ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2014年4月号より

住宅情報サイトで上場 業界に新風のオウチーノ
井端純一 オウチーノ社長

井端純一 オウチーノ社長

いばた・じゅんいち 1952年生まれ。同志社大学文学部新聞学(現・メディア学)専攻卒業。77年平和堂入社。その後、リクルート(現・リクルートホールディングス)に転じ、95年賃貸住宅ニュース社(現・CHINTAI)に入社。2001年同社取締役編集部長、03年ホームアドバイザー(現・オウチーノ)を設立、代表取締役社長に就任。著書に『30年後に絶対後悔しない中古マンションの選び方』(河出書房新社)、『10年後に絶対後悔しない中古一戸建ての選び方』(同)など。趣味はテニスとオペラ鑑賞。

2013年末、住宅情報サイトの「O-uccino」を運営するオウチーノが株式上場した。サイトは新築、中古、建築家・デザイナー、リフォームの4分野に及ぶ。創業社長の井端純一氏は、今後の差別化戦略をどう描いているのか――。

過渡期の住宅マーケット

〔これまで、住宅・不動産情報ポータルサイトといえば、「ホームズ」を運営するネクストがよく知られていた。そこへ昨年12月、ネクストと似た業態で東証マザーズに株式上場したオウチーノ(2003年4月設立)が登場、 “家を買う、をギャンブルにしない”を理念に、テレビCM効果もあって注目度が増している。同社の創業者が本稿の井端純一社長。利用者の視点に立つとまず、オウチーノはネクストとどんな違いがあるのかが気になるところだ〕

ネクストさんには敬意を持っていましたし、いいところは見習おうという考え方でした。ただ、スタートした分野が違うんです。ネクストさんは最初、賃貸情報から入っていますが、当社では新築マンション情報が起点です。というのも、私はかつて「週刊CHINTAI」(賃貸住宅ニュース社。現・CHINTAI)の編集長をしていた時期があって、独立した際は、賃貸情報のビジネスで事業を興さないという取り決めがありましたから。それで新築情報サイトから入ったわけです。

プラス、新築マンションのような高い買い物をするのに、従来の不動産屋さんと同じ発想でいいのだろうかという疑問も起業した動機になりました。というのは、日本の不動産業は、特に米国に比して情報を開示しない、できるだけ隠すという風潮が強かったですから。世阿弥の芸論書『風姿花伝』に「秘すれば花」という言葉があるでしょう。隠して秘密にするからこそ美があると。日本の不動産業は、まるでその伝統を守っているがごとしだと思っていたんです。要は、来店客に過大に宣伝して説得し、契約させるんですね。ですから、「週刊CHINTAI」の時代も、そこを不動産屋さんとよく議論したものです。

たとえば、いまでこそ住宅の方位を明確に示すことなど当たり前ですが、15年ほど前はそういう情報を不動産屋さんは出してくれませんでした。理由を尋ねると、「バルコニーが北向きだったら、借りないし買わないじゃないですか。そんな情報はわざわざ出す必要がない」と言うのです。いわば、この業界は隠すことが文化になっていたわけで、北向きかどうかの情報程度で、開示してくれるようになるまでに2年かかりました。そういった風潮は、新築分譲であれ中古売買であれ、あるいは賃貸でも変わりません。

〔では、オウチーノでは新築マンション情報のサービスイン当初、どんな工夫をしたのだろう〕

マンション情報を交通の便や物件概要など7つのカテゴリーテーマに分け、できるだけ詳しくご紹介する。お客様が興味ある物件をウェブ上で探し、熟読してよく理解してもらうことで、ウォンツの高い物件に絞って実際の物件を訪問してもらえるようにしました。要は、売り手と買い手の関係が、より濃密になって距離感を縮められるようにと。そのほうが、売り手にとってもたくさんの物件を紹介する手間が省けるし、買い手も、ある種の押し売り的なことがなくなり、双方にとっていいはずです。そういう点が、10年経ってようやく当たり前になりました。

時代は「中古」にシフト

〔オウチーノでは、新築マンションサイトを皮切りに、中古住宅情報、リフォーム情報、賃貸住宅情報、建築家情報と順次、事業を広げ、ブランド名称も「O-uccino」に統一している。目下、のびしろが大きいと考えて特に注力している事業が2つある。1つが中古住宅マーケットだ〕

