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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2013年7月号より

5年ぶりの「再登板」“らしさ”復活へ大改革
宮島和美 ファンケル社長

宮島和美 ファンケル社長

みやじま・かずよし 1950年1月28日生まれ。神奈川県出身。73年成城大学文芸学部卒。ダイエー在籍時代に同社の創業者、中内功の側近として秘書室長を20年務めた。常務執行役員を経て、2001年1月、義兄の池森賢二氏が1980年に創業したファンケルに転じ、2001年6月取締役社長室長。07年から1年間社長を務め、08年より会長。今年4月1日、池森氏が会長に復帰したのと同時に、自らも社長に返り咲いた。

資生堂にヤマダ電機、そして本稿のファンケル。共通点は会長が社長にカムバックしたことだ。ファンケルの場合、創業者も名誉会長から会長兼CEOに復帰したことで、会長─社長の二人三脚経営となる。5年ぶりの再登板となった宮島和美社長が、復帰の経緯やファンケルらしさ復活への意気込みを語った。

矢継ぎ早に改革を断行

〔通販主力の無添加化粧品メーカーとして知られるファンケル。同社は今年に入って社長交代、カンパニー制導入、さらに来年から持ち株会社へ移行する計画も表明するなど、矢継ぎ早の経営改革を打ち出した。創業者の池森賢二名誉会長が会長(=CEO)に、義弟の宮島和美会長が社長(=COO)にそれぞれ復帰するというイレギュラーな人事だったが、宮島氏にとって社長職は2008年以来5年ぶりのこと(前回は07年からの1年)。今回の改革案作成、社内外へのアナウンスがかなり突貫工事だったことを、同氏はこう振り返る〕

実際、作業は特急だったですよ(笑)。まず、1月15日の取締役会で池森が名誉会長のまま執行役員に就いて、4月から会長、私が社長に復帰ということを決めました。さらに、2月14日の役員会でカンパニー制導入を決めるんですが、そこまで1カ月しかない。普通は事務方が作った素案を我々経営陣が見て、という段取りですが、何しろ時間がなかったので、素案も我々で作りましたからね。素案を預かって整理した人事部は、大変だったと思います。

カンパニー制は3月1日から実施しています。理由は、4月までの1カ月間、助走期間が欲しかったからです。その間の3月12日の役員会で、来年4月からの持ち株会社制への移行検討も発表しました。持ち株会社の前段階としてカンパニー制を導入したわけですから、なるべく早く実施したかったのです。化粧品のビューティカンパニー、サプリメントなどの健康食品を手がけるヘルスカンパニーは事業会社として分社化し、180店近い直営店舗を、化粧品とサプリメントで分けることも想定しています。

〔それにしても、大がかりな組織改革やトップ人事をなぜ、ここまで急がなければいけなかったのか。宮島氏が、池森氏に呼ばれて話し合いの場を持ったのは、昨年12月のことだったという〕

実は昨年、化粧品事業で「第2の創業」といえるほどの大きな変革を行いました。でも、数字の面では思ったほど新規顧客が取れなかったのです。商品デザインがお洒落になり過ぎて、従来のお客様から「商品パッケージの表示の文字が小さくなって見にくい」といったご批判もいただきました。加えて、新しい化粧品に注力したことで、それまでよく売れていたマイルド・クレンジング・オイルの広告投下量を、少し落とさざるを得なくなった。

スピード経営を説く宮島氏。

さらに、サプリメントのほうは今年を再構築の年にしていたものですから、他社との競合も増えて、昨年は若干苦戦を強いられました。そうした状況の中で、池森が「オレがもう一回立て直しをする」と宣言したんです。とはいえ池森も75歳ですから、考え方としては池森がCEOとして大方針を出し、それを私が忠実に実行していく体制を組んだということです。変えなくてはいけないもの、逆に変えてはいけないのに変えてしまったものをもう一度、整理し直し、元に戻さないといけません。

