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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2015年2月号より

“世界初「GPSソーラーウオッチ」「ASTRON」の名前に込めた思い セイコーウオッチ セイコー第一企画部 古城滋人

年間7億杯へ上方修正

開発ストーリーを語る和瀬田氏。

2013年1月に販売開始したセブン-イレブンの「セブンカフェ」は、いまやメガヒット商品だ。販売数字を見ると、14年2月期で4億5600万杯、売上高は480億円、15年2月期の見込みは6億杯、売上高は650億円だったが、好調で7億杯に上方修正したほどだ。

100円のコンビニコーヒーの市場は年間およそ1400億円で、キーコーヒーの15年3月期の売上高見込みが550億円だから、これらの数字との比較で見てもセブンカフェのすごさがわかる。セブン-イレブン・ジャパンは、そのメガヒット商品を14年10月下旬にリニューアルした。語るのは、同社で執行役員商品本部FF・デイリー部長兼生産管理部長を務める和瀬田純子氏だ。

「代表(セブン&アイHD会長兼CEOの鈴木敏文氏)から『美味しいものほど飽きる』といつも言われていますし、たとえばヒット商品の『金の食パン』も発売当初からリニューアルを考え、いまもリニューアルを繰り返しています。同じように、セブンカフェを導入した時点で、翌年以降はどうしようかという議論はありました。

セブンカフェのヘビーユーザーにいろいろ伺ったところ、苦味や後味といった点で物足りないとおっしゃる方もいて、そこを改善していく打ち合わせをしていく中で、雑味を取るなら磨き豆をやっていこうという結論に至ったのです。以前は、コーヒー豆に渋皮がまだ少し残っていて、これが雑味や苦味の元になってしまうということで、よりしっかり磨く工程をプラスしました」

この工程を加えたことで、よりクリアな味とすっきり感が実現できたのだが、ユーザーの中には雑味をコクと捉える人もいる。そうしたユーザーが逆に離れてしまいはしないかという不安もよぎったそうだが、豆を深煎りにすることで、すっきり感とコクを両立させたという。

セブン-イレブン・ジャパンには、主力商材ごとに“部会”がある。おでん部会があるように、業種を超えた集まりであるコーヒー部会も隔週でミーティングの場が持たれている。もっと言えば、これが、同社の太い幹を成すチームマーチャンダイジングである。1杯ごとに豆を挽くマシンは富士電機製、豆焙煎技術はAGF(味の素ゼネラルフーヅ)、高品質のアラビカ豆の調達は三井物産と丸紅、さらに、コーヒーカップやマシンのデザインにはクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が参画といった具合だ。

メガヒットになったセブンカフェ。

セブンカフェの特徴は、ブレンドコーヒーのホットとアイスだけというシンプルな品揃えの、いわば直球勝負にもある。ほかのコンビニも同じ品揃えはあるが、カフェラテやショコラ・ラテといった変化球商品も併せ持つ。が、セブン-イレブン・ジャパンの軸はぶれない。

「私たちの考えはまず、基本的なものが美味しくないといけないということです。たとえば当社の代表的な商品の1つであるおにぎりを見ると、新しい商品が売れ筋上位に来ることもありますが、売り上げの基礎を支えているのは、梅や鮭、昆布、ツナといった定番商品ですから」

リニューアルでのもう一つの驚きは、手間ひまかかる工程やこだわりをプラスしてなお、価格を100円で据え置いたことだ。14年4月に消費税増税があったほか、コーヒー豆の高騰に円安も重なっており、コスト増加分を吸収するのは簡単ではない。実際、キーコーヒーやUCC上島珈琲といった専業大手では、すでに大幅な値上げを打ち出している。

「商品相場的には非常に厳しい部分もあるんですが、販売が非常に好調なので、スケールメリットが出せたことが大きいですね(14年11月末時点のセブン-イレブンの店舗数は1万7177店)。それは単にコーヒー豆だけでなく、ほかの資材も含めたトータルでコストダウンが図れているわけです」

試行錯誤で会得した活路

リニューアルしたセブンカフェは14年11月27日、もう一つの新提案を行った。関西エリアではすでに先行販売(関東では15年5月以降本格展開)をしていた、ついで買いを誘える「セブンカフェドーナツ」がそれだ。左の写真にあるように、コーヒーマシンの隣に、搬入されたドーナツの温度を一定に保つ専用什器が入る。このマシンも富士電機製だ。

セブンカフェ導入後、ついで買いの上位は1位がタバコ、2位がパンなどのペストリー、次いでサンドイッチ。たとえば、缶コーヒーの売り上げのピークは朝の時間帯なのだが、セブンカフェは午後2時から3時あたりのアイドルタイム、平たく言えばおやつタイムにもしっかりと売り上げが取れている。

「そうした間食需要を何か新しくご提案できないかな、と思った時にドーナツもやってみようと」

コーヒーとドーナツなら相性も抜群だ。ちなみに15年度のドーナツ販売目標は4億個で売り上げ400億円、16年度に6億個、600億円。

関西で先行販売したドーナツの展開を広げ、セブンカフェとのシナジーを狙う。

100円コーヒーで一気に頂点を極めた感のあるセブン-イレブン・ジャパンだが、ここに辿り着くまでには幾度もの試行錯誤があった。当初採用されたのは、店内で一度にドリップしたコーヒーをポットに入れておく方法。が、時間の経過とともに避けられない酸化もあって売り上げは伸びなかった。

次に取り組んだのは、豆を粉末状にするカートリッジ方式。だが、これも風味が損なわれる欠点があった。さらにその後、エスプレッソブームが訪れるものの、全国展開に広げるまでには至らない。

「そういう、うまくいかなかった歴史があるんですが、売れなかったのは、やはりまずコーヒーマシンありきで考えていたからなんですね。そうではなく、まず商品ありきで考えていこうというのがセブンカフェの始まりでした。それが10年11月のことです。

エスプレッソから少しずつドリップに回帰しているとか、美味しいコーヒーを出すには、やはりドリップのほうが幅広い支持がいただけるんじゃないかという、調査と仮説の下に考えました」

ただし、セブン-イレブン・ジャパンが納得できるようなマシンは簡単には見つからない。ヒントになったのは、高速道路のサービスエリアにある自販機に見られるカップ式コーヒーだった。そのマシンの技術を持っていたのが富士電機である。以後、消費者が操作しやすく、かつ店舗スタッフも取り扱いやすいマシンの共同開発が始まった。

前述のおにぎりもしかりで、おにぎりも本来、一個一個手作りがいちばん美味しい。では、そのレベルにどうすれば近づけるのかという観点でマシンの開発、および改良を毎年行っているのだという。

「美味しい商品を作るには、既成概念から脱して新しいマシンやスキームを作ることに尽きます」

これが、セブン&アイHDを貫く「時代の変化への対応」だ。

(河)

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