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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2014年4月号より

商品を買う気にさせる術 通販ビジネスの極み

「買わない」理由をなくす

右肩上がりの成長をつづける通信販売市場(物販)。2012年には市場規模が7兆円を超え、富士経済の見通しでは15年に8兆7000億円以上にまで拡大するという。特に近年はインターネット通販の伸びが著しく、メディア別のシェアでは半数を超えるまでになっている。

通信販売の場合、小売店などを通さずに企業が消費者と直接、販売・対話することから、ダイレクトマーケティングの代表的なモデルとして捉えられる。このダイレクトマーケティングを支援する企業として、08年にマザーズに上場したのが、今回登場するトライステージだ。

トライステージは、ダイレクトマーケティングのトータルソリューションサービスの提供を始めた最初の企業で、上場企業のなかで同様のサービスを運営している企業はない。特にテレビ通販には大きな強みを持っており、番組制作からコールセンター、顧客管理まで、すべての行程のソリューションを手掛けている。

今回の匠は、そのトライステージCEOの妹尾勲氏。起業前から広告代理店の大広でダイレクトマーケティングを手掛け、通販業界を知り尽くした人物だ。

せのお・いさお 1960年生まれ。83年大広入社。2002年ディー・クリエイト入社、ゼネラルマネジャー就任。06年3月トライステージ設立、12月代表取締役CEOに就任。08年東証マザーズに上場。

妹尾氏は、広告代理店が手掛けるビジネスと、トライステージでのビジネスの違いを、こう指摘する。

「私自身、20年間、広告代理店に勤めました。広告代理店は担当する商品の宣伝を圧倒的に任される。多ければ何十億円という額を年間で配分し、キャンペーンを行い、という責任を持たされます。

しかしながら、その結果どれだけ売り上げたのかは、実はあまり問われない。なぜかと言えば、彼らはマス対象の商品を扱っているからです。マス対象の商品は、棚割りのお金をスーパーに納めるなどの販促費や流通施策をしなければいけません。商品の価格、流通、プロモーションが掛け合わさって売り上げになりますので、プロモーションだけがその責任を負わなくてもいいことになっている。代理店の人間は、商品に思い入れをもってプロモーションをしても、それぞれの商品がどれだけ売れたかは知らないし、教えてもらえない。

それが私には疑問でした。どんなにまじめに考えてトライしても、どれだけ売れたかを教えていただけない以上、何もわからない。もっと責任を持ったビジネスができないだろうかと考えていた時に、ダイレクトマーケティングに出会い、開眼したわけです。ダイレクトのクライアントさんは、メディアそのものの捉え方が告知宣伝用ではなく、販売するためにやるものとしている。

当時、広告代理店は告知宣伝用のノウハウはたくさん持っていますが、モノを売る、というノウハウはどこもゼロに等しかった。これは数値をつくったほうが勝ちだなと感じました。ひたすら数値との関連性を積み上げていったわけです」

どの時間帯に、どのような商品を、どのように紹介すれば、どれだけ売れるか。これはデータを積み上げるしか会得できないものだ。広告代理店もテレビ通販の枠などを販売しているが、売上データはなく、実際に放送してみるまでその効果はわからないという。

「我々はただ放送枠を持っているというわけではありません。何百回と同じ枠で放送したなかで、その放送枠を熟知しているし、データも揃っている。この枠に化粧品、健康食品、雑貨のCMを流したら、費用対効果でどれくらい売れるのかがわかっているので、放送する前に、これくらいは売れるというのがわかります。広告代理店は仮に同じ枠を扱っていても、データがないから売れるかどうかわからない。この説得力の差は大きな違いだと思います」

トライステージは、地上波放送のテレビ通販の放送枠では約23%のシェアを持つ。3分の短いものから54分の番組まで、あらゆる地域・時間帯の中から商品に合った放送枠を、データに基づいて提供できるのが強みだ。

「我々は商品を1つでも多く売っていただかなくてはいけないので、どうすれば売れるという手法を、実際に我々が制作して、映像上の見せ方、作り方も含めてご提案させていただく。

わかりやすく言うと、『買わない』という理由をなくしていくことが大切です。私どもは29分の番組が特に得意なんですが、29分見ていただければ、多くの人に『欲しい』と言わせるか、『いまは必要ないけど機会があれば買う』と言わせる。ターゲットに対して『買いたくない』という状態をつくらないのが、いちばんの方法だと思います」

ネット通販の急成長

急成長している通販市場だが、実はテレビ通販市場の成長は鈍化傾向にあり、前年比微増で推移している。13年のメディア別シェア(見込み)を見ても、インターネット通販52%に対し、テレビ通販は7%しかない。テレビ通販は斜陽産業という声が高まりつつあるが、妹尾氏はこう否定する。

「ダイレクトマーケティング全体で見ると、7兆円の市場のうち、テレビは7~8%ですから、あまり大きくないように思われています。しかし、実感としては決してそうは思いません。

