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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2013年3月号より

「商業施設の三井」担うグループの孝行息子
安藤 正(ららぽーとマネジメント社長)

安藤 正(ららぽーとマネジメント社長)

あんどう・ただし 1953年12月10日生まれ。大阪府出身。77年東京大学法学部卒業。同年三井不動産入社。住宅第一事業部を皮切りに、福岡支店、ビルディング事業本部、総務部、人事部などでの勤務を経て、2002年ビルディング本部業務推進室長、04年にららぽーと(現・ららぽーとマネジメント)常務兼SC運営本部長、07年副社長兼三井不動産グループ執行役員、09年4月から現職。

「土地のデパート」といえる三井不動産にあって、同社の強みで収益エンジンにもなっているのが商業施設事業だ。そして、同事業の運営を担っているのがグループのららぽーとマネジメントである。百貨店も有力テナント誘致に走るいまの時代、同社は大手流通業もベンチマークする存在になったのか――。

ライバルにはない強み

〔三井不動産が、三菱地所や住友不動産に比べて圧倒している事業、それが商業施設の賃貸ビジネスだ。12施設ある三井アウトレットパークをはじめ、大型ショッピングセンター(以下SC)のららぽーと、都心型の商業施設などを含めて計59物件。
昨年は、4月に木更津(千葉県)でアウトレット、お台場(東京・港区)でダイバーシティ東京プラザを相次いで開業させ、話題になった〕

アウトレットの場合は商圏が非常に広いので、首都圏ではそんなにたくさんやれるものではないんですが、木更津は残されたマーケットでは適地といえるのではないかと。皆さん、やや遠いイメージがあるかもしれませんが、アクアラインがあるので、ここ(東京・中央区日本橋浜町の本社)からだとクルマで40分ぐらいで行けます。

オープン当時は半分強が地元の千葉のお客様でしたが、いまは東京や神奈川方面から来られる方が増えていますね。ですから、口コミなどでさらに認知されていくでしょう。

ダイバーシティのあるお台場は、いままではなかなか厳しい消費マーケットだと言われてました。場所柄、冬の間にどれだけ来ていただけるかが勝負だと思っています。

〔アウトレットに関して言えば三菱地所陣営にも、御殿場プレミアムアウトレットなどを展開するチェルシー・ジャパンという運営会社があり、三井アウトレットパークと双璧の存在になっている。両者の違いはどのあたりにあるのだろうか〕

物理的な点で言えば、あちらは平屋のオープンモールであること、それに高速道路のインターチェンジに近いことでしょうね。郊外型で交通の便がいいところという点からすれば、米国的な考え方でしょう。建物のハード面も共通化している。当社の場合も、三井アウトレットパーク○△という共通シリーズでは出していますけど、建物はそれぞれで個性が違います。テナントのMD(マーチャンダイジング)はそんなに大きくは変わっていませんから、違いはそこでしょうね。

〔ららぽーとマネジメントは今年4月、社名を三井不動産商業マネジメントに変更する。三井アウトレットパークという名称統一に続き、「三井」の名を冠することで、よりグループシナジーを高めようということらしい〕

社名については、もともと前身が船橋ヘルスセンターで、1981年に船橋市(千葉県)にららぽーとを作ったことから、社名を施設名と一緒(84年~)にしました。それはそれでよかったのです。その後、スキードームのザウスやワイルドブルーヨコハマの運営も手がけ、特に2004年あたりからどんどん商業施設が増えていきました。その過程で、我々は商業施設の運営マネジメント会社になるんだという意識を強めようと考えたのです。

それまでは、不動産の色彩もあって住宅を売っていた時期もあるんですが、マネジメント会社に特化しようと。そこで現社名に変えたのが07年でした。ところが、いまでは商業施設の数としては、ららぽーと以外の物件のほうが圧倒的に多いわけです。プラス、やはり三井不動産のバリューチェーンの会社であるということを名実ともに打ち出したいという、この2点が大きいですね。

