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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2014年3月号より

ビジネスモデル特許も取得 住友不の「新築そっくりさん」

阪神・淡路大震災を機に

中古住宅の流通マーケット拡大に伴い、リフォームやリノベーション市場が盛り上がりを見せている。リフォーム産業新聞の独自調査によると、昨年のこの分野の売上高ランキングで、住友不動産は8年連続トップという強さを見せた。

住友不動産住宅再生事業本部の惣野正己氏。

その強さの代名詞にもなっているのが「新築そっくりさん」という、中古物件を丸ごと再生する商品である。一度聞けば覚えやすいことから、ヒット商品に成長した要因の1つにネーミングの妙があるといっていいだろう。ちなみに名付け親は、1994年から2007年まで社長を務めた高島準司氏である。

「新築そっくりさん」が商品化されたのは96年のこと。前年年初に起きた阪神・淡路大震災で全壊した住宅も多かったことから、「地震に強く、しかもできるだけ安価で、建て替えせずに住宅を再生させたい」との思いが起点になっている。

「もともと、この『新築そっくりさん』というのは、建て替えか部分リフォームしか選択肢がなかった頃、新しい住宅再生システムというコンセプトで立ち上げたのです。ですから、リフォームという概念とは少し違うところから始めている。そこがある意味、我々の強みともいえるでしょう。

外部の方からはリフォームとして括られるんですが、我々としてはずっと住宅再生というコンセプトを持ち続けています。ですから、チラシ広告を打つ時はリフォームという言葉は使いません。世間に浸透して認知度が上がるまでは、建て替えやリフォームに変わる、第3の選択肢みたいな文言を使っていました」

語るのは、住友不動産の住宅再生事業本部で企画管理部長を務める、惣野正己氏。同氏が「新築そっくりさん」のビジネスに携わったのは98年夏からで、すでに15年以上のキャリアがある。

確かに、かつての常識だと、リフォームの主力は部分的な工事、見積もりは積算方式で価格も不明瞭、不測の事態による追加請求は当たり前で、リフォームの際に耐震補強という発想もなかった。どちらかと言えば、建て替え費用を用意するほど資金的に余裕のない人たちが、ある意味必要に迫られてリフォームするイメージが強かったといってもいい。

それがいまでは、「高い新築住宅よりも割安な中古を買って好きにリフォームしたほうがお得」と考える人がかなり増えた。これは、核家族化や長引くデフレ不況、住宅すごろくの崩壊、住宅観の多様化など要因はさまざまだが、昔とは隔世の感さえある。

追加費用なしの定価制

高度成長期時代の団地では、上の写真のようなキッチンが一般的だった。

話を戻そう。他社との競合については、リフォーム会社より、どちらかと言えば建て替えを手がける企業との競争が多いという。となると、同じ住友グループで注文住宅を手がける住友林業も気になるが、より高価格帯が主力の住友林業とはほとんどバッティングしないようだ。

「新築そっくりさん」は文字通り、既存の住宅構造を活かした新築同様の住まいを、建て替えた場合の費用に比べて7割、うまくすれば5割にとどめることができる点が売りの1つ。それだけに、競合するのはむしろ、地場工務店が手がけた新築物件、あるいは割安価格を売りにしてきたタマホームあたりになる。

単なるリフォームのようにキッチンだけ、バスだけ、あるいはフローリングだけをバラバラに一新するとなると、相当割高になることは言うまでもない。それでなくても個人がリフォーム、ないしリノベーションをする場合は、ディベロッパーがまとまった戸数を発注する新築物件の設備コストに比べて、コストパフォーマンスが圧倒的に悪くなるからだ。住友不動産でも部分リフォームは請け負ってはいるが、主力はあくまで戸建てまるごと再生と、マンションをスケルトンにして全体をリフォームする商品群である。

「新築そっくりさん」のセールスポイントはもう1つ、“完全定価制”にもある。ただ、最近は住宅の部位ごと、部屋の面積に応じてリフォーム価格が決まっている工事も多く、その点では他社との差異は見つけにくい。

問題は中古物件だけに、いざ工事に入ってみたら想定以上の毀損部分や劣化などが見つかり、追加工事が必要になった場合だ。その点、「新築そっくりさん」は、工事金額が契約時と変わらない、完全定価制の安心さを売りにしている。そこも大きな支持を得ている要因といえるだろう。

