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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2015年8月号より

現在、11代目─毎年のリニューアルで 頭皮ケアを定着させた「スカルプD」 アンファー商品開発部シニアフェロー 波間隆則

男性用シャンプーで不動の地位を築いたのが、アンファーの「スカルプD」。ベストセラー商品となったスカルプDが市販されたのは、ちょうど10年前の2005年のことだった。その生みの親が、アンファーでシニアフェローを務める波間隆則さんである。

男性用シャンプーで定評

「スカルプD」の生みの親、波間隆則さん。

05年にスカルプDが世に出るまで、アンファー社内ではどんな議論や試行錯誤を経てきたのか。さっそく波間さんに語ってもらおう。

「もともと、この商品は頭髪クリニック内だけで販売していたものなんです。薄毛に悩む患者さんが来られて治療を受け、つけ薬や飲み薬は処方されるんですけど、『日常のケアはどうしたらいいですか?』と医師が聞かれるんですね。シャンプーが実は頭皮に良くないとか、シャンプーが悪さをして抜け毛を起こすみたいな話はいまもありますが、ならば、おススメできるシャンプーを自分たちで作ろうじゃないかと。

皮膚科の先生といろいろ議論した結果、『髪の毛は皮膚から育つものなので、重要なのは頭皮。髪より頭皮をケアするほうが大切で、いくら髪の毛にコンディショニングを施しても傷んだ髪の細胞は簡単には変わらない。治療で考えるべきは髪の毛ではなく頭皮にあり』という、スカルプDの原点が生まれました」

髪を洗うのと頭皮を洗うのとでは当然、シャンプーの成分構成などが違ってくる。そのため、当初は髪の毛がゴワゴワになったりして、潤いや艶といったシャンプーのイメージとは異なる商品になった。クリニックの患者からは「あまり使用感が良くない」といった声も寄せられたが、一方で「髪の毛にコシやボリューム感が出た」とポジティブに受け止める声も。

そうこうしているうち、あるバイヤーとの出会いがあって市販化計画が実際に動きだした。発売当初の価格は1本税込み7350円。シャンプーというより、昔、資生堂やカネボウが出していた育毛剤の「不老林」や「薬用紫電改」に近い価格帯だ。

スカルプDで圧巻なのは、05年以降毎年、商品の中身をリニューアルしていること。今年4月に投入したもので11代目を数える。

「最初の頃、クリニックのみで販売していたこともあって、患者さんからの声がダイレクトに来るわけです。それに応えないといけない。たとえば、シャンプーの匂いが嫌だとか泡切れが悪いとか。それで毎年、変えていくことにしました。それが慣例化していく過程で、機能性ももっと上げていこうと」

08年からイメージキャラクターに雨上がり決死隊を起用し、スカルプDと言えば宮迫博之さんのCMというのも定着した。スカルプDが他社の後追いを受けるほど、認知度と評価を得たという証でもある。毎年のリニューアルは、先手を打って他社に真似される前に新商品を出していく狙いもあった。

ただし、毎年商品をリニューアルするとなれば、波間さんをはじめとした開発スタッフは、プレッシャーとの戦いに向き合うことになる。

「この商品は医薬部外品で、化粧品とは違います。なので、新商品の申請をして厚労省から認可を受けるまでに半年かかるのです。リニューアルまで1年あるとはいえ、半年間はその申請に取られてしまうわけで、そうしたタイトスケジュールの中でリニューアルを実現していかなくてはいけないですからね」

“遺伝に立ち向かう”

その過密スケジュールに追われながら、毎年、商品の完成度を上げていけるところが、波間さんをはじめとしたスタッフたちの凄腕のゆえんだろう。

「大きく変革したのは、黒から赤のパッケージに変えた頃です。界面活性剤という洗浄成分があるのですが、12年の商品から当社で新開発したオリジナル活性剤を入れました。使用感は変わっていませんが、その年から、技術的にはすごく飛躍して変わっています。そこの壁を乗り越えるのがすごく大変でしたね」

これまで頭皮環境改善や育毛成分などを重視し、9代目の商品では髪の毛を太くするといった機能が新しく加わるなど、商品機能は毎年進化している。今回の11代目では、頭髪専門クリニックでもおススメしやすいシャンプーという、いわば原点に戻ることをコンセプトに掲げた。

一番奥から数えて11代目となった「スカルプD」最新版。

「11代目は、“遺伝に立ち向かう”というコンセプトタイトルをつけています。遺伝は薄毛や脱毛症の要因という点で高い割合を占めていることはわかっていますが、それ以外の原因もあります。最近の用語で言うと、エピジェネティックス(遺伝子と環境要因の懸け橋となるもの)と言うのですが、心筋梗塞や脳梗塞などの病気でもエピジェネティックスは言われていて、疾病は環境によっても発症度合がかなり変わるのです」

11代目では洗浄成分30%、頭皮ケア成分70%の配合だが、頭髪洗浄目的のシャンプーは洗浄成分と水で大半を占め、頭皮ケア成分は5%程度しかない。また、頭皮ケア成分で使用していた、独自開発の豆乳発酵液を黒豆にバージョンアップし、より多くのポリフェノール成分を含ませることに成功した。

発売当時、7350円だったスカルプDは現在、税込みで3900円。石油系界面活性剤や合成着色料、合成香料、フェノキシエタノールなどを一切使用していないスカルプDは、ブランドを守るためにも値崩れしやすいドラッグストアには流通させず、自社のネット通販やロフト、東急ハンズなどの専門店に限定している。波間氏はこう結んだ。

「頭皮を洗うという文化は、海外の国は日本よりもっとないですが、日本にこの文化を根付かせたいですね。いまではトイレにウォッシュレットがあるのが当たり前になったように、頭皮を洗うことも当たり前にしたい。髪を洗うより頭皮を洗うことの裾野を広げたいのです」

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