製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。
2017年10月号より
企業向けソフトウェアやサービスの開発・販売をするインフォテリア。主力製品のデータ連携ソフト「ASTERIA」に続く2本目の柱として期待されているのが「Handbook」だ。働き方改革の潮流と相俟って、俄然注目が高まってきた。
近年は「働き方改革」を合言葉に、働き方の多様化が受け入れられるようになってきた。決められたオフィスで勤務するのではなく、ICT(情報通信技術)を駆使して、時間や場所に縛られない「モバイルワーク」や「在宅勤務」といった雇用のスタイルも増えてきている。
こうしたモバイルワークに欠かせないのが、ノートPCやスマートフォン、タブレット端末といったモバイル端末だが、ただネットに繋がっているだけでは仕事がはかどらない。そこで注目を集めているのが、インフォテリアが提供するソフトウェアの「Handbook」だ。
Handbookは2009年に出荷が開始されたソフトウェアで、文書や表計算、プレゼンテーションから画像、音声、動画まであらゆる電子ファイルをクラウドに保存し、指先めくり表示ができるようにするというもの。スマートフォンからスタートしたソフトだが、企業ではタブレット端末での活用が多く、どこでもいつでもドキュメントを開くことができることから、働き方改革の機能強化として採用するケースが増えている。
またこのソフトを会議やプレゼンに活用し、資料を共有することでペーパーレス化を進めている企業も多い。大手金融機関や製造業をはじめ、大学等の教育機関にも導入が進んでおり、モバイルコンテンツ管理市場ではシェアトップを獲得。導入件数は1300件に達している。今夏8月30日には新バージョンの「Handbook 5」の提供を開始する予定で、9月リリース予定のiOS11へも対応するという。
開発責任者で執行役員副社長の北原淑行氏はHandbook 5について次のように語る。
「9月にiOS11に上がりますが、今回はiPadがかなり強化されています。タブレットでもできることを増やそうという傾向です。そのなかにマルチタスクがあります。これまでのiPhoneやiPadは1つのアプリだけで使うことが多かったと思いますが、画面の右側にチャット画面を出し、左側にドキュメントを開きながら話をすることが、iPadでもできるようになります。そのためにはHandbookもマルチタスクにしていかなければならないし、そういうものを引き出すデザインに直していかなくてはいけません。今回はデザイン含めUIを全体的に見直しました」
Handbookシリーズの特徴として、次々と登場する新デバイスに対して迅速に対応するスピードがある。今回の新バージョンの新機能には360度画像・動画の再生機能とともに、マイクロソフトのMR(合成仮想現実)デバイス「HoloLens」への対応も積極的に行っている。
「PCというのは机に置いて動かすものという意味があるので、置く場所が必要です。タブレットやスマートフォンになって、手に持って操作する、あるいは片手で操作するようになりました。MRでは目のところにレンズをつけることでオブジェクトを見る形にしますから、両手が空きます。コンピューティング自身が場所を選ばなくなってきました。Handbookでは、MRでマニュアルなどを映しながら、両手を使って作業することが可能になります。その意味ではよりフィールドワーカーの支援に使うことができるわけです。MRというとハードルが高く見えますが、まずはマニュアルを読んだり、チェックリストを確認するとか、基礎的なところから始められるので、Handbookは役に立つと思います」
新技術にも対応
今後はVR(仮想現実)、AR(拡張現実)といった新技術もHandbookに導入する予定だ。
「iOS11でもAR(拡張現実)の機能を入れてきていますので、iPadで使うHandbookでも機能を加えたい。ARの場合は現実に見ているものと比較しながら見たり、画像と重ね合わせられるというのは、作業の正確性や効率性でメリットになると思います。今回のバージョンで360度動画と静止画をサポートしましたが、現実と重ね合わせることがまだできないので、次のバージョンでは、Handbookのなかでどのように表現できるのかを考えていかなくてはいけません」
近年、アプリは機能を特化した専門性の高いソフトウェアになっている。風潮に反して、北原氏はなんでもできるソフトウェアとしてのポジションを確立しようとしている。
HoloLensにも対応。マニュアルを見ながら両手で作業することもできる。
右はHoloLensで観たHandbookの画面。
「できるだけ水平方向に使えるソフトウェアとして、みなさんに使っていただける製品を開発していきたい。そしてそれがワールドワイドに使える製品になる。エクセルを使っている方は多いと思いますが、もともとエクセルは表計算ソフトです。しかし、エクセルでプレゼン資料をつくる人もいれば、マス目のようにして自分なりに使う人もいて、あらゆる使われ方をしています。
確かに単機能のアプリは使いやすいのですが、それぞれの機能についてアプリをたくさん入れなくてはならず、アイコンばかり増えて逆に使われなくなってしまいます。エクセルのように、ある程度中庸なところで、共通していろんなことができるソフトがあればそれを使う。その共通項になる部分をHandbookなり、我々の製品で対応したいですね」
新バージョンのUIは、4月にインフォテリアが買収した英国のデザイン戦略コンサルティング企業と共同開発。Handbook海外版と近い仕様となっており、世界戦略を見据えたつくりになっている。どこでもいつでも働き方に合わせて活用できる便利さは世界共通。まずは導入件数2000件を視野にさらなる飛躍を目指している。