〔現在、三井アウトレットパークトータルのテナント総売上でいうと、前期(12年3月期)で2171億円、今期は前述の木更津の施設分がオンされるので、2500億円近くまで伸びそうだ。この金額はざっくり言えば、小売業の個店別ではトップの売り上げを誇る、伊勢丹新宿本店に匹敵する。また、商業施設トータルの総売上では前期、7360億円(家賃収入は1315億円)。この数字も、髙島屋のそれに近い水準である。
同社のビジネスモデルは、ルミネやパルコといった商業テナントビルや、イオンが展開するSCの業態が混在したイメージだが、百貨店も有力専門店誘致にシフトする動きを強めている。それだけに、三井不動産流の表現をすれば施設の「経年優化」を図り、テナント入れ替えなど、常に施設の「鮮度」に目配りしなければいけない〕

思ったように売り上げが上がらないという点でお互いに認識していれば、テナントもプロですから、「しょうがないですね」ということで退店になるんですが、「いや、このくらいの売り上げでいいんですよ」と言われた場合、どう説得していくかは非常に難しいものがあります。

というのは、個々のテナントの採算や売り上げだけを考えると難しいケースがあるからです。施設全体の売り上げをどう底上げするかという視点に立てば、AとBのテナントが似ていると、どちらかに業態を変えていただく、あるいは違うテナントに入っていただくこともあります。そうなると、個々のテナントにとっては納得感がない場合もあるかもしれません。そこを、どう説得するかは腕の見せ所ですね。

〔テナントの入れ替え時期は大型商業施設の場合、開業後6年から7年ぐらいが1つのメドになってきそうだ。たとえば、05年秋から06年春にかけては、ラゾーナ川崎プラザ、アーバンドックららぽーと豊洲(東京・江東区)、ららぽーと柏の葉(千葉県)、ららぽーと横浜と、半年余りの間に4つの大型商業施設がオープンしている。いずれも、店舗面積が6万~9万平方㍍もある巨大なSCだ。この「4大物件」が順次、リニューアルのフェーズに入ってきているといっていい〕

ららぽーと横浜(上)とダイバーシティ東京プラザ(下)。

アウトレットの場合は割とアパレルが中心ですので、いいかどうかは別にして、テナントの幅が狭く、大型モールよりも均質化しているかもしれません。ですから、アウトレットと大型モールのリニューアルとでは、また違った意味合いが出てくるのかなと思いますね。物件の個性やマーケットもそれぞれで違いますから。オープン後の、最初の大きな契約更改が川崎や豊洲の物件ですね。開業して初めての更改までに6年あるとすると、予想外に売り上げが上がった、逆にターゲット層が思っていたところと少し違ったとか、多少のチューニングで(テナントの)入れ替えは起こります。

どう大きな利益を出すかを考えますと、短期的に言えばいま流行っていて、なおかつ賃料が一番高く取れるテナントがいいのですが、賃料が高く取れなくても、1つの館として非常に必要なMD、あるいは機能というものがあります。そのせめぎ合いの中で、どのテナントを選定しようかということが大きな課題です。

柏の葉と横浜の物件もこの4月に契約更改になります。たとえば、柏の葉の物件周辺は、開業時よりもマンションが相当数、建ちましたし、省エネのスマートシティとしてのポテンシャルも高くなっています。その点をどうアピールしていくかを頭で描きながらテナント入れ替えを行っていくことになりますね。

〔昨年末から年明けは、安倍政権の経済政策への「期待」から円安株高になったが、景気向上はまだまだだ。実際、大手小売業では冷え込む消費を喚起しようと躍起で、いまだデフレ要因になる値下げ攻勢でしのがざるを得ない状況である〕

マクロで言われているほどは、消費の冷え込みは感じていません。漠然とした不安はもちろんあるのですが、当社の施設に関しては、まだ堅調に推移しているほうだと思います。むしろ、ネット通販が非常に大きくなってきているとか、そういう競争激化要因のほうが怖いですよ。SCというリアル店舗が、バーチャルモールの台頭の中でどうしていくべきかと。

〔ただ、ららぽーとやアウトレットは買い回りだけでなく、施設内を回遊するという時間消費型でもあるだけに、ネット通販にはない利点もある。また、ネット通販の急伸に伴い、楽天やアマゾン向けを中心に物流センターの開設ラッシュの様相を呈しているが、三井不動産本体も物流施設の展開にはかなり力を入れていることから、グループ全体で見ればネット通販の影響は軽減されるのではないか〕

