ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2016年12月号より

ビジネスの必須アイテム「手帳」の書きやすさ、使いやすさを求めて

スケジュール、備忘録、その日にあったこと…手帳の使い方は人それぞれ。時代とともに手帳はどう変わりどう使われてきたのか、そして、手帳づくりのこだわりとは――。

ズラリと並んだ手帳

10月に入ると書店や文具店にズラリと並ぶ手帳。スマホなどでスケジュール管理している人も多いが、今なおビジネスパーソンには手帳は必須のアイテムといえる。

ここ数年続いている手帳ブームのなかで、ビジネスはもちろん、それぞれのシーンや使い方に合わせた新しい手帳が続々登場。そんな手帳のトップメーカーで、日本のビジネス手帳の草分け的存在なのが、日本能率協会マネジメントセンターである。そして、同社で1988年から手帳の商品開発・製作に携わってきたのが、NPB事業本部NOLTY企画部長の二宮昌愛さんだ。

「売れ筋の手帳サイズはB6。補完的な小さな手帳も売れています」と二宮さん。

「今の手帳はビジネスだけでなく、プライベートなことも書くライフ・ログと、その目的が広がっています」

と話す二宮さん。手帳の歴史を少し振り返ってもらった。

「86年にシステム手帳のブームが一気に広まったのですが、当社では市場の動向を見極めながら87年に『バインデックス』を発売しています」

そうした状況下、二宮さんは通常の手帳「綴じ手帳」の商品開発、なかでも法人向け手帳を担当していた。

「当時は多くの会社が自社の社員や取引先、顧客への贈答用に手帳を作っていたので、そうした会社を回って要望を聞いて、手帳の企画を提案していました」

こうした手帳は「年玉(ねんぎょく)手帳」と言い、当時、手帳は〝もらうもの〟だった。これを一変させたのが、バブル崩壊だった。経費削減によって法人手帳は減り、手帳は〝買うもの〟へとなっていった。

「贈答用手帳を廃止された会社の近くの文房具店などで、特定のタイプの手帳が売り切れるので、調べてみるとそれまでその企業が作っていた手帳と同じタイプの手帳だったというようなことがありました」

最盛期、同社では3000社ほどの企業の年玉手帳を扱っていたがそれが潮が引くように減っていったという。そうした状況変化のなかで、これまでの法人向けの手帳とは違った市販の手帳市場が広がる。

「当時は市販向けの手帳のアイテム数はそれほど多くなかったので、まずは今の手帳の機能で十分なのかというところから検証を始めました。そこで出てきたのがこれまでのポケットに入れるスケジュールを書くビジネス手帳だけでなく、デスクに置いて記録をしていく大型のダイアリー的なものへの変化でした」

その一方、女性向けのビジネス手帳の需要も高まり、二宮さんはその対応にも追われた。

「当時はビジネス手帳というと男性向けのものばかり。しかも商品開発の担当が私ひとりだったので、女性向けの手帳を考えるため百貨店の女性バッグ売り場に行って流行の色や柄についてリサーチしたりしました」

と笑う二宮さん。まさに手探りの状態だった。これまで手帳というと「黒」が定番だったが、表紙のバリエーションを増やしたり、単にスケジュール管理にとどまらない将来を見据えた目標を書くようなページを作るなど「キャリアマネジメント」という発想を取り入れた。

手帳づくりのこだわり

こうした手帳を取り巻く環境の変化のなかで、同社では2013年5月、60年以上親しまれた「能率手帳」から「NOLTY」へとブランド名を変更した。その新ブランドのコンセプトは「成長を願う人に寄り添う毎日のパートナー」。このコンセプトのもと新商品の開発が始まった。

「U365」のスケジュール欄、罫線が目盛りなので書き分けられ、きれいに書き込める。

「まず、ブランドが変わって新商品を考えるときに行ったのは、これまでの手帳の未充足点は何かを洗い出し、今のユーザーの不満点を解消することでした。そのうえで私たちの考え方や提案を盛り込んでできたのがUシリーズです」

このシリーズの最大の特徴はスケジュール欄。通常、1日のスケジュール欄の時間目盛りは1つだが、Uシリーズではスケジュール欄に複数の罫線を入れ、その罫線を時間目盛りにした。これによってそれぞれの罫線をプロジェクトごとに分けたり、1本目の時間目盛りは予定、2本目は実際の行動、3本目はプライベートといった使い分け、さらにそれぞれは罫線の役目も果たしているため、きれいに書き込める。

このUシリーズは、レフト式のウィークリーと1日1ページの「U365」の2つタイプがあり、「U365」は昨年のグッドデザイン賞を受賞。時間軸とメモをきちんと分けたという点で意匠権。さらに特許を取得している。

人気のNOLTYシリーズ。

「開発をはじめたときは、これまで手帳をあまり使わなかった層を意識していました。でも、実際にはかなりの手帳好きな方、目の肥えた方に使っていただいており、そのあたりはわれわれが想像したものと違っていましたね」

こうした新しい手帳づくりの一方、これまで同様、それ以上に使いやすい手帳づくりへのこだわりは強い。それは紙であったり、毎日何度となく開いたり閉じたりする手帳だからこその製本技術だ。

「お客さまは自分に合った筆記具で、手帳を書かれます。ですから、いろいろな筆記具を試して、その相性を見ています。また、13年に新寿堂という製本会社を子会社にしたことで作業工程や糊の配合など製造現場での微妙な状況で品質が変わるということを知り、毎年改良し、確実に商品が良くなっています」

スマホがどんなに便利になっても、こうした作り手のこだわりがある限り、手帳が廃れることはない。

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い