具体的に言えば昨年、化粧品をモデルチェンジして、非常にいいものができたんです。中身には自信がありましたし、有名なデザイナーも起用しました。でも、待てよと。このモデルチェンジは本当にお客様視点でやったのかどうか。スタイリッシュさを追求し過ぎて、無添加という表現を「純化」に変えてしまったりもしました。無添加という表現のほうが、ストレートでわかりやすいですよね。

化粧品の容器も全部白にしてしまって、統一感が出た半面、どのジャンルの商品なのか、わかりにくくなりました。パッケージの細かい字では読みにくい年配の方も、当社のお客様には多いんです。だから、無添加という言葉を変える必要があったのか、容器も1色に統一する必要があったのかということを素直に反省してみようと。

「無添加」を再度前面に

〔いまでは日常風景化した純粋持ち株会社だが、金融ビッグバンによって1997年に解禁されて先駆けたのは、99年に誕生した大和証券グループ本社である。ただし、これは上場企業の範疇でのこと。この枠を外すと、第1号は宮島氏の古巣でもあるダイエーのグループ会社だった。宮島氏は01年にファンケルに転じるまで、ダイエー創業者・中内功の側近として秘書室長を20年務めている。ダイエーグループだった神戸セントラル開発が商号変更して同年、持ち株会社のダイエーホールディングコーポレーションを設立した。が、01年にダイエーの経営が悪化したことを受け、解散している〕

私見では、持ち株会社というのは売り上げが1兆円を超えるような大企業が、組織の改編や合併をスムーズにするためにやるものだと思っていました。でも、いろんな事例を見ていると、当社ぐらいの規模(売り上げで約830億円)でも、事業のスピード感を考えたら持ち株会社への移行は悪くないと思うようになったんです。ともあれ、持ち株会社化で、スピード感を持ってファンケルらしさを取り戻したい。

では、ファンケルらしさとは何か。お客様視点やチャレンジ精神などいろいろありますが、ベンチャーとはいえなくなったこともあり、チャレンジという面が若干落ちていたという反省があります。安定志向と言い換えてもいいですが、もう一度原点に戻り、“らしさ”を取り戻さなければいけないと考えました。

とはいえ、化粧品にしてもサプリメントにしても競合の社数自体が多く、ビールメーカー4社のうち3社がサプリメントを手がけています。化粧品も、富士フイルム、サントリー、味の素など異業種大企業からの参入もあって、まさに戦国時代。その中でどう戦うのかというと、当社の最大の特徴は無添加商品にあります。無添加の技術は創業以来33年間、もう愚直なほどやってきましたから、そこは他社よりも強い。だからもう一度、無添加技術を大事に育て、進化させるということですね。

〔持ち株会社への移行は、合併や買収などがスムーズに行いやすくなるというメリットがある。ただし、買収が入札方式で進められると、資金力で勝る大企業にさらわれてしまうケースが出てくる。最終的にアサヒビール(当時。現・アサヒグループホールディングス)が落札した、ベビーフードなどを手がける和光堂(もともとは第一三共グループ)の買収(06年)もその一例だった〕

「ファンケルらしさ」復活を掲げる宮島和美社長。

和光堂の買収案件では、ウチとしてはギリギリの額を出し、入札1回目は通ったものの2回目で落ちてしまいました。(アサヒビールでは)相手にならないです。500億円強の買収額なんて、とてもとても当社では出せないですから。入札者みんなが考えていたのは、和光堂の主力事業であるベビーフードとおむつっていうのは、老人向け用に転用していけるんじゃないかということでした。要は、ユニ・チャームのような事業展開です。

当社は無借金を貫いています。池森は以前から「会社を買う際も借金は許さない。自分の身の丈で買わないといけない」と言ってきました。過去に一度、事業に失敗して借金を返すのにとても苦労した経験があるからです。だから以後、絶対に無借金経営は崩さない。研究所や工場などの建設で、どうしても必要に迫られた資金ならいい。でも、それ以外の拡大のためのМ&A資金とか、そういう類での借金は絶対ダメですね。