グループの話で言えばそうなんでしょうけど、私の守備範囲では(商機が)減る危機感はありますよ。ただ、言われるように時間をどうやって過ごしていただくかにも主眼を置き、そこで我々は勝負していかなければいけない。快適な空間をどう提供し、どう施設内で過ごしていただいて購買に結びつけるかです。

そう言ってしまえば簡単なんですが、朝の立礼から始まって接客をどうしようかという点も、300のテナントがあればそれぞれ全部違うわけですから。施設内のサービス、接客、清潔感も含めて、お客様に「この休日は、ららぽでも行かない?」と言われるような愛される施設、モールにしていけば、とりあえずはネット通販にも対抗できるのかなと。

店舗のショーウインドー化も進むと言われますが、そうならないようにするためにも、施設の鮮度管理や快適性の追求が大事ですね。甘いのかもしれませんが、ネット通販の流れは、消費全体のパイが10とすれば2ぐらいまでなのかなと思いますけど。洋服だって、実際に手にとって感触を確かめてから買う方が、これからも大半でしょう。洋服の品番をケータイやスマホで写真を撮って家に持ち帰り、それからネットで注文という人がどこまで増えるか、懐疑的です。ただ、決して油断はできないとは思っていますが。

来年以降再び開業増へ

〔安藤氏は1976年に就職活動をし、翌77年に三井不動産に入社しているが、当時はオイル・ショック後の就職難ということもあり、あまり企業を選べる時代ではなかったという〕

「海外でも通用する人材を育成したい」と安藤氏。

ですから、三井不動産に決まったのも何となくでしたね(笑)。本社の住宅第一事業部が最初の配属で、その後、84年から2年間、筑波大学大学院に行きました。会社持ちで“国内留学”という制度を利用したのです。復職してからは、ビルディング事業本部に在籍し、ビルの管理会社で現在の三井不動産ビルマネジメントに5年間出向。本社に戻って人事部を経験し、それからまたビルディング本部に行って、04年からららぽーとに出向(社長は09年から)でいまに至っています。

〔商業施設の運営ビジネスに初めて携わるようになって、安藤氏は住宅やオフィスビルのそれに比べ、かなり勝手が違うことを実感することとなった。特に、同氏がららぽーとマネジメントに出向してからは、開業ラッシュだったから、その思いはなおさらだ〕

同じ不動産の賃貸という意味では、ビル賃貸との比較がわかりやすいと思うんですが、オフィスビルでは、テナントはお客様なんです。商業施設の場合、賃料をいただいているのでテナントもお客様とはいえるんですが、それ以上にパートナー、いわば共同事業者なんですね。その商業施設でどう連携し、いかにお客様に来ていただくかですから。テナントの入れ替えなんて、オフィスビルではまず考えられないことです。

それと、お客様も老若男女、いろんな方が来場されますから、そこも決定的に違う。安全に関しても、オフィスビルと商業施設の安全とでは、点検の視点を変えないと、大変な過ちにつながりますし。同じ不動産賃貸でもこれだけ違うのかということは思い知らされましたね。

〔前述したように、06年前後に大型施設の開業ラッシュを経験しているが、14年以降もまた、続々と注目物件の開業が控えている。三井不動産のお膝元である日本橋室町エリアでは、商業施設を含む新たな複合高層ビル、東京都では初めてとなるららぽーと立川、さらに大阪の万博跡地再開発に伴う商業施設などがそれだ〕

半年間で4大物件が次々とオープンした経験を生かして、当時よりも運営ノウハウの深さや厚みが増してきています。06年の大量供給の頃は正直、本当にどうしようかと思いましたけどね(笑)。

施設だけでなく、運営手法も経年優化にならないといけない。当たり前なんですが、運営はややもすると守りに入ってしまい、現状維持に安易に行きがちになってしまいますから。
来年以降の大型商業施設の開業も、06年当時と同じようなやり方をしていたのではダメです。また、商業施設物件の増加数に比例して、社員数も同じように増える一方でも困ります。そこも、経営者としては腕が試されるところですね。

(構成=本誌編集長・河野圭祐)

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