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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2014年2月号より

「高級ブランド」に磨き 2×4首位の三井ホーム
市川俊英 三井ホーム社長

市川俊英 三井ホーム社長

いちかわ・としひで 1954年9月27日生まれ。熊本県出身。77年一橋大学商学部卒。同年三井不動産に入社。2003年六本木プロジェクト推進部長。05年執行役員で東京ミッドタウン事業部長、08年常務執行役員となり、09年からアコモデーション事業部長、11年常務取締役、13年6月から現職。趣味は旅行とゴルフ。

分譲マンション同様、戸建て住宅の販売も活況を呈している中、ハウスメーカー大手の一角である三井ホームも攻勢をかけている。2×4住宅で首位の同社は、さらにどう、差別化や成長戦略を進めるのか――。

デザイン提案力に強み

〔あと3カ月あまりに迫った消費税増税。駆け込み需要やその後の反動減は、前回増税時の1997年とは時代背景が違うだけに、単純な比較はできない。ただし、住宅は人生で最も大きな買い物だけにやはり今回、駆け込みは見られた。2013年9月末までに戸建て建築契約を結べば、引き渡しが14年4月以降でも現行の消費税率が適用されるからだ。その効果で大手ハウスメーカーの9月の受注は、10月分まで先食いする形で大きく底上げされた。では、これから先の動向を、三井ホームの市川俊英社長はどう読むのだろう〕

消費税が3%から5%に上がった時のような、山高ければ谷深しという感じの駆け込みと反動減までは至らないと考えています。政府のローン減税などの施策効果もあるとは思いますが、何より、皆さんそんなに焦っておらず、じっくり選ばれる方が増えている印象ですね。むしろ、これから金利が上がるかもしれないというほうを警戒されているし、住宅や家電製品は、増税後のほうが意外と買い場になるケースもありますから。

今後については、景気動向や政府の具体的な成長戦略、あるいは昇給や賞与の多寡といった要因に拠るところが大きいと思いますので、需要をよく見極めていきたい。ただ、一般論で言えばこれ以上金利が下がることは考えにくいし、建築資材も高騰しています。

ですから、東京五輪商戦や震災復興が本格化していく前に、いまのうちに住宅購入をと考えるお客様がいらっしゃってもおかしくないでしょう。土地を買って建てられる場合と、すでに土地はお持ちで建物だけというケースとで考えますと、後者の方は増税前に決断されたほうがローン控除でお得な場合が多いですが、いずれにしても住宅購入の潜在的なニーズは大きいと思います。

〔駆け込みという点では、15年から実施される相続税増税対策もある。古い戸建て住宅を取り壊し、新たに3階建ての集合住宅を建てて1階に家主が住み、2階、3階を賃貸に回すといったケースが明らかに増えてきた。そうすることで土地の評価額が下がるため、負担が大きくなる相続税を軽減できるからだ〕

そういう需要ももちろんあります。ただ、当社の場合は集合住宅的なものよりも、戸建て賃貸の受注が多いですね。ご自身のアセット・マネジメントを考えた時、住宅を切り売りできるかどうかとか、いろいろなことを考えていらっしゃいます。相続税増税に併せて、やっぱり年金不安というのもあると思いますね。家賃収入で年金不安部分を賄おうと考える方も少なくないですから。

〔三井ホームは三井不動産系の上場住宅メーカーで、ツーバイフォー(以下2×4)工法の住宅で首位。設計やデザイン提案力に強みがあり、高品質をセールスポイントにしていることもあって、販売価格帯は同業他社よりもやや高い〕

当社の特徴はフリーのオーダーメード設計ですし、ファンも大勢いらっしゃるので、ここの部分の強化は欠かせないと思っています。同時に、「バーリオ」という商品もありまして、こちらは間取りがある程度決まっている企画型商品で、お値段も比較的リーズナブルなので、特に地方の方のニーズが高い。こうした分野にも引き続き力を入れていきます。

多彩なグループシナジー

〔三井不動産グループとのシナジーも小さくない。三井不動産リフォームや、マンション分譲を中心に手がける三井不動産レジデンシャルとの相互送客などがその代表事例だ〕

「ブランド力に磨きをかける」と市川俊英・三井ホーム社長。

レジデンシャルが手がける建て売り住宅を当社で請け負うとか、狙っている場所に土地があれば買って建てたいといったお客様にはリハウス(=三井のリハウス。運営は三井不動産リアルティ)をご紹介しており、そうした紹介や取次シェアというのは、ハウスメーカーの中では結構、高いほうだと思います。

