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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2014年6月号より

アベノミクス相場は続く 株価は年末1万8000円
楠 雄治 楽天証券社長

楠 雄治 楽天証券社長

くすのき・ゆうじ 1962年11月生まれ。広島市出身。86年広島大学文学部卒業後、日本ディジタルイクイップメント(現日本ヒューレット・パッカード)入社。96年、シカゴ大学ビジネススクールMBA取得。同年A.T.カーニー入社。99年、DLJディレクトSFG証券(現楽天証券)入社。2006年執行役員COO。同年、社長に就任。

今年3月で創業15周年を迎えた楽天証券。口座数では約170万口座と、業界首位のSBI証券を追う。就任7年半となった楠雄治社長に、15年の軌跡と今後の戦略を聞いた。

大手5社の共通点

〔1999年に創業した楽天証券が今年3月24日に15周年を迎えた。設立当時の社名はDLJディレクトSFG証券。米DLGディレクト社50%、住友銀行20%の2社が大株主という資本構成だった。99年10月からの株式売買委託手数料の自由化で数多くのオンライン証券が誕生したが、現在はSBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券、カブドットコム証券の大手5社で市場の大部分を占めている。親会社が変わりはしたが、楽天証券が勝ち残れた理由はなんだったのか〕

当時、売買手数料の自由化に合わせて、米国を中心に外資が数多く参集してきました。現在の大手5社に共通するものは、撤退した外資と比較すればよくわかります。例えば米オンライン証券のチャールズ・シュワブは、米国株の取引しかできないようなサービスでした。日本の投資家を、きちんとふまえてビジネスをしていたかどうか。

インターネットの時代として、我々も当初は新しい投資家、例えば30代のサラリーマンが中心になるだろうと仮説を立てて始めていましたが、実際は従来の個人投資家が多く取引を始めた。仮説が間違っていたことにいち早く気付き、入ってきたお客様のためのサービスを作れたかどうかが、最大の違いです。

従来のお客様というのは、店頭で営業マンを介して株取引をしていた、年齢の高い投資家たち。パソコンを使ったことがないような方たちが、手数料が圧倒的に安いことから、パソコンを購入してまで自分で始めたのです。ベテラン投資家が動き出したことに対応してサービスを作ってきた会社が残っています。

例えば松井証券さんが最初に信用取引をネットで始めた。そこにニーズがあるとキャッチアップして始めていったのが、残った会社の特徴と言えるかもしれません。

〔半分を外資の資本でスタートしたDLJディレクトSFG証券は、相次ぐ外資の撤退劇に巻き込まれることになる〕

DLJディレクトの親会社DLJはアクサグループの1つでした。アクサは保険業務が中心ですから、オンライン証券は必要ないとクレディスイスグループに売却したのです。クレディスイスはリテールのネットビジネスはやらないと、どんどん売却していきました。そのなかに日本も含まれていました。

2001年ごろ、住友側と相談のうえ、ソニーに売却したいという話もありました。ソニーはマネックスの大株主でしたから、マネックスと統合しようという話が盛り上がった時期もありましたね。でも破談になった。03年に4社でコンペティションが開かれ、そこで最終的に楽天が落札をしました。

クレディスイスは売りたがっていたので、親会社が変わることに驚きはなかったのですが、実は当時、候補の4社のなかで、どこが将来的に活躍ができそうかと経営幹部で話をしていた時に、楽天がいちばんいいのではないかと考えていました。楽天が落札したことで、新しいパラダイムが開けると、ワクワクして楽天グループに移りました。普通の証券の常識を超えたところでビジネスができそうだと、楽しみでしたね。

〔楽天グループ入りした当時、オンライン証券は松井証券がトップ、その他は団子状態の群雄割拠の時代だった。楽天証券は楽天経済圏のグループシナジーをバックに、口座数を順調に伸ばし、イー・トレード証券(現SBI証券)との激しい手数料値下げ競争を展開していた〕

