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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2014年9月号より

リクルートとタッグ組み 攻める「ポンタカード」
長谷川 剛 ロイヤリティマーケティング社長

長谷川 剛 ロイヤリティマーケティング社長

はせがわ・つよし 1966年3月12日生まれ。早稲田大学卒。88年三菱商事に入社し、主に情報部門を歩く。2000年に日本航空と共同出資したイーマイルネットに副社長として参画。08年に共通ポイント事業を立ち上げ、ロイヤリティマーケティングを設立、社長に就任。10年3月より共通ポイントサービス「Ponta」を開始した。

共通ポイントカードと言えばTポイントとPontaが双璧だったが、今秋、そこに楽天が割って入ってくる。そこで、リクルートHDとタッグを組んだ、Pontaを運営するロイヤリティマーケティングの長谷川剛社長に、今後の戦い方なども交えて聞いた。

3大勢力の陣取り合戦へ

〔消費税増税後、節約志向もあって消費者のポイントカードへの関心が高まっている。ひと口にポイントといっても、電子マネーから個店ごとのポイントカードまで数多いが、電子マネーの場合、店頭で小銭のやりとりはしなくて済む半面、使える店舗やチェーンがある程度限られてくる場合が多い。

一方、ポイントカードは小銭の煩雑さからは解放されないものの、大手の共通ポイントなら使える店舗が飛躍的に多くなる。この分野で先頭を走ってきたのが「Tポイント」(運営はTポイント・ジャパン。カルチュア・コンビニエンス・クラブ85%、ヤフー15%出資)陣営だ。

次いで、本稿の「Ponta(ポンタ)」(運営はロイヤリティマーケティング、以下LM。三菱商事の子会社)、そして楽天も今秋、「Rポイントカード」を発行し、リアル店舗でも使えるサービスを始める。今後は、この3大勢力の激しい陣取り合戦になりそうだ。まず、LMの長谷川剛社長に他陣営との差別化ポイントを語ってもらうと――〕

他社との強烈な差別化ができるかと言えば意外と難しいですが、ポンタは運営企業の当社がサービスの中心にあるのではなく、いわばポイントカードを“公器”と捉えています。そういう意味では、ポイントの提携先企業にマーケティングの技を磨いていただき、消費者の方々にも喜んでもらえるサービスを作ることが差別化ですね。当社が目指すのは、ひと言で言えばマーケティング・サービス・プロバイダーなのです。

〔陣取り合戦は、Tポイントとポンタのポイント提携先にも表れている。主立ったところを挙げると、Tポイントがファミリーマート、TSUTAYA、マルエツ、ガスト、ENEOS、ドトールコーヒー。ポンタはローソン、ゲオ、和民、大戸屋、ケンタッキーフライドチキン、昭和シェル石油。実験的に提携をスタートさせた、食品スーパーのライフとも全店に拡大する予定だ。一方、新規参戦の楽天陣営は、予定ではサークルKサンクス、大丸・松坂屋、ミスタードーナッツ、プロント、出光興産等。

各陣営の鍵を握るのがコンビニエンスストアとの取り組みで、理由は店舗数が圧倒的なため、消費者の利用頻度に直結するからだ。実際、ローソンでは来店客の5割、地域によっては6割から7割がポンタ利用者になっている。そこにフォーカスすると、ファミマとTポイント、ローソンとポンタの組み合わせは強く、コンビニ4番手のサークルKサンクスを引き入れた楽天陣営は、やや見劣りする。

ただし、ポンタ陣営にも課題はあった。Tポイントはヤフーとタッグを組んでおり、もちろん楽天はインターネットに強い。つまりオンライン面での戦略強化がポンタのテーマだった。そこで合意したのが、リクルートホールディングスの「リクルートポイント」との統合。来春、リクルートポイントがポンタに一本化されるのがそれだ〕

もともと、リクルートさんとは「ホットペッパービューティ」というサロン情報サイトで、予約するとポンタが貯まるといったコラボレーションはしていました。で、今後はどうしていこうかという話し合いの中で今回、全面的にポンタに切り換えるという形で合意したわけです。リクルートポイントとポンタの強みを足せば、より一層、消費者に支持してもらえるポイントにしていけるのではないかと。

言われるように、確かに大手のコンビニと組めないと、なかなか共通ポイントの浸透は望めませんが、その大手がもう残っていない(最大手のセブン-イレブンは自社の電子マネー「nanako」で囲い込み)。そうなると、リクルートさんもこのまま単独でなさるよりも、ポンタと一緒になったほうが得策というご判断に至ったのでしょう。

