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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2014年8月号より

アンチエイジングに活用 健康食品としてのアーモンド 江崎グリコ健康科学研究所 古屋敷隆/健康事業・スポーツフーズマーケティング部 矢野達也

栄養満点のアーモンド

アーモンドと聞いて、一番に「アーモンドチョコレート」を思い浮かべる人は多いのではないだろうか。近年、健康食品としてクローズアップされるようになったアーモンドだが、日本人が一般的に食するようになったのは戦後のこと。その先駆けとなったのがグリコの菓子だった。

「1粒で2度美味しい」をキャッチフレーズに、キャラメルにアーモンドの香ばしさ、美味しさを盛り込んだ「アーモンドグリコ」が発売されたのが1955年のこと。そしてアーモンド1粒がまるごと入った「アーモンドチョコレート」が57年に発売され、アーモンドの知名度は一気に高まっていった。

アーモンドの健康効果について語る古屋敷氏(左)と矢野氏。

「当時、1粒まるごと入れるには、機械を使った製造ではかなり難しかったようです。しかし、創業者の江崎利一のこだわりから、開発が進められていきました」(マーケティング本部健康事業・スポーツフーズマーケティング部・矢野達也氏)

アーモンド商品の代名詞となったグリコの「アーモンドチョコレート」の発売以降、他社も競って追随し、菓子業界にとってアーモンドはなくてはならない存在になっている。

そのアーモンドに、抗酸化力のあるポリフェノールが多く含まれていることを発見したのもグリコ。以降、嗜好品だけでなく健康に注目した商品開発も行うようになった。そして健康食品に特化した商品の第1号となったのが、今年4月に発売された飲むアーモンドの「アーモンド効果」だ。

「アーモンドには、老化を遅らせ、若さを保つ『若返りのビタミン』と言われるビタミンEが豊富に含まれています。美肌には欠かせない亜鉛も多く含まれていますので、メラニンの代謝を促し、できてしまったシミやそばかすも消す効果があります。こうしたことから、『飲むアーモンド』はシニア層、特に中高年の女性をターゲットにした商品になっています。

すでにこのターゲット層はアーモンドが健康や美容に効果があることを知っているのですが、堅くて食べられない、歯に挟まる、といった中高年特有の問題があって、敬遠されがちでした。その問題を解消する製品形態であれば摂りつづけられる。我々の知見で生まれたのが飲料だったのです」(矢野氏)

アーモンドのビタミンE含有量はゴマの約310倍、食物繊維はレタスの約9倍に達するという。しかし、その堅さから、しっかり噛み砕くのが難しい。せっかくアーモンドを食べても、噛み砕けないがゆえに栄養成分が摂取できない可能性もあるという。

「アーモンドの栄養は、細胞壁のなかにあるんです。よく噛み砕けばその栄養が摂れるんですが、噛めなければ十分に摂れません。また、成人女性が1日に必要とするビタミンEの目安は約8ミリグラムですが、これはアーモンド23粒にあたります。それだけ食べると、150キロカロリーくらいになりますので、おやつにしてはカロリーが高くなってしまうのです」(健康科学研究所チームリーダー・古屋敷隆氏)

これらの問題を解決するのも、飲料の形態だった。

アーモンドのペースト。

「グループ会社のグリコ乳業のチームと研究したのですが、最初は豆乳のように粉にして絞ることを検討しました。それでも風味はよいのですが、味が薄く、絞りかすのほうに食物繊維やビタミンEが多く残ってしまう。せっかくの有用成分が利用できず、ロスも大きい。その次に検討したのが、細かくすりつぶしてペーストにすることでした。細かく細胞壁もすりつぶすことで、栄養のロスがなくなります。高圧をかけながら乳化をして滑らかになりつつ栄養素はすべて使えるという製法です」(古屋敷氏)

下の写真がそのペースト。すりつぶしただけのアーモンド100%の状態だ。アーモンドは約55%が油成分でできているため、すりつぶすと油成分が出てきて液状の形になるのだという。これに水等を加え、味を整えたものが「アーモンド効果」となる。80キロカロリーにおさえつつ、23粒分のビタミンEが含まれている。ちなみに、家庭のミキサーでアーモンドを潰しても、このようなペーストにはならないのでご注意を。細胞レベルまですりつぶさなければ、液状にはできない。

牛乳代替市場を狙う

実際、この「アーモンド効果」を飲むと、食感は牛乳に近く、飲んだ後にアーモンドの香ばしさを感じることができる。しかし、乳成分は入っていないという。

「アーモンドは半分くらいが油成分ですが、牛乳も3~3.5%は油ですし、油と水を混ぜた飲み物として、味ではない部分で牛乳っぽく感じるのかもしれません。世界を見ると、ココナッツミルクやアーモンドミルクといった牛乳代替市場は広くあります。日本のこの市場は豆乳しかない。『飲むアーモンド』は乳成分が入っていないのですが、この牛乳代替市場に入っていきたいと考えています」(矢野氏)

アメリカでは、実はアーモンド飲料がすでに豆乳を超える人気になっている。健康的な自然食品としての存在感が高まっているのだ。しかし、単純に味を考えると、米国仕様の味では薄く、日本人には美味しくないものになっているという。日本人が好む味に仕上げなければ、日本市場に飲むアーモンドは根付かない。

「牛乳を入れれば、アーモンドオレとして美味しくできますが、そうしないことにこだわりました。牛乳ではないので、乳製品にアレルギーがある方でも飲むことができます」(矢野氏)
「アーモンド効果」はグリコ乳業のリソースを使って製造されているが、乳を使う会社で、乳を使わずに製品化するのはなかなか苦労もあったようだ。

アーモンドが日本に広まったのはグリコのお菓子から。

「アーモンドはローストすればするほど、その香ばしさが強くなります。しかし、お菓子ではないので、あまり香ばしさが強すぎてもよくない。今回は飲みやすさを重視して、最適なロースト度合いと粒数にたどり着くまで、何度も試作を繰り返しました」(古屋敷氏)

開発段階では豆乳を毎日飲んでいる消費者にモニター参加を依頼し、豆乳よりも臭みがない飲みやすい飲料として誕生させたのだという。

アーモンドは健康食品として世界中で認知され、これまであまり食べられてこなかったロシアや中国での需要が高まっている。アーモンドの世界生産は99%がアメリカということもあり、レアメタルのごとく世界中で獲り合いの様相になっている。ここ2年ほどは不作だったこともあって価格も高騰。世界需要の伸びから、売り手側も強気の姿勢を崩していない。

「原価が上がっているのは事実ですが、最初にアーモンドを日本に広めたのはグリコだという自負もあります。アーモンドと言えばグリコだと呼ばれつづけるよう、価格、商品開発に力を入れていきたいですね」(矢野氏)

アンチエイジングの健康食品として脚光を浴びるアーモンド。グリコの飲むアーモンドをぜひ一度お試しあれ。

(本誌・児玉智浩)

 

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