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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2013年7月号より

020で地域貢献マピオンのソーシャルゲーム

スマホで再び脚光

最近、よく耳にするようになった「020」。Online to Offline(オンライン・ツー・オフライン)を略した言葉で、インターネット上のオンラインでの活動がリアルの実店舗での購買などに影響を及ぼすことを指したものだ。

概念的には古くから存在するもので、具体的には、ネットで価格を調べて実店舗で購入したり、店側がネットでクーポン等を発行して実店舗に誘導するといったことが挙げられる。ただ、「020」という表現が用いられるようになったのは2010年頃と、比較的新しい。なぜいま、新たな言葉でクローズアップされるようになったのか。マピオン取締役の浜矢健次氏は、こう分析する。

「スマートフォンが急速に普及していることが背景にあるでしょう。かつては雑誌などで情報を仕入れ、週末に出かけたり仕事帰りに寄ってみるということが一般的でした。でもこれだと、雑誌を購入してから実際に購買行動に至るまでにタイムラグがあります。インターネットが普及しても、ネットで情報を仕入れて行動に至るまでにタイムラグが存在したわけです。それがスマートフォンというかなりの情報量を扱える端末が登場したことで、情報を仕入れた瞬間にリアルタイムに近い形で買うことができるようになった。

例えば街を歩きながら、近くでセールをしている情報を仕入れたり、欲しかった商品を扱っている店を周辺で見つけることができる。これを利用してWEBから情報発信をすることで、近くにいる消費者を呼び込むというふうに、タイムラグを縮めることが核になる考え方だと思います。新しいマーケティングの手法だと思ったほうがわかりやすい」

020について語る浜矢健次氏。

スマートフォンの普及により、生活のなかでネットを使う、検索するといった行動が当たり前になっている。家電量販店の店頭で「アマゾンのほうが安い」など、価格比較サイトの画面を見せながら価格交渉をする客も珍しくなくなったそうだ。2000年前後に流行った「クリック&モルタル」(オンライン店舗と実店舗・物流システムを組み合わせてシナジーを図る手法)という言葉も、現在では死語になりつつあり、020に集約されている。

「ネットを使って売り上げを拡大させることを考えた時に、スマートフォンをいかに取り込むのか、そういったアプローチが必要になってきていると思います。実はここが一番難しいのかもしれません」

従来のクリック&モルタルの概念を含め、ネットから消費者に対するアプローチは無数に存在する。前述のクーポン券の発行は大いに活用されている例の1つだろう。価格比較サイトで上位に来るような仕掛けも当たり前のごとく行われるようになっている。浜矢氏の言う020の難しさとは、その企業にとっていかに最適な手法を選び出すかにある。

「スマートフォンの普及と同時に、ソーシャルネットワーク等の繋がりも大きく広がっています。これまでは企業がWEBから消費者に対して一方通行の誘導が多かったと思いますが、現在はツイッターやSNS等で、消費者がリアルタイムに情報を拡散させます。つまり、リアルの実店舗での仕掛けがオンラインに拡散することによって、再びオフラインの集客に繋がるという仕掛け方もあるわけです。

ここで大事なのは、一介のイベント的なもので人を集めて終わりではなく、好きになってもらう、もう一度来たくなるような演出が必要になるということです。

怖い面もあって、ネガティブな情報もネットを使って一気に拡散するリスクがある。だからこそ真面目に向き合ってインターネットやスマートフォンのユーザーを理解し、積極的に演出しなければいけない。何もしないことによるネガティブな反応もあるわけです。WEBには情報が残されますから、後々オフラインに回ってくるような“循環”を意識した戦略が必要だと思います」

いかにスマートフォンユーザーを味方につける仕掛けができるか。企業の模索はつづいている。

ゲームでリアルに集客

浜矢氏が取締役を務めるマピオンは、言わずと知れた地図検索サイトだ。地図の会社がなぜ020?と、疑問に思うかもしれない。しかし現在のマピオンにとって020は大きな収益の柱になっている。転換期を迎えたのは05年、グーグルが提供する「グーグルマップ」の登場だった。「ストリートビュー」に代表されるグーグルの情報量は圧倒的であり、マピオンにとって大きな脅威となっていた。

