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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2017年6月号より

マニアユーザーに応えるBTO-PC こだわりとゲームPCの広がり

百花繚乱を極めた日本家電メーカーによるPC産業も今や昔。撤退を続ける日本メーカーを横目に、マニアの需要に応えているのがBTOメーカーのサードウェーブデジノスだ。そんな同社のものづくりの極意とは?

残るのはBTOだけ

4月1日、将棋のプロ棋士とコンピューターソフトが勝負する第2期電王戦二番勝負で、佐藤天彦名人が破れ話題となった。現役のタイトル保持者(名人位)が公式の場でコンピューターソフトに敗れたのは、初めてのことだった。昨年の囲碁に続き、将棋のトップ棋士までもが敗れるほどに、ソフトやAIの進化が進んでいることを印象づけた。

そんな電王戦で使われているのがサードウェーブデジノス(ドスパラ)のゲームPC「ガリレア(GALLERIA)」というマシンだ。

「電王戦で使ったモデルは演算処理で高性能なPCで、短い時間でより多くの計算ができるシステムになっています。見た感じはゆったりと動いているように見えますが、裏ではものすごい勢いで連続的な計算を行っています」

尾崎さん(上)と野口さん(下)。

こう話すのはサードウェーブデジノスゲーミング事業部部長の野口基督さん。

サードウェーブデジノス(ドスパラ)という社名を聞いてピンときた方はかなりのPC通。同社は、パナソニック、東芝、NECやデル、レノボといった電機メーカーやPCメーカーと違うBTOメーカーなのだ。

BTOとは「Build to Order」つまり受託生産という意味だ。具体的には、電機メーカーやPCメーカーのPCは、メーカーによって決められたパーツで構成されているが、BTOはメモリーやHDDの容量、グラフィックボード搭載の有無やその種類、もっと言えばCPUまでもが自分の好きなもので構成することができる。いわば顧客の要望に合わせたオーダーメードなPCを組み立て、販売しているメーカーというわけ。

一時、日本の電機メーカーはほぼすべてがPCの製造販売を行っていた。しかし、徐々にPC事業から撤退が進み、ついには日本のPCを牽引してきたNECも中国のレノボと設立した合弁会社の株式をレノボに売却し撤退。富士通もパソコン事業部をレノボ傘下に移すことを決定している。いまや国産メーカーとしてはパナソニックと本体から切り離された東芝ぐらいなもの。しかも、大手メーカーのPCはほとんどが中国で組み立てられた「メイドイン・チャイナ」だ。

一方、サードウェーブデジノスのPCはすべて神奈川県綾瀬市で組み立てられた「メイドイン・ジャパン」と、日本製PCはもはやBTO-PCだけになっている。

本当のユーザー視点

こうしたBTO-PCを使っている人とはどういう人か。それはPCゲームや画像、映像を扱うクリエーターというハイスペックな機能を求めるマニアなユーザー層が中心だ。だからこそ、求められる要求も高い。

1台1台丁寧に組み立てを行っている工場内。

同社の会長である尾崎健介さんはこう話す。

「私たちBTOメーカーは、それぞれの使用目的に合わせ、それに対応できる性能を持ったPCをきちんと販売していかなくてはなりません。具体的には、一般的なメーカーPCでは1分近くかかる何万行もあるようなエクセルファイルを1秒で開く、詳細な3Dグラフィックがストレスなく動くというようなことです。そのためには商品開発、製造で重点を置き、明確な目的を持ったお客さまの満足度を深掘りしています」

こうした製造でのポイントを前出の野口さんは「ゲーミング部では、常にこのマシンでユーザーがゲームを楽しめるのかということを考えています。ゲームがわからない人間が想像したり、ユーザーから話を聞くだけではなく当社では作っている人間もゲームユーザーです。快適にPCが止まることなくゲームを続けるためにはどうするかについて議論をしています」と話す。

そのためにはCPUやグラフィックボードなどの中核部品はもちろん、同社らしいこだわりが隠されている。

「ゲーム用PCは通常PCと注目すべき点が違い、グラフィックなどの処理能力を上げるとPC内の温度が上がり故障の原因になる。そこで冷却ファンを回すのですが、ファンを回してもうるさくない静音性が求められる。また、安定性という面では電源も重要なパーツで多少の電圧の変動にも耐えるものが必要です。これはハードだけでなくソフトとの関係もあり、そうしたところまで見極め動作保証している点が他社との違いです」(前出・尾崎さん)

PCゲームの広がり

ゲームというと、今やスマホゲームが思い浮かぶ、しかし、今、ゲーム業界に大きな変化が起きつつある。それがe-スポーツというものだ。

GALLERIA GAMEMASTER NX(ノート・左)/GX(デスクトップ・右)はゲームPCの最高峰。

e-スポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームを一種のスポーツ競技として捉えプレーヤーが競い合う。海外では年収1億円を超えるプロゲーマーもいる。

「日本ではゲームというと、スマホやコンソールゲームが中心ですが、海外ではPCゲームが大きな市場になっています。実際、中国では東京ドームのようなところを使ってイベントを開くと、何万人という観客が集まってテレビ放映もされるほど盛り上がっています。

日本はまだまだですが、ユーザー数もだんだんと伸びてきて、e-スポーツ協会が発足し、昨年はe-スポーツ元年とも言われています」(前出・尾崎さん)

すでに成熟商品と思われがちなPCだが、VRやヘッドマウントディスプレイの進化によって、高性能PCの需要はこれまで以上に高まりそうだ。まさに同社の活躍の場が大きくなる。

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