順調に突っ走りかけたところで、05年の郵政解散後の上げ潮相場が来ました。この時は、05年の春くらいから急速に伸び始めて、04年の終わりに25万口座だった口座数は、05年が終わってみると50万口座になっていました。1年で2倍に引き上がったのです。ここで我々の失敗だったのが、バタバタとシステムがダウンしてしまったこと。キャパシティ・プランニングがしっかりしていなくて、夏の郵政選挙が始まったころから取引も口座数もボリュームが駆け上がった時にシステムが耐え切れず、毎週のようにシステム障害になり、つまずいてしまいました。もし、ここを乗り切れていれば、手数料はSBIさんと同じような競り合いをしていたので、いまほどの差はつかなかったと思います。

〔激しい競争のなか、ネット証券業界はM&Aが頻繁に行われた。マネックスがセゾン証券、日興ビーンズ証券、オリックス証券などと合併を繰り返し、SBI証券もワールド日栄証券、日商岩井証券を吸収した。カブドットコム証券も元はイー・ウイング証券と日本オンライン証券の合併からスタートし、Meネット証券(三菱証券系)を吸収している。こうした再編と無縁だったのが、松井証券と楽天証券だった〕

オンライン証券は8割がた同じような業務をしていますから、買った方が買われた方のシステムや人を切り捨てて、お客様だけ持っていくというのがブローカー流の買収。大枚はたいて会社を買うのがいいのか、それだけのお金を使うのであればマーケティングにお金を使い、ちゃんと獲得して稼働させたほうがいいのか。概ね、後者のほうが経済合理性は高い。単純に時間を買うかどうかなんです。正直、検討をしたことはありますが、買ってまで拡大を図るのか、最終的な判断としては、やらないほうがいいと。

7月にドットコモディティという商品先物会社を統合しますが、これは、新しい分野を付け加えるということで、証券会社を買うというわけではないですからね。それにいま買いたくなるような証券会社は大手5社くらいですから、買収金額が高すぎるでしょう(笑)。

右肩下がりを乗り越え

〔楠氏が社長に就任したのは、06年10月。前社長の國重惇史氏が7年半在任し、楠氏も同じく7年半になる〕

國重と私でちょうど半分ずつですね。國重が06年までのいい時をやって、私はライブドアショック以降の右肩下がりの時(笑)。12年は特に苦しかったですね。

株取引が落ち込むなかで、いかにFXや投資信託を盛り上げるかと、いろんな新しいサービスをつくって、収益構造を少しずつ変えながら利益を維持するということをやってきました。やはり株取引は大きいですから、市況がよくないと、いくら多様化しても売上高は落ちてくる。そうすると赤字にならないようにコストを絞っていかなくてはいけない。

多様化することでシステムの必要な処理は増えますが、膨らむものを膨らませないように、新しいものに変えていくのが知恵です。ITは進化が早いですから、あっという間に速いプロセッサーが出てきて、実はコストは下がる。「ムーアの法則」をいかに有効活用するか。06年に引き継いだ時よりも、システムの処理能力は3~4倍になっているのに、システムのコストは半分くらいまで落ちているんです。

〔最も市場が冷え込んだ12年を乗り越え、13年はアベノミクス相場がやってきた。ネット証券各社は不況時代を乗り越えて非常に筋肉質な経営体質が出来上がっている。そのぶん、好況期の利益は従来以上に大きく返ってきた〕

昨年はすごかったですね。特に3、4、5月は恐ろしいくらいで、このままならシステムが足りなくなるのではという勢い。それに比べると、現在は半分くらいに落ち着いています。それでも12年に比べればはるかによい。

東証が発表している売買高のボリュームも1年前にくらべると内訳はずいぶん変わってきています。現在も1日2兆円を超えている状態は続いていますが、個人のシェアはすごく落ちている。東証のシェアで見ると、個人の売買は多い時に33%ほどでしたが、現在は25%ほど。海外投資家を中心に、短期筋のボリュームが大きくなっているんです。