墨田区と港区に貼られたキャンペーンのポスター

「地図情報というのは、道に迷った時に見る、初めて行く時に見る、といった具合に、問題解決のためのツールとして価値を提供するものです。これを尖らせていくという選択肢もありましたが、そうではない地図の使い方、マピオンのアピールの仕方はないかと模索してきました。05年ごろに出てきた案だったのですが、地図に対してまったく新しいニーズを発生させることを考えたわけです。それが、例えば松尾芭蕉の『奥の細道』を辿るといったコンテンツでした。『迷ったから地図を見る』のではなく、『松尾芭蕉の次の句を見るために地図を見て行く』という、別のニーズを発生させて地域を巡ってもらうということです」

それが、携帯電話の位置情報を使ってスタンプラリーを行うというゲームコンテンツの開発だった。場所探しの地図から、場所を巡るための地図に発想を転換。全国版として登場したのが06年4月にリリースされた「ケータイ国盗り合戦」だった。現在は月間8億PV、会員数110万人の大ヒットサービスになっている。

「最初はJR東日本さんと提携して山手線の駅を回るとか、宝探しをするという形で始めたものですが、ユーザーに対してお出かけをするキッカケを与える、行かなくてはいけないという演出をすることで、新しい価値を提供することに至ったわけです。当時は020なんて言葉はありませんから、ネットを使って出かけるキッカケを与えていることから、私たちは『バーチャルtoリアル』と呼んでいました。

このようなコンテンツは会員数が100万人を突破してこないと課金しても採算が合いませんので『ケータイ国盗り合戦』は当初、タイアップ広告という形で企業や自治体とコラボレートすることで収益を得ていました。100万人を突破してからはユーザーからの課金にシフトしてきたわけです。基本的には無料で遊べるのですが、アバターやデジタルインセンティブに対するアイテム課金で収益が上がるようになり、現在はこのゲームの収益の7割くらいを課金で占めています。

一般的なソーシャルゲームとの違いは、このゲームは現地に行かなければ遊べないということです。メディアとして人を集め、現地に行ってもらい、現地のものを買ってもらう。自分たちの収益のためだけにユーザーを集めるのではなく、地域活性や商店街の活性といった、リアルの世界で経済発展させることに固執して運営しています」

商店街を活性化

マピオンはこのゲームを活用した商店街活性化プロモーションイベントを「2大タワーを取り戻せ!」と銘打って、今年1月17日から2月18日にかけて、墨田区商店街連合会・港区商店街連合会と共同で実施。開催期間中の1カ月間で、のべ13万人を動員し、4000万円以上の売り上げを達成した。まさにオンラインからオフラインにユーザーを誘導することに成功している。

ケータイ国盗り合戦のユーザー数は110万人を突破

「商店街で500円買い物するごとに1枚、札を渡してもらうんですが、この札をもらってゲームに入力すると、ユーザーはデジタルインセンティブをもらえて、イベントに参加した証になります。

この札を配布することで、実際にいくら商店街でお金が使われたのか、何人参加したのかをデータとして出すことが可能になります。商店街のみなさんも、最初はゲームで人が来るのかと懐疑的でしたが、イベントが始まると見かけない人が街を歩き、しかも売り上げも伸びているのがわかってきて、ふだん休みにしている日も店を開けたり、500円、1000円、2000円といった区切りのいい価格の商品セットをつくって販売するようになりました。

このイベントのためにわざわざ北海道や大阪など遠方から来たユーザーもいましたし、最終的には商店街とユーザーの双方が、積極的にキャンペーンに参加していただけたと思います」

また、震災のあった11年の夏には、JR6社と協力してケータイ国盗り合戦のキャンペーンを、東北地方を中心に展開。風評被害で客足が遠のいていたエリアにユーザーの足を向けさせ、東北地方外から2万人を集客させている。

020事業で、単なる地図サイトからの脱却を果たしたマピオンだが、浜矢氏はさらに先を見据えた展開をにらむ。

「020をさらに強化していくのはもちろんですが、これをさらにパーソナライズしていきたいと考えています。ネットの強みはデータが蓄積できるということ。どんなユーザーがどこに行き、何が好きかという情報も溜まっていくわけです。広告的なマーケティングのアプローチを、ビッグデータを使って行うことが可能になります。020はオンライン・ツー・オフラインの頭文字ですが、One to One(ワン・ツー・ワン)という意味合いが持てるようになれば、1つのゴールかなと。そういうところを目指したい。

ユーザーの皆さんには、豊かな体験をするキッカケが提供できて、日本の原風景を感じてもらえるようにしていきたいですね」

(本誌・児玉智浩)

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