは思っていませんが、最終的にはネットにおいても家電量販店同士の戦いになると考えています。

リアルとネットの逆転現象も

〔「リアル店舗とネット通販の違いは価格差だけ」という遠藤社長。将来、家電においては、リアル店舗を展開する家電量販店がネット通販を制するとさえ話す〕

ネット通販の強みは価格の安さといわれますが、実際に値段がとんでもなく安いものというのは、一部です。その安く売っている業者さんは、どのように仕入れられているか私にはわかりませんが。

年間の出店計画の約4分の1は既存店のリニューアル。

ネット通販で買い物する理由は、利便性ではなく、ほとんどが価格だと思います。しかし、将来はこの価格もリアル店舗、ネット通販は一緒になると思っています。なぜなら、先ほどお話ししたようにごく一部の商品をのぞいて、ネット通販においても家電量販店同士の戦いになるからです。そのとき家電量販店以外のお店が今のようなかたちでネット通販をするメリットがあるか疑問です。

まず、ネット販売では物流費がかかります。次にモールに出店したときの出店フィーがあり、利益からこの2つが経費として差し引かれます。リアル店舗では、持ち帰っていただける比率が高いので価格が同じなら、利益はリアル店舗のほうが多くなります。仮にこうして浮いた経費分を値引きに回せば、リアル店舗のほうが安くすることが可能かもしれません。

また、リアル店舗では、店舗の維持費や人件費がかかり、ネットはそれがかからないので安いといわれますが、これも真逆だと思っています。

ネット通販は取り寄せ販売なので、表面上はさまざまな商品を並べることが可能です。しかし、僕らは店舗があるので、販売商品は各店舗にある在庫を使うので現物が揃っており、発送の時間もかかりません。

しかも、僕らがやっているネット通販は、お客さまがネットで当社に注文を入れると自動的に、そのお客さまの家(配送先)に一番近いお店に伝票が送られ、そこから商品が届くようになっています。ですから、商品の交換や故障があれば、メーカーのコールセンターではなく、近くの店舗で受け付けることができます。そして、修理はもちろん、その場での交換が簡単に行えます。

価格だけなら、ネット通販の価格を1000円、500円安くしようと思えばできます。また、プログラムを使えばいくらでも他社より安く表示できる。しかし、これからのネット通販では、価格だけではなく、安心してお買い物をしていただくにはどうするかということが重要になると思っています。

(構成=本誌・小川 純)

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