リクルートさんは衣食住に関わる情報が豊富な(宿泊予約の「じゃらん」や飲食店予約の「ホットペッパーグルメ」、クーポン購入の「ポンパレ」など。ほかにも中古車、転・就職、結婚情報サイトも)生活密着企業です。かつ、ユニークで非常に強いポジションを築かれている。一方で、当社もネット系サービスを強化しなければいけないし、より生活に密着した分野でどう消費者と接点を持つかは重要課題でした。その点でも、リクルートさんはベストパートナーだと考えたわけです。

オフラインつまりリアルのお店に強いポンタと、オンラインに強いリクルートポイントが一緒になることで、より一層強いポイントプログラムを作っていけると思います。リクルートさんの強い媒体力も活用させていただきながら、さらにポンタと消費者との接点を増やしたいですね。

この提携は、既存提携企業の方々の期待値も非常に大きいですから今後、ポイントサービスではいろいろな組み合わせが出てくると思います。リクルートさんは様々な媒体をお持ちですから、各メディアと関係性の高い既存の提携企業とがうまく相互送客できれば、効果も倍増していくでしょう。その結果、ポンタ会員の皆様にも、「便利・おトク・楽しい」の3つの要素を、よりご実感してもらえるものと確信しています。

キメ細かく企業にコンサル

〔先発のTポイントがサービスを開始したのは、もう10年以上前のこと。続くポンタは4年前の2010年3月にサービスをスタートしたのだが、ポンタ会員数は6328万人(今年5月末時点)で、リクルートポイント会員の1000万人強を足せば7500万人近くとなり、ポンタでの利用可能店舗約2万3400店(7月1日時点。その約半分はローソン)もリクルートHDと組むことで一気に約10万店になる。

楽天スーパーポイントの会員数は9000万人超とさらに大きいが、ネット偏重だった分、リアルの利用可能店舗拡大はこれからだ〕

(楽天が)オンラインの世界で強みをお持ちなのは事実ですし、我々も脅威と言えば脅威に感じるところはありますけど、共通ポイントの世界は、大手企業との提携をどれだけ面で押さえていけるかが重要になりますし、そんなに簡単なことではないと思います。ただ、ポンタも消費者の支持が下がれば提携企業の方々が競合他社のほうへ乗り換えるリスクもあるわけですから、いままでやってきたことを愚直に深掘りしていくことが大事だと思っています。

ポイント提携の企業候補は常時、数十社あります。もっとも、実店舗とのポイント提携となると、店舗側のコンピュータシステムの改修などで、半年あるいは1年かかってしまいますから、そんなにポンポン提携ということにはなりませんが、企業規模は大小あれど、年間で20~30社のペースで(提携企業数を)増やすべく頑張っていきたいですね。

〔ポイントカードのビジネスは、まず提携企業に手数料を支払ってもらい、ポイントが使われた店舗に、使われた分のポイント代をLM側が支払っていくのが基本のビジネスモデル。提携企業にすれば、ポンタというマーケティングツールを最大限に利用しなければ、高い販促効果は期待できない。

ここまで、ポンタデータを上手にマーケティングに反映させてきたのがローソンだ。その代表が、ビッグヒットになった、ふすま利用の低糖質商品「ブランパン」である。パンは好きだけど、糖分は抑えた上で美味しいパンが食べたい――ポンタデータから読み取った、そうした潜在的な消費者ニーズを汲み上げて開発したのがブランパンだった〕

「Pontaをますます便利に」と長谷川剛・ロイヤリティマーケティング社長。

個社ごとの事例は、守秘義務がありますので詳しくは申し上げられませんが、ローソンさん以外の、たとえばポイントカードにはこれまであまり馴染みがなかったところ、いわば勘や経験でずっとご商売をやってこられた方々に対して、本当に自分たちが思っている通りのお客様像なのかどうかを、まずは理解してくださいと言っています。

その上で、ヘビーユーザー、ミドルユーザー、ライトユーザーそれぞれの顧客層にはどんな購買行動があるのか。あるいは、ミドルユーザーはどうすればもっといいお客様、つまりヘビーユーザーになってもらえるのかを、個社ごとに、ポンタデータを軸にしてコンサルティングサポートをさせていただいてます。

