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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2013年8月号より

パナソニックのB2Bビジネスを具現化した「レッツノート」

特定分野で高いシェア

2年前からITプロダクツ事業部長を務める原田秀昭氏。

スマートフォン、それに続くタブレット端末の登場は、パソコン市場に激震をもたらしている。仕事にプライベートに、パソコンを駆使している人は別にして、インターネットとメールが中心というライトユーザーにしてみれば、レスポンスのよさや簡便さなど、使い勝手においてパソコンを凌駕し、しかも価格も安いタブレットに慣れてしまうと、パソコンには戻れない。タブレットを購入した多くの家庭で、パソコンが埃をかぶって眠っている。

当然、パソコンメーカーの多くが、出荷台数を落としている。MM総研の調査によると、昨年度の国内パソコン出荷台数は前年比1.6%減。出荷金額は9.5%減となった。その最大の要因は、個人需要がパソコンからタブレットへと移ったことにある。

そんな中、2013年3月期のパソコン売上高1000億円を、15年度には1200億円に伸ばすという目標を立てているのが、パナソニックだ。前述のようにパソコンは販売台数が伸び悩んでいることに加え、タブレットに引きずられる形で価格下落も続いている。そうした状況下で売り上げを2割伸ばすというのは、かなり「野心的」な目標設定だ。

多くの人にとって、パナソニックのパソコンと聞いてもピンとこないかもしれない。国内シェアほんの数%で、上位にはけっして顔を出してこない。しかし、ある特定の用途においては圧倒的なシェアを誇っている。

例えば最近では会社会見場にパソコンを持ち込んで、その場で記事を作成する記者が増えているが、この場面で使われるパソコンの圧倒的多数が、パナソニック製パソコン「レッツノート」だ。あるいは、新幹線の中でパソコンを使って仕事をしている人の中でも、レッツノートのシェアは高い。

「モバイルノートパソコン市場で、当社は9年連続でシェアトップで、昨年のシェアは38%に達しています」

と語るのはパナソニックでパソコン事業を担当するITプロダクツ事業部長の原田秀昭氏だ。

このように特定のマーケットで強さを発揮するのがレッツノートの特徴なのだが、こうなるまでには紆余曲折があった。

パナソニックといえば、松下電器の時代から、民生用家電製品で圧倒的な強さを誇ってきた。そのため当初はパソコン事業も店頭販売を中心に展開していたのだが、この部門ではNECや富士通、東芝、日立など、国内メーカーだけでも数多くのライバルがいた。そこにIBMなど外資も加わったのだから、1980年代から90年代にかけて、パナソニックのパソコンが存在感を出すのは容易なことではなかった。

「1996年にレッツノート第1号を発売しました。これはトラックボールを採用したのが特徴で、人気となったのですが、パソコンとして特に差別化されたものではありませんでした。そのためレッツノートの売れ行きは低迷、このままでは埋没してしまう。そこで思い切った差別化戦略を取って、特定業界、特定市場でシェアを取ろうという考えに変えたのです」(原田氏)

それが2002年に発売した「R」1というモデルだった。

「当時ノートパソコンは薄さを競っていました。しかし当社は薄さではなく軽さとバッテリーの持ちにこだわりました。モバイルパソコンとしての機能を追求したのです。その結果重さは960グラムと1キロを切り、6時間の連続使用が可能でした。同時に、販売先を個人から法人に大きく切り替えました。店頭にも商品を置きますが、ショーケースでかまわないと位置づけました」(原田氏)

「軽量、長持ち、頑丈」

この戦略はずばりとあたり、R1はレッツノート史上、空前の売り上げを記録したのだが、同時に新たなる課題も見つかった。

「レッツノートをカバンの中に入れて通勤電車に乗ったら液晶画面が破損した、というお客様の指摘があったのです。ここから、頑丈設計への取り組みが始まったのです」

軽くて電池が長持ちするうえに丈夫なら、モバイルパソコンとしては鬼に金棒である。この頑丈さを追求するために、パナソニックのパソコン工場では、レッツノートを一般的な事務机と同じ76センチの高さから落下させるテストを行っている。このほかにも耐水性を確認するために高圧の水を噴射するなど、徹底して頑丈さにこだわった。こうした積み重ねが、レッツノートの人気を支えている。