当社で中古サイトをオープンさせたのは08年ですが、中古物件も、これまではほとんどチラシと変わらない程度の情報に過ぎませんでした。その後、追い風が吹いたのは、国土交通省が「中古住宅・リフォームトータルプラン」を打ち出したことですね。20年までに中古の市場規模を倍増し20兆円にしようというものです。つまり、国も中古やリフォーム市場の活性化を後押ししてくれる。

遡ってみると、たとえば1968年は、総世帯数が総住宅戸数とほぼイコールだったのです。ということは、理論上は空き家率はほぼゼロ。ところがその10年後の78年には空き家が268万戸も出現しています。さらに08年で756万戸、13年は800万戸以上に達したと言われていて、このままいくと、50年には1550万戸と空き家が倍増してしまう。

一方で世界を見渡してみますと、米国では78%が中古住宅で、英国は89%、フランスでも65%あります。翻って、日本は中古住宅が全体の中で13.5%しかありません。つまり、ほかの先進国ではエコや循環型社会の動きが早くから始まり、日本よりも早かったネット革命で、中古住宅も流通しやすくなっていったのです。そうやって、世界中が住宅ストックを活用していく循環型に入っているのに、日本はこれまで新築物件にフォーカスした優遇税制ばかりでした。その反省にようやく国も気付いたわけですね。

そこで、我々もネットを介してやれることはいろいろやってみようと。中古住宅に関しての情報開示というのは、国からの強制力が相変わらずないので情報の絶対量が少ないからです。Aという物件価格に本当にその価値があるかどうか、買い手にとってはまだまだ情報不足。そこで、当社ではA物件の近隣で過去、似たような物件でどんな取引があったのか、ウェブ上で閲覧できるようにしました。また、実際に購入した場合、想定利回りがどのくらいか、貸した場合の想定賃料はいくらかも出せるようなシステムにしています。

それだけでも、買い手にとって情報は濃くなる。もちろん、古い慣習や固定観念にこだわっている不動産屋さんは情報開示を嫌がります。でも、そういう透明性のある開示をしていくことで、買い手の利益もちろん、売り主にとっても、たとえば5年間も売れない状態のままということがなくなっていくのです。そこをもっともっと見せることで中古流通市場には革命が起こると思っていて、日本の不動産市場の主役も、これからは中古やリフォームに確実に変わります。いまはその過渡期で転換点に立っているのだと思います。もちろん、中古住宅のサイトを立ち上げてからしばらくは、中古物件の情報でお金がもらえるなんてことはありませんでした。ですから、当社もゼロからスタートする以上、ネット上の情報掲載でもお金がもらえる新築のサイトから入っていったわけです。

〔もう1つ、井端氏が太い柱にするとしているのが賃貸ビジネスだ。今後は、リフォームを含めた中古と賃貸をクルマの両輪事業にするという。新築戸数は30年頃には半減するだろうという試算があり、若年層の人口はさらに減っていく。雇用形態として正社員も少なくなっていく過程で、アベノミクスで景気は上向きとはいえ、収入もバブル期のような伸びはとても望めない。そうなれば、新築を買うという文化は自然と少しずつ減っていき、必然的に中古市場にシフトしていく。すでに、新築にこだわらず身の丈に合った中古住宅でよしとする人も増えてきた〕

井端社長は、不動産界の悪習打破を掲げてきた。

これからは一生、賃貸でいいという人も増えていくでしょう。さきほど触れた日本の空き家率の高さは、逆に言えば資源の活用の可能性を非常に秘めていて、地方、たとえば山梨県あたりはいま、空き家率が20%以上もあるんです。それを活用しない手はありません。介護施設の問題を例にとると、猛烈な勢いで高齢化が進む首都圏は将来、介護施設供給は完全に破綻すると言われています。でも地方ならまだ賄える。その時に地方へ移住する、つまり空いている家を安く借りて、ケアを受けることができるのです。

もう1つは、東京都の空き家が75万戸ぐらいあって、23区に絞ると54.5万戸なんですが、この空き家を改修して、高齢者向けのケア付きシェアハウスに転換することを積極的にやればいいと思います。シェアハウスというのは、何も若い人たちだけの文化ではありません。中高年、特にリタイアした60歳以上の人たちがシェアハウスに住み、食回りなどで助け合えば、非常にいいケアとコミュニケーションができる。