また、当社のグループに三井デザインテックという会社があります。ここはかつて、当社のインテリア関係や家具販売を手がけていたのですが、いまではオフィスの内装も手がけるほか、最近では三井ガーデンホテル(運営は三井不動産ホテルマネジメント)やリゾートのリフォーム、内装などにもビジネスを広げています。そういう関連性はすごくありますね。ほかにも三井ホームコンポーネントという会社があって、カナダからキッチン設備などの部材を輸入していて、住宅資材や物流といった点でレジデンシャルと一緒に協力、連携してやっています。

当社の主力層はもちろん個人ですが、法人営業の部隊もあって、ほかの三井グループ、たとえば東レさんや三井物産さんなどでもイントラネットにご紹介いただいたりして、そこから興味を持ったと言われる方も多いです。ですから、広く三井グループ全体でご利用、ご購入いただいている。逆に言うと、もしかしたらその分、三菱さんや住友さんのグループ企業にお勤めの方を取り逃しているのかもしれませんが(笑)。

〔三井不動産では、かねてからエコや省エネの観点から「スマートシティ」の開発に注力してきたが、当然、それはグループ企業全体にまたがる。では、三井ホームとしてはほかに、差別化の力点をどこに置いているのだろうか〕

当社固有の性能面で言えば、「スマートブリーズ」、日本語で言うと全館空調があります。要は廊下からお風呂からトイレから、冷暖房、除湿、換気、空気清浄、脱臭、加湿など全てを1台で空調していこうと。これからシニア世代が一層増えてくると、冬の夜中に起きた時にトイレが寒いとか、お風呂上がりの、いわゆる「ヒートショック」を気にされる方も多いでしょう。そこを全館空調システムで防ぎ、快適にお過ごしいただこうというものです。

〔前述したように、三井ホームの最大の特徴は2×4住宅で首位ということ。2×4工法をおさらいしておくと、主に2インチ×4インチの木材を中心に作られた枠組みに、構造用合板を貼りつけたパネルで床・壁・屋根を構成。在来工法では柱や梁などを点で結合するのに対し、2×4では線と面による6面体のモノコック構造で、耐震性や耐火性に優れていることで知られる〕

ロングライフ住宅としての2×4はすごくいい。自分で言うのも何ですが、新築はもちろん、中古住宅を買う場合でも三井ホームの住宅はお値打ちだと思いますよ。阪神淡路大震災(1995年1月17日)の時、当社の住宅は全壊はもちろん、半壊もゼロでしたから。もちろん、東日本大震災の時もそうです。2×4工法が地震に強いということは、かなり認知されてきていると思います。

〔最近、この2×4工法で建てられた、東京・銀座にある三井ホームの「木造ビル」が話題を集めた。都内では初めてとなる“5階建て”の木造ビルだったからだ。2×4の本場といえるカナダでは、ホテルや商業施設などの中層建築ですでに木造建築が日常風景となっている〕

木造建築は柔らかみがあるでしょう。我々も、すでに木造の福祉施設や幼稚園を手がけていますし、木に対する関心は、社会全般に高まっているような気がします。ニューヨークではいま、40階建ての木造高層ビルの計画があるほどなんですよ。

海外では、当社のカナダにある現地法人が、プロダクションビルダーという考え方で、現地のディベロッパーから請け負って、5階建てか6階建てぐらいの、木造のコンドミニアムを建てるお手伝いをしています。木の集合住宅というのも、なかなか味があっていいですよね。カナダですから木材が安いということもあるかもしれませんが、工期が短いのも受けています。

成熟化社会になると、木のやすらぎなどは、なかなかコンクリートの建物では得られませんから。当社ではカナダからの輸入材が多いのですが、それは価格、品質、安定供給という3つの要素がそろっているからです。国産材もその域に達してくれば、もっと使うメーカーが出てくると思いますが、まだ政策的に国産材の活用に光が当たっていませんね。

ミッドタウン開発の目利き

主力商品の1つ「オークリー2」(上)、グッドデザイン賞を受賞した「G-WALL構法」(中)、柏の葉実証実験住宅(下)。

〔ここからは、市川氏の軌跡を辿ってみよう。同氏が三井不動産に入社したのは77年のこと。当時はオイルショック後ということもあり、日本航空が採用をストップするなど、就活環境としては厳しい時代だった〕

大学も小さいところ(一橋大学)でしたから何となく、組織的に仕事をするよりも、個人に任せる裁量が大きいところがいいなと思っていたんですが、たまたま先輩が三井不動産に行っていたのが頭に残っていましてね。当時は、三井不動産の本社はここ(東京・西新宿の三井ビル)だったんです。周囲を眺めると、あの頃はまだ、ほかに高層ビルというと新宿住友ビルと京王プラザホテルぐらいしかありませんでした。