借金はもちろん、池森は資金の運用でさえ、よしとしません。一時期、アナリストから「会社としてキャッシュを寝かせておくのは無責任。いろんな投資をして増やすべきだ」とご批判もいただきましたが、これも池森に言わせると、「(運用しないで)どこが悪いのか、何かあったら銀行はどうしてくれるんだ」というスタンスです。化粧品で万一、事故でも起こしたらすぐにお金が要るだろうと。でも、リーマン・ショック以後はそういう指摘もなくなりましたね(笑)。

海外展開とネット通販

〔らしさ復活のため、販売最前線へのインセンティブも必要と考えたファンケルでは、人事や組織改革を大きく動かそうとしていた最中の3月8日、店舗で働く契約社員1000人の賃金を、平均9.6%、最大で月額2万円上げると発表した〕

こうした施策は、創業者(池森氏)でなければなかなかできません。契約社員だと少し給与水準が低かったのは事実で、それが定着率の悪さになっていたのも確かです。でも、店舗でお客様と接している最前線のスタッフなわけで、労働条件を良くして質のいい人に残ってもらわなければいけません。

池森に言わせれば、「今回の賃上げは、いわば“奨学金”だ」と。業績が良くなってから上げるのが普通でしょうけれども、先行投資するというわけです。それに、店舗の第一線でやってくれてきた人たちは結構、勤務時間が長くて、シフトの最後の人だと、店を出るのが夜の10時を過ぎてしまいます。そこで、こうしたスタッフたちにも報いようと考えました。

〔海外展開、とりわけアジアマーケットでの今後も注目されるが、4月30日、ファンケルは特損計上に伴って業績予想を修正した。中国販売代理店のファンタスティック・ナチュラル・コスメティクス・チャイナ・リミテッド株式の減損処理、および連結子会社のアテニアがテスト展開していた、中国での店舗事業からの撤退に伴う関係会社整理損などだ〕

持ち株会社化すると、中国で化粧品事業の再認可を取らなければいけない。中国は、ただでさえ化粧品で認可を取るのが大変な国ですから。もっと細かく言えば、ウチのマイルド・クレンジング・オイルは4年に1回、申請を出すんですけど、前回通ったから今回も通るという保証はないんですよね。中国では現地の化粧品販売チェーンのセフォラ経由で申請していますが、欧米のように何かの基準があって、その基準から外れたらダメとかではなく、中国では認可の判断基準がよくわからない部分もありますから。

加えて、2年前の東日本大震災と原発事故によって、一昨年4月から日本の食品は一切、中国に輸出できなくなりました。我々の健康食品も、昨年の2月までは出せなかったんです。売り上げのボリュームとしても結構大きかったし、これは痛かったですね。台湾やシンガポールでも事業展開していますけど、中国は市場の規模が違いますから。

〔インターネット通販の伸びが加速しているが、それは化粧品や健康食品も同じこと。もともと通販で伸びてきたファンケルでは今後、リアルの店舗とバーチャルをどう使い分けていくのだろうか。化粧品最大手の資生堂でも、このネット販売とチェインストアとの棲み分けの解がなかなか見つけられず、店舗との軋轢もあって最後は社長交代にまで発展したのだが――〕

ご注文をいただくうちの約5割は、いまではインターネット経由です。お客様がネット通販の志向を強めている以上、ITのシステムをさらに強固なものにして、もっと伸ばしていかないといけません。

ただ忘れてはいけないのは、お客様は2つの側面を持っているということですね。たとえば、当社は「ESPOIR」(エスポワール)という情報誌を出しているんですが、注文はネットで出すけど、紙媒体もとっておきたいという人もいます。そういう2面性があることを見落としてはいけない。読まないけど、雑誌自体はとっておくのを楽しみにしているお客様もいるということ。ネットでご注文の方には雑誌は送ってないんですけど、「送ってほしい」という声が多いんです。

一方で、高校生ぐらいからウチの商品をお使いいただいている20代の女性は、いわばロイヤルカスタマーです。こういうお客様は、すでに頭の中に商品ラインナップがインプットされているので、電車で移動中、スマートフォンでサクサクっと注文されるんですね。このように、世代差も個人差もあるニーズやウォンツを、我々がどのくらい丁寧に汲み上げていけるかに、ビジネスの成否がかかっていると思います。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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