ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2017年3月号より

値上げをしても販売増 年間4億本を売る「ガリガリ君」の強さ

コーンポタージュ味やナポリタン味など、異色のフレーバーで注目を集めるアイス菓子の「ガリガリ君」。2016年は発売から35年、赤城乳業は会社設立から55年を迎えた。

「ガリガリ君はコミュニケーション・ツールです」と萩原さん。

コーンポタージュ味やナポリタン味など、異色のフレーバーで注目を集めるアイス菓子の「ガリガリ君」。2016年は発売から35年、赤城乳業は会社設立から55年を迎えた。

さまざまな話題を提供してくれる赤城乳業のガリガリ君。しかし、その誕生は「会社倒産の瀬戸際のときに発売した商品なんです」と赤城乳業営業本部マーケティング部部長の萩原史雄さんが話すように、危機から生まれた商品だった。

そもそも赤城乳業は1916年、いまも本社のある埼玉県深谷市で創業。中山道にある深谷は軽井沢と結ばれ、夏場の天然氷需要地でもあったことから氷菓業に乗り出し、61年に株式会社化した。その後、64年に発売したカップ入りのかき氷「赤城しぐれ」がヒットし、業容を拡大。しかし、79年の第2次オイルショックで、1個30円だった赤城しぐれの価格を50円に値上げ。一方、大手メーカーが価格を据え置き、売り上げが激減、ピンチに陥ってしまう。

「当時はヒット商品もなく、このままでは倒産というところまで追い詰められました。そこで『赤城しぐれ』をワンハンドで、子どもが外で遊びながら食べられるかき氷をというところからできたのがガリガリ君です」(萩原さん)というわけだ。

食感はホンモノのメロンパンのようなガリガリ君リッチのメロンパン味。

80年にかき氷をスティック状に固めた新商品を発売したが、食べていると溶けてバラバラになるという失敗を経験し、81年に外側に薄いアイスキャンデーの皮膜を作り、そこにかき氷を入れるという手法を開発。81年に食べたときのガリガリとした食感から「ガリガリ君」とネーミングし発売された。

その後、同社の売り上げは順調に伸び、売上高は15年度405億円、16年度は443億円、10年連続の増収を続けている。また、売り上げに占めるガリガリ君の割合は「3分の1ほど」(萩原さん)という。

ガリガリ君がここまでメガヒット商品になった理由について、萩原さんは「さまざまな要素が複合的に関係している」と話す。その1つが、アイス菓子の販路の変化だった。

「当時のアイス菓子の販路は一般の小売店が売り上げの60%を占めていて、ショーケースも大手メーカーが押さえていたので、販路で勝てないということがありました。しかし、コンビニが広がり始めたころで、経営トップの『コンビニで勝負をするぞ』という決断で、コンビニの広がりに乗っていきました」(萩原さん)

そして、これに対応するためコンビニ専門の販売部隊をつくるなど、商品政策、社内体制を整えていった。この当時、コンビニのアイス菓子の販売占有率は5%前後だったが、いまでは30%になっているという。

独自の世界観で商品展開

さらに商品政策としては「ガリガリ君」というネーミングはもちろんのこと他社製品との差別化を明確に打ち出した。

キャラクターの「ガリガリ君」は、埼玉県深谷市に住む小学生で、昭和30年代のガキ大将という設定。そのうえで「このキャラクターの持つ〝元気で、楽しく、くだらない〟をキーワードにした世界観でPRし、コミュニケーションツールになるような商品が基本です」(萩原さん)。

順調に伸びてきたとはいえ、いくつかのターニングポイントはあった。

「コンビニでの販路拡大のピークは94年でした。そこで97年からはチャネル政策強化ということでスーパーでのファミリーパックの販売を開始。2000年には生活者視点のリニューアルということで、ガリガリ君のテレビCMを始め、年間の販売本数が1億本を超えました。このCMによって西日本での認知度が上がり、07年に2億本、10年に3億本、12年に4億本と販売本数が伸びています。なかでも10年に新工場が完成し、販売本数が一気に伸びました」(萩原さん)

ガリガリ君といえば、コーンポタージュ味、ナポリタン味など変わりモノ・フレーバーで注目を集めた。こうした話題づくりも販売戦略には重要な要素だ。もちろん、そこにも“元気で、楽しく、くだらない”という世界観は欠かせないという。

こう見えても実は小学生。

「私たちは“小ネタ”といっているのですが、イベントや販促グッズなどの仕掛けを行っていて、いまは年間100ぐらいの小ネタをやっています。これまで真冬の吹雪の北海道でのサンプリングやアイス売り場にスプーンを使わないガリガリ君のアイス専用スプーン入れを置き、その中にハーゲンダッツのスプーンが入っていたということもあったようです。つまり、突っ込みを入れられたり、くだらないといわれながらも何かの話題になることをやってきました」(萩原さん)

もちろん、これには狙いがある。それは小ネタを見た人がSNSで話題にして口コミで広げてくれるだろうというわけだ。とはいえ、こうした話題づくりは単にガリガリ君の売り上げを伸ばすだけが目的ではないと萩原さんはこう話す。

「アイスの専業メーカーとしてプライドとでも言えばいいのか、こうした話題づくりをして、アイスを買わないお客さんにもアイス売り場に来ていただきたい。それでガリガリ君を買ってもらえばうれしいですが、他社の製品でも買ってもらえればよいと思っています。アイス売り場での新顧客の創造を考えています。アイス市場はこの10年間で約1300億円伸び、16年は5000億円に迫る勢いです。市場が広くなれば、結果として自分たちの商品も売れる。実際、食品系で伸びているのは健康系のヨーグルトとチョコレート、そしてアイスクリームなんですね。当社のシェアは9%ですが、市場創造貢献は18%という数字もあります」

常に話題になるガリガリ君、“元気で楽しく、くだらない”挑戦はまだまだ続く。

(本誌・小川純)

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