特定分野で根強い人気を誇る「レッツノート」。

パナソニックのパソコンには、頑丈さをさらに追求した「タフブック」と言われるシリーズがある(右写真の上から2段目の商品)。とにかく堅牢強固で、多少手荒く扱っても破損しない。このシリーズは海外でも大人気で、たとえばアメリカで40万台走っているパトカーのうち、26万台にはタフブックが搭載され、照会業務などで威力を発揮している。また電気やガスなどのインフラの現場や、砂漠や極寒地においてもよく利用されている。

「タフブックは頑丈さはもちろんですが、高温や低温下など、通常のパソコンでは故障してしまう環境でも問題なく使用できます。実際、社会インフラ整備の現場というのはそういう場所が多い。そこではタフブックは必需品になっていますし、最近では『タフタブレット』というタブレット端末も出しました。これによって流通倉庫などでの需要を見込んでいます」(原田氏)

実はこのタフシリーズの開発は、レッツノートにも大きな影響を与えている。タフブックの1号機を発売したのは、レッツノートと同じ1996年のこと。ただしレッツノートとは違い、最初から法人向けに発売され、前述のパトカーのように、特定用途において高いシェアを維持することができた。それがレッツノートにフィードバックされ、超差別化戦略と、法人向けへの特化につながったのだ。

頑丈さを追求するため様々な試験が行われている。

ただ、冒頭に記したように、個人向けパソコンの販売は低迷している。そのため、多くのパソコンメーカーが、法人向けに力を入れ始めている。となると、レッツノートも今後厳しい競争にさらされると考えるのが普通なのだが、原田事業部長は「ライバルはいない」と断言する。絶対に法人向けビジネスでは負けないというのである。

価格で優位に立っているわけではない。レッツノートの価格は他社の同スペックのパソコンより5割、下手をすると2倍近くも高く設定されている。それでいて、他社にはまけないと豪語するには理由がある。

「レッツノートが誕生してから17年間、お客様に向き合ってきました。その蓄積がいまのレッツノートに結実しています。たとえば、パソコンが盗難にあったり紛失した時、遠隔操作でデータを消去するサービスや、古いパソコンから新型機へのデータ移行を土日曜の間に行い、月曜日から通常業務を行うことができるというサービスも、お客様の声から生まれたものです」(原田氏)

国内工場へのこだわり

それだけではない。レッツノートを納品する前には徹底してカスタマイズが行われる。パナソニックではこれを「一品一様カスタマイズ」と呼んでおり、顧客のニーズを徹底的に組み上げ、それに合わせたスペックと、必要なソフトを用意する。そのために、レッツノートの組み立て作業は、「セル生産」という、人の手によって行われている。

レッツノートは人手による「セル生産」方式でつくられる。

しかも顧客が望めば、メールアカウントなどを事前に一台一台に入力しておき、新しいパソコンの箱を開けたら、すぐに使えるようなサービスもある。この作業も、すべて工場内の作業である。

「当社のパソコンの主力工場は神戸工場で、国内向けの大半をここで作っています。お客様との距離が近いから、お客様の要望をダイレクトに反映することができる。もし工場が海外にあると、そうはいきません。商品と一緒にサービスも買ってもらう。これがレッツノートのビジネスモデルです」

ここまできめ細かいサービスを行っているパソコンメーカーは、ほかに見当たらない。だからこそレッツノートは高価格でも人気がある。原田事業部長が「ライバルはいない」と言う理由もそこにある。

そしてこのパソコン事業の姿は、いまのパナソニックが目指すべき姿でもある。周知のように、パナソニックはこの2年間で1兆5000億円の巨額な赤字を計上した。この危機を乗り切るために、津賀一宏社長が打ち出したのが、B2Bビジネスの強化だった。多くの電化製品が、B2Cでは価格競争に陥り、利益を出せなくなっている。そこでB2Bビジネスによって、商品と同時に価値を届ける。そのモデルケースの1つがレッツノートというわけだ。

レッツノートの成功を全社に敷衍することができれば、パナソニックを浮上する。

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