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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2014年9月号より

“いい音”へのこだわり 注目度急上昇のハイレゾ音源 オンキヨー 宮原誠一 浅原宏之 田中幸成

空間としての音の広がり

1982年のCDの登場によって音楽メディアはレコードからCDへとなり、アナログからデジタルに変わった。その後、2000年代に入るとCDからネット配信へと変化してきた。その一方で、CDの売り上げは98年をピークに減少をはじめ、ネット配信も思った以上の伸びはなく、音楽・オーディオ産業は厳しい状況になっている。

しかし、2012年、徐々にではあるものの、これまでと違った1つの動きが出はじめている。

それは「いい音で聞きたい」という欲求だ。CDの登場以後、音楽はメディアの手軽さという面では進化してきたが、半面、音質を犠牲にしてきた部分もある。そこで原音に近い音質で、〝聴かせる〟ことを可能にした「ハイレゾ音源」に注目が集まっている。そして、このハイレゾ音源の再生、コンテンツの配信にいち早く取り組んだのが、老舗オーディオメーカーの「オンキヨー」だ。

ハイレゾとは「High Resolution(高解像度)」の略で、CDの44.1キロヘルツ/16ビットに比べ、その約3倍の96キロヘルツ/24ビット、あるいは約6.5倍の192キロヘルツ/24ビットの情報量になる音源のことを指す。

ES-CTI300と浅原さん(左)。DAC-HA200、IE-CTI300と宮原さん(右)。

「12年のはじめごろは『ハイレゾ』や『96キロヘルツ/24ビット』といっても、ピンとこなかったようですが、13年になると急に話題になってきたのです」と話すのは、同社の商品企画本部・宮原誠一さんだ。

「ハイレゾの音は『空間の表現』という言い方をするのですが、単にスピーカーから音が出ているのではなく、空間として音が広がっているように感じます」(宮原さん)

実際に右の写真にあるシステム(CR-N7551/D-112EXT)でハイレゾ音源を聴いた感想は、この小さなスピーカーだけで、正面に低音再生をするウーファーがあるような音の重厚感があり、音そのものも耳元から聞こえてくるような感覚になる。そして、サラウンドシステムで音楽を聴いているような音に包まれるような錯覚にとらわれる。

こうしたハイレゾの特徴について、開発技術部の浅原宏之さんは次のように説明する。

「ハイレゾにすることでデジタル特有のノイズを減らすことができます。そして、このノイズがなくなることで音がなめらかになって、音がスピーカーから離れて空間に浮き上がるようになり、聞こえるのです」

デジタル機器は、どのようなものであれノイズを発生する。たとえば、スイッチがオンになっている真っ暗なテレビ画面をよく見ていると、ときおり赤い小さな点が出ることがある。これは「シアンノイズ」というデジタルノイズの1つ。また、アナログのレコードマニアがCDで音楽を聴くと「デジタル臭い」などといったりするが、これもデジタルのノイズが原因の1つになっている。そして、このノイズを最小限に減らすのがオンキヨーの匠の技なのだ。

「コンポの中にはマイコンやさまざまな配線があります。これらがアンテナのようになってデジタルのノイズを拾ってしまいます。そこでそうならないように配線のレイアウトなどを工夫しています」(浅原さん)

同社では、こうしたハイレゾ対応のAV機器(音楽/シアター用)41機種、PC周辺機器15機種をラインナップしている

「そもそも原音とは何か」

一方、ハイレゾ対応の機器があっても、再生するソフトがなくては、どうにもならない。そこで05年8月、オンキヨーでは、日本で初めてのハイレゾ音源を配信するサイト「e-onkyo music」を立ち上げた。

ハイレゾに携わって11年の田中さん。

「私たちオーディオメーカーとしては、どんなメディアであっても、原音に近いかたちで再生させるにはどうしたらよいかということが最大のテーマです。しかし、CDが登場してから、MD、音楽配信と進むなかで、音楽のフォーマットが4分の1に圧縮され、そもそも原音とは何かということになった。そこで、もともとのソースに立ち戻って音楽を配信しようと、それをやっているレコードメーカーがないのなら自分たちで作ろうと立ち上げたのが「e-onkyo music」なのです」

こう話すのは、サイトの立ち上げから参画しているオンキヨーエンターテイメントテクノロジーの田中幸成さんだ。「最初はCDショップに行って、いろいろなCDを見ながら音にこだわったレコード会社さんはどこかを見極めて直接、お目にかかって協力をお願いして回りました」と話す田中さん。まさに手探りの状態からはじまった。そして、05年8月、11曲から、e-onkyo musicのハイレゾ音源の配信がはじまった。

現在、ハイレゾ音源の配信サイトは、国内外を合わせて10ほどあるが、e-onkyo musicの配信曲数は5万曲、4000タイトルのアルバム(14年6月末現在)で、その数は日々増えている。「今は他のサイトをライバル視するのではなく、マーケット全体が広がればいいと思っています」(田中さん)という。

とはいえ、サイト運営では、音響専門メーカーとして培われた顧客への細やかなフォローやサポートのノウハウが生かされている。

e-onkyo music」のトップページ。最近はアニメソングのダウンロードも多くなっている。

「デジタルコンテンツビジネスは、問い合わせはメールだけというようところもありますが、うちのサポートは電話で対応し、専門メーカーとしての技術的なことはもちろん、音楽的な知識をユーザーにどう伝えるかを大切にしています」(田中さん)

具体的には、楽曲にあるノイズの原因が何かといったことや、楽曲の録音に使われた機器や演奏されたホールの説明など多岐にわたり、「こうした対応は他社には真似できない」と田中さんは胸を張る。

14年、オンキヨーは米国のギターメーカー「ギブソン」、国内のオーディオ機器メーカーの「ティアック」と業務提携。ギブソンで弾く、ティアックで録る、オンキヨーで聴くという「Play Record Listen」というつながりを体験できるショールームを東京・八重洲にオープン。単に聴く音楽だけでなく、一連の流れのなかで楽しむというコンセプトを打ち出している。

また、音づくりの面では「音楽を体で感じてもらい、聴いていると自然と体がリズムを刻んでいるような、感情移入ができるものづくり、音づくりをしていきたい」(前出・浅原さん)という。

CD不況、音楽不況といわれるなかでのハイレゾへのムーブメントは、いい音を聴くという原点回帰への動きといえるのかもしれない。

(本誌・小川 純)

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