「追加工事が発生しても『完全定価制』が売りなので、そこは崩せません。商品コンセプトの前提として守っていかなければいけませんから。追加工事が発生した場合のコストアップ分は、(リフォーム売上高ランク首位であるがゆえ)大量発注できるという強みを発揮して、仕入れ部材のスケールメリットにより、原価を下げているわけです。工期短縮もやっていくべきものですが、マンションですとスケルトンにする解体工事で1週間程度、トータルの工期でだいたい、1カ月から1カ月半でしょうか」

「新築そっくりさん」が手がけるダイニングキッチン事例。

工事期間中の仮住まいは、たとえば住友不動産所有の、都心の高級マンションが敷金や礼金なしの月額10万円と、お得な価格で提供されている。また、完成後は定期的に無料点検を行い、24時間365日、アフターケアに関するサポートもある。

さらに、前述したように商品化の原点が震災だっただけに、標準仕様で耐震保険にも入っており、耐震補強工事には定評がある。ちなみに96年以降、全国でマグニチュード6以上の主な地震だけで10回以上あったが、すでに8万棟以上の実績がある「新築そっくりさん」の物件は、倒壊や全壊はもちろん、半壊もゼロという。

「加えて、営業、技術、工事とスタッフの分担をせず、技術的な知識もあるSE(セールス・エンジニア)が一環して担当させていただいています。つまりご商談から完成後にお引き渡しするまで、専任の担当者がついて進めていくのです。工事を請け負う棟梁も、当社のノウハウをよく知っている人たちによる、専属制ですしね」

ちなみに惣野氏も大学は理系で、都市工学を専攻している。

「リフォーム適齢期」が到来

「マンション新築そっくりさん」の玄関ドア回りの事例モデル(奥)と、昔の住戸玄関の事例モデル。

これまで述べてきた「新築そっくりさん」のいくつかの特徴は、すでにビジネスモデル特許として取得済みだが、気になるのはお値段だ。

「戸建てもマンションも含めた『新築そっくりさん』全体の平均単価は1300万円です。マンションだけで見れば1000万円ぐらい、部分リフォームで100万円ぐらいでしょうか」

同じ財閥系不動産会社と比べてみると、リフォームで括られる分野では住友不動産が圧倒している。

中古売買の仲介分野では、「三井のリハウス」で知られる三井不動産リアルティがトップ、「STEP」の住友不動産販売が僅差で2位の展開だが、三井不動産リフォームはデザイン面で評価され、質感にも強いこだわりがあるので平均単価は高いものの、売上高ランクでいえば9位にとどまる。

さらに三菱地所にいたっては圏外で、同社は新築分譲マンション分野こそ藤和不動産買収の効果もあって上位だが、中古仲介やリフォーム分野では、やや存在感が薄い。

住友不動産は逆に、三井ホームや三菱地所ホームと違い、注文住宅ビジネスは外出しせず、住友不動産本体で手がけている。また、住友不動産リフォームという子会社もあるものの、同社は小規模工事を手がけるのみだという。リフォーム関連ビジネスもあくまで、「新築そっくりさん」を全面に打ち出した、住友不動産本体の事業として展開しているのだ。それぞれよし悪しはあるのだろうが、住友不動産本体で手がけることで、顧客への信頼度が一層増す効果はありそうだ。

さて、最後に惣野氏にこれからの課題を語ってもらうと――。

リフォームの売上高ランクで8年連続首位の原動力が、1996年からスタートした「新築そっくりさん」の商品だ。

「1つは、拡販に直結するかどうかはともかく、耐震診断というのは当社でもしっかりやっていこうと考えています。家のドクターではないですけど、いわば家の健康診断ですよね」

特に、見ず知らずの人が住んでいた中古物件を買ってリフォームする場合、買い主の不安を払拭するために、プロの目で建物の構造や設備にどんな欠陥があるのか調べる、「住宅インスペクション(診断)」が広がりを見せており、リフォームの見積もりも、それだけ明瞭化が進んでいきそうだ。

「もう1つはいま、スケルトンのマンションリフォームが注目を集め始めています。その要因に、89年から数年の間、つまりバブル期とその崩壊直後に数多くのマンションが建てられていて、そうした物件の“リフォーム適齢期”が来ているのです。その需要を取り込んで事業を伸ばしていく余地があるのかなと。

一般的には向こう5年間ぐらいで、そのリフォーム適齢期マンションが倍ぐらいになると言われているので、『マンション新築そっくりさん』のビジネスチャンスはさらに広がると思っています」

リフォーム戦国時代のいま、スケールメリットも利く住友不動産の首位は揺らぎそうにない。

(本誌編集委員・河野圭祐)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

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