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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2016年9月号より

健康飲料のパイオニア タマノイ酢の「はちみつ黒酢ダイエット」

健康食品として根強い人気を誇る「黒酢」。その火付け役になったのがタマノイ酢だ。1996年に発売された「はちみつ黒酢ダイエット」はロングセラーになっている。お酢メーカーの飲料参入で生まれたヒット商品の開発秘話を聞いた。

酢から生まれた健康商品

コンビニやドラッグストア等で当たり前のように陳列されている健康食品や健康飲料。消費者の健康志向の高まりは、食品メーカーの商品開発にも大きな影響を与えるようになっている。

酢の老舗メーカー、タマノイ酢の健康飲料「はちみつ黒酢ダイエット」は、いまでこそヒット商品として認知されている存在。しかし、発売された1996年当時は健康飲料というジャンルが確立されておらず、飲料と言えば砂糖を大量に使った甘いものが主流だった。いまや定番商品とも言える野菜ジュースも「まずいけど体のために飲む」といった風潮のなか、なぜタマノイ酢が健康飲料の市場に商品を送り込んだのか。タマノイ酢常務取締役の播野貴也氏は次のように語る。

「革新的な挑戦をつづけてきた」と常務取締役の播野貴也氏。

「タマノイ酢のルーツは1590年頃、豊臣秀吉の時代に堺の製酢業者が大阪で酢を製造するようになり、この頃から酢の商標として「玉廼井(たまのい)」が用いられたことにあります。我々は426年つづく会社ですが、歴史を紐解くと常に革新的な挑戦をするという考え方があります。お酢のメーカーとして、どこもやっていないことをやっていく。『はちみつ黒酢ダイエット』を作ろうと考えたのは20年以上前のこと。長い間、調味料の会社としてやってきたなかで、社長の播野勤の『お酢を調味料だけでは終わらせたくない』という思いから、飲料のチームを立ち上げたのです」

飲料以前も世界で初めて食酢の粉末化に成功し「すしのこ」を発売したり(63年)、食酢専用ペットボトルを導入(89年)するなど、業界に先駆けて新たな技術生産に取り組んできた挑戦の歴史があった。

しかし、飲料は巨大メーカーがひしめく業界。戦うのは容易ではなく、売りになる価値が求められた。

「飲料開発で柱になったのが『健康志向』です。飲むことで健康になるという付加価値がついた商品の開発が必要でした。事業がスタートした当初はお酢とは無関係なカルシウムやオリゴ糖などを入れた飲料も開発していましたが、失敗の連続だったようです。そのような時、黒酢が健康食品として取り上げられるようになりました。調味料としての黒酢の用途はお酢よりも限られた狭いものですが、健康のために飲むという人が増え、黒酢を使った飲料の開発を進めていくことになりました」

商品開発のうえで、大きなヒントになったのが、91年にカルピス食品工業(現カルピス)から発売された「カルピスウォーター」だった。

「『はちみつ~』を出す前に、『スーパー黒酢』という黒酢の原液を瓶に詰めて、薄めて飲むという商品がありました。そこにカルピスの原液を水で割って缶に詰めたカルピスウォーターが爆発的にヒットしました。それを見て、飲みやすさを形にしていくことが重要だと、黒酢を簡単に飲める商品を開発しようという話になったのです」

飲みやすいように薄めても、黒酢はそれ自体の癖が非常に強い。飲みやすくするためには癖を抑える必要があった。

「黒酢は酢よりもさらに癖が強く、どう飲みやすくするのか。ひとつがはちみつだったのですが、それだけではもの足りない。そこで思いつく果汁を片っ端からブレンドしてみた結果、ベストミックスだったのがりんごでした。パッケージについても議論になりましたが、社長の播野が選んだのは黒ではなく赤でした。ターゲットを高齢者からさらに黒酢に馴染みのない世代に広げていかなければならないと考えたわけです。これが女子高生にも受けるデザインになったのです」

タマノイ酢では「伝統的なお酢づくり」と「お酢の可能性への挑戦」が、最新鋭の設備の中で両立されている。

健康ブームの到来

商品名に“ダイエット”を謳ったのも画期的だった。はちみつと黒酢で健康にいい商品とのイメージはできていたが、女性へのアピールは抜群のネーミングだったと言える。

「お酢がダイエットに効くことはわかってきたのですが、データを取って立証していくのは手間と時間がかかります。薬事法の関係で“痩せる”という機能を謳うことはできなかったのですが、“痩せる努力”を意味するダイエットならばと商品名に入れてみたのです。いま考えれば大胆なネーミングですが、当時としては許容範囲だったのでしょう」

それでも発売から3年ほどはヒットとは言えなかったという。健康飲料ブームはまだ遠かった。しかし、突然転機はやってくる。

「健康食品を取り上げたテレビ番組で、黒酢が血圧を下げる効果やアンチエイジング効果があることをデータや実験を通して実証してくれました。それをきっかけに商品が急に売れるようになったのです」

ヒットが出ると他の業者も参入してくる。大手メーカーとの競争にもなったが、タマノイ酢は黒酢飲料の高いシェアを守り続けている。

「幸いにも消費者の支持を今も得ることができていることに尽きます。我々は企画によって市場をつくったパイオニアであり、原材料の酢をつくっているメーカーでもありますから、この強みを最大限に活かして今後の新製品開発に取り組みたいと思います。

発売当時のメインターゲットだった20代の女性がいま40代になっても飲み続けてくれています。新たな20代にも受け入れてもらえるようなブランディングも行って、さらに市場を広げていきたいですね」

(ジャーナリスト・松崎隆司)

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