超ヘビーユーザーという方もいらっしゃれば、ヘビー予備軍もいる。あるいは、業態によっては年に1回程度の来店頻度という消費者もいます。すると、特定の催事の時にしか来ないだろうという完全な思い込みに陥ってしまうのですが、ポンタデータを分析していくと、どうもそうではないと。そういう層を洗い出して、まずは消費者行動をもう一度、正しく理解していただくことが我々の大きな使命だと考えています。

また、そこは当社としても非常に力を入れているところで、分析力の強化と、そのデータをどうご商売の成果に結びつけてもらうかですね。それにはある程度の経験値と蓄積が必要になってくるわけで、いろいろな観点や切り口から、マーケティングデータをどのように企業活動に活かしていただけるかが肝要です。

似て非なる電子マネー

〔前述したように、電子マネーを含むポイントマーケット全体で言えば、セブン&アイグループの「ナナコ」、イオンの「ワオン」といった流通系、JR東日本の「スイカ」、私鉄やバスの「パスモ」などの交通系に加え、最近では通信系の「auWALLET」も急速にカードホルダー数を伸ばしている。大きな括りでのポイント市場の今後や争奪戦の趨勢はどう見ているのだろう〕

電子マネーとポイントカードは、似て非なるものだと思っています。電子マネーは文字通り決済手段の1つで、そこにポイントが付くという形だと思いますが、事業者側の考え方としては、あくまで決済手段として使っていただこうということではないでしょうか。マーケティング的な観点で言えば、電子マネーではPOS(販売時点情報管理)の域を出ないという捉え方です。

一方、ポンタカードは利用者の属性は何で、いつどこで何をどのくらいの量買われているかを詳細に把握できます。いわば、マーケティング活動における販促ツールの1つとして各企業が導入しているのです。消費者側から見ると、電子マネーもポイントカードも使い方は似ているように見えるかもしれませんが、企業側の考えとしては大きな違いがあるのではないかと。ただ、電子マネー決済も急速に拡大してきていますので、そこに将来も当社がまったく関与しないで済むかと言えば、そうではないだろうと思います。

たとえば、電子マネー決済の際にもポンタが貯まるとか、そういう形に発展していく可能性も大きいかもしれません。今後は、ポイント市場でも規模の経済が働いてくると思いますので、ある程度は大手の共通ポイントに集約されていくのではないでしょうか。

もちろん、消費者も店の選択をポイントだけではしませんが、まったく同じものを購入するのであれば、より広く使えるポイントのお店を選ぼうというのが自然な動機だと思っています。また、結果として1社1社でポイントサービスをするよりもコストが下げられ、その分、消費者に還元して、よりお得なポイントとしてサービスが展開していけます。このサイクルに入ってくれば、おそらく大手の共通ポイントのほうが消費者の支持を得られる確率が高いのではと思います。

〔LMの経営理念は「無駄のない消費社会構造への貢献」だという。確かに、ポンタデータを企業側がうまく活用できれば、商品の廃棄ロスや機会損失はいまよりも減っていくことになるだろう〕

当社がサービスインしてから4年数カ月、冒頭で申し上げましたように、ポンタというブランド、キャラクターが中心というのが一貫した事業ポリシーです。いわば、ポンタは提携企業の皆さんで作っていくという考え方で、だからこそここまで急激に会員数も提携店も増えてきたのではないかと。

そして、消費者が一番頻度高く使っていただけるポイントカードになっていかなければいけない。「便利・おトク・楽しい」の3要素を、さらにどう磨いて新しい価値のサービスを提供できるかが重要です。

それも、LMだけがやるのではなく、提携企業の皆さんと3つの要素を作りこんでいく。当社は黒子として、一緒に考えながら新しい価値を消費者、提携企業双方に提供していき、より価値の高いポイントサービスの開発は主として提携先に取り組んでいただく。当社では、できるだけ多くの企業でポイントが貯められるよう、あるいは大手企業にさらに入ってもらえるよう、積極的な営業で開拓をしています。

ポンタ会員はいま、6300万人強まで増えてきました。いままでは、先行する競合他社に負けないような量を重点的に増やしてきたわけですが、これからは質もさらに高めていきたいですね。その質を何で測るかは、消費者の皆さんが、よりポンタを頻度高く使ってくださっているかどうかにかかっていますので、ポンタをファーストチョイスしてもらえるよう、これからも頑張ります。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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