〔せっかく戻りつつあった個人投資家だが、いまは市場を静観している状態だという。まだ投資に目が向いているうちに、どう投資家を繋ぎとめるのか〕

幅広い商品を提供して、どんな状況にでも動ける体制はつくっていますし、それは変わらない。今年は株取引こそ下がっていますが、投資信託は伸び続けています。昨年の12月に駆け込みで売却した個人投資家は、キャッシュを多く持っています。そのお金を株ではなく、投資信託に入れている。これはNISAのおかげもあるかもしれません。

現在の株式市場は、とても難しいと言えます。ですから、いま取引に至らないまでも、すぐ始められるよう常にお客様をサポートしておくことが重要です。

今年2月に就任した楽天証券経済研究所のチーフ・ストラテジスト窪田真之が、デイリーレポートを朝8時に、口座を持つお客様向けに掲載して、わかりやすいメッセージを出しています。経済研究所は05年からありまして、山崎元、今中能夫の2人でしたが、窪田をはじめ投資信託周りで吉井崇裕、篠田尚子等々、リクルーティングしました。とにかく継続的な情報提供を、きちんとやっていきましょうということ。非常に重要な案件だと思います。リーマン・ショックのような大きなイベントがあった時に、いまの市場がどのような状況なのか、会社のメッセージとして伝えられると、お客様の安心感に繋がる。こういったサポートは非常に重要でしょう。

資産形成を前面に打ち出す

〔楽天証券の15周年は、株式売買手数料15周年でもあり、ネット証券が本格的に世に出てきた年数でもある。大手5社に絞られ、互いの手の内は知り尽くされた業界にあって、今後どう戦っていくのか〕

基本的には、楽天グループのお客様に使っていただけるサービスを作っていく。15年経って、ネット証券も特色が分かれてきていると思います。松井証券さんやカブコムさんのように株を中心にして手数料も下げてとしているところと、SBI証券さんやウチのように総合的な路線で預かり資産の増大に注目しているところ。もちろんトレーディングを中心に取引されているお客様もいますので、弊社はトレーディング+資産形成にどれだけ貢献していけるかがポイントになると思います。

象徴的なのがIFA(金融商品仲介業)の事業です。お客様に資産運用のアドバイスを行う金融のプロフェッショナルですから、楽天証券としても資産形成が非常に大きなキーワードとなっていくでしょう。

〔市況が悪い時期が長かったために、投資信託やFX、外国株等、日本株取引以外の金融商品の拡充が進んだ。筋肉質になった半面、これ以上の商品の拡充は限られている〕

お客様に対する商品のラインナップはだいたい揃えきっていると思います。あとは、それぞれの商品での収益力をいかに上げていくか。

年末の株価は「1万8000円」と楠社長。

FXも楽天銀行にホワイトラベルで商品提供を始めたり、我々のプラットフォームは応用が利くものになっています。いわばBtoBtoCですよね。こういう分野にも広げていきたい。ネット証券はシステム基盤がしっかりしているので、ネットとネットならば、受け入れ過程もシンプルに作ることが可能です。我々の既存のプラットフォームを有効活用して、全体のパイを広げていくことを考えています。

また、IFAも、我々の持っているプラットフォーム上で、IFA用の画面提供をして、サービスを使っていただいています。海外からのオーダーフローも取り始めていますし、一部BtoBの事業も入っていく。これまでBtoCだけだったものから、大きく幅は広がっていくでしょう。

〔最後に、ネット証券社長インタビュー恒例の、年末株価の予想をしてもらった〕

1万8000円。これはあり得る話です。消費税率アップの影響で、どこまで株価が下がるか、と世間では言われていますが、すでに消費税は株価に織り込まれていると見るアナリストも多い。4~5月はあまり伸びないかもしれませんが、秋にかけて、日銀も含めて政府のテコ入れが期待されます。景気を持ち上げて、来年の消費税率10%に持っていく。そうすると、年末まで、それほど悪くなることはない。

実際、雇用は増え始めていますし、所得も徐々に切り上がっていく。1万8000円は現実的な数字だと思います。盛り上げていきましょう(笑)。

(構成=本誌・児玉智浩)

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