最初の配属は宅地事業部。要は、山を削って宅地開発するので地主さんにハンコをもらったり役所と折衝したりといった仕事です。その後、人事部やビル管理などの仕事に関わり、千葉支店では住宅関係にも携わりましたし、資産マネジメント本部での経験もあります。

〔市川氏にとって一大転機が訪れたのは、三井不動産が1800億円を投じて01年9月に落札した、六本木の防衛庁跡地開発を任せられた時だった。03年には六本木プロジェクト推進部長を務め、07年3月に東京ミッドタウンとしてグランドオープンした後も2年間、ミッドタウン事業を担当している〕

このプロジェクトは、何が何でも成功させないといけないと、社内ではそういう空気だったですね。そこから先は、できない理由を考える暇もなくて、どうしたらできるかだけを考えるのみ。時間との勝負でもありました。1つ幸いだったのは、当時の規制緩和の波に乗れて、ビルの容積をずいぶん増やすことができたことです。

そして一番大きな仕事が、限られた予算の中で、三井不動産らしい街作りをどう実現するかということ。予算の枠ばかり気にしてシャビーなものを作るわけにはいかないですし、美術館といった施設も持たないと、街としての魅力が出ません。さらに魅力を増すためには、いいホテルの誘致も必要です。

そこを考えていく上で、三井不動産本体が、すでに大崎(東京・品川区)での再開発を手がけ、日本橋三井タワーの建設やマンダリンオリエンタルホテルの誘致など、複合再開発の経験値がたまっていく、あるいは醸成されていく過程で生まれた六本木のプロジェクトでしたから、ヒントがもらえました。

最も腐心した点は、無機質ではない心地よい空間作りということで、そこは強く意識しました。どこにお金をかけるか、どう見せるか、どうブランドを作りこんでいくかを、同時並行的にやっていったのです。三井ホームの場合は個人がお客様ですが、住宅展示場に来られた時の見せ方という点では、ミッドタウンの経験が役に立っていると思います。

〔市川氏のそうした“目利き”は、ミッドタウン事業担当から離れ、09年から4年間担当した、アコモデーション事業部でさらに培われたといえる。同事業部は、主にホテルやリゾートビジネスを手がけているのだが、ミッドタウンが開業した07年は、この事業分野でも大きな転機だった。同年、帝国ホテルに出資して三井不動産が筆頭株主になる一方で、ヤマハが持っていたキロロ、国際鳥羽ホテル、合歓の郷、はいむるぶしといったリゾートを買収したからだ〕

アコモデーション事業を担当した4年間で、海外の高級ホテル、高級リゾートもずいぶん見させてもらいましたし、体感させてももらいました。三井ホームも「高級」という点をセールスポイントにしていますから、たとえば住宅展示場のモデルハウスで、エクステリア面で手を抜いてはダメだよと、しつらえなどもうるさく言っています。お客様には、モデルハウスで三井ホームを体感していただき、具体的に住まいをイメージしていただくので、ここでの時間をどうお過ごしいただくかが生命線ですから。

慣れてくると、営業マンはだんだん、モデルハウスを接客場所のように考えてしまうんですね。もちろん営業の場でもあるんですが、三井ホームの家をどう体感していただくかが腕の見せどころなわけです。

当社は70年代後半に、それまでとは違った本物の洋風住宅ということでデザインも評価され、一世を風靡してそれなりのポジションを取りました。三井ホームのそうした輝きを、もう一度取り戻していくのが私のミッションだと思っています。

〔三井ホームにとって、14年は創業40周年という節目の年になる。同業者との差別化という点で、高級路線というのは何度か触れたが、逆に言えば、同社の主力顧客層はそれだけ目が肥えたシビアな層ともいえる〕

家づくりにおいても、時計や洋服のようにご自分のライフスタイルを体現したいという方が増えてきています。そういうこだわりを持ったお客様は、海外で過ごされた方、あるいは駐在経験なども豊富な方が多くて、確実に目が肥えていらっしゃる。そうした方のニーズはこれからもっと増えるでしょうから、我々も勉強しないとどんどんお客様に追い越されてしまいますね。

たとえば、海外の何とかホテルのロビー風、あるいはあのホテルのあの部屋のインテリアをとご相談いただいた時に、担当者がそこでさっと答えられるかどうか。そこで、三井ホームの真価が問われるのです。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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