最近は広告のアトリビューションなどという言葉が流行っていますが、要は適正配分のことです。調べてみると、意外にWEBに受注が取られていることがわかってきた。

こういった市場調査では、テレビ通販はフリーダイヤルに電話をかけて注文した売り上げがカウントされるようになっていますが、最近ではテレビを見て、ネットで検索して注文をするケースがあることがわかった。この場合はテレビ通販ではなく、ネット通販で買ったことになりますから、必然的にネット通販は拡大していくことになります。

テレビ通販は、圧倒的に高齢者の方がお使いになります。テレビ自体をよく観ているのもF3層(50歳以上の女性)。60歳の定年を迎えたばかりの男性は現役時代にパソコンを1人1台で使っていた方たちなので、インターネットを使える方が多い。いまは主に65歳以上の方がテレビ通販をフリーダイヤルで購入している。10年前はほぼフリーダイヤルからの受注、それも固定電話からでしたが、現在は約6割が携帯電話からの受注で、しかもWEBに流れているというふうに変わってきています。

実際、調べてみると、テレビのオンエアがある時とない時で、WEBへの流入数に違いが出たりしています。テレビで見て、商品なりブランドなりを検索するということが主流になってきている。クライアントさんのビジネスを最大化するというのが我々のビジネスですから、フリーダイヤルで受注してもWEBで受注しても構わない。しかし、費用対効果を測定する時に、フリーダイヤルでの注文数がテレビ通販の実績となるわけですから、テレビメディアは落ちてきた、効率が悪くなったと言われてしまうことは抵抗があります。そこを解決するために、アトリビューションという実際の広告の影響度を調べているところです」

このような現象はカタログ通販にも現れている。本のカタログを見て、ネットで注文するケースも増えているからだ。これらもすべてインターネット通販としてカウントされている。

「Eコマースが増えているのは事実ですが、それだけでここまでの伸びになっているのかというと、よくわからない。テレビやカタログ経由でWEBのカートに入れる頻度はかなり上がっていると言えます」

テレビ通販の場合、視聴率1%で都内だけで約21万人が視聴している計算になるのだという。21万人が一気に流入するサイトはなく、一定時間内に一斉に知らしめるパワーは、衰退が懸念されているテレビでも、まだ落ちていない。

「ダイレクトレスポンスに関するアトリビューションをやろうという取り組みは、私たちが最初です。WEBに流れ込んでいる流入量に、どのメディアがどのくらいの影響があるのか、これがわかってくると、クライアントは現状の予算の配分を変えるだけで、相応の売り上げを伸ばすことができるようになります。予算を追加するのではなく、配分だけですから、魅力ですよね。それを私たちはやらなければいけない。メディアをどう使えば売り上げを最大化できるのかがわかるわけですから、強い競争力を持つことができます」

商品トレンドの変化

いま、通信販売でもっとも多く扱われている商材は、健康食品と化粧品だという。トライステージでもクライアントの多くは同様だ。時代によってトレンドは変わり続ける。

「最初は雑貨から始まっているんですが、雑貨の難しいところは次から次へとヒット商品をつくっていかなければいけないことです。1000発打って、3発当たるかどうか。それだけの資金力と覚悟がなければつづけられないでしょう。商品がヒットしても、新商品をどんどん出さなければ、その企業は衰退してしまうんです。

昔はテレビ通販で紹介するとすごく売れましたから、費用対効果はたいへんよかった。現在のようにいろんなメディアからたくさんのものが出てくると、ノイズのなかにいるようなもので、コストが上がったわりに、爆発的なヒットが出なくなっています。

商品の寿命も昔より短くなった。雑貨は少し売れると、マネをされてしまい、低価格化が進みます。質はともかく、似た商品が量販店で売られるようになったら、テレビ通販としての商材の寿命は終わったようなものです。

結局、美容品、健康食品といった何度もリピートする商品がテレビ通販に向く商材になっていった。しかしこちらも競争が激しくなるにつれ、表現や成分表示に行政当局から規制が入るようになってきました。消費者を騙すような業者は取り締まられて当然なんですが、きちんとがんばっている業者まで、表現の自由を奪われてしまっています。すると成分のあまり違わない同じような商品が増えて、資金力があって露出量が多いところが勝つ。新しい画期的な商品が出づらくなっています。

いつかは出る画期的な商品でも、我々はそれが出てくるのを待っているだけとはいかない。いままで培ってきたノウハウを使って、会員獲得型ビジネスや物販ではない『サービス』も手掛けるよう、新しいダイレクトマーケティングの支援に取り組んでいるところです。いまは通信販売業界として過渡期に入ったと言えます」

ふだんは「いかにモノが売れるか、その術を常に考えている」という妹尾氏。通信販売は「人生のすべて」と言ってはばからない。

そんな妹尾氏に、最近、通販で買ったお気に入り商品は何かと聞いてみたところ、模型の「ディアゴスティーニのマクラーレンホンダMP4/4 アイルトン・セナモデル」との答えが返ってきた。

「70週間、毎号送ってきたものを作り上げた。超快感でしたよ(笑)」

(本誌・児玉智浩)

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