大手不動産がそういうニーズにもっと対応したらいいと思いますし、当社のようなウェブサイトでもさらに提唱していくべく、今年の5月に賃貸サイトの大幅なリニューアルを予定していて、高齢者向けのシェアハウス情報も増やしていきます。日本の超高齢社会はある意味、どういう住まい方をしていくべきなのか、世界の〝実験場〟になるといってもいいでしょう。

マイケル・ポーター氏(ハーバード大学経営大学院教授)が、「クリエイティング・シェアード・バリュー」(企業価値と社会価値の両立)を提唱しているでしょう。企業は、もともと社会と対立する存在とみなされてきましたが、これからは地域社会と価値観を共有して利益を上げるべきというのがその主旨ですが、シェアード・バリューという点で、不動産業界はいちばん遅れていたと思います。最近はホーム・インスペクション(住宅診断)も一般的になってきましたし、当社も、少しでも客観性や透明性を高めることに貢献できたらと考えています。

マンションに保育施設を

〔さらに、中古物件や新しい形の賃貸ビジネス以外にも打って出る。ネット完結型ビジネスだけでなく、リアルも必要だというのが井端氏の考え方だ〕

賃貸のシェアハウスを、我々自身が作ることはいまのところないですが、中古においてはリフォームのパイロットショップといいますか、お客様との窓口になるような店舗展開をしようと思っています。ネットは双方向とはいっても、マンツーマンのコミュニケーションではないので、個々人のお客様との関係となると、少し希薄な部分があるんですね。リアルビジネスも手がけることで、見えていなかったものも見えてくるわけで、その意味で店舗展開も積極的にやっていきたい。

具体的に言えば中古物件だけでなく、リフォームのニーズについてもきちんとキャッチアップしていくと。当社にはリフォームのサイトもあるのですが、リアル店舗を設けていくことでリフォームの最新のニーズがわかりますから、サイト再構築など、次のビジネスもやりやすいんです。

もう1つ、保育施設の展開も視野に入れています。私の自宅は中層マンションですが、周囲には高層マンションがいくつも建ち並んでいます。仮に1棟1000戸として、夫婦だけだとしても22000人ですが、聞けばほとんどが共稼ぎ夫婦なんですよ。そこで、こうした高層マンションの空き住戸を1戸か2戸利用して、保育施設を作ったらどうかという提案を始めています。私たちが(保育施設の)免許を取ってやってもいいと。

これから、ますます高層マンションが増えていくでしょう。子供を預けるのも返してもらうのも、自分の住居棟であればこんな便利なことはありません。保育士についても、当社のウェブで募集をかければいい。住宅回りのビジネスというのは、少子高齢化の中でやれることがまだまだたくさんあります。ですから、これからは当社の業態も“生活サービス産業”というステージに入っていくと思います。

〔井端氏は佐渡島(新潟県)出身だが、父親が新聞社に勤務していた関係で、幼少時からかなりの転校を余儀なくされたようで、富良野(北海道)が第2の故郷だという。ちなみに北海道時代のクラスメートで親友の一人に、ジャズビブラフォン奏者として知られる浜田均氏がいる〕

大学は同志社に進学しましたが、実は早稲田も受かっていたんです。叔母が同志社出身でしたし、どちらに進むべきか、我が家の意見は割れましたね。で、同級生たちが面白いことを言ったんです。曰く「井端、京都にはオレたち友人が誰もいないだろ。1人いればみんなで泊まりに行けるんだ」と(笑)。父親が新聞社勤務だった影響でしょうか、同志社では文学部で新聞学を専攻しました。ただ、就活は石油ショックの後だったこともあって苦労しました。当時はどのメディアも採用をストップしていましたから。

私自身の住宅遍歴となると結構、いい加減かもしれませんね(笑)。いま住んでいるマンションは13年前に購入したのですが、当時、まともに見たのは間取り図だけ。編集という仕事の関係上、帰宅が深夜になることもありましたので、会社まで10分足らずという理由だけで買ったようなものです。ですから、物件のパンフレットもロクに見ていませんでした。まさに直感でしたが、自分のこととなると万事、あまり深く考えたり調べたりしないほうです(笑)。ビジネスでも直感力が大事だと思っていますから。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い