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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2016年5月号より

「あったらいいな!」の芯の折れないシャープペン 発売1年半で販売本数400万本 ゼブラ 研究開発部開発研究課 相沢吉敏

シャープペンで字を書いているとき突然“ポキッ”と折れる芯。
カチカチと芯を出して書き出し、何度も繰り返される、イラつくことこの上ない。
そんなイライラをなくした究極のシャープペンはどう生まれたか。

永遠の開発テーマ

新機構の開発を手掛ける相沢吉敏さん。

一般の人にとってそれほど難しそうではなさげなのに、なかなかできないけれどあったらいいなというものはけっこう多い。カスの出ない消しゴム、使っても切れなくならない包丁、指紋のつかないスマホ…。そんなものの一つが「芯の折れないシャープペン」ではないだろうか。

2014年11月、そんな芯の折れないシャープペンが登場。発売開始から1年半足らずで400万本というヒット商品になっている。それがゼブラの「デルガード」というシャープペンなのだ。

そもそも日本ではじめてシャープペンを作ったのは、家電のシャープの創業者・早川徳次さんで、当時は「早川式繰出鉛筆」という名前で売られた人気の文房具だった。しかし、関東大震災で被害を受け、事業を譲渡。その後、早川さんはラジオ生産を始めた。その際社名をシャープペンから「シャープ」とした。

それはともかく、日本の文具メーカーはもちろん、世界の文具メーカーにとっても芯の折れないシャープペンは“永遠の開発テーマ”だったのではないか。たぶん、きっと。

しかし、これまではもっぱら、芯の強化が行われ、その昔には平行に並べた2本の芯の上に10円玉だか100円玉だかを10枚ぐらい載せても折れない、といったCMがあったほど芯の強化が図られた。しかし、このデルガードはまぎれもなく、芯の折れない機構を搭載したシャープペンなのである。

「最初に芯の折れないシャープペンの開発が始まったのは2009年でした。しかし、このときは商品化できずに中断したんです」

と話すのは、ゼブラ研究開発部の相沢吉俊さん。一度は頓挫した折れないシャープペン開発だったが、12年に再びこのプロジェクトが復活したのだという。

「研究開発部の部長から『うちはシャープペンでヒット商品がないから、もう一度折れないシャープペンをやってみよう』と提案が出て、改めて、開発が始まりました」(相沢さん)

プロジェクトメンバーは8人で、再び開発が始まった。まず、最初に行ったのは、アイデア出しだった。そして、そもそもシャープペンの芯が折れるときというのはどういう状態になったときなのか、その原理について考えることになった。そこで気づいたのは芯が折れやすいのは、「縦に線を描いたとき」(相沢さん)だったという。

どういうことか。それは手前に線を描くと伸びていた手首が縮み、そのときに芯にかかる力が大きくなり、芯が折れやすいというわけ。そして、字を書く場合は、こうした動きが複合的にからみあう。

手前に線を引くと、手首が曲がってペンに力がかかり芯が折れる。

「09年に一度コケてますからね、本当にできるのかなという不安はありましたよ」と笑う相沢さん。最初に出された60ほどのアイデアのなかには芯に負荷がかかると、ペンそのものが折れ曲がる、芯をほんの少ししか出ないようにするなど、“トンデモ”なアイデアもあったが、そのなかにこのデルガードにつながるアイデアも含まれていた。

「シャープペンは芯が長く出ていると折れやすいんですね。ですから、芯に力がかかったときは芯の出ている部分を少なくしてあげるというのが基本的な仕組みです」(相沢さん)

これまでも芯に垂直に力が加わると引っ込むショックアブソーバーのようなシステムはあった。それに加えて、デルガードでは斜めからの力が加わった際には、芯の周辺の金属部分が飛び出し、露出部分をなくして芯が折れなくしている。さらに芯の目詰まりを防ぐ機構も搭載し、これらは特許を取得している。

「12年に開発が始まって、2~3カ月で手作りの試作モデルが出来上がりました。製品化が決まったのは13年10月で、14年3月ごろには量産化を見据えたプロトタイプが完成しました」(相沢さん)

日本メーカーの心意気

現在販売されているデルガードシリーズは、芯の太さが0.3ミリ、0.5ミリ、0.7ミリの3つのタイプ。価格は450円の一般モデルと1000円の高級モデルがラインナップされている。

芯の折れない、いわば究極のシャープペンでありながら、価格が安すぎやしないか?

「シャープペンは100円でも売っている商品ですからね。それにメーンユーザーは学生さんということを考えると、お小遣いで手の届く範囲の手頃な価格ではないですかね」

と話す相沢さん。こうしたところが、日本メーカーらしいところなのかもしれない。

筆圧がかかると金属部分が飛び出し芯をカバーする。

もちろん、顧客の反応も上々だ。

「これまでシャープペンの芯が折れると気が散って勉強に集中できなかったけれど、デルガードを使うようになって勉強に集中できるようになって成績も上がったという保護者からの意見もありました」(相沢さん)

また、これまでシャープペンのユーザー層ではなかったビジネスパーソン層にも受けて、この層への販売も好調だ。発売5カ月で200万本を売り上げ、文房具屋さん大賞などを受賞。さらに台湾、韓国など海外でも販売、日本ならではのクールな商品として売れているという。

「思いついたアイデアが、最終的には商品化されないことも多いのですが、この製品はずいぶんとうまくいったなと思います」

と笑う相沢さん。今は後輩のサポートをしながら、新たな商品開発に取り組んでいる。

